闘争者過去編




第一章

 満月の夜。
 綺麗過ぎる月が夜空に映え、全てを美しく照らし出す。
 都会の雑踏に疲れきった人々には、何も感じられないかもしれない。
 感受性が豊かなものには、何かを連想させたかもしれない。
 感じられるものは人それぞれ。
 私の親しい友だちだけでもみんなちがう意見を出すくらい。
 だけど今回だけはそうでもなかった。
 月は本当に綺麗過ぎた。
 言っている自分でも何が言いたいかは分からない。
 きっと友だちもそうだと思う。
 だけど感じるのだ。
 何者かが蠢く気配を。
 誰かは知らない。
 何かはわからない。
 だけど感じる。
 理論とかそういうものじゃなくて。
 話す相手がいてよかったと思う。
 みんな同じかな。
 
 
 「キャンプなんて、本気で言ってるの?」
 放課後の教室で不満そうに声を上げたのは箕神風音(みかみかざね)だった。
 つり目がきつそうな印象を与えるが
 見た目で中身まで判断をする人間にとっては拍子抜けするような性格かもしれない。
 そんなことは彼女にとってどうでもいいことだったが。
 「ダメか?」
 その場の全員ッッッと言っても6人しかいない上、2人は聞いているかどうかも危ういッッッ
 に対して投げかけるように言ったのは大沢武(おおさわたける)。彫りの深い顔立ちに浅黒い肌。
 本人は気にしているようだったが羨む者もいた。もっとも誰が触れる話でもなかったが。
 首からのぞく鎖はネックレスのようだったが本体はシャツの内側に入れてあるのでなんなのかはわからない。
 「この時期にやるのは得策じゃないんじゃない?いろいろ楽しみがあっていいかもしれないけど?」
 肩から背中に流れる長く綺麗な黒髪に触れながら何かを含んだ様子で言うのは豊科舞(とよしなまい)。
 机の上から全員に視線を送る。反応するのは1人だけ。
 「いいねぇ、アウトドア。」
 「あんたたち何の話してんのよ。」
 嬉しそうに反応する武に風音が冷たく言う。
 「ふざけるのはやめにして、キャンプじゃなくていいからどっかにみんなで行きたいと思うんだよ、俺は。
  去年はなんだかんだ言って何もしてないだろ。
  来年は遊べるわけないから今年のうちに何かしておきたいって思うわけだ。」
 楽しそうな表情をいつもの顔に戻してから軽く身振りを交えながら話す武。無論賛同者もいる。
 「それは僕も賛成。来年はきっと忙しいし。」
 声だけを聞けば弱気そうなイメージを抱かせる日下部京次(くさかべきょうじ)はその1人。
 声だけ、と言いつつも見た目にも小柄で平素から視線を不安そうに泳がせるおどおどした態度は実際に弱気である証
 拠とも言える。
 今は仲の良い友達しかいないのではっきり物を言えるというだけで普段はあまり自分から口を開こうとしない。
 「確かに来年は忙しいから遊んでおくのは今のうちよね。」
 「補習が少ない分時間が割とあるわよね。朝早くなくていいのは結構楽よねぇ。」
 また何かを含むような調子で言う舞。
 「・・・あんたが言うといやらしく聞こえるのが不思議よね。それはいいけどどこか行きたいところとかあるの?」
 後半の言葉は武に向けられる。
 「別に特にはないけど・・・あそこなんか良いんじゃない?安浦高原少年自然の家だったっけ。
  予約さえ取っておけばあとは宿泊費タダらしいからメシ代だけで済むし、山が近いからなんか和むだろ。」
 「あ、それって去年の合宿の時に行ったところ?」
 「そうそう。どうよ、水野?」
 「えっ?」
 唐突に話し掛けられ虚空に視線を泳がせていた水野綺羅(みずのきら)は目をしばたたかせた。
 大人びて見える耽美な顔にいつも愛想の良い優しげな微笑を浮かべている彼であるが、
 その実やや天然気味でトロい印象もある。
 さりげなく学年上位に食い込む成績にはそんな性格からは計り知れないものも感じられるが。
 「何が?」
 「また聞いてなかったなお前は・・・」
 武は呆れながらもかいつまんで話す。要は安浦〜に行くかどうかなのだが。
 「いいんじゃないかな。森ってなんだか和むよね。僕は賛成。」
 「瑠架は?」
 最後まで黙っていた1人に風音が声をかける。
 こちらも視線が虚空の一点に向けられており聞いているのか聞いていないのかわからない。
 「行く。」
 彼女ッッッ和泉瑠架(いずみるか)はそれだけを短く答えた。
 ぱっちりと開いた双眸に長い睫毛、少しだけ厚い感のある唇は彼女のかわいさの象徴とも言えたが、
 いつも無表情でいるため冷たく近寄り難い雰囲気である。
 本人曰く「別に普通。」
 「反対なしで可決。次は時期だな。・・・とは言っても部活とかで夏くらいしか時間無いだろ。」
 「そうなるけど、気の遠い話になるわね。まだ6月でしょ。」
 今はまだ期末テストを控える6月だった。梅雨も明けておらず鬱屈した気分になっていることは否定できない。
 「8月くらいってことでいいか?先の話だからぼちぼち決めればいいだろ。」
 「テスト明けくらいに完全に決めておけばいいと思う。」
 「テストかぁ。部活の方がまだマシよね。」
 テストの前1週間は部活が休みになる。試合などがある場合は例外となるがそうそう起こる事態でもない。
 「普通そうだろ。俺の場合は行ったら行ったでいろいろ面倒だけどな。」
 「名誉ある空手部部長の言葉じゃないよね。」
 「うるせー。」
 京次の言う通り、武は空手部の部長であった。腕も悪くない。が、練習に対する態度は決して真面目とは言えない。
 それでもその立場上仕方なく部員に日々たゆまず稽古を仕込んでいる。
 周りから見ればこれ以上の適任はいないと言うような働きなのだが、本人は面倒がっていたりする。
 全く訳のわからないことなのだが本人曰く「やるからには本気でやる。」
 つまり面倒ではあるものの、立場はわきまえている、と言うことになる。
 愚痴は多いものの結局根は真面目でよく厄介事を抱えるタイプである。
 「お前も何か部活には入れよ。青春の汗を流してみろ、気持ちいいぞ。」
 「僕はいいよ。それにもうそんな時期でもなくなってきたし。」
 「それよりもっとちがう場所で汗を流した方が気持ちよくていいわよぉ。」
 武は京次に言ったつもりだったがなぜか舞も絡む。風音が頭を抱えた。
 「あんたいっつもそういうことばっかり・・・」
 「いいんじゃないの?好きだし。なぁ部活変わらないか、役職ごと。俺はこれから泳ぎたい。」
 「一時的にでしょ。なんだかんだ言っても空手は嫌いじゃないって知ってるわよ。」
 「そりゃどうも。」
 武はそんなに嬉しくもなさそうに肩をすくめる。事実には事実なので否定はしない。
 風音は武の言うように水泳部である。この時期から練習が活性化するが、部員はそれほど多くない。
 「そろそろ帰ろうかな。勉強しなきゃいけないし。」
 座っていた京次が立ち上がり机に置いていたバッグを持ち上げる。156cmしかない彼の身長は悩みの種でもある。
 「じゃ、また明日だな。」
 6人はそれぞれに散る。教室に残っている者は彼ら以外にはもういなかった。
 
 
 そう、決めたときには軽い気持ちだったっけ。
 行かないことになったとしても変わらなかっただろうけど。
 ただ単に月が何かを教えてくれるかのように思えただけだし。
 その感覚は第6感かもっと別の感覚で捕らえたかのようだった。
 もっとも、何であろうとどうでもいいことだけど。
 そこにある事実は変わらないのだし。
 変わらない事実。
 ここにあること全てが。
 でももしちがったらと思わずにいられない。
 
 
 「やっと着いた・・・誰だチャリで行こうなんて言った奴は?」
 「あんたよ、あんた。」
 お約束のボケをかますのは武以外にはいない。突っ込むのは風音。
 「割と近かったと僕は思うけど。」
 「30分はきついんだよ。」
 素直な感想を述べる京次を一蹴して武は先へと進んだ。
 
 
 安浦高原少年自然の家は宿泊施設としてコテージのような部屋が数多く設置してあり、
 炊事場などもあってアウトドアの気分を味わえる。あくまで気分なのだが。
 都心部からはかけ離れ森の中にある感じなので、
 少し遠くに行けば明かりも届かず暗い闇と虫たちの鳴き声などがこだまする不気味な空間へもたやすく足を踏み入れら
 れる。
 もっとも、不気味かどうかなど本人の感性次第だが。
 実際に不気味ともなんとも思っていない、むしろ親しみすら感じているのではないだろうかという人物がいた。
 瑠架だった。
 消灯時間などとうに過ぎ、深夜と言っても全く差し支えないような時間であるにもかかわらず、
 彼女は宿泊施設からやや離れた森の中にいた。
 木に背を預けていつものように虚空の一点を見つめている。なんら変わる様子はない。が。
 「綺羅。」
 「やっぱり気付くね。」
 瑠架が呼びかけると綺羅はかすかに足音を立てながら彼女に近付いた。彼女の正面に立ってから口を開く。
 「落ち着く?」
 「割と。でも・・・」
 「・・・胸騒ぎがする、そうだろう。」
 「ええ。」
 綺羅の顔からはいつもの柔和な表情は消え失せ、別人のように真剣で、そして冷たい顔をしていた。
 彼は木々の間から姿を見せる月に顔を向けた。綺麗な満月だ。
 「俺もだ。何かありそうだな・・・気のせいだといいんだが。武、そう思わないか。」
 「3人とも感じてるんなら無駄だね。最悪の事態でないことを祈るしかねぇ。」
 綺羅が声をかけると武が綺羅同様かすかに足音を立てた。ただしやれやれと言いながら。
 「一応気を遣おうと思ったんだがね。」
 2人は何も答えない。武は今度は掌を空へと向けて首を振った。
 それから月を見て舌打ちして苛立たしげに言った。表情から読み取れるのは怒り。
 「満月かよ・・・」
 ズボンのポケットから煙草を取り出し口にくわえる。
 「武。」
 瑠架の表情が硬くなるのを見て綺羅が咎めた。
 「悪い、1本だけ。携帯灰皿もあるからさ。」
 瑠架の表情が和らぐことはなかったが視線を逸らした。
 武がいつ煙草を吸うかは一応6人ともが知るところである。彼は大して美味そうにでもなく紫煙を吐いた。
 その後に武がつぶやいた言葉を2人は聞き逃さなかった。
 
 
 安浦高原少年自然の家は山にそこそこに広い敷地がある。
 アスレチックなどもあれば体育館のようなイベントホールもある。近くには湖もあった。
 周囲は1キロほどであろうか。宿泊施設からそれほど遠くないところにある。
 瑠架たちがいる森とは反対方向だったが。
 湖のほとりには1人の美女が立っていた。艶やかな黒髪は夜風にわずかになびく。
 目鼻たちの整った顔立ちは硬く、いつもの雰囲気は全く感じられない。
 冷たく凍るような、声をかけ辛い表情をしている。
 「ここにいたのね、舞。」
 後ろから声がかかった。
 舞の背中からですらもぞっとするような冷たい雰囲気は感じられたが、
 それでも声をかけられたのは表情が見えなかったからでなく、2人の仲がそれを許したと言える。
 舞はかすかに後ろに目を向けすぐに空に輝く月へと視線を戻した。何かを言うでもない。
 後ろから声をかけた人物は歩み寄って並んで月を見た。
 「みんな何か感じてるわね。」
 「風音も感じたから目が覚めたんでしょ。今日感じるのはただの悪寒ではないような気がする・・・」
 風音は舞の顔を盗み見た。普段なら絶対に見られない表情をしている。
 どことなく瑠架に似ている雰囲気だとも思ったが、舞には感情が含まれている分のちがいはあった。
 風音は何も言わずに月を見上げた。奇妙なほどに綺麗だと思う。
 「月が何かを語りかけてくる気がする・・・けど、本当は私自身が悟ってるんだと思う。何かあるって。」
 意味はわかる。直接的に言わないところが舞らしいと言うか。
 「誰もが不安を感じている・・・その答えは近いうちに出そうね。」
 風音は投げかけるように言ってから後方に視線を流す。
 「外すわ。」
 「風音も・・・」
 風音が振り返ってから舞は口を開いた。見向きもしないが。
 「今から会っておいた方がいいわよ。せっかくの機会だから。」
 「・・・いつもなら跳ね飛ばすところだけど、今日はありがたく聞いておくことにするわ。」
 風音はまだ少し何か言おうと立ち止まっていたが結局何も言わずに立ち去った。
 「・・・出てきなさいよ。せっかく風音が気を利かせてくれたんだから。」
 「ごめん。」
 京次が謝りながら後ろの繁みから顔を出した。
 「2人が話してたから・・・」
 「言い訳なんていらない。雰囲気読んでよ。」
 「・・・ごめん。」
 彼はもう一度謝ってから舞の横に並んだ。もう何も言わなかった。2人はただ並んで空に浮かぶ月を見上げていた。
 
 
 宿泊施設の裏側にはちょっとしたスペースがある。各部屋のベランダから出たところだ。
 森までわずかに距離を置いてあるのだ。そこに武がいた。
 ただ1人で満月を見上げている。視線を地面に落としてから近付いてくる足音に声をかけた。
 「夜の散歩かい?1人じゃ危ないと思うぜ、風音。」
 「あんたみたいのがいるしね。」
 「・・・きっつ・・・」
 武は思わず苦笑した。わかってはいるものの言われるとやはり心に痛い。
 こんなことは風音以外に言われたら思わずはり倒すかもな、
 と思うがそこまではっきり武に言い切れる者はそう多くはないだろう。
 「・・・また?」
 「・・・・・・」
 武の顔から笑みが完全に消えた。振り返るときに月明かりでその表情を見ることが出来た。
 彼は何も言わぬまま宿泊施設に向かった。
 「ごめん。」
 風音の一言を聞いて武の歩みが止まる。
 「お前が悪いんじゃねぇ。」
 それだけ言うと武はまた歩き出した。
 風音は自分がどんな顔をしているが見当が付いた。だがその表情を崩そうとは思わなかった。
 
 
 みんなともっと話しておいたほうが良かったかと思う。
 今更ながらだけど。
 やっぱり人によって感じ方は違うし捕らえ方も違う。
 ただ今回は私の番だった。
 動くのが遅れたと思うけど私には未来は分からない。
 だから今やれることをやる。
 使命なのかもしれない。
 でも私にはどうでもいい。
 私は気にいらないから動く。
 私はあの子がどんな思いをしていたか知っている。
 許せない。
 
 
 「結局何もないよな。」
 「そうよね。」
 あれから4日後。夏休みではあったが補習はもう始まっている。
 ちなみにこの場にいるのは武、風音、瑠架。
 3人は文系で同じクラスだが、京次、舞、綺羅は理系なので別のクラスだった。
 今は朝なのでそれぞれの教室にいる。
 武たちは席が近いわけではないのだが、いつも武が瑠架の近くの席に座って話し掛け、風音も来る。
 当然のことなのでもう誰も気に留めない。が、何も話していないと声はかかる。
 「大沢大沢。」
 後ろから聞こえる声に武は振り返った。声の主は堺修一(さかいしゅういち)。
 1年の頃はクラスが違ったのだが中学の頃からの友だちなのでよく知った相手だ。
 理系人間のはずなのだが何を間違ったか数学を全く理解できなくなり文系にいる。
 「数学の宿題わかんねー、教えてくれ。」
 「お前なぁ・・・」
 堺が持ってきたプリントを見て武は呆れた。が、一応教える。自分なりにわかりやすく。
 だが結構な量を持っているので時間がかかりそうだ。その間に風音にも声がかかった。
 「ちょっと風音。」
 声をかけたのは1人だったが風音に向かっているのは3人。
 3人は瑠架を気にした風でもあったが瑠架は全く気に留めない。
 いつものことなので風音も特には気にせず振り返る。
 「どうしたの?」
 「どうしたのじゃないって!」
 最初に声をかけてきた吉原美佳(よしはらみか)が甲高い声を張り上げた。
 「全然『彼』と話してないじゃない!」
 「ああ・・・」
 風音は『彼』を横目で見てすぐに視線を彼女らに戻した。
 「堺君に横取りされちゃったじゃない!」
 「よ、横取りって・・・」
 「そんなことじゃいつまでたっても平行線よ!」
 「いやだから・・・」
 「誰も入り込めないような空間を作り上げて閉じ込めてしまいなさいよ!」
 「あのね・・・」
 横にいた沼野沙弥(ぬまのさや)と庄崎かなえ(しょうざきかなえ)も加わり風音はもううなずくことしかできないくらいに集
 中砲火を浴びる。
 はっきり言ってここまで来ると止まらない。誰が一番妨害しているかわかったものではない。
 そんな中でも近くで尾中霞見(おなかかすみ)と矢野晶(やのあきら)の話し声が聞こえたのは本能的に知るべき情報だ
 と判断したからか。
 「ねぇ知ってる、ミクの妹の話?」
 「ミクって・・・ああ、7組の石田さんね。」
 「そうそう。あんた1年の頃同じクラスだったじゃない。」
 7組、と言えば理系で京次、舞、綺羅のいるクラスである。
 この高校では文系と理系は5クラスずつに分かれている。風音たちがいるのは4組。
 「いやあんまり仲良くなかったんだけどね。それでどうかしたの?」
 「なんか妹が1週間くらい前から行方不明なんだって。部活でよく知ってるから気になるんだけど・・・
  あんた何も知ってそうにないわね。」
 「あいにくね。」
 その後の話は昨日のテレビだかなんだかの話で風音の気には留まらなかった。
 が、行方不明というのが気になった。
 帰りに舞にでも聞こうかと思ったが、
 目の前で「聞いてるの!?」なんてすごい剣幕で言う3人をどうにかしたいとも思った。
 
 
 「舞ちゃん、ミクちゃんの妹の話知ってる?」
 「え、何、もしかしてミクと?」
 「何言ってるのよ、ミクちゃんの妹が行方不明って話。」
 穂波稜(ほなみりょう)は苦笑混じりに言った。
 「もしかして誰か男の家に泊まりこんでるとか。」
 「なんでそういう発想になるのよ?本気で行方不明らしいのよ。なんか5日前からどこにもいないって。
  ミクちゃんも落ち込んじゃってるし。」
 穂波が目を向けた方向に石田未来(いしだみく)が落ち込んだ様子で椅子に座っていた。
 と言っても何名かの取り巻きに励まされている様子ではあったが。
 「5日前?」
 「そう。何でも友達の家に泊まりに行くって言ったきり帰ってこないって。」
 「友だちと駆け落ちとか?」
 「あんたねぇ、真面目に話してるんだからさぁ。」
 「ごめんごめん。つい言っちゃうの。」
 呆れ顔の穂波にさすがの舞も悪びれて謝った。穂波はため息をついてから話を続けた。
 「その友だちって言う子の家にはよく泊まりに行ったりしてたらしいからその日も特に何も言ってなかったらしいんだけ
  ど、実は泊まりに行ってなかったらしくて。他の友だちとかみんな当たったけど手がかりなし。
  しかも連絡もないから完全に行方不明。」
 「携帯とか持ってないの?」
 「持ってないって。それで結局警察に捜索願出したらしいんだけどまだ見つからないって。」
 「ふ〜ん・・・わかった。私も少しは人にあたってみる。」
 「うん、そうしてあげて。」
 
 あたってみる、とは言ったものの。あては多くない。多分当たりはないだろう。
 だが気になった。なぜかはわからない。5日前だからかもしれない。
 あの悪寒を感じた日だ。何か繋がりでもあるのだろうか。
 「・・・わかんない・・・」
 「どこがわからないんだい?さっきからずっと悩んでるみたいだけど。」
 「え?」
 気が付いたら先生がノートをのぞきこんでいた。そういえば数学の時間だったっけ。
 「あ、あの、ここが・・・」
 解きかけの問題があって良かった。あとはスマイルで通せばいい。
 先生ッッッ内田と言うのだがッッッは「それじゃもう1回解説するよ。」と言って黒板の前に戻っていった。
 離れた席で京次がじっと見ていた。多分私が考え事をしていたことに気が付いたのだろう。
 あとで全部まとめて言ってみようかしら。どうなるものでもなさそうだけど。
 
 
 文系のクラスは理系のクラスとちがい補習授業は午前中で終わる。
 帰ってからやることがあるわけでもないので武たちはいつも京次たちを待っている。
 付き合いの悪そうな瑠架も同じことを考えているようだが一緒にいるから何をするわけでもない。
 話しているのはいつも武と風音である。
 「え、何だそれ?マジかよ!?」
 静か・・・と言うほどでもないがそれほど人数もいなくてそこそこに静かだった教室に絶叫が響く。
 一瞬全体が静まり返る。絶叫した本人は見ていた携帯電話から目を離して周りをきょろきょろ見渡す。
 たまたま武と目が合った。
 「テニス部の女子更衣室から死体が見つかったって!」
 「!」
 今度こそ教室に本当の静寂が訪れた。
 




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