カジノ王ランス




第二話 『お金がない!』


 「はぁ、ふう、ラ、ランス様ぁ〜」
 「どうしたシィル。早く来ないと置いてくぞ」
 「そ、そんなぁ。くすん」
 ちょっとだけすねては見るが、笑顔万点のシィル。ここはリーザス城下町を抜けてすぐの小高い丘。
 太陽が一番高い位置から少し下がってきた頃、元気いっぱいのランスと、さっぱり事情が飲み込めない割には幸せそう
 なシィルがいた。
 いったい何がどうなっているのか分からなくても、いわれたとおり大急ぎでついてゆくシィル。
 背中には服やら世色癌やら料理道具やらが、ぎっしり詰まったリュックをしょっている。
 
   ・・・

 シィルにとって、今日はいつもと代わらない一日になるはずだった。
 朝、小鳥の声で目を覚ます。チュンチュン、チチチ 
 「ふあぁ、もう朝かぁ・・・」
 シィルの朝は早い。いそいそと布団をたたむと、いつものように料理の支度だ。と、そのまえに、
 「髪はちゃんとしてるかな?」
 ランスが買ってくれたごく普通の鏡台に向かってニッコリ笑う。
 (ランス様、あなたのシィルは今日も元気です)
 ピンクのもこもこヘアーを整えつつ、心の中で独り言。寝癖のつかない髪質だから、セットもすぐに終わる。
 次は料理。本当は城の食事係がもってきてくれるので、作る必要はないのだけれど、シィルはわざわざ自炊していた。
 それは、今までの習慣だからでもあるけれど、
 「ひょっとしたら、ランス様がいらっしゃるかもしれないしね」
 以前一度だけ、朝にランスが来たことがある。
 曰く、『ひさしぶりにへんでろぱが食べたい』。
 大慌てでへんでろぱを作るシィルの後ろで、『早くしろ、早くー』と駄々をこねるランス。
 シィルはといえば、材料も十分に揃っていないし、心の準備もなくてあせっていた。
 その結果、完成したへんでろぱは、いままでで五本の指に入るほどの失敗作だった。
 鍋に残っていたへんでろぱを後で口にして、思わず吹き出してしまったくらいひどい味。
 けれども、ランスは変な顔をしながらも完食し、
 「・・・まずいが、特別に許してやる」
 というと、急ぎ足で出て行ったのだ。
 それからシィルは、朝ご飯の時間にはいつでもへんでろぱを作ることにしていた。
 もちろん、いつランスが来てもいいように、である。
 「ふんふん〜」
 ちょっと寂しい鼻歌。食べてくれる人がいない料理を作るのは、たとえシィルでも寂しい。
 けれども、そんなことはいっていられない。何しろ、自分の主人であるランスは、いまはリア王女と結婚している。
 昔の同棲生活のように、朝ご飯を食べてもらうわけにはいかないのだ。
 「ふう、できたっと」
 魔法料理鍋をかまどから下ろし、味見をする。
 「うん、これならランス様に食べてもらえるかな」
 さすが、毎日作っているだけある。我ながらおいしい、と思う。
 ランス用の大皿に綺麗に盛り付け、これで朝の日課が終わりだ。
 といっても、シィルの日課はこれとあともうひとつ、ランスの下着の洗濯くらいしかない。
 ぽや〜と朝の時間が過ぎてゆく。できたての暖かいへんでろぱがちょっとづつ冷めていく。
 次第に太陽が昇っていって、時計の針が十一時を指す。ここまではいつもとおんなじ一日だった。
 「やっぱり、今日もランス様はきてくださらない、か」
 自分には量の多すぎるへんでろぱ。しかも、毎朝食べているだけに、少々飽きが来ている。
 それでも残すなんてもったいないので、
 ピチャ
 一口目をスプーンですくったときだった。
 「???」
 どうも廊下が騒がしい。たださえめったに人が通らない、リーザス城奥の奥にあるシィルの部屋。
 そんなところにこうまで騒々しく走ってくる人間といえば、
 「ラ、ランス様?」
 手に持ったスプーンをお皿に戻し、立ち上がったシィルの視界に飛び込んできたのは、
 「がははは、シィル! いまから家に帰るぞ、支度は出来てるんだろうな!」
 夢にまで見た青年の姿だった。

   ・・・

 「ところでランス様、こんなことをしてもいいんですか?」
 ひさしぶりに二人っきりになったことで、シィルはうきうきしている。
 何しろ、ランスと二人っきりで街道を歩くなんて半年ぶりだ。
 この前は、確か一緒に買い物をしたときだったと思い出す。ただ、あの時と今回はどうも様子が違っていた。
 「なにが?」
 「え、いや、勝手にお城を抜け出したりしていいのかなって」
 ポカッ
 「ひん、すいません!」
 「なぁんで俺様が家に帰るのに、いちいち断りを入れねばならんのだ。勝手もくそもあるか。
  まったく、お前までそんなことをいうな」
 「すいません・・・ でも、リ、リア様のお許しはとってあるんですか」
 シィルだって、ランスがリアを苦手としていることは重々承知だ。
 普段ならランスの前でリアの話なんか絶対にしない。ただ、今日の様子はいつもと違う。
 いうなれば、いままでは『王様』だったのが急に『冒険者』に戻ったような・・・
 
   ・・・

 今朝いきなりシィルの部屋に飛び込んできたランスの第一声が『家に帰る』だった。
 シィルにとってのランスの家は、アイスの町の家だが、いまのランスの家はここリーザスだ。
 事情が飲み込めずポカンとしているシィルに、  「シィル、返事はどうした!」
 「あ、はいっ」
 「返事が遅いっ」
 ポカッ
 懐かしいランスの拳骨。痛いはずなのに、ちっとも痛くなくて、もっともっと叩いて欲しいような・・・
 「・・・ランス様、お久しぶりです」
 「こ、こら、叩かれたのにニッコリするなよ」
 「うっ、うう、ううううぅぅー」
 「だああ、泣くやつがあるかっ」
 「だ、だって、だってランス様ぁ〜」
 そのままランスの胸に飛びつきしゃくりあげる。懐かしいぬくもり。
 「チッ、調子狂うぜまったく。おい、もういいだろシィル。今からここを出るんだ、荷造りは出来てるんだろうな?」
 「ひっく、ひっく・・・ え、荷造りですか?」
 抱きついていたランスから離れ、涙目のままオウム返し。荷造り?
 いったいなんのことだろう? 
 「シィル、もしかして荷造りもしていないのか!」
 「はっ、はい、すいません! いますぐやります!」
 と一応答えてはみるものの、なんの荷造りだろう。
 チラリとランスを見ると、シィルが作ったへんでろぱを眺めている。
 (もしかしてピクニックに連れてってくださるのかな?)
 とりあえず、キャンプセットをリュックに詰める。
 「んしょ、んしょ」
 パクパク、ガツガツ
 「? ランス様?」
 変な音がするので振り返ると、ランスがへんでろぱを食べていた。
 「あっ、ランス様それっ」
 「うむ、うまいぞ。暖かいほうがグッドだが、たまには冷えたのもいい。シィル、この前よりずっとましだぜ」
 あっという間になくなるへんでろぱ。
 「ん〜〜〜? なんだ、あれはお前用だったのか? それにしたら量が多い気もするが、最近はあんなに食うのか?」
 「いっ、いえ、ランス様に食べていただこうと・・・」
 「そーか、そーか。がははは、やっぱりへんでろぱはうまいっ、てさっさと支度しろっ!」
 「はいっ」
 今日はとってもいい日だ。ランスと二人っきりになれただけでも幸せなのに、
 (ランス様がシィルの料理を褒めてくれた・・・ うれしい・・・)
 そんな感動に浸っている矢先に、
 「洋服ももっていくんだぞ。あと、俺様がお前に預けたものもみんな詰めとけ」
 「はいっ」
 よく分からないけれど、リーザス城でランスから貰ったものを、一つ一つそっとリュックに詰める。
 白い帽子、ごく普通のかわいらしい洋服、小型の鏡台・・・
 「あと、そうだな。料理道具も忘れるな」
 あたふたと荷造りを進めるシィルを眺めながら、自分はベッドでゴロゴロするランス。
 「はい、ランス様。よいしょ、よいしょっと。出来ました!」
 「よーし、それじゃあ出発だ!」
 昔に戻ったような言い回し。シィルの心もポカポカだっ!
 「はいっ! ランス様、どこでもついて行きますっ」


 それからランスとシィルはリーザス城から脱出した。
 まぁ、ランス的には脱出だが、シィルから見ると、ただ単に裏門から出ただけだ。
 シィルの部屋からリーザス城裏門まで、距離的にはそんなにない。それでも途中、何人か知った顔に出くわす。
 「あら、ランスとシィルちゃんじゃない。二人一緒なんて珍しいわね」
 中庭でであった一人目はマリア・カスケード。
 「おうマリア。相変わらずいい尻してるな」
 下品な顔だ。考えていることが一発で分かる。
 「もうっ、またそんなことっ・・・ それよりシィルちゃん、これからピクニック?」
 頬を赤くしてシィルね尋ねるマリア。それはシィルが聞きたいところだ。
 ランスは「家」といっているけれど、まさかアイスに行くはずもない。
 「さ、さあ?」
 「そうだ、ピクニックだ。夕方までには帰るだろうな」
 割って入るようにしてランスが答える。
 「へえ〜、ランスが二人っきりでピクニックなんて珍しいわね」
 意外そうなマリア。
 (あ、やっぱりピクニックなんだ。でも、何で洋服までもっていくんだろう?)
 疑問が解けたような、解けないような。
 「なんだ、マリアも一緒に行きたいのか? 俺様としては青姦も2Pより3Pの方がいいかな・・・」
 「ば、馬鹿っ、そんなのしたくないもん! 私は研究があるんだから、先行くからねっ」
 「あ〜あ、いっちまった。ま、いいや、ほらいくぜ?」
 マリアのプンプンした背中を見送ると、再びランスは歩き始めた。
 噴水にさしかかったところで、今度は素振りをしている戦士にであう。
 「あっ、王様だ! こんにちはっ」
 メナド・シセイ、リーザス赤軍副将をつとめる少女である。
 「あ〜、相変わらずメナドは元気がいいな」
 「ありがとうございますっ。今日はシィルさんと一緒なんですね」
 チラリと大荷物をしょったシィルをみて、
 「どこかにお出かけですか? なんなら僕が荷物をもってもいいですけど・・・」
 「いらんことを気にするな。それより、剣の腕前は上がったか?」
 「は、はい、王様っ。リック将軍にはまだまだですけど、レイラ隊長とは何とか戦えるようになりました。
  あのっ、王様もまた稽古をつけてくださいね!」
 「おう、いつでも相手してやるから、精進しろよ。じゃあな、メナド」
 わしわしとメナドの頭をなでると、頃合を見て歩き出す。もちろんシィルもついていく。
 振り向いてペコリとお辞儀するシィル。ぶんぶんと手を振って見送るメナド。
 二人が視界から消えてから、ふっとメナドはつぶやいた。
 「僕も、王様の荷物もちがしてみたいなぁ・・・ それにしても、あんなにたくさんなにを持たせてるんだろ?」 
 洋服とか、ピンク貝とか、料理道具とかなんだけどね。

   ・・・

 「リーアーだーとー? ふんっ、思い出しただけで寒気がするぜ。変なこと言うんじゃねぇっ!」
 ポカッ
 「ひん、すいません、ランス様」
 「まったく、アイツときたら、なにをしだすかわからないからな。
  今日だって、こんな簡単に城を抜け出せたのも、リアが寝込んでいるからだぞ」
 「エッ、ランス様はお城を抜け出してきたんですか?」
 なんとなくそんな気がしてはいたが、改めて宣言されるとやっぱりビックリだ。
 シィルからすれば、堂々と歩いてきただけのような・・・
 普通に町を歩き、『王様だ、王様―』といったひそひそ声を背中に浴びながらここまで来たのだ。
 さすがに街道筋から離れたところを歩いているため、もう周りに人はいない。
 「ああ、そうだ。どうだ、俺様にも忍者の素質があるだろう?
  誰一人として俺様の脱出に気付かなかったぞ、がはははは」
 《なんじゃと? おぬし、あれでこそこそしてたのか?》
 いままで黙っていたのが、我慢しきれなくなったのか思念波を飛ばすカオス。
 「見直しただろ。ほら、なんかよく言うじゃねぇか。『木を隠すなら森の中』だっけ?」
 《確かにそんなことをいうがのう・・・全然意味が違うぞい》
 「ふふん、そんなことはどうでもいい。とにかく、俺様の作戦は大成功だぞ。
  名づけて『リア達の隙を突いて王様やんぴ作戦』だ! どうだ、恐れ入ったか」
 両手を腰に当てて、心底楽しそうに笑うランス。シィルもつられて笑いかけたのだが、
 「ふふふっ、てランス様! 『王様やんぴ』って、どういうことですかっ?」
 《そうじゃぞい、わけわからんぞい!》
 ほとんど同時に突っ込むシィルとカオス。
 二人とも長いことランスの側にいるせいか、たいていのことには驚かないのだが、さすがに今回は驚いた。
 「いや〜、やっぱり俺様は天才だな。自分でもこんなにあっさり事が進むとは思わなかったぜ」
 ウンウンと一人うなずいてから言葉を続ける。
 「王様は飽きた! 部下がいっぱいいて、何でもやってくれる生活は俺様の性に合わないぜ。
  久々に冒険者に戻ろうと思ったから、王様はやめた。いまからは昔みたいに冒険者だ・・・っておい、シィルどうした?」
 まじまじとランスを見つめる瞳が、みるみるうちに潤んでくる。背負っていたリュックがズリズリとさがってきて、
 「ど、どうしたんだシィル? なんて顔だよおい、大丈夫か? うおっ」
 「ランス様ぁ! ランス様、ランス様、ランス様あ! うわぁぁぁん!」
 荷物を放り出してランスに飛びつくシィル。
 「うぅ、うぇっ、うぇええん、ランス様ぁ、シィルは、シィルは怖くて寂しくって!」
 「おいおい・・・」
 「ラ、ランス様がシィルから遠くへいっちゃったみたいで、、このまま遠くへいっちゃいそうでっ」
 「・・・」
 「いつの間にか、ランス様の周りにたくさん美しい方がいてっ、そ、それに結婚までっ」
 「ぐっ・・・」
 「シィルは、捨てられるんじゃないかって・・・ひん!」
 ポカ、ポカ、ポカッ
 「ええい、奴隷のクセに生意気だ! 心配するな、お前は一生俺様の奴隷だ!
  黙って俺様を信じてればいーんだよ!」
 (だいたい、俺様が馬鹿リアと結婚したのが、誰のためだかわかってんのか?)
 さすがにこれだけは誰にも言えない。
 「は、はい、ランス様っ。いつまでも、シィルはランス様の奴隷です!」
 「わかればいいんだ、わかればな」
 ランスにしがみつくように抱きついたシィルがそっと顔を上げる。
 涙まみれで霞んだ視界には、見慣れた笑顔。髪をくしゃくしゃと撫でられて、さらに視界が霞んでくるシィルだった。
 《うーむ、ラブラブじゃのう。ワシも、カフェとあんなふうにしたかったぞい》
 仲間はずれの魔剣カオス。別に今に始まったことではないが、シィルと接しているランスはみていておもしろい。
 《しかし、大陸を手にしたとたんに王の座を捨てるなんて、まったくこの男はよう分からんが》
 見上げれば黙ってピンク髪を撫でている青年と、しゃくりあげている少女。
 《一緒に居ると、まったく退屈せん人間じゃのう》


 しばらくそのままの二人だったが、やがてランスがシィルを離した。
 「・・・いつまでこうやってるんだ、まったく。そろそろ出発するぞ」
 「あ、はい、ランス様」
 (もうちょっとこうしてたかったけど・・・ランス様、ありがとうございます)
 心の中でそっとつぶやいてから返事をする。
 「とにかく、さっさとリーザスから離れるぞ。多分、すずめちゃんあたりがアレを見つけるんだろうから、
  リアやマリスも追っかけてこないと思うが、万一ということもあるしな」
 「あのう、アレってなんですか?」
 「ん? ああ、ただの離縁状だ。
  どうせ王様は辞めるんだから、リアとの結婚ごっこはお終いだ。疲れる遊びだったぜ。ん? シィル?」
 またまた涙目のシィル。
 《おうおう、嬢ちゃんをまた泣かせたぞい》
 「う、うるさい馬鹿剣! シィルも泣くなっ。俺様はもうリーザス王じゃないんだから、別れるなんてあたりまえだろ」
 ポカッ
 「う、嬉しいですぅ、ランス様ぁ」
 かなり強くポカリをやったのに、ますます嬉しそうなシィル。もっともしっかり涙目ではあるが。
 「だぁぁ、もうしらん! 俺様は先に行くからな、ちゃんとついて来るんだぞっ」
 なんだか背中が痒くなったので、ランスはシィルに背を向けるとオクの町に向かっていった。
 いつも歩くよりずっと早いペース。後ろからトテトテとついてくる気配を感じつつ、歩調を緩めるつもりはない。
 そんなランスに、今度は腰にぶら下がった剣が話しかける。
 《なんじゃ、おぬし、照れとるのかの? いつもと感じが違うぞい?》
 「ふん、俺様はいつもの俺様だ。スーパーでグレートなヒーローだ」
 《じゃが急にどうしたんじゃ? なんでいまさら王を辞める気になったのかわからんぞい》
 「けっ、俺様の高尚な思考がてめえなんかに分かってたまるか」
 《ふうう、冷たいの〜 最近ちっとも女を抱かせてくれんし、ワシも欲求不満じゃぞい》
 「それだ、それ。俺様もいろいろ溜まってたんだよ」
 つぶやくようにして思わず相槌を打ってしまった。
 事実である。鬱憤というか、もどかしさというか、そんなものが心の中に積もっていたのだ。
 《なんじゃ、おぬしも溜まってたなんて知らなかったぞい。げへげへ、だったらシィルちゃんとわしとで3Pでも・・・
  いや、冗談じゃ。すまん、すまん》
 思いっきり不気味な笑いを浮かべているランスを見て、慌てて黙ったカオス。
 「どいつもこいつも馬鹿ばっかりだぜ」
 自分以外はみんな馬鹿だ、などと不謹慎なことをかんがえるランス。
 カオスが黙ってしまって、シィルも大分後ろを歩いているから話す相手がいない。仕方がないので考え事だ。
 (さーて、これからのことでも考えるかな。王様時代にできなかったことでもしてみるか?
  このままアイスに帰ってもすることあったっけか?)
 オクの町には後一時間くらいでつくだろう。時間的には、一泊するのに丁度いい頃合だ。
 (確か、王だったときに借金はチャラにしてもらったから、借金取りはこないよなぁ。
  だったら別に、家に帰らなくてもいいか。あてな二号は・・・またせとけ、またせとけ)
 リーザス王ランスはアイスの町を占領した際に、個人ランスの借金を全て踏み倒している。
 後日マリスが立て替えたのだが、本人はそのことに気付いていない。
 (JAPANに行くのもいいぞ。そういや五十六は、子供を生んでから一度も抱いてなかったな。むふふふふ)
 噂に聞く母乳プレイというものを一度やってみたいなー、と思ったりする。何事も経験、食わず嫌いはよくない。
 (さよりさんとMランドでエッチをする。おお、これもナイスアイデアだ。
  観覧車の中であんなことやこんなことを・・・ぐふふふ)
 グラグラと不自然にゆれる観覧車。其の中では一組の男女がくんずほぐれつドタバタドタバタ。
 「まッ、なんにしても今日はここでお泊りだ。シィルでもたっぷり可愛がってやるか!」
 オクの町はすぐそこである。
 五十六とのエッチ、さよりさんとの一発、レィリィちゃんとのプレイなどなど
 これから訪れるであろうさまざまなシチュエーションを考えているうちに、時間はさっさと過ぎていった。
 振り返ると、はるかかなたにピンク髪。
 「シィルのやつ、ちょっと見ない間に随分トロくなりやがって。これで今夜のお仕置き決定だな。
  あいつが財布をもってるんだから、ちゃんと俺様の側にいないといけない」
 相当な早足で歩いていた自分の事は棚上げだ。そう、奴隷たるもの主人のペースに合わせるのが当然だ。
 エヘン
 意味もなくふんぞり返ってみる。加えて極めて真剣な表情。
 (最低七発だな。いや、八発か? うーん、八発にしておこう。久しぶりだし、それくらい大丈夫だろう)
 オクの町入り口まえにデーンと立ちはだかって、次第に大きくなってくるピンク髪を眺めつつ、そんなことを考えていた。


 「なっなっなっ、なんだとぉ〜〜! 一Gももってないだと〜」
 日が暮れかかったオクの町、宿屋の前で叫ぶ男。
 「すみません、すみませんっ! ランス様、本当に申し訳ありませんっ!」
 男に対して平謝りに謝るピンク髪の女の子。
 ポカッ
 「馬鹿野郎! 俺様がちゃんと『家に帰る支度をしろ、もちろん金もあるだけもってこい』といっただろーが!」
 そんなことは言ってない。
 「でっでも、あのときはピクニックにいくのかなって」
 「口答えするんじゃねぇっ」
 ポカッ
 なんだか叩かれてばかりのシィル。
 「まったく、いまさら野宿なんて嫌だぞ。やっぱり青姦よりもベッドの上のほうが気持ちいいからな・・・」
 「ランス様、今なんていったんですか?」
 「うるさい、黙ってろ」
 「はいぃ・・・」
 シュンとしてしまった。そんなシィルは気にせずに、ポンと手を叩くランス。何か閃いた様子を表す古典的ポージングだ。
 「そうだ、多分、愚民共は俺様がまだリーザス王だと思っている。だったら、ただで泊めてくれるんじゃねえか?」
 シィルを振り返る。と、予想外の反応だ。
 『さすがランス様』とか『すばらしいですぅ』みたいなリアクションを期待してたのに、どこか浮かない表情である。
 「なんだ? なんか問題でもあるのか」
 「ええと、あの、怒らないでくださいね?」
 手をもじもじさせて、上目遣いにランスを見ている。
 「うむ、特別に許すから、言ってみろ」
 「ありがとうございます。あのですね・・・」
 かいつまんで言うと、シィルに言わせればリア王女が紙一枚の離縁状で、ランスを諦めるはずがない。
 だいたい、離縁状というのは夫婦双方の同意があって初めて成立するもので、ランスの署名だけでは不十分だ。
 リア王女の署名がないのだから、リア王女はこれからもランスを追いかけるだろう。
 出来るだけ、人目に付かないように行動したらいいのではないだろうか・・・
 「・・・って思うんです。考えすぎかもしれないですけど」
 「うぐぐぐぐ・・・」
 話が進むに連れて、明らかに不機嫌になっていくランス。
 初めはまだ『ふんふん』とか相槌を打っていたのも、今ではうなり声だけしか発しない。
 「でも、リア王女だったら、病気が治ったらすぐに追いかけてくるんじゃないでしょうか?」
 ポカッ
 「きゃん! ランス様、痛いですぅ」
 「縁起でもないこと言うからだ。
  ふんっ、リアなんかにびくびくするなんてまっぴらだ、俺様は正々堂々太陽の下で生きてやるぜ!」
 といいつつも、さっきよりもトーンが低い。明らかに周りを気にしている風情だ。
 「やっぱり王様だって言って、ここにただで泊めて貰いますか?」
 「馬鹿野郎! そんなことしたらリアに借りが出来るじゃないか! 俺様はもうアイツとは関わりたくないんだ」
 むに〜
 シィルのほっぺたをつねる。
 「ひゃは、ほれはらほうひはひょう?(じゃぁ、これからどうしましょう?)」
 「夜のうちに出来るだけリーザスから離れるべきだな。
  一回は家も見ておきたいし、やっぱりあてな二号も気になるしな。というわけで、今日は徹夜で歩くぞ」
 ぱちん
 ほっぺたから手を離して高らかに宣言する。
 「エッ、徹夜ですか? 一度キャンプを張った方が」
 「イーヤ、いますぐ出発だ。確かにリアのことだし、早いとこリーザスから離れたほうがいい。
  それに夜のほうが人目につきにくくて好都合だ」
 こうなってしまっては仕方がない。
 ひさしぶりにランスと歩いたため大分疲れていたシィルだけど、勤めて明るく返事をした。答える言葉は決まっている、
 「はい、ランス様!」
 そして、ランスの腰では魔剣カオスが、
 《太陽の下で正々堂々と歩くんじゃなかったのかのう?》 
 と、こっそり突っ込みを入れていた。



・・・あとがき・・・
 あんまり話が進みませんでした。読み返してみると、うーん、いらんことばっかり書いているような・・・(笑)
 個人的にシィルが大好きなので、書いてて楽しくって楽しくって。
 まぁ、このへんでラブラブモードからいつもの二人に戻そうかな、と思ってます。
 ちなみに、これからいよいよカジノモードに入っていく・・・予定です。
 ここまで読んでくださった方、ホントーにありがとうございます! 次も、どーかどーか、読んでやってください! (冬彦)



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