ソードバスター 第一章




第四話

「この丘を越えたらミヤの町が見えるぞ」
 夕暮れ時が迫るころ、坂道を登る少年、スックとたったソード・ブレード。
(やっとここまで来たか。思ってたより時間をくった)
 腕の中には女が一人。
(素直に歩いてれば、もう少し早くつけたんだろうな。けど、まぁ気持ちいいほうを選ぶな、普通は)
 二日前に出会ってから、嫌がるリッカを抱いてここまでやってきた。ある意味ではソードは彼女を助けたともいえる。
もしも怪我をして動けない女が一人、死体に混ざって放置されていたら、かなりの高確率でラットパンサーに襲われただろう。
 けれども、リッカの心中には感謝の気持ちなどひとかけらもない。
出会って早々に、足を痛めて歩くことすらままならない自分の処女を奪い、そのまま連れ去られたようなものだから、当然といえば当然のことだ。
連れ去るだけならまだいい、リッカ・フラウアーはソードと出会ってからの三日間で、都合六回も犯されているのだ。
腕に抱かれているときも思い出したようにしょっちゅう変なところに手を回すから、一日中犯されているといってもいいかもしれない。
ともかく、出会った日の夜、次の日の朝、昼、晩、三日目の朝、昼と合計六回、合わせて十五発くらい中に出された勘定である。

 エルマとバルタンが激突したマスターテ会戦がバルタンの圧勝で終わりを迎えたその夜、リッカはソードにつれられて戦場からある程度離れ、そこで二人は眠りについた。
口にしたのは、ソードがどこかから取ってきた干し肉三切れと川の水。
一人は、戦闘の疲れと一発出した疲れから、お腹が膨れるとすぐさま眠りにつく。
もう片方はそうは行かない、足の痛みにも増して性器がずきずきして、初めて感じる痛みに眠気が打ち消される。
それに何よりも、蹂躙された屈辱感、悔しさ。おとなしく眠りにつけるはずもない。
 頭に浮かぶことは一つ。どうやってこの獣に報いを与えるか、だ。
逃げることも考えはしたけれど、この足では逃げ切れそうもないし、自分がどこにいるのか分からないから、行くあてもない。
それに、逃げ出したんじゃ、この胸の痞えが降りない。自分が受けた辱め相応の報いはきっと受けさせる。
だけど、どうやって・・・? 
そんなことを考えながら目を閉じ、夜もかなり更けた頃に意識が遠くに去っていった。
 翌日の朝、リッカが眼を覚ました時には、もうソードにのしかかられていた。
状況がつかめないで、ただ悲鳴を上げるリッカを押さえ込み、腰をぶつけるソード。
全力で抵抗してもまったく通じない、振り上げた拳は受け止められるし、噛み付こうとしても避けられる。
深々と突き刺されるたびに体の奥底まで杭が打ち込まれるようで、激痛の連続、悲鳴の連続。そのうちに何か熱いものが、
 ドピュピュピュ〜
 あふれ出す。膣から引き抜かれてぐったりと動かないリッカを尻目に立ち上がって水を飲みに行くソード。
決め台詞は忘れない
「とてもよかったぜ、九十点だな。ワハハハ」
 お日様が真上に昇り、ソードの足が止まる。朝からもう四時間くらい歩いただろうか。
腕の中にはもはや抵抗もあきらめて幾分投げやりな雰囲気のリッカちゃん。
ただ、それでも眼だけはしっかり睨んでくる。ソードはといえば、そんな視線はどこ吹く風、
「るりるるら〜」
 鼻歌に夢中。肩にはついさっき仕留めたガゼルパンサーの死体。
「腹がすいたな。うむ、腹が減ってはなんにもできない。というわけで休憩するか」
 リッカの返事も待たずにとことこと木陰へ進み、地面に下ろす。
下ろされた方はソードから目を離して木の幹に踝をめぐらした。とたんにリッカに悪寒が走る。
振り向くと鼻の下を伸ばした品のない顔。服を脱いでむき出しになった肉体。
「嫌あっ」
「レッツゴウ! 楽しもうか」
お約束の抵抗の後、あっさりと挿入する。
「グッドだ! 最高のしまりだぜ!」
「ワハハハ、いいか、俺様がイクまでいくんじゃないぞ」
「くっ、そろそろ出すぞ、うおりゃああ」
 ドピュピュピュ〜
 好き放題にして、とどめとばかりに勝手に中出し。
出される方はイクどころじゃない、ただ痛くて悔しくて、力いっぱい抵抗した後の虚脱感だけがあふれ出す。
夜もおんなじ繰り返し。合意を伴わないメイクラブの後、干し肉や仕留めたガゼルパンサーの肉とかを口にし、眠りに就く。
そして翌日も朝、昼それぞれ二発ずつ中だしされて、現在丘を上っているのだ。
これではリッカの中に、感謝の二文字が浮かぶはずがない・・・

 太陽が今にも沈みかけている。それにつれてあたりが急激に暗くなってきて、肌が薄ら寒さを感じる。
そんな折、二人は丘の頂上にたどり着いていた。
「リッカちゃん、あそこにあるのがミヤだ。暗くてよく見えないが、あとはそうだな、二キロくらいかな。ともかくすぐそこだ」
 丘から見下ろして口を開く。
「・・・」
「やっとまともな食事ができる。実際この三日間たいしたものを食べていないからな。リッカちゃんも腹が減っているだろう?」
「・・・」
「何とかいえよ、すけべちゃん」
 相手をしてくれなくてつまらない。照れているのか?
 って、そんなわけがない。
(まぁいいや。それより飯だ、飯飯〜 セオラさんの店に行こうかな。いきなり風俗店に直行というのもちと捨てがたいが、やっぱり馴染みをとるべきだろう。リッカちゃんもいるし、とりあえずこいつを預けないことには始まらん)
 丘を下る二人。もう夕暮れ時は過ぎ去り、あたりは真っ暗になってしまった。雲が多いせいで、月明かりも差し込まない。
と、今まで何を言っても反応しなかったリッカが何かつぶやいた。
「思ったとおりだ。やっぱりやられている」
「何かいったか」
「まだ気付かないの? この光景を見てまったく不思議に思わない?」
「???」
 別段不思議に思わない。夜が来たから暗くなって、そのせいで眼が利かない。
もっとも鳥目というわけでもないから、ほのかな光の中に輪郭くらいは判別できる。
眼下に広がるミヤ平野、あと少しというところまで迫ったミヤの町。どこに不思議を感じればいいのか。
「どうして町に灯りがともらないの? それにこの匂いはなに、戦場の匂いじゃない」
 さっきまで腕の中で縮こまっていたくせに、急に張りのある声を出す。
「鈍いのもここまで来ると見事よね、自分に都合の悪いことは何でも無視できるんだから」
「なにぃ、おい、それが命の恩人に向かっていう言葉か」
「フン、何が恩人よっ 私を犯してそのまま連れ去っただけじゃない!」
「リッカちゃんどうしたんだ? 急に騒ぎ出しちゃって、頭でも打ったか?」
 なんだか知らないが、いつの間にか強気な女に戻ったみたいだ。
大人しすぎて無反応というのもつまらないけれど、こうも元気になられては、それはそれでいただけない。
 ポカッ
 瞬間右手を離し、頭を引っぱたく。ぺしぺし。無礼な態度には相応の対応が相応しい。
今までだと殴られれば押し黙るのが、しかし、すぐに向き直ってまた何か言おうとする。
「連れ去ったなんて人聞きが悪い。せっかく助けてやったのに、訳の分からないことを言うな」
「いまさら何をトチ狂ってるんだか・・・ どうせ私を捕虜にして好き放題するつもりなんだろう! 私が死ぬまで犯し続けるつもりだろう!」
「本気でそう思っているのか」
 真剣な口調で、ソードは尋ねた。自分がそんな眼で見られていたとは心外である。
(まあ、いい線いってはいるな。とりあえず飽きるまでやりまくるつもりだし。死ぬまで犯すつもりなんかないが、こいつかなりいい具合だからな)
「もちろん本気よ。だけど、残念ね、そうは問屋が卸さない」
 あたりに風が吹き始める。
(確かに、俺様に死ぬまで抱かれ続けるなどと、ありえない。俺様の守備範囲は十八から三十六までだからな)
 思わず首を縦に振ったソード。そんなリアクションにもかまわずにリッカは続ける。
「あなたは私に許しを請うのよ。そしてこれまで侵した罪の報いを受けるんだわ」
 風が強くなってきた。わずかだが雲に裂け目が入った様。
(ほへ? 俺様が許しを請う? 犯した罪? 何か悪いことをしたとでも言うのか。なんにも思い当たらないぞ)
「今ならまだ命は助けてあげる。 ・・・ふふふ、豆を食らった鳩みたいな顔して、現実が見えていないみたいね。・・・いいわ、教えてあげる」
 少しカチンときた。天才であるソードを、まるで何も分かっていない馬鹿たれ扱いの言い草。
おいおい、さすがにやりすぎだろう。自分の立場を分からせてやらないといけないか?
 世界ナンバーワンの男にかしづくだけの立場ってやつを。
「私たちバルタン人は、あなたたちより夜に強いの。暗くてもしっかりものが見えるのよ。今だって、あなたには見えないものが見えている。ふふふ、さてここで質問です、私たちの周りには何があるでしょう? って、きゃあっ」
 リッカを地面に放り投げる。
(さっきからうるさい。生意気だし、ここは一発決めてリフレッシュするべきだ)
 そうと決まれば実行あるのみ。しかし、すぱぱぱっと着ているものを放り投げた瞬間、まさにその時雲の隙間から満月が覗いた。
不意にあたりの様子が飛び込んでくる。
「ちょっと待ちなさいよっ、私を襲う前にちょっとは周りに気を配ったらどう? 今ならあなたにも見えるでしょうっ」
 ソードたちのすぐ側に男の死体が転がっている。
肩から袈裟懸けに切り裂かれ、鎧ごと野菜のようにまっぷたつに裂かれている。
着ている鎧は、それなりに上品な鎧即ちエルマ正式のそれだ。
この男を仮に死体Aと名づけるとすると、死体Aからミヤに向かって三歩も進まないうちに死体Bがあらわれる。
首がない、腕もない。おそらく最初に腕をやられ、返す刃で首をはねられたのだろう。
そして死体Bの横には死体C、死体D、E、F、G・・・
探さなくても次々視界に飛び込んでくる。
軍人だけではない、腹から臓物を噴出している老人老女、朱に染まった少年少女・・・
丘を登っている途中からある種の香りがリッカの嗅覚を捕らえていた。それは戦場の薫り、血の匂い。
ソードは相変わらず鼻歌を歌ってご機嫌そのもの、いっこうにこの匂いに気付かない。
バルタン人は相対的にエルマ人よりも五感が鋭い。
特に鋭いのは視覚であり、少々暗くてももののあやめを見分けるのに、さしたる支障をもたなかった。
そして丘を登りきったとき、太陽がもう沈んではいたが、リッカには眼下の光景に違和感を感じることができた。
 ソードはといえば『着いた着いた』、と浮かれているけれど、リッカから見れば町の様子がおかしい。
もしかしたら自分たちバルタン軍が、この街をつぶした後なのかも。
人の気配が感じられない町と戦場の薫り、この二つからリッカが導いた推測だった。
そして先刻、推測が確信に変わる。町に近づくにつれ血の匂いが濃くなり、匂いの発生源もちらほらと眼にはいる。
そして、そのどれもが味方の肉体でなかった。もう五百メートルくらいに迫ったミヤも、どうやら破壊されている。
この状況が示すものは一つしかない、つまり自分がソードに蹂躙されたこの三日間、バルタンはエルマ国内でガンガン侵攻しているのだ。
当然マスターテ会戦でもエルマの大軍をやぶったことになる。
 ・・・確かな事実は、町が破壊されていて軍人民間人を問わず敵国の人間が死んでいること。
これだけの情報から結論を導くのは早計だといえなくもないが、今回に限って言えば、ものの見事に的中していた。

「言いたいことがあるんなら、一発終わってから言うんだな。いくぜっ」
「ちょっと、いうことを聴きなさいよっ」
「うるさい、ちゃっちゃと足を開け」
「痛い、痛いってば!」
馬乗りになって足を左右に引き割ろうとする。ただ、いつになく激しい抵抗だ。
まるで初めてやったときみたいに暴れてくる。まるで悪いことをしているみたいで、気分が悪い。
「こら、おとなしくしないと気持ちよくなれないぜ」
「そんなことしてる場合じゃないでしょ! ホラッ、あれを見なさいよ!」
目線で無残な姿の町を指し示す。いまや月明かりが大地を照らしていて、誰が見ても壊れているさまが一目瞭然だ。
「いやだ。やると決めたら、いつでも、どこでも、誰とでもやるんだ」
相手のいうことなんかハナから無視して押さえつける。
ここまできたらこっちのモンだ・・・そう思ったときだった、ソードの瞳にちらりとミヤが映ったのは。
(うん? なんか、町の壁に穴みたいなのが開いている。あれ? あそこらへんに時計塔が立ってるはずなのに、何にもない)
 自分の記憶とまったく違う光景に気をとられ、押さえつけていた力が不意に緩んだ。
その隙をついて、ソードの腕を振り払ってのしかかられていた体を引き抜くリッカ。
ソードはといえば、逃げられたことに気持ちを向けもしないで眼前を見つめている。
(そこらじゅうに人間が転がっている。一、二、三・・・ざっと百人くらいか? 町は町で変だし、人は転がってるし、どうなってるんだ)
 事態をまったく飲み込めずにぼけーっとしているソードに、不適な微笑を浮かべたリッカが声をかける。
「やっと現実に気付いたんじゃない?」
 はぁはぁ、と荒い息の下で言葉をつむぐ。
「ここで倒れているのは、みんなあなたの国の人間よ。どれもこれも斬りつけられてあっさり一撃で死んだって感じじゃない? こんなに力の入った剣戟を出せるのは私たちだけ」
 そこまで一息に口にすると、きっとソードを睨む。呼吸を整えてから再び口を開く。
「つまり、あなたたちは負けたんだわっ! 私たちが勝ったのよ!」
 睨まれている方はといえば、そんな視線を完全に無視してひとり思索にふけっていた。
もちろんリッカの声も聴いちゃいない。
(ひょっとしてここで戦いがあったのか? そ、それは駄目だ、この町は気に入ってるんだ、壊したら許さん。それに俺様の女たちがいるんだぞ、あいつらに何かあったら承知せんぞっ!)
 足元のエルマ兵を踏みつける。もちろん死んでいる。ついとかがんで兵士の手から一振り剣を、鞘ごと拾い上げる。
(ちっ、こんな安物・・・俺様には相応しくないがしかたない。とにかくこの眼で何があったか確かめないとな。セオラさん達がどうなったかも気になるし、ミヤの中がどうなっているかも気になる)
 思考完了。後は町に入り、何がどうなったのか確かめるだけだ。そこまで思考を深めて後ろを振り返る。
いつにもまして可愛げのない顔で睨んでいる女。コイツも連れて行くか・・・ ずかずかと足音高く近づいて、
「ちょっ、ちょっとどうしたのよ、なにか言いなさいよ! ひゃあっ」
抱き上げる。ソードは服を着ていない、全裸のままだ。そして、そのまま町に向かって駆け出した。
手には先程拾った剣が、鞘に納まったまま握られている。
「どこに行くの、町には私達の軍がいるのよ」
 ソードは答えない。というか、聞いていない。
(嫌な予感がするぜ。みんな無事でいろよ、俺様の許可なくいなくなったりしたら許さないからな)

「ひとりで突っ込んで、そんなに死にたいの? そりゃ、あなたはエルマの割に力が強いけど、それでもバルタンの男にはかないっこないわ。殺されるだけよ?」
 今、南門をくぐった。
最近までは門の役割を果たしていたが、両脇の防壁にいくつも穴をあけられて今となってはただの大きな石柱に過ぎない。
南門から中央に伸びる大通りを走る。
「・・・私を人質にするつもり? それだったら甘いわよ。私達は人質を助けることよりも敵を殺すことを優先するんだから」
 聞いちゃいない。
町に入った瞬間に眼に入ったのは、いかにも壊滅した風情の町。
火でもつけられたのだろう、建物のどれもに燃え盛った痕跡がある。あちこちで煙が細く立ち昇っている。
人はといえば、そこここに散らばっている動かない肉塊。
いくらソードが鈍いとはいえ、この光景が意味することくらいは分かる。戦争があったのだ。
それも五分五分の戦いではない、一方的な強者が弱者をいたぶるだけの戦いが。
 幾ら夜とはいえ、月夜の明るさは人間の服装を判別するのに十分な光陵を持つ。
仄かに青白い明かりに照らされた肉塊は、ほとんどが鎧もつけない町民の装い、虐殺の象徴。
(こ、こいつは・・・ 嘘だろ、おい。これが俺様の町か?)
 走っているさなかに眼に飛び込んでくる光景は、どれも最悪。
かつて自分が冷やかした店のどれもが変わり果てた姿になっている。
(ちっ、畜生、こうも簡単につぶれちまったら駄目じゃないか! まさか、俺様の女共まで死んだりしてないだろうなっ)
 本通を折れて幾夜も過ごした場所へ走る。
そうするうちにも数々の惨状、腕のない肉体や首のない残骸、が眼に入ってくる。動いているものが何もない。
まるで自分とリッカだけが唯一生きている存在のよう。とにかく急ぐ。
もしかしたらまだ歓楽街はぶじかもしれないではないか。そうだ、きっと無事に違いないのだ。
けれども、そんな自分勝手な思い込みは二つ角を曲がった瞬間崩れ落ちることになる。
「おいおい、マジかよ・・・」
 とうとう恐れていた事態が現実になってしまった。
いま、ソードは酒場『ウポンレ』の前に立っている。正確には『ウポンレ』があった場所。
家族もなく、親戚だっていないソードを暖かく受け入れてくれて、まるで家族の一人のように接してくれた皆がいた場所。
姉のように何かにつけ面倒を見てくれたセオラさん、何かにつけまとわり着いてきたガキンチョのリィナ、『スピアー』にはいれたときに息子のことのように喜んでくれたママのサンチさん。
「ここがあなたのお目当ての場所なの? ふふふ、なあんにもないのね」
「・・・」
「よかったわね、この町が潰されてて。どうやら私の仲間はここにはいないみたいだし」
「・・・どういうことだ」
「? 何言ってるの?」
「どうしてセオラさん達がここにいないんだ」
「いるわけないじゃない、みーんな殺されてるわよ。そうすることになってるの。この町の人たちには悪いけどね、見せしめに選ばれたの」
「見せしめ、だと?」
「そ。どこか一つだけ完全に潰しておいて、そうすることで他の町に覚悟を決めさせるって方針だったの。我々に逆らうとこうなるぞって、皆殺しだぞってメッセージを送るためのね。それがこの町だって事は聞いてなかったけど、この有様だとここが標的だったのね」
「女もか? お前たちは女も殺すのか?」
 それまでは目の前の無残な建物を見ていた視線を手元に落とすと、ソードは乾いた声をかけた。
「どうだったかしら? 確か女はみんな捕虜にするって言ってたから、多分助かっているんじゃない? もっとも、ちょっとでも反抗したら殺していいって言われてたから、実際どうなったかなんて分からないけどね」
 数時間前とは打って変わって饒舌になったリッカがこたえる。リッカの中では力関係が完全に逆転していた。
この数日はひたすら組み伏せられ、蹂躙され続ける毎日で、ソードが圧倒的に自分を支配していた。
けれど、今は違う。自分を抱いている少年は、帰るところを失い、これから敗残兵としてお尋ねものになる宿命の一兵士。
かたや自分は勝利した国側の上級兵士だ。もうこんな男なんかにおびえる必要なんかない。
 リッカは自分の勘違いにもちゃんと気付いていた。
つまり、たとえバルタンがエルマを破ったところで、自分の命や操その他もろもろがソードの胸先三寸なことには何の代わりもない。
この男が自分を殺そうと思えばいつだって自分は殺されるし、犯そうと思えばどこでだろうと犯されることに変わりはない。
それでも高揚してくる気分は抑えられない。
自分から大事なものを奪っていった男が、彼もまた何がしかの物を失って立ちすくんでいるさまを見ると、小気味よい気分がこみ上げてくる。
ついいらないことまで口にしてしまう。けれども、それは小気味がいいからだけではなかった。
ここに来て始めて目にする男の表情、ポケーッとして、まさしく惚けている表情に心のどこかで違和感を感じていたからでもあった。
黙っているソードに言葉を続ける。
「女はある意味男よりも悲惨よ。男はすぐに殺されるだけ。女は違う、命は助けてもらえるけれど、徹底的に支配される現実が待ってるんだから」
「・・・」
「エルマを滅ぼしたら、エルマ人はみんなバルタンの奴隷になる。生き残った男たちは農奴にでもなるしかないし、女たちだって似たようなものよ。まぁ、ろくな未来じゃないことだけは保障してあげるわ。それに・・・」
「・・・殺しはしないんだな?」
「え? なに?」
「女を皆殺しにするなんてことはないんだろうな?」
「それはないと思うけど、男はまず駄目ね。それに、女だって逆らったらアウトよ?」
 「・・・だったら、皆はまだ生きてるかもしれないんだな。そうだぜ、家がつぶれてるからって死んだわけじゃない。そうか、そうだぞ、生きているに決まっている。俺様の許しもなしに死ぬなんて許さん」
 「許すって、人が殺されるのに許すも許さないもないじゃないの」
「うるさいっ! 少し黙ってろ」
(せっかく人が結論に達したってのに、風流の分からない奴だ。とにかく皆は生きてる! セオラさんたちは生きてる。捕虜になったか脱出したか走らないけれど、とにかく生きている)
 何とかして希望を見つけようとする矢先にいらないことを言われることは、きわめて不愉快だ。
ただでさえ大きなショックを受けているのだからなおさらだ。
「俺様が決めた。あいつらは無事だ」
 ソードは普段の、根拠のない自信と精力にあふれた顔に戻ってつぶやいた。
不覚にも少しの間自信を失っていたが、それは気のせいに違いない。
ちらりと頭を掠める最悪のイメージを振り払うように、激しく眼をつぶる。そんな折も折り、自分の願望を否定する声。
「無事って、そんなわけないでしょう? もし生きてたとしても、今頃はみんな、」
「ええい、みなまで言うなっ」
 冷ややかに口を開いたリッカを持ち上げ、顔を向け合う姿勢に抱え込む。
握っていた剣を放り投げ、相手の腰に手を沿え、一瞬のうちに駅弁のスタイル。
「心配したせいでコイツが暴れちまったぜ。リッカちゃんのせいなんだから、とにかく一発するぞ! さっきの続きだぜ」
 そういって自分の腰を押し付けるソード。その顔は今までに見せたことのない顔。
不敵な笑顔こそ浮かべてはいるが、どこかいつもと違う。一言で言えば、無理をしているような。
 有無を言わさず抱きしめる。ゆっくりと膝を突き、リッカを地面に横たわせる。
服を脱ぐ手間はいらない、もともとソードは裸のままここまで走ってきたのだ。
顔を胸にうずめられているせいで、リッカはソードの表情がうかがえない。
「・・・泣いているの?」
 思わずリッカは尋ねていた。胸に明らかに液体の感触がある。かすかに肩が震えている。
腕に入る力がどこか頼りなげで、思い切り暴れたら振り解けそうだ。
これまではどんなに暴れても解けない力で押さえつけてきたのに。腰をゆっくりと押し付けてきて、太いモノが挿入される。
「くっ、ううっ」
 痛い。すでに何回目の痛みだろうか。それでもはっきり分かるのは、徐々にではあるが痛みが小さくなっていること。
気を失うほどの痛みから、こうしてうめき声がもれる程度の痛みへと変質している。
「悔しいの? 誰を心配してるかしらないけどっ、この町にッ、いたのならっ、もうただじゃすんでっ、ないでしょうねっ、」
 体に杭を打ち込まれる衝撃に肺を圧迫されながらも言葉を続けるリッカ。
顔には笑みすら浮かべている。それだけの余裕が今はある。
ソードが一方的にしゃべって、リッカが嬌声を上げるという図式が逆転している。ソードは何にもしゃべらない。
「いいざまだわっ、私に八つ当たりしてっ、所詮は子供っ、貴方達がっ、戦いに負けたのをッ、そのせいなのにっ、私を犯したくらいでッ、事実はッ、変わらないっ」
「チッ、調子に乗りやがって」
 次第にピストンが加速されていく。それまで黙っていたのが、小声を漏らす。
「あっ、あっ、馬鹿みたいっ、あっ」
 リッカはリッカで初めての感覚に襲われていた。
精神的に相手の気持ちを考える余裕が生んだのだろうか、自分の中にも性行為を受け入れる余裕ができてきたのだろうか。
とにかく、体の底から噴出してくるものを感じていた。
もう言葉を紡ぐ余裕なんてない、ただただ自然に声がほとばしる。これが絶頂というものなのだろうか?
「いいか、俺様がリッカちゃんを抱いているのは、世界中の女が俺様のものだからだ」
「うあっ、あっ、っく」
「勘違いするなよ、捨てようと思えばいつだって捨ててやる。具合がいいからここまで一緒に連れて来てやったが」
「いいっ、ああっ」
「ここまでだっ、これで最後だぜっ」
 ひときわ深く突き刺す。根元まで押し付け、その体制のままさらに肉の壁を裂いていく。
ほとばしる精液、胎内で暴れる肉棒。
「〜〜〜〜っ」
 ほとんど同時にリッカも達していた。大分前から意識が行為そのものに行ってしまっていた。
そのせいか自分の中を行き来する存在の動き、波長が伝わってきて、精神の内部からもうじき抑えていたものが溢れ出す瞬間が来るとシグナルが送られてくる。
後はシグナルに合わせて体を振るわせるだけだった。放心状態、頭が真っ白になって行く・・・


一方、ソードも久しぶりに一方的でない絶頂を味わっていた。
たださえきついのが、さらにさらに締め付けて、セカンドソードに悲鳴を上げさせる。
白濁液の最後の一滴まで搾り取られるような感触。
(くそっ、最高じゃないか! いいぜ、グッド過ぎだ、満点だ。っておい、まだ締めてくるのかよ?)
 至福の時間は続かない。リッカに襲い掛かったとき、確かにソードの眼には涙が浮かんでいた。
当然のことながら、悲しいからではない。悔しいからである。
自分のものを黙ってもっていったバルタンに対する怒りでもあった。
リッカを抱きながら考えていたのは、これから自分がバルタンをボコボコにしてやるという決意だった。
戦争を仕掛けて他国の女をさらっていくような連中は自分の敵以外の何者でもない。そんな奴らは殺す。
方法はまだ浮かんでこないけれども、女をないがしろにする人間は許せない。
そんな複雑な涙を隠すためにリッカにしがみついたわけであるが、反応は自分の予想とあまりにも違った。
 ソードの感情をこともあろうか『八つ当たり』だとか、『馬鹿みたい』だとか、言うような女は自分の持ち物失格だ。
幾ら気持ちのよい穴をもっていたって、駄目だ。
これで最後といったとき、ソードはこの場所にリッカを放置してバルタンを追跡しようと思っていた。
 そう思ってはいたけれど、絶頂の余韻の中さっきまでの心情が嘘みたいに流れていく。
(な、何て締め付けだ! くうう、た、堪らんが、ちょっと痛いかもしれない)
 ひとしきり快感を感じて、そろそろ引き抜こうとおもったけれど、
 抜けない。
 「おい、リッカちゃん、いつまで俺様を咥えているんだ。もういいから離せ」
 「・・・」
 返事がない。体もピクリともしない。どうやら絶頂に達して、そのまま気を失ってしまったらしい。
そのくせ穴だけはありえない力の締め付け。痛い。味わったことのない痛みたソードを襲う。
「こ、こら、ひとりだけ幸せそうな顔をするなよ。おい、起きろ。そしてこれを何とかしろって。クッ、痛いんだっておい」
「コラ」
 ゆさゆさと揺する。ぺしぺしとほほをたたく。
「だああー、いい加減にしろよっ! ぐうう」
 起きない。揺すっても顔をたたいても起きない。ほっぺたをつねってみても、起きない。
激痛は思考を奪っていく。
さっきまでソードの頭を占めていた、バルタンへの怒りとか、セオラさんたちの無事を願う気持ちとか、そんなものがどんどん消えていく。
代わりといってはなんだが、初体験の痛みの恐怖が頭を埋めていく。
(まさか、俺様に捨てられるのが嫌でこんな暴挙にでたのか? 馬鹿な、ありえないぞ。やばい、やばすぎる痛さじゃないか! クッ、くそ、抜けないし、もう一回だけ)
 リッカの腰を押さえつけセカンドソードを思い切り後ろに! とお
「痛え!」
 駄目だ、とてもじゃないが耐えられない。
(誰か助けてくれ! この馬鹿女をなんとかしないと・・・死ぬ! 本当に死んじゃうぞ!死んじゃうまえに千切れる。お、俺様の芸術品が悲鳴を上げている)
「誰か、誰かいないかぁ」
 意識のないリッカとつながったままあたりに声を上げる。この瞬間、彼は何にも考えていなかった。
ただただすさまじい苦痛から解放されることしか考えていない。ピンチだ。彼の中では人生始まって以来のピンチ。
膣痙攣という、女性必殺の武器を前にして、男ソード・ブレードはなすすべがないのである。
[ちなみに、膣には筋肉は存在しないため、厳密には膣が痙攣しているわけではない。膣を取り囲む筋肉が性交に対する恐怖等によって痙攣を起こし、限界状態まで収縮した結果、膣穴の半径がゼロになる方向に締め付けがおこる症状である。治療法としては、予備的ではあるが精神安定剤を飲んでから性交をする等がある。一度発症してしまうと、筋弛緩剤の直接注射でもってペニスを開放するしかない。そんなことができるのはお医者さんだけだそうです。そりゃそうか]
「誰でもいいからさっさときやがれ! うがぁぁ」
 いったい何度叫んだだろう、とにかく懲りずに大声を張り上げたとき、ソードの背後には確かに人がいた。
ただ、気配を殺して近づいてきているので、普段のソードならいざ知らず、パニックの中にいるソードは気付かない。
気配は、一人のものではなかった。月影がいくつもいくつも連なって近づいてくる。
ひたひたと忍び寄る影は、巨大な男を先頭に三十程度数えられる。
手には長刀、体に鎧をまとった影は、確かにバルタン兵士のそれだった。



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