カジノ王ランス




第一話 『王様なんて辞めてやる!』


「だっしゃああ!」
 目を瞑ってただただ祈っているシィルの横で、鬼の首でも取ったような声が響く。
(はうう、ランス様、また勝ってしまわれたんですね・・・)
 目を開くと、ランスの前に積まれているコインの山が、数倍に膨れ上がっていた・・・


 時はLP五年、リーザスによる、JAPAN平定、ヘルマン平定、ゼス平定と戦乱の続いた大陸は、しばしの休息を迎えて
 いた。
 今までは人類に多大な影響を及ぼしていた魔人も、新しい魔王・来水美樹の方針が人類不干渉を旨をしているせいで、
 人にちょっかいを出してこない。
 平和、安寧、平穏。
 そういった懐かしい言葉が実感できるひと時だった。けれども、そんな空気を自ら拒む男もいる。
 ゆったりした空気の中に、無理矢理騒ぎを起こす男。それが、リーザス王ランス。
 ほんのちょっとでも退屈に耐えられない青年だった。
 世界に平和を取り戻した張本人でありながら、ランスは自分がもたらした平和に飽き飽きしていた。
 本当は戦乱によって荒廃した国々を立て直さなければならないのだが、そんなことは彼の知ったことじゃない。
 ヘルマンとの戦後協定、ゼスとの和平協定といった事務手続きはぜーんぶマリス・アマリリスに丸投げだ。
「退屈だ、おい、何にもすることがないじゃないか」
 玉座でふんぞり返りながら、居並ぶ重臣に文句を言う。すると進み出てくるむさくるしいジジイ。
 リーザス軍黒の将、バレスその人だ。
「王、何もすることがないなどと、そんなことはありませんぞ! 王たるものは常に臣下、そして国のおおもとたる民の気持
 ちに心を馳せねばなりません! かように荒廃した状況下にあっては・・・っ」
 ズカズカと玉座から降りて来るランス。ひざまずいて向上を述べているバレスの正面に立つと、
「ランスキーック!」
「ぐおうっ?」
 おもむろにバレスを蹴っ飛ばした。五メートルくらい吹っ飛んで、気絶するおじいさん。
「まったく、俺様はそんなことは聞いていない。要は、俺様が活躍する機会がないといってるんだ。ものの分からんジジイ
 だぜ」
 気絶しているバレスを横目につぶやいてみる。
 そう、ランスのイライラは、『俺様が活躍する機会がない』この一点にかかっていた。
 大陸を統一するまでは楽しかった。魔人との戦いも、それはそれで張りがあった。
 なんといっても魔人にダメージを与えられるのは、魔人と聖刀日光を持つ健太郎、そして魔剣カオスを持つランス自身。
 たったこれだけしかいないのだ。なよなよしてへにゃへにゃの健太郎は別にすると、人間でありながら魔人と戦えるのは
 ランスだけ。
 まさに、自分が英雄であることを実感する瞬間。けれど、もはやランスに戦いを挑む魔人はいない。
「あー、退屈だ、退屈だぞ!」
 再び玉座に腰を下ろすと、まるで駄々っ子のようなことを言い出すランス。
 そんなランスにむかって今度は赤の将、リックがすすみでた。
「キング、もしよろしければ・・・」
「却下だ!」
「まだ何も言っていませんが?」
「俺様はお前なんかと試合はしない。剣の稽古も同様だ。手合わせなんてやるものか。俺様にそんな暇はない!」
 キッパリと言い切るランス。ついさっきまで『暇だ暇だ』と喚いていたのに、まったく矛盾したいいようである。
 あっさりと提案を退けられて、すごすごと引き返すリック。
 ランスの言ったとおり、『手合わせをお願いします』といおうとしたのだが、こうもきっぱり断られてはどうしようもない。
(だいたいだな、マリスがいればなんでもできるんじゃないか。俺様がいままでやってきたことといえば・・・)
 つい最近までは、ランスも何かと忙しかった。それが、ここに着て何にもすることがないのはどうしてだろう?
 そこのところを考えてみる。
(俺様がやってきた仕事といえば、マリスが持ってくる書類に目を通して、マリスがハンコを押せというからハンコをおし
 て、マリスが配分した予算から軍事費用を使って戦争して・・・っておい、俺様はマリスのいいなりじゃないか!)
 そうでもない。ランスはランスでいろんな内政施策を打ち出していた。記憶に新しいのが『一〇〇機関削減事件』。
 たまたま予算を眺めていたランスに映ったのが、どう見ても無駄な公共機関だった。
 例えば、『リーザス黒十字基金』だとか、『リーザスムネオハウス基金』といった公共基金。
 ほかにも、『リーザス道路公団』や、『リーザスアマクダリ公団』といった会社の数々。
 マリスに尋ねても仕事の内容が今ひとつ意味が分からなかったので、ランス葉こういった組織をことごとく潰してしまった
 のだ。
 これはリーザスに巣食う利権を一掃したという点で、マリスも高く評価していた。
 他にもいくつかランス自身が法令を打ち出している。最も広く知られているのが『貞操男女強制保持兼健全交友推進
 法』だ。
 これは、『浮気をしたら死刑(王様を除く)』『強姦したら死刑(王様を除く)』『結婚までは処女(ただし王様相手なら許可)』
 といった法令の集まりで、巷では、『王様例外法』の通称で通っていた。
 それでもこういった事例は例外に入る。ランスの憤慨したとおり、普段の事務はマリスが99,9%を処理していた。
(ウムムム、これまでは戦ってばかりで国内に目は向けていなかったが、俺様って、リーザスでなにやってたんだろう?)
 考え込んでしまう。
 リーザス4軍将や、マリスに言わせると、ランスの活躍はすさまじいものなのだ。
 今のリーザスがあるのは間違いなくランスがいたからなのだ。
 ゼス国王ガンジーを個人の魅力で仲間にしたり、たった一人でシャングリラを制圧したり、JAPAN国王信長をはじめと
 する魔人をことごとく叩き潰したり。
 魔人レイを一騎打ちでしとめたのもランスだし、ケッセルリンクのいないうちに復活用棺桶を破壊したのもランス。
 リーザス王という身分でありながら、常に前線に身を置き、全軍の中心で戦い続けてきたこと自体が偉大なのだ。
 臣下にとって、今のリーザス王の存在はあまりに大きかった。
 どんなピンチに陥っても決して自信を失わない(たとえ根拠がなくても)ランスが存在してこそここまでやってこれたのだ。
 けれども、現在ランスのバイタリティを必要とする部門が見当たらないのもホントのことである。
「おいエクス、なんか俺様がドカーンと暴れられるようなことはないか?」
 急に話を振られて、少し戸惑う白の将エクス。
「ドカーンと、ですか・・・ そうですね、当分戦争は起こらないでしょうし、どこか探索に行きますか?」
「探索って、まだ行った事のない迷宮があるのかよ」
「ええと、『ハイパービル』なんかどうですか?あそこは201階まであって中々歯ごたえのある迷宮だときいていますが」
「・・・なんでいまさらあんな塔に登るんだ? 何かあるのか?」
「確か『知恵の指輪』という由緒正しい指輪が眠っている、と文献で読んだことがあります」
「『知恵の指輪』ぁ? なんだ、つけたらエッチになったりするのか?」
「いえ、なんでも作戦成功率が20%もアップするそうです」
「ふん、つまらん。そんなもんいらん」
「はぁ」
 少しがっかりしたエクス。彼としてはこれ以上ない宝物を挙げたつもりでも、ランスにはどうでもいいものらしい。
(もし手に入ったら貸していただこうと思ったんですが・・・やはりランス王の興味をひいてはくれませんね)
「コルドバ、何かいいことないか?」
 鼻くそをほじりながら、4軍将最後の一人、青の将に水を向ける。
「ははっ、でしたら・・・」
「ハーモニカはなしだ。あと、嫁さん自慢もなし」
 じろり、とひと睨みするランス。
「う、ぐぐぐ」
 懐に右手を入れたままかたまるコルドバ。もちろん、其の右手に握られているのは愛用のハーモニカだ。
 彼の頭の中では吹く曲目も決まっていた。ずばり『妻にささげるバラード』。
 作詞作曲を自身で手がけた自信作で、お披露目の機会を窺っていた一曲である。
「うぐぐぐぐ」
 かたまっているコルドバを尻目に立ち上がるランス。
「あー、もういい。ここにいたってすることないからな。俺様は寝るぞ。なんかあったらマリスにでも相談しろ」
 失神しているバレスはじめ、声一つ立てない4軍将。そんな四人はほうっておいて、ランスは玉座を後にした。
 そして、これがリック達の『リーザス王ランス』を見た最後の瞬間になるのだ。
 その背中からはいつもの覇気がいくぶんうすらいでいたようだった、とは赤の将リック・アディスンの証言である・・・


 『王の間』を出たランスは再び考えに沈んでいた。
(戦馬鹿のリックや、アンポンタンのコルドバはいいとして、あのエクスでも思いつかないのか)
 ランスとしては、知将でならしたエクスなら、なにか活躍の場所を提案してくれると期待していた。
 ところが見事に当てが外れ、むかむかしつつも少し寂しいところである。
「だいたい、なんで俺様がこんなことをしてるんだ? そうだ、なんで王様なんかしてるんだろう?」
 何気なしにつぶやいて、ふとたちどまる。
(そ、そうじゃねぇか! 俺様が王様をやる理由なんて、どこにもないぞ!)
 マリスがいれば、リーザスをはじめとした大陸の政治は問題ないだろう。
 もしもランスがいたからといって、何かプラスになるとは思えない。
 現に、今ランス自身が暇をもてあましているのが証拠だ。
(最初の目的は達成したんだ。いつまでも王様でいる必要なんてないぜ。それにリーザス王ってことは・・・)
 ブルブルブルッ 
 背中を貫く悪寒。思い出したくもない思い出。
『汝ランスはリア・パラパラ・リーザスを妻とし・・・』
 神父に向かって『たぶん・・・ いや、はい』と答えた時の心境が鮮明によみがえる。
 ここ数年忘れていたあのときの葛藤。
 たとえ嘘であっても、まったくの嘘偽りであったとしても、口にしたくない言葉があることを思い知った瞬間。
(お、俺様がリアの夫だとぉ? ちっ、すっかり忘れていた・・・ 冗談じゃないぞ)
 きょろきょろと辺りを見回す。ひょっとしたらリアがこっちをみているかも、と思うと急に怖くなったからだ。
(王様でいたって何にもいいことないぞ。あ、そうかハーレムがあるか)
 ランスの大いなる夢。それがハーレムだった。
 王様になったことで、あちこちからあの手この手でかわいこちゃんを引っ張り込んで作ったハーレム。
 中には自分からはいってきた女もいるが、そのほとんどはランスの一方的な欲求のために連れ込まれた人たちだ。
(確かにハーレムはいい。グッドだ。けどなぁ、なんか違うんだよなぁ) 
 ハーレムといっても、それを構成する女達がいつでも目の前にいるわけではない。
 それぞれが自分の部屋を持っていて、ランスが『したいっ』と思った時にランスの部屋に呼ばれる仕組みだ。
 もっとも、ランス自身が足を運ぶ場合だってある。
 ランスのイメージしていたハーレムは、もっとこう、好き勝手できる空間のはずだった。
 ハーレムに一歩踏み込んだ直後に巻き起こる黄色い歓声。
『王さまっ、お待ち申し上げておりました』 三つ指突いて涙目の五十六。
『ランス君、おそいっ』 すねた視線のレイラさん。
『ランスッ、散々人を待たせるんじゃないわよ!』 思いっきり睨みつけながらも抱きついてくる志津香。
 知ってる顔も、知らない顔も、くんずほぐれつランスに飛びついてくる・・・そんな空間。
(結局王になる前と変わんないんだよなぁ〜 あの頃だって、ヤリたいときには夜這いしてたし。
 だいたい、王を辞めても五十六とか、いつだってやらしてくれるんじゃないのか?)
 五十六や、アールコート、シャリエラ、マリア、その他現在ランスハーレムにいる面々が浮かんでは消える。
 その誰もが、ランスがヤラせろといえばヤラせてくれる女ばかりだ、とランスは思うのだ。
(レイラさんや志津香なんかはやらせてくれなさそうだけど、今だって気持ちよくやらせてくれるわけじゃないぞ。
 散々抵抗するもんな、特に志津香は。レイラさんはリックにあげちまったし。
 まったく、俺様にラブラブの癖して困った奴だ)
 ランスにとって強い態度をとる二大双璧、レイラと志津香。
 どちらも非常にグッドだが、二人ともランスに抱かれるのを嫌がる点で共通している。
(だったら、別にハーレムがなくてもいいじゃないか。じゃあ、他に王様だと都合がいいことってあるか?)
 リーザス国王のメリットを考えてみる。
・魔法研究所が自由に使える。・・・カーチスを脅せばいつでも自由に使えるだろう。
・SM塔が使える。・・・こっそり忍び込めばいいんじゃないか?
・ハーレムがある。・・・さっき考えてけれど、別にいらないぜ。
・軍隊が動かせる。・・・そんなものがなくても俺様は無敵だ!
(どれもたいしたことじゃないな)
 次に、リーザス国王のデメリットを考えてみる。
・朝キチンと起きて、王の間で朝礼をしないといけない。
・食事の時間が決められている。おやつや夜食がとりにくい。
・かなみにずっとみられている。かなみを呼び出す時はいいけれど、かなりうっとおしい。
・バレスの顔を毎日見ないといけない。とても暑苦しい。
 おいおいランス、お前は子供か?、などと思ってはいけない。これらはランスにとって大問題なのだ。
 それにくわえて、
・自由に旅行も出来ない。JAPANに遊びに行きたかったのに、リアが反対した。だいたいリアの旦那だと・・・?
 これからただでさえリーザス城にいる時間が長くなるのだ。考えただけでも、

『ダーリン、今日はリアと遊園地に行こうねっ』
『はい、ダーリンあーんしてぇー』
『優しくしてね・・・ リア、ダーリンの子供ほしいなぁ・・・』

「うがあああ、やばい、やばすぎる! リアのことをすっかり忘れてたぜ」
 思わず声に出してしまったランス。大陸平定後、しばらくの間リア・パラパラ・リーザスは風邪を引いて寝込んでいた。
 そのためランスが城のなかにいても顔を合わす機会が少なかった。
 ちなみにリアの侍女にして影のリーザス支配者、マリス・アマリリスは付きっ切りで看病しているせいで、公務にも出てこ
 ない。
「そうだ、今ならうるさいマリスもいない。ようし、辞めてやるぜ、王様なんてクソくらえ、だ!」
 この瞬間、なにはさておきランスのこれからが決定した。
 リーザス王廃棄。 ついでにリアとの結婚も破棄してしまえば晴れて自由の体になる。
 ランス自身は気付いていたかどうか分からないが、リーザス王でいることのデメリットはもう一つ存在していた。
 あえて付け加えなかったけれど、
(アイツが、悲しそうな顔するからな・・・ ふん)
 一度決めたら実行あるのみ。自分の部屋に飛び込んで、探すは紙と鉛筆だ。
 普段ほとんど使わないだけに、散々机を散らかしたあと、ゴミ箱の中から筆箱と紙を拾い出す。
「まったくなんでこんなとこにあるんだ。俺様の文房具のクセに生意気だ」
 ぶつぶつわけの分からないことをいいつつも、
「えーと、『離縁状。俺様ランスはリアとの結婚を解消する。ランス』、と。これでこの指輪もおさらばだな、よし」
 へたくそな文字を連ねておいて、左手の薬指から抜き取った指輪を上に置く。
「くっくっく。リアの奴、これを見たらびっくりするぞ」
 机に置かれた離縁状と指輪を見て、満足そうにランスは笑った。
「かなみが留守なのはラッキーだったぜ。あいつがいたら、こんなことすぐにばれちまうからな」
 リーザス忍者、見当かなみはゼスにお使いの最中だ。
 リアの風邪が長引くため、魔法大国ゼスに治療薬を貰いにいっているからである。
 本来ならかなみほどの忍者が行くこともないのだが、マリスたっての命令とあれば仕方ない。
 まったく、ランスの強運はたいしたものである。
「あとは、そうだな。やっぱりアイツをつれていくか・・・」
 つぶやきながら王の部屋を飛び出すランス。出掛けに『魔剣カオス』を引っつかむのも忘れない。
 最近振るうことがめったにないせいで、普段は部屋に置きっぱなしにしてあったのだ。
《なんじゃぁ? 急にワシを掴んで、なにがあったんじゃ?》
「がははは、喜べカオス。たった今から俺様は自由だ!」
《な、なにをいっとるんじゃ。わけわからんぞい》
「今に分かる、とにかく行動あるのみだ。一度決めたら則実行だぜ!」
 寝ぼけているカオスとともに、城の廊下をひた走る。城詰めの兵士が擦れ違い、慌てて王様をよけて敬礼する。
 こんな光景も今日限りだ、目指すは奥の奥の部屋、ピンクの髪がまっている。
(チッ、よく考えたらもっと早くこうしてれば良かったんだ。まあいい、遅いか早いかなんてたいしたことじゃないもんな。
 これでまたシィルといっしょだぞ)
 目指す部屋が近づいてくるに連れ、体に覇気が戻ってくる。倦怠感がどこかへ行く。体に力がみなぎってくる・・・
 そんな感触を実感しているランスだった。


・・・あとがき・・・
 初のSSです。題材は『鬼畜王ランス』、これしかありません!
 まだ話は始まったばかりで、これからが本編です。リアと別れてからふと気付くこと。それは、『お金がない!』。
 仕方ないので、働くランス君ですが、うまくいくはずがありません。
 いきつくところはやっぱりカジノ・・・というお話しにするつもりです。
 まだまだ激しく拙い人間ですが、温かい目で見守ってやってください。
 ここまで読んでくれた方、ホントにありがとうございます。次も・・・読んでくださーいっっっ(冬彦)



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