闘争者過去編第二幕




第五章(アナザーストーリー)

 入学式。
 推薦入試の時に覚えてた人が隣にいてちょっと驚いた。
 結構覚えてるのよね、あの場にいた人。
 でもこの人とか他の人にも増してよく覚えてるんだけど。
 あと多分一緒の中学校だと思われる2人。
 なんか不思議な感じがしていつの間にか覚えてた。


 少し時間があったから早速声をかけてみたりした。
 今までからすれば大胆な行動だと思う。
 でもなんだか中学校で周りにいた人と雰囲気が違うからなんだか話し掛けやすかったのよね。
 武はどう思うんだろう?
 一般入試だったから知らないわけなんだけど。
 すぐに打ち解けると思うんだけどな。
 武はあんまり人見知りとかしないし。
 でも最近の様子だと難しいかなぁ


 人と話すのは結構好きだって言ってたのになぁ。
 今日はなんか変。
 落ち着きがないって言うか。
 話すときは妙に明るいんだけど話し終わると黙り込んで。
 よく見ると今にも泣きそうな顔してたりするし。
 どうしたんだろう?
 「武、置いていかないでよ。」
 玄関で靴を履き替えている武にようやく追いついた。
 でも呼びかけても反応がない。
 「武?」
 武はうつむいて何も言わない。
 「どうしたの?」
 私も靴を履き替えてから近付く。
 「ねえ?」
 「やっぱりさ」
 いつもの武からは想像もできないような小さくか細い声だった。
 泣いているかのように震えてて聞こえにくい。
 「辛いんだよ」
 何を言ってるのかわからなかった。
 すごく悲しそうなのになんでなのかわからない。
 どうしたらいいかわからない。
 なんて言ったらいいかわからない。
 「姉さんはここに通ってた。」
 「あ」
 なんとなくわかった。
 1ヶ月前のことを私は忘れてなかった。
 「悪い。」
 武は私に顔を見せずに歩き出した。
 顔を上げてるけどこっちは向かない。
 「ねえ。」
 「ん?」
 武はこっちは向かなかったけど立ち止まった。
 私は背中に向かって言いたかった。
 お姉さんのこと忘れらないの?
 どうやったらその悲しみは消えるの?
 私じゃ武を癒せないの?
 言いたかった。
 でも言えなかった。
 武にとってお姉さんの存在が大きいことを知ってたから。
 「ううん、なんでもない。」
 「そっか。」
 武が歩き出した。
 後を追うように私も歩き出した。


 「来るか?」
 帰り道に武が突然言った。
 「どこに?」
 「俺の家。」
 武の家には2回くらい行った覚えがある。
 「うん。」
 何か言いたいことか何かあるんだと思う。
 ただあんまり人前では言えないようなこと。
 それだけと思う。
 それは信じていいと思う。
 ちょっと複雑な気分だけど。


 武の部屋はそれほど散らかってなかった。
 前に来たときも確かそんなに汚れてなかったと思う。
 提出物とかは適当なのに掃除はちゃんとやってるってなんだかアンバランスな気がする。
 やっぱりお姉さんの影響?
 「どこでも好きに座ってくれ。」
 武はバッグを放り出して机の引出しから何かを取り出してベランダに足を投げ出した。
 バッグを机のそばに置いてベッドに座ってから嫌いな臭いが鼻についた。
 「武?」
 気がつくと武の右手にはタバコが握られていた。
 「いつから吸うようになったの!?」
 「この前。」
 外を向いていて表情は見えない。
 声はやけに落ち着いていて、なんだか寂しそうだった。
 「姉さんのこと思い出すと、
  姉さんがよく使ってたコロンの匂いを思い出すからタバコでそれを忘れようとしてるんだよバカだろ。」
 笑い声がすごく悲しく聞こえた。
 何も言えなかった。
 「お前は消えないよな。」
 「うん。」
 武はそれっきり黙ってしまった。
 でも今日呼ばれたわけがわかった気がした。


 1ヶ月前に武のお姉さんが亡くなった。
 武は次の日学校を休んだ。
 亡くなったのは夜だったらしい。
 あとは事故死ということだけがわかった。
 それ以外は何もわからなかった。
 私は通夜にも葬式にも行った。
 武と瑞稀ちゃんはずっとうつむいていた。
 声を上げて泣くことはなかったけど顔を上げることもなかった。
 武は学校に来なくなった。
 毎日電話をしてもまともな会話はできない状態。
 入試が気になったけどそっちはなんとかなったみたいで。
 でもその後も学校には来なかった。
 電話して話しても元気付けることはできなかった。
 その日にあったことを話してなんとか笑わせようとしたりして。
 でもやっぱり笑いもしないし反応もしなかった。
 結局来たのは卒業式だけだった。
 その時ですらずっとうつむいていて誰が話し掛けても反応しない。
 それでも誰も咎められなかった。
 武の悲しさは誰もわからなかったから。
 教室の雰囲気が暗い感じになった。
 なんとか最後の日を盛り上げようとするけどみんなが武を意識した。
 不思議なのは武の両親だった。
 両親とも卒業式に来てた。
 普通の様子だったから全然わからなかった。
 実の娘が亡くなっても平気そうに見えた。
 でも他の親と混ざって話すことがなかったから目立ちはした。
 全部終わっても武の様子は変わらなかった。
 お父さんもお母さんも何も言わないで帰ってしまった。
 なんだか冷めてるような気がする。
 武がかわいそうだと思った。
 でも放っておいたら消えてしまいそうな感じがした。
 ひょっとしたら自殺でもしてしまいそうな雰囲気だった。
 「武、終わったよ。」
 何秒かしてから立ち上がった。
 ぱん!!
 教室中に小気味の良い音が響いた。
 私の平手が武のほっぺたに決まった。
 武は驚いたように私を見つめた。
 今日顔を上げたのはこれが始めてだと思う。
 「悲しいだろうけどさ、武は生きてるんだからお姉さんの分まで生きるくらいの気持ちがないとだめだよ。
  どれだけ悲しいかは私にはわかんない。でも悲しんでばかりじゃいけないと思う。
  今すぐ前みたいに戻れなんて言わない。だけどずっとそんなんじゃ何もできないよ。
  生きていけないよ。少しずつでいいから顔を上げられるようにしようよ。
  そうじゃないとまともに話もできないじゃない。」
 武は呆然としていた。
 私の言葉を頭の中で整理してるのかもしれない。
 しばらくしてから言った。
 「そうだよなごめん、ありがとう。」
 少しだけ、ほんの少しだけ微笑んだ。
 それでも私は満足だった。


 あの日に比べたら随分明るくなった。
 春休みの間結構電話したけどだんだん元の調子に戻ってるのは感じてた。
 時々急に表情が暗くなったりするけどそれは仕方ないと思う。
 仕方ないって言うかどうしようもないって言うか。
 武はいつも通りであってほしい。
 それだけでいい。
 それだけで・・・























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