ホ・ラガの『耽美な一日』

(5000HIT記念SS)




・・・注意!! 途中まではまともですが、途中から18禁モード(?)になります!!・・・


 リーザス城の広間、王座にすわったランスがマリスと話をしていた。
 話題になっているのは、シベリアの北に位置する塔。マリスによると、『ホ・ラガの塔』というそうだ。
 マリスのいうところでは、なんでも世界屈指の賢者が住んでいるらしい。けれど、ランスは頷かない。
 曰く、『絶世の美女が氷付けにされて、俺様のキスをまっているのだ!』。
 なんでもランスによると、寒いところには美人が眠っているとのこと。
 豪雪地帯ゆえに、眠っているのは、それはもう飛び切りの美女に違いないと言い張る。
 マリスとしては、行軍の厳しさに配慮せざるを得ない。豪雪のヘルマン、厳寒のヘルマン。
 そんな辺鄙なところへ出兵して無駄に兵を殺したくは無い。しばらくあーだこーだ言い合った後で出た結論は、
「パットンに聞こう」
 なんといってもヘルマン皇子だし、自国のことなら承知しているに違いない。
 そういうわけで先刻パットンに使いを出し、いまや遅しと待っている。

「パットンよりも、ハンティにすればよかったか?」
「そうですね。ハンティさんの方が知識は多いように思います」
「ハンティが賢いんじゃなくて、パットンが馬鹿なんだよ。アイツは突っ込んで突っ込んで、お終いだ。
 はたから見てると、何にも考えてないのがよく分る」
「けれど、格闘の実力は飛び抜けていますよ?」
「・・・マリス、それでフォローしてる気か? はっきり言って、フォローになってないぞ」
 ランス達二人がパットンの話をしている時、広間の前にはパットンとヒューバートが立っていた。
 パットンとヒューバートが訓練をしている時に使いがきたため、二人揃ってランスに会いにきたわけである。
 パットン達が広間に足を踏み入れたとき、ランスはいかにパットンが馬鹿かを力説していた。
「たった一人でアダムの砦に突っ込むような男だぞ。筋肉馬鹿なんだよ、筋肉ば・か! だいたいなぁ・・・」
 マリスしか見ていないランスの背後で声がした。
「うぉっほん!」
「うん?」
「ああ、なにやら楽しげな会話だなぁー。おいリーザス王、聞こえてたぞ!」
 こめかみをピクピクさせているパットン、横でニヤついているヒューバート。
「なんだ、何が聞こえたって?」
「ふざけるなっ。俺の悪口をいってたのはわかってるんだ! まったく人を呼びつけといて・・・」
「まぁまぁ、パットン。そう熱くなるな。
 王様は『大人数の中に一人で突っ込むなんて、馬鹿みたいに度胸がある』っていってんだよ。褒められてんだぞ?」
 横からヒューバートが口を挟む。
「それに、馬鹿ってのも悪くないぜ?
 一つのことに集中して周りが見えない奴を馬鹿って言うんだ。馬鹿でいいじゃないか、なぁ王様?」
「まぁな」
「ってことだ。パットン、別に怒るようなことじゃないさ」
 ポンポンとパットンの肩を叩く。
「そ、そうなのか? 俺にはどうしても侮辱されたとしか思えないが・・・」
「ないない、そんなことない。それより王様、何のようでコイツを呼び出したんだい?」
 パットンははぐらかされ、複雑な表情でヒューバートを見ている。
 そんなパットンを差し置いて、ヒューバートは笑顔でランスに話題を振った。
「うむ。超重大質問だ、心して聞けよ。シベリアの向こうにある塔のことなんだが、『ホ・ラガの塔』ってやつだ。
 しってるだろ? ・・・ ン、どうかしたのか?」
「・・・」
 それまでパットンを上手くあしらい、いつものように余裕の表情だったのが、顔を引きつらせて固まってしまった。
「おい、ヒューバート? ・・・なぁパットン、俺様が何か悪いこといったか?」
 ランスはパットンに尋ねた。
「あ、ああ。実はコイツ、苦手な単語があってさ・・・。その単語を聞くとこうなっちまうんだ」
 苦笑いしながらパットンが答える。パットンの横では、ヒューバートがまだ固まっている。
「単語ぉ? がははは、なんだか知らんが面白い奴だな。で、それはなんて単語なんだ?」
「いや、それはちょっと・・・ おい、ヒューしっかりしろって。おい!」
 そんな二人を面白そうに眺めるランス。
(くくく、よく分らないが面白そうじゃないか! よし、適当に何かいってみるか・・・)
 弱点と聞いてじっとしているランスじゃあない。
「おい、ヒューバート! 『シベリア』『超重大質問』」
「お、おいリーザス王? なにいってるんだ?」
「『心して聞け』、『ホ・ラガの塔』」
「げっ!」
 ランスが『ホ・ラガの塔』というキーワードを口にしたのと、パットンが『げッ』っと言ったのはほぼ同時だった。
「んんー? 『ホ・ラガの塔』ってのが弱点なのか?」
「あーあ、いっちまった・・・ もう手遅れだなー」
「なんだ、何も起こらないじゃないか。ヒューバート、『ホ・ラガ』『ホ・ラガ』」
 顔に手をあてて上を向くパットンと、しつっこくキーワードを繰り返すランス。
 そして、顔を引きつらせていたヒューバート。と、ヒューバートの体がピクリと動いた。
「お、やっと動いた。なぁ、ヒューバート、『ホ・ラガ』ってのがどうして苦手・・・って、おい! おーい」
 動いたと思うと、次の瞬間には脱兎の如く走り出していた。
 真っ直ぐ広間の出口へ向かい、振り返りもせずにどこかへ走っていく。
「な、なんだあいつ・・・?」
「いやー、俺にもよくわからないんだ。ただ、『ホ・ラガ』って言葉に異常に敏感になっちまってさぁ。
 何回も『ホ・ラガ』って言ったら部屋に引き篭もっちまうんだよ」
 ヒューバートが出て行ったほうを眺め、溜息をつきながらパットンが口を開いた。
「それにしたって、なんか異常だったぞ? 大丈夫なのかよ」
「ああ。ニ三日もすれば、ケロッとして出てくるから大丈夫だ。
 ただなぁ、『ホ・ラガ』って聞くたんびに取り乱すんだよな」
「ふーん」
「アイツさ、本当に『ホ・ラガ』ってのが嫌いらしいんだ。だから、あんまりからかわないでくれよ?」
「考えておく」
「はぁぁ、これで当分出てこないだろうなぁ・・・ ところでリーザス王、なんで『ホ・ラガの塔』をしってるんだ?」
「お、そうだった。それが聞きたくて呼び出したんだったぜ。実はな・・・」




「わははは、そいつはお門違いだ。『ホ・ラガの塔』にいるのは女じゃなくて、爺だ」
「ジジイだとぉ? ちっ、つまらん!」
「まったくあんたらしいぜ。だがな、つまらないってことも無いぞ」
「ふん、男とわかった時点で興味は無い」
「まぁ、そういうなって。フリーク爺さんから聞いたんだが、とてつもなく物知りな爺で、なんでも知ってるって話だ」
「なんでもって・・・マリスのスリーサイズなんかも知ってるのか?」
 ランスは急に身を乗り出した。
 隣で黙っているマリスを指差し、真剣な顔でパットンに尋ねる。マリスの顔色は変わらない。
「え、スリーサイズ・・・? ああ、胸のでかさとかのことか? し、知ってるんじゃないか・・・?」
「じゃ、じゃあ、レイラさんの今日のパンツの色なんかも分るのか?」
「レイラ? ああ、親衛隊の隊長さんだろ? パンツの色・・・分ると思うが、しかし・・・」
「そ、そんなことも分るのか! おいマリス聞いたか? すごい奴がいるもんだなぁー」
 しきりに頷くランス、どうやら本気で感心しているようだ。そんなランスをみたマリスは、
(この王はこういう方だ。良くも悪くも欲望に忠実で、純粋・・・なのかしら?)
 と思いを馳せる。一方パットンは、
(リーザス王って、俺よりも馬鹿なんだな)
 と思っていた。そして、こんな人間でも王様が務まることに、なんだか勇気付けられるのだった。
 ひとしきり感心した後、ランスはパットンに話を戻した。
「それにしても、意外だったぞ」
「なにが」
「いや、お前がマリスの知らないことを知ってることが、だよ。なぁマリス?」
 横に佇むマリスにチラリと目をやってから、さらに続ける。
「すんでるのがジジイってのはいい情報だった。もう下がっていいぞ」
「そうか。じゃ、俺は修行の続きに行くかな」
「おう、せいぜい頑張れよ?」
「ふん。じゃあなリーザス王」
 こうしてヘルマン王とリーザス王の会談は終わった。
 『ホ・ラガの塔』に美女はいないと知った以上、ランスが探索に行くことはないだろう。
(結局、ヒューバート殿の弱点が分っただけかしら?)
 マリスの回想が、会談の内容を簡潔に表していた。


  ・・・

 広間から出てきたパットンは、ヒューバートのことを考えていた。
 実は、パットンも『ホ・ラガの塔』をヒューバートが恐れる理由を知らないのだ。
 ただ言えるのは、『あの日』何か恐ろしいことが起こった・・・ということ。
「ほんっと、なぁにがあったんだか・・・」

『あの日』とは、パットンとヒューバートが二人で『ホ・ラガの塔』に行った日。
 パットン達は『ホ・ラガの塔』に行った事があるのだ。それも最近のこと、正確には三ヶ月前の話である。
 ランスの命令でヘルマン辺境の深部に向かった『パットン隊(パットン、ヒューバート、フリーク、ハンティ)』は、
 順調に都市を降伏させていた。
 もともと現ステッセル体制は人気が無かったため、各都市は話し合いでパットンを受け入れたからだ。
 ウラジオストック、ゴーラク、シベリアと降伏させた時点で、当初の予定より一週間も早かった。
「ここで二日ほど進軍を休めてはどうだ?」
 というパットンの提案。賛成するその他三人。
「これで決まりだな! じゃ、爺さん後は任せた! 俺とヒューはちょっと用事がある」
 そういってパットンはヒューバートを連れて、シベリアの町に繰り出した。
 パットンの用事とはズバリ、『ハンティへの誕生日プレゼント選び』。
 こういうことはヒューバートに聞こうと思ったわけだが、ヒューバートの返事は『ハンティのことはよく分らん』。
 結局、以前フリークから聞いた賢者に聞こうと話がまとまり、二人は『ホ・ラガの塔』に向かったのだ。
 
 パットンの頭に、みょうちくりんな形をして雪の中にポツンと聳える塔が蘇る。
「シベリアからすぐだって聞いてたが、遠かったなー」
 独り言を呟く。
 ヒューバートと一緒にシベリアを出発したのは昼過ぎだったのに、塔に着いたのは日が沈んで大分たった頃だった。
 太陽の光はもう消えてしまったけれど、月明かりが一面の雪に反射して明るかったのを覚えている。
(門の前までは俺も行けたんだけど、俺だけ中に入れなかったんだよなぁ)
 見えない壁でもあるのだろうか、パットンは塔に近づくことも出来なかったのだ。
(けど、ヒューは入れたんだよなー。結局俺が外で待ってることにして、アイツが一人で中に入ったんだっけ・・・)
 どうしてかわからないけれど、見えない壁をすり抜けるヒューバート。
 『お前は待ってろ。俺は・・・寒いから中に入る』と言い残し、パットンを置いていってしまった。
(あんときは寒かったなぁ・・・ 死ぬかと思ったもんなー。
 朝になって、太陽が見えたときの嬉しさったらなかったぜ・・・ で、ヒューの野郎が出てきたんだけど)
 置いてけぼりを喰ったことに文句を言うパットン、黙って雪原に膝をつくヒュー。
 その表情は曇りきっていて、顔色にまったく覇気が無かった。
(出てきたと思ったら、いきなりうずくまりやがって・・・
 俺が何か言おうとしたら、急に『そこいらの花でも摘んでいけー』とかいうと走って行っちまったんだ)
 またしても置いてきぼりを喰らい、仕方なく辺りに生えている花を摘んで帰ったパットン。
 『こんなもん渡してもなぁ・・・けど、いまさら他に思いつかないし』と渡した花だったが、
(ハンティがあんなに喜ぶなんて思っても見なかった。
 たかがちっぽけな白い花の、どこが嬉しかったんだろーなー・・・ ま、喜んでくれたんだからかまわねぇけど)
 しかめっ面で『どこに行っていたのか』尋ねるハンティの顔が、花を渡されて一変したのをよく覚えている。
 花のプレゼントは大成功だったわけだ。
(あの後ヒューに礼を言いにいったんだが、部屋に籠もって出てこないんだコレが。
 部屋に『立ち入り禁止』って張り紙してさぁ? 二日間も出てこなかったっけ)
「全然話してくれねぇし、よっぽど凄ぇことがあったんだろーなー」
 人は誰でも他人に言えない秘密があるのだ、うん・・・
 などと分かった風な顔をして、パットンは頭からヒューバートのことを忘れていった。



   ・・・
『あの日』の朝。
 大陸随一の豪雪地帯、ヘルマン北方に聳える奇妙な塔。
 ひとよんで、ホ・ラガの塔。これは、この塔の主の一日をそこはかとなく綴った記録である・・・
   ・・・


 ペロン、ペロロン
「う、うううむ、ブリティシュそんなことまでっ・・・」
 ペロン、ペロロン
「私の気持ちを受け入れてくれる・・・? おお、ブリティシュよ・・・!」
 ガウーーー
「バウバウ、バウッ」
「ん・・・なんだ夢か・・・ ヨーデル、私を起こしてくれたのかね?」
 一人用にしては広すぎる円形のベッドからムクリと起き上がる人影。
 白髪に白髭の老人、『ホ・ラガの塔』の主『ホ・ラガ』その人である。
 起き上がった傍らでは、異様に長い舌でホ・ラガの顔を舐めるわんわんがいた。
 わんわんの頭をなでながら、あたりを見回す。月明りが白く輝いているものの、明らかに朝には程遠い。
「なんだ、まだ真っ暗ではないか。どうした、何故起こしたりしたのだ?」
「バウワウ」
「ほう・・・客人が来たと・・・?
 ふむ、それなりの風体だから知らせておこうと思ったのか。 では、少し見てみるとしよう」
 そういうとホ・ラガはベッドから身を下ろした。机の上に置いてある黒い眼鏡に手を伸ばす。
「どれどれ・・・」
 眼鏡を掛けてしばらくすると、雪原を歩く二人づれが次第に浮かび上がってきた。
 前を歩く男は、いかにも知性が無く単純そうな人間。盛り上がる筋肉からは好印象を受けるけれども、如何せん、
(美しくない)
 美しくなければ、男らしくあろうとも価値はない。一瞥を残して、後ろの男に視線を移す。
「・・・ほう!」
 後ろを歩く男。赤い長髪を靡かせて歩く切れ長の瞳、きりりとつり上がった眉、凛と立つ鼻筋・・・
(美しい・・・ 体格が逞しい上に、この美しさ)
 しばらく眼鏡が浮かばせる光景に見入った後、ホ・ラガは足元のヨーデルに目を落とした。
「ヨーデル、よく起こしてくれたね」
「わんっ」
 薄い笑みを浮かべると、ホ・ラガは指先をパチンと鳴らした。
 一つの魔法が解除される。それは、『塔を周りの光景と同化させる魔法』。それから、
「では、客人に失礼の無いよう着替えておきますか」
 寝巻き代わりのガウンを下ろし、いそいそと着替え始めるホ・ラガだった。
 傍らではヨーデルがパタパタと尻尾を振っていた。

 ・・・
 螺旋状に渦を巻く階段。もうかなり登ってきたはずなのに、まだ最上階につかない。
「なんだよ、どこまでつづくんだ?」
 ヒューバートは一人で階段を登っていた。かれこれ十分くらいは登り続けている。
「いい加減にしてくれよ・・・ ん? あれは、扉か?」
 足に疲れを覚え始めた頃、ようやく扉らしきものが現れた。
 壁にわざとらしく取り付けられた取っ手、縁取りされた金属の板。
 両手をとってにかけ、力を込める。扉は、思ったより簡単に開いた。
「おーい、誰かいるのかー・・・うお!」
 扉を開けると、そこは草原だった。
 『塔の中に何故草原が?』と疑問に思ってみるものの、目の前に広がるのはまさしく草原の風景。
「へぇ〜、妙なのは外見だけかと思ったら・・・ やっぱり魔法の力なのか?」
 首を振り振り辺りを見回すヒューバート。
 まるで山の中腹で散歩をしているような違和感を感じる。外では吹雪が暴れているというのに。
(そうだ、のんびりしてちゃダメだったな。この塔の主に頼んで、パットンも中に入れてもらわないと。
 『馬鹿は風邪を引かない』ったって、こう寒くちゃアイツも凍死しちまう)
「おーい、返事をしろー」
 ヒューバートにしても、雪の中に置き去りにしてきたパットンが気になっている。
 シベリアの夜、しかも雪。こんな夜を一人っきりで過ごしたならば、生きているほうが不思議だろう。
(あの赤い家・・・あれか? ホ・ラガって奴がいるのはあそこか?)
 草原にポツンとたつ一軒の家。赤い屋根がイチゴを連想させる。ヒューバートはその家に体を向けて声をあげた。
「ホ・ラガさんよー、いるんだろ・・・おっ」
 言い終わらないうちに、例の家の扉が開く。
 ユラリ、と一人の老人がわんわんを傍らに歩いてきた。もちろん、ホ・ラガその人である。
 ホ・ラガは黒ガラスの眼鏡をつけ、コルセットで胴をキリリと締め上げるいでたち。
 ピンと伸びた背筋がただならぬ気配をかもし出していた。そう、ただならぬ気配を・・・
(・・・!! い、いま一瞬寒気がしたが・・・ 気のせいか? あの爺さんと目があっただけだが・・・)
 大分離れていて、互いの視線を認識する距離に無いにもかかわらず、プレッシャーがヒューバートを襲う!
 プレッシャーの主はゆっくり、じれるほどにゆっくりと近づいてくる。
(はははは・・・ なにビビってるんだ? 相手はただの爺さんじゃないか。それに、殺気はまったく感じないし)
 束の間腰の引けていた自分を励ますヒューバートだった。
(どうしたヒュー? お前ほどのナイスガイが、あんな爺さんに怯えるなんてこと、あるわけないじゃないか。
 そうだ、さっきプレッシャーは気のせいだよ)
 そんなことを考えている内に、ホ・ラガとヒューバートは向かい合うまでに近づいていた。
 しばらく見詰め合った後、先に口を開いたのはホ・ラガだった。
「ようこそこのような辺境へ。このような老人に、しかもこんな夜更けに何の御用かな?」
 薄い笑いを浮かべながら、丁重な態度で応対するホ・ラガ。
 いかにも柔らかい物腰に、ヒューバートの緊張は大分ほぐされた。
「あんたがこの塔の主かい? 俺はヒューバート・リプトン。ヘルマンの・・・いや、いまはリーザスの軍人だ」
「ほほう、軍人・・・ 私はホ・ラガ、いかにもこの塔の主だ。して、そのリーザス軍人が何の用で参られたのかな?」
「ああ。俺じゃなくてツレの・・・パットンというんだが・・・質問に答えてもらおうと思ってね。
 ただ、何故か分らないが、ツレだけが塔に入れなくてさ。とりあえず俺だけ中に入ったわけだ」
「ツレ・・・? ああ、あのたくましい御仁のことか」
「そうさ。なぁ、あんたが『見えない壁』を作ってるんだろ?
 このままだとアイツが凍えちまうから、『壁』を取っ払ってくれないか?」
 さわやかな笑みを浮かべてヒューバートは続けた。ホ・ラガはといえば、相変わらずの薄い笑み、だ。
「ふふふ・・・ 心配は要らない。彼の周りには『熱源』を作っておいたから、凍えることは無いよ。
 はるばるこのような辺境まで来てくれたのだ、凍死させたりはしない。それよりも、聞きたいことがあるのだろう?」
『凍えることは無い』というホ・ラガの言葉に一安心する。けれど、
「『熱源』って・・・ ここに入れてやれば済むことだろ? 面倒なことをするんだな」
 そんな手間を掛けずに、中に入れてやればいいと思うヒューバートだった。
「私は美しいものにしか興味が無くてね。彼にはそれほど関心がないのだよ。
 しかし、君の友達のようだから粗略にはしない。今頃は暖かいベッドの夢でも見ていることだろう・・・」
「そいつを聞いてホッとしたよ。けど、アイツは入れなくて、どうして俺は入れたんだ?」
 ホ・ラガの言葉に頷きつつも、新たに生まれた疑問。
「それは君がハンサム・ボーイだからだ。
 君には私に物を尋ねる権利があるし、私には君の質問に答える用意がある。君達が期待する通りね・・・」
「ははは、ハンサムじゃないとここにはこれないのか!
 あははは、コイツは愉快だ。それじゃあパットンの野郎がこれないわけだ」
「しかし・・・」
 笑うヒューバートを気にせずにホ・ラガは続けた。薄い笑みを浮かべたまま、
「質問に答えるには一つ条件がある」
「はははは・・・? え、条件? そいつはなんだい?」
 笑うのを止めて、ヒューバートは尋ねた。
「一晩・・・私と共に過ごして貰えれば・・・ 君の知りたいことを教えてあげよう。君の為にね」
 ホ・ラガは涼しげな瞳でヒューバートを見つめた。
 足元ではヨーデルがパタパタ尻尾を振っている。ホ・ラガの様子を見ながらヒューバートは考えていた。
(パットンは『ハンティの喜ぶもの』が何か聞きたかったんだよなぁ?
 俺がこの爺さんに教えてもらう義理はないが、アイツはここまでこれないし・・・仕方ないか。
 俺が変わりに聞いてやるかな)
 ホ・ラガの言うことによると、パットンが寒さに震える心配は無いそうだ。
 だったら、一晩この老人に付き合って、朝までパットンを外に放置しても構わないだろう。
 そうきめると、ヒューバートはさわやかな笑顔で口を開く。
「俺は爺さんの頼みに弱いんだ。酒でも、女遊びだって付き合うぜ。まぁ、昔話のあんまり長いのは勘弁だけどな」
「ふふ・・・君がいてくれれば、それでいい・・・」
「あははははは。それって、なんかえっちな響きがするぞ。爺さんって、冗談好きなほうだろ? あは、ははは」
(いま、爺さんの目がキラッて光ったような気がしたが?)
 ホ・ラガの物のいいようにユーモアと、一抹の悪寒を感じて苦笑するヒューバート。
(ま、まあ一晩付き合うだけだしな。たいしたことはないだろう)
 心のどこかで動揺しているヒューバートと対照的に、いたって平静にホ・ラガは話す。
「では交渉成立だ。どのようなことが聞きたいのかな? なんでもいい。聞くがいい」
「ん、ああ。それなんだが、ハンティって名前のカラーがいてさ・・・」
 普段の軽い調子で、ヒューバートは聞きたいことを説明した。
 しきりに頷きながら聞いているホ・ラガ。けれどホ・ラガの頭を占めていたのは質問の内容なんかではなかった。
(引き締った体、凛々しい顔つき・・・ 性格もさわやかで申し分ない・・・
 ふふふ、今夜は忘れられない夜になりそうだ・・・)
 さりげなく物騒なことを考えていた。

 ・・・
「う、うぐっ・・・ じ、爺さん! いったい俺に何をしたんだ!」
 赤い屋根の小屋のなか、ベッドの上。
「ああ、もう目が覚めたのかね? ところで、体はちゃんと動くかな?」
 仰向けで、大の字になっている青年と、ベッドの端に腰をおろして服を脱いでいる老人。
「くっ、ちっくしょう、何がどうなってんだよっ」
 ヒューバートが目覚めた時、すでに彼はベッドの上に寝かされていた。
 『ハンティの喜ぶもの』は『この塔の傍に生えている花・・・「ヨーデルワイス」』だ・・・
 ということを聞かされたまでは覚えている。
 そのあと、『では、これから私に付き合ってもらう』という言葉と聞いたのも覚えている。
 そう、ホ・ラガの瞳が涼やかに光ったように見えたのも覚えている。しかし、そこから先は覚えていない。
 いつのまにかヘルマン正式の鎧は脱がされていて、いまの自分はアンダーシャツとトランクスをつけただけの格好だ。
 愛刀の『不知火』も視界には見当たらない。
 ベッドから跳ね起きようとしたヒューバートだったが、体はまったく動かなかった。
「その様子だと、どうやらうまくいったようだね」
「うまくいっただと・・・? いったいなんのことだ!」
「そう猛るな・・・ 君はさっき一晩付き合うと約束しただろう?」
 声を荒げるヒューバートをよそに、落ち着いて服を脱ぎながらホ・ラガが諭した。
「これから私に付き合ってもらうわけだが、暴れられては不愉快だからな。
 魔法で動けなくなってもらったよ。一種の『金縛り』と思ってもらって結構だ」
「ま、魔法で・・・金縛りぃ? 勝手なことをするなぁっ、くそっ」
 もがこうとしても体が動かない。と、まるで天啓のようにある考えがヒューバートに襲い掛かった。
 ここはベッドの上、自分は下着。もう一人の人間は服を脱ぎ脱ぎしているところ。
(も、も、もしかして・・・一晩付き合うってのは・・・う、嘘だろ・・・?)
「ばうっ」
 ぺろろ〜ん
「うわあっ!」
 嫌な光景を想像しているところにヌルリとした感触、おもわず変な声を出してしまった。
「こらこら、ヒューバート君が怖がっているだろう? いいから、床で待ってなさい」
「ばう〜」
 ベッドに飛びのっ舌を伸ばしたわんわんをたしなめるホ・ラガ。
「ちゃんと後で遊ばせてあげるから、そう急ぐな」
「ばうっ」
 ホ・ラガの言葉を理解したのか、一声吼えるとヨーデルはベッドから降りた。
 いきなり顔を舐められたヒューバートの心臓はまだドキドキしている。

(び、びっくりしたぁ〜・・・ ん、まてよ・・・ た、確かこのジジイ『後で遊ばせてあげる』っていったよなぁ・・・?)
「お、おい・・・ いったい俺をどうするつも・・・」
 恐る恐る顔をホ・ラガに向けたとき、ヒューバートは固まっていた。
 視線の先にあったのは、全てを脱ぎ去り、生まれたままの姿になった一人の老人。
 いや、老人というにはあまりに若々しい肉体であり・・・若々しい棒だった。
「な、な、な・・・」
 眼鏡をはずした白皙の顔がヒューバートの顔に近づいてくる。
「な、な、なァ―――― うぶっ・・・」
 初めてだった。ヒューバートにとって、男同士で唇を合わしたことは。
 金縛りにあっていようがいまいが、この状況下で身動きの取れる男はいないだろう。
 なにしろ、ヒューバートの口の中には、絡めるには太すぎる舌が差し込まれ、
 歯茎から舌から唾液腺まで隈なく蹂躙しているのだ・・・!
「・・・っっっ!」
 口の中に差し込まれた舌がクルクルと丸まったと思うと、
 チュルリ
 生暖かい液体が! ホ・ラガが自分の唾を流し込んだのだ。
 ヒューバートだって、女の口に自分の唾液を絡ませたことはある。逆に唾液を流し込まれたこともある。
 そのとき、唾は甘い味がした。いまは・・・まるで賞味期限を一年過ぎたミルクをながしこまれているよう。
(止めてくれ、止めろ、助けてくれ、助ける? い、いやだぁぁぁ!)
「んー、んー、んー!」
 混乱した頭で必死に現状の打破を考える。いや、考えようとした。
 けれど、事態はすでにヒューバートが処理出来る次元に無かったのだ。
「ぷぁっ! あ、あうあう・・・」
 ホ・ラガの口が細い糸を引きながら離れていったのも束の間、ヒューバートの口にねじ込まれる二本の指。
 とっさに噛み付こうとしたものの、顎にすら力は入らないのだ。
 ヒューバートに自分の指を咥えさせると、ホ・ラガの口は舌で顔の輪郭をなぞりつつ耳へとうつる。
「ふわあああ! ひっ、ひゃめろぉ〜」
 くぐもった声をあげるヒューバート。れっきとした悲鳴なんだけれど、ホ・ラガにとっては耳慣れた嬌声。
「そんないい声で鳴かれると・・・本気になってしまう・・・」
 はむっと耳たぶに薄い歯形を残す。
 その間、手はヒューバートのシャツをなぞり、魔法でアンダーシャツに切れ目を入れていた。
 そして、舌が再び耳から口へ移動した頃には、すっかり胸板がむき出しになっていた。
「い、いやだ、いやだぁぁ・・・」
 既に論理的な言葉は出てくること無く、ただ拒絶の言葉が漏れるだけ。
 もっとも、そんな言葉はホ・ラガの前に何の意味も持たない。
 舌は絶妙な速度と接触を保ちながら、首筋、胸と下降してゆき、
 チュッ
「う、うわあああ!」
 右の乳首に口付けを、左の乳首に一噛みを・・・ 
「うえっ」
 と、今までに無い電撃がヒューバートの背筋を襲った。口の端から先ほどまでとは違った響きが漏れる。
 今まではただただ悪寒と恐怖だけだったのに、一瞬ヘンな感覚に襲われたような・・・? 
 ホ・ラガは声の変化を聞き逃さなかった。
「おや、君は乳首が弱かったりするのかね? くくく、実に可愛らしい。そんな君も好きだよ」
「ちっ、違う! ふざけるな、クソジジイ! この変態野郎ぅー!」
 顔を青ざめさせながら、声を振り絞る。
 常に冷静で人を食った態度が身上の男、ヒューバート・リプトンは既に過去の人になっていた。
「ふふふ、変態か・・・ 変態・・・ けれど、君のココはどうやら変態行為をよろこんでいるようだが・・・?」
 あざ笑うかのように、いままでシャツを切り裂いていた手がヒューバートの股間に伸びる。
「触るなぁぁ変態ぃぃっ・・・はうっ」
 睨みつけようとしてホ・ラガと目があったとき、絶妙のタイミングで男の指が棒に絡みつく。
 そのまま締め上げるように、慈しむように上下する手。情けない声ばかりが込み上げてくる。
「うあっ、あああっ」
「なかなかいい反応だ・・・嫌いではないよ、敏感すぎるというのもね」
 ベッドのうえで、二つの裸体が交差していた。上になった裸体は片手を首に回し、もう片手を下に持ってゆく。
 口と口とを重ね合わせ、下の棒をも愛撫しつつ、自らの棍棒を相手のそれに交わらせる。
「くぅ〜〜〜っっっ!」
 ヒューバートは歯を食いしばっていたのだが、ホ・ラガの舌で口をこじ開けられ、もはや我慢の仕様が無い。
 体のどのにも力の入る場所が無いのだ。そしてついに・・・
「ぬぁぁっ・・・あ、ああ〜・・・」
(さ、最悪だ・・・ 俺、もうダメかも・・・)
 目を閉じる。瞼の裏に滲む涙。瞼の上ではすべての元凶が薄い笑みを漏らしていた。
「もう出してしまったのか? ふふふ、まだまだ夜は長いぞ・・・?」
 陸に打ち上げられた魚のように、口をパクパクさせるヒューバートを見ながら、ホ・ラガは楽しそうに呟いていた。
 ヒューバートの耳に届いてはいなかったけれど、彼はこれから嫌というほど知る羽目になるのだ。
 ホ・ラガの呟きが意味するところを・・・
 不覚にも手コキで抜かれてしまったヒューバート。
 けれど、これは更なる蹂躙の序章に過ぎなかった。そう、夜はまだ始まったばかりなのだ。
 自分の意識が飛んでしまわないのが不思議なくらいだった。迫り来るプレッシャー、恐怖、悪寒の連続。
 気を失ってもいいのに、五感はこれでもかというくらいにクリアーで、与えられる刺激を正確に知覚していた。
 肛門に差し込まれる滑らかな指。最初は一本、次に二本。激痛の後に訪れる言葉に表せない違和感。
 そして、体の中で蠢く指。おぞましさと痛みに悶えつつも、なぜだか射精にまで登らされてしまう屈辱。
 そして、引き抜いた指をヨーデルに舐めさせてニコリと笑うホ・ラガの顔。これで終わりか・・・? そんなことはない。
 ヒューバートの体をうつ伏せにひっくり返し、パチンとホ・ラガの指がなる。
 音にあわせてむくりと起き上がる自分の体。朦朧とする意識、けれどもまだ気を失いはしない。
 その直後、先刻からいじめられて腫れあがった肛門に、初めての感触が訪れる。
 指と同じ温度をもつ、指よりずっと粘性に富み、指よりずっと太い存在。
「やっ・・・やめてくれ〜〜!!」
 最後の力を振り絞って叫んだ声も、
「ぐあぁぁ〜〜!」
 自分の悲鳴でかき消されてしまった。体の中を強引に行き来され、内臓がこすれる恐怖。
 こんなことをされてまで反応してしまう自分が信じられない。
 とにもかくにも、この過程で三度目の絶頂を迎えてしまうヒューバートだった。
 そして、真の恐怖がこの後訪れるのだ。どうしようもない悪夢が・・・
 ヒューバートの射精に合わせて、体内に精を放ったホ・ラガ。それを境にベッドに立ち上がった。
 一方、文字通りベッドに崩れ落ちるヒュー。
 ホ・ラガに対する寒気と、自分に対する嫌悪感に打ちのめされた彼の耳に響いた言葉は、
「では、そろそろ私は終わるとしよう」
(た、た、た・・・助かったぁぁ・・・)
 もう十分汚され、いまさら助かったもくそもない。
 けれど、少なくともこれ以上蹂躙されることは無いわけだ。それだけがわずかな救いである。しかし、しかぁぁしっ!
「待たせたかねヨーデル?」
「ばうばうばうっ!」
(・・・は?)
「では、次は譲るとしよう。たっぷりと楽しむがいい・・・」
「ばうっ!」
(・・・う・そ・だ・・・)
 かつて無いほど朦朧とする意識。視界の端に移ったのは、長いベロを涎まみれにしたわんわん。
 と、わんわんが視界から消えてベッドが揺れる。荒い息遣いが近づいてくる。
 むき出しにされ、敏感にされた自分の尻に走る痛み。
 それがわんわんの爪だと認識した時、彼の意識は遥か彼方に旅立っていった・・・
 ・・・


 ヒューバートが意識を取り戻したのは、翌日の朝も大分たってからのことだった。
 起きた場所は、当然ベッドの上。もちろん全裸。
 右隣には・・・やすらかに眠るホ・ラガが、これまた裸で横たわっている。蘇る戦慄!
 ピクピクと痙攣しながら左隣に向きを変えると、そこにはアノ悪魔・わんわんのヨーデルが・・・! 蘇る悪夢・・・
 というわけで、ヒューバートは全てを投げ出したような顔でベッドから跳ね起きた。
 床に落ちている鎧と靴、不知火を引っつかむと赤い小屋から飛び出していったのだった。
 青い空の下、緑の香る草原をただただ走る。
 走って走って走って・・・裸のまんま、螺旋階段の扉を出るまで走り続けた。
 そこまで逃げてから一呼吸、鎧を着込み、靴をはく。
 着込むと同時に階段を一足一足踏みしめるように降り、ついに忌まわしい塔を後にしたのだった。
 ここから先はパットン回想の通り。
 つまり、ヒューバートに食って掛かるパットンに、『そこの花でもとって来い』と、やっとのことで呟く。
 そして、逃げるように(っていうか、逃げる)シベリアへ走り出し、自分の部屋に閉じこもったわけだ。
 ヒューバートとしては、今の自分を誰にも見られたくないが故の行動だった。
 けれど、そんな一部始終をしっかり見ている影がちゃぁんとあるわけで・・・
「ヨーデル、昨日はなかなか楽しませてもらえたね?」
「ばうっ」
 薄い微笑みと長い舌を持つわんわん。ホ・ラガと、その愛わんわん・ヨーデルだ。
「彼のような美しい人間の顔が歪むのも、またよいものだな。そうそう、彼は精神も強かったよ・・・」
「ばうぅ」
「そうだね、たいていの人間は菊座に手を伸ばされる場面で気を失うものだ。
 お前が登場するまでしっかりしているというのは、これは稀有だよ?」
 ホ・ラガの眼鏡は、真っ暗な部屋に閉じこもり、布団に包まっているヒューバートを映し出している。
「ふふふ、かなり心に傷を負っているようだ。あの様子だと・・・どうやら気付いてはいないか・・・
 すべてが幻だったことに・・・」
 ヒューバートが引き篭もっているのは、
・自分が蹂躙されたと思っているからであり、
・自分が弄ばれたと思っているからであり、
・自分が変態行為により絶頂に導かれたと思っているからであり・・・
 そういったことが覆いかぶさっていて振り払えないがゆえの苦悩が原因だろう。けれど、
(あの行為は、すべて君の夢の中での出来事なのだよ・・・?)
 思わず苦笑が漏れ、同時に例の薄い笑みも浮かぶ。
(私が君に見せた夢・・・ それ以上でも以下でもない。
 私はただ君と添い寝させてもらい、移り変わる君の美しい表情を眺めていたに過ぎないのだ)
 かつてのエネルギーにみちたホ・ラガはもういない。いるのは1500年を経て朽ちた一人の老人。
 彼の棒が力をうしない、男の感触を味わうことに情熱を感じなくなって久しい。
 それ以来、もっぱら美しい男に男色の夢をみさせ、移り変わる表情に楽しみを見出してきたのだ。
(君は実に楽しませてくれたよ。もしまた質問が出来てここにくるなら、歓迎しよう・・・
 もっとも、もう二度と来ることはないだろうがな・・・)
 そうしてホ・ラガは眼鏡をはずした。塔の中は、たとえ外が吹雪だろうが豪雪だろうが青空のまま。
 そろそろ散歩の時間だ。足元に落ち着いた声を掛ける。
「散歩に行こうか、ヨーデル?」
「うわんっ!」
 ずっと主人を見上げていたヨーデルが一際大きな声を上げ、舌をホ・ラガの顔に這わせる。
「ははは、くすぐったいよ・・・では、出かけるとしようか」
 一人と一匹は、青空のもと、緑の絨毯に出かけてゆく。
 その後姿には、昨日一人の男を絶望に突き落とした雰囲気はかけらも感じられなかった。
 ただ、安らかな日常があるのみであった。
 
 余談だが、『ヨーデルワイス』はシベリアのよほど寒い地区にしか咲かない、大変珍しい花。
 『あなたが私を育んでくれた』という花言葉を持つ花である。
 
 

・・・あとがき・・・
 SS ホ・ラガの『耽美な一日』 どんな印象をお持ちいただけたでしょうか・・・?
 このSSは当HP5000ヒット記念に書いたものであり、ポッキーさんが呟いたネタを文章化したものでもあります。
 いうなれば、(原作)ポッキー、(画)冬彦・・・みたいな感じでしょうか? 
 で、内容ですが! 深みのあるものじゃないです、というか、非常に浅い内容になっとります。
 本当は、ホ・ラガが突っ込むシーンやヨーデルが突っ込むシーンも詳細に書くつもりだったんですが、止めました。
 理由としては文章が冗長になるからとか、ヒューバートのリアクションが書きづらいとかありますが、
 『自分が嫌になった』
 のが一番の理由ですかね〜〜 
 『やおい』は、やっぱり女性が書くものです。男だと、限界があります・・・
 ま、書いてて楽しかったのは事実ですけどね(爆)
 この文章を読んでくださった方、すんませんでしたっ それだけです! 
 他の文章はもっとまともなモンなんで、懲りずに読んであげて下さいっ(冬彦)
 
 感想お待ちしてます〜 k-kinoko@rf7.so-net.ne.jp までよろしくお願いします。




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