魔王ケイブリス 第一章 『魔王大地に立つ』







  十話 激突! リーザス軍VS魔王軍《後編》




「・・・!」
 シャシャッ
 真っ赤な長剣の赤い軌跡。
「てやあっ」
 ザンッ
 小柄な少女の、体つきに似合わない本格的な一撃。
 二人を中心として再結集できたのは、リック隊400、メナド隊700、レリューコフ隊400の計1500だ。
 正に惨憺たる有様といえる。
 リック達が向かっているのは、魔法部隊が陣取った丘。もっとも、丘といっても平原の起伏程度だが。
 魔法部隊には二部隊あり、一つがメルフェイス隊でもう一つがアスカ隊だった。
 丘の麓まで魔物が侵攻している。これまではリック達が前衛で踏ん張り、後衛への敵侵入を阻んできた。
 しかし・・・もはや前衛は機能していない。先程の魔法球、直接殺した人間の数はそれほどではなかった。
 せいぜい800程度だろう。ただ、指揮系統に与えたダメージには計り知れないものがあった。
「・・・」
 リックの剣線。
「えいやっ」
 メナドの気合。
 丘を取り巻く魔物の群れが。その中にリック達は飛び込んでゆく。
 顔をあげれば、魔法部隊のいる頂上にまでたどり着いた魔物が見える。
 まずい。極めてまずい。
 後衛専門たる魔法部隊は、接近戦に弱い。そりゃあもう、あきれるくらいに弱い。
 リック達が魔物を食い止めなければ、ものの五分で全滅してしまうだろう。必死で剣を振るう。
「バイ・ラ・ウェイ!」
 ビィィィン
 心持ち威力の落ちた、それでも相当に鋭い斬撃。
 飛びかかってきた魔物を切り捨て、わき目も振らずに前進する。けれど、魔物達も負けてはいない。
「シャアアッ」
「うわぁ!」
 メナドの隣で剣を振り上げた男に、『ちゃそば』の棍棒が振り下ろされる。
「はにほー」
「ぎゃああ!」
 リックのすぐ後ろで戦う兵士に、ドーナツ状のハニーフラッシュが。
 リックが一歩進むたびに魔物は数匹絶命する。一方で味方も同数落命してゆく。
 けれど、立ち止まってはいられない。早く、早く助けに行かないと・・・





「もう少し、もう少しです! あとちょっとでリック将軍が到着します!」
 丘の上、リーザス魔法部隊の陣地。麓では、リック達が魔物軍と激戦を繰り広げている。
「いきますよ・・・詠唱を合わせて・・・火爆破!」
 ターゲットとメルフェイスの間は、十数メートルしか離れていない。
ボオォォォオン
部隊が放った炎は、狙いたがわず命中する。
「ゲヘーッ」
「ビュワワッ」
 耳に突き刺さる悲鳴、炎が魔物を覆いつくす。
 けれど、燃え上がるのは先頭の魔物のみ。炎を乗り越え、新手が次々に現れる。
「白冷徹だおー」
 次は、真っ白な凍気が飛んでゆく。魔法を放ったのは、アスカ・カドミュウム率いる一団。
「グギャアァァ」
「ピィィィ」
 魔物の身体に冷気がぶつかり、
 ピシピシピシッ!
 砕け散る。けれど、砕け散った傍から新手が氷塊を乗り越えてくる――
「将軍、駄目です! これ以上もちませんッ」
「え、詠唱が間に合わない・・・ッ」
 メルフェイスの傍から悲鳴が上がる。
「余計なことは考えない! さぁ、もう一度火爆破をッ」
 メルフェイスだって泣きたい。泣いてどうにかなるのなら、思いっきり喚きたい。
 けれど、泣いたって魔物は止まってくれやしない。
「集中して・・・ちょ、みんなっ!」
 掌に魔力が蓄積され、いざ放つ段になった時。
 メルフェイス隊から魔法が撃ち出される気配はなかった。
 耳に入るのは詠唱の呪文ではなく、悲鳴。
「だ、駄目ですっ。い、いやあああ!」
「キャアアッ」
「助けてェッ!」
 ・・・魔物が目前に迫るという緊迫した状況下、部下の魔法兵の平常心は失われていた。
 魔法を放棄し、頭を抱えて蹲るもの。
 必死で集中するも、魔力を魔法に変えられないもの。
 虚ろな瞳で、呆然と迫り来る魔物を見つめるもの。
 逃げ出したいけれど、丘を取り巻くようにして魔物が登ってきているため、逃げられない。
 生き残るためには、目の前の魔物を殲滅するしかないのに・・・
「みんなしっかりしなさいっ。詠唱を続けて、さあ、さあっ!」
 バシュッ
 メルフェイスは一人で火爆破を放った。
 駄目だ、所詮一人分の魔力では、魔物一匹殺せない。
 いいわけ程度の炎が魔物に降り注ぐけれど、構わず魔物は突っ込んでくる。
 足止めにすらならなかった。
「どうしたのっ、貴方達それでも魔法兵ですかっ! 最後まで詠唱を止めないで――」
 ギュッと目を瞑り、メルフェイスは再び詠唱に入った。
 目を開けていられない、怖い怖い怖い。怖いです、王様・・・!
 逃げ出したいけれど、丘を取り巻くようにして魔物が登ってきているため、逃げられない。
「王様――・・・?」
 正面から感じた魔物の気配が、消えた? え?
「メリュフェイス、ピンチだお〜。アスカがやるろ〜」
 幼い声が。続いて、
「むぁう〜・・・『チューハイ』、こいこい〜〜」
 ギュルギュルギュルッ
「ア、 アスカなの? きゃあっ、な、なにこれ・・・?」
 大地から巻き起こる風を感じ、メルフェイスは瞼を開いた。
 巻き上がる塵、その中心には・・・男?
 骨格が発達し、筋肉の鎧に覆われたたくましい男・・・なのか?
「『チューハイ』、やっつけるお!」
「チュー・・・ハイ?」
 メルフェイスの足元で、アスカが元気良く敵を指差した。
 突然現れた男――チューハイという名前らしい――が敵に向かってゆく。
 両手を振り回しながら、なりふり構わず魔物を叩く!
 ボシュ バシュ ゴシュ ドシュ!
「えっ!」
「いいお〜、その調子だお〜」
「す、凄い・・・」
 アスカが呼び出した『チューハイ』が暴れまわる。
 文字通り『手当たり次第』にパンチを加え、メルフェイス達の目前まで迫った魔物を片っ端から粉々にしてゆく。
 メルフェイスは驚いていた。アスカという6歳に満たない幼児が、これほどに力強い魔法を扱うだなんて・・・
「アスカ、いつの間にこんな魔法を覚え――」
 尊敬の眼差しをアスカに向けようとした。その時着ぐるみが、ギンと睨んだ。
《こりゃ何をしとるか! お主らさっさと詠唱に入れっ。アスカ一人に任せる気かっ!》
「えっ・・・ あ・・・」
《『チューハイ』はせいぜい一分しかもたん。残りの魔物はお主が倒すのじゃ》
 着ぐるみのチャカは解っている。
 自分のひ孫がまだ『チューハイ』を扱うには未熟すぎることを。
 実力以上の魔法のために、必死で魔力をコントロールしていることを。
「解りましたっ。 ・・・みんな、よく聞いて!
 アスカ将軍が魔物を押さえてくれているっ。この隙に残りの魔力をすべて集めなさい!」
 メルフェイスは両手を高く掲げた。
 絶望の縁から少しだけ立ち直り、アスカの召還獣に見とれていた魔法兵達が、メルフェイスに注目する。
「次の一撃で迫る魔物を一掃します! ファイヤーレーザーの詠唱に入ってください!」
 『ファイヤーレーザー』。
 これまでメルフェイス隊が『ファイヤーレーザー』の集団詠唱を試みたことは無い。
「これは賭けです。おそらく・・・詠唱できる時間は魔法一つが限界・・・
 けれど、火爆破では殲滅は不可能です。
 ならば、一段階上の魔法を撃つしかッ――」
 メルフェイスの言葉を待たず、次々と兵士が手を掲げる。
 地面に蹲っていたものも、呆然と立ち尽くしていた者も、みなが両手を空に掲げる。
 あちこちから詠唱の言葉が漏れ始める。
「み、みんな・・・よし、私もっ」
 コォォォン
 メルフェイスも詠唱を開始した。高まる魔力。
 けれど・・・高位の魔法詠唱は簡単ではない。
 ファイヤーレーザー・・・志津香クラスの魔法使いならばポンポン出せるかもしれない。
 けれど彼女達のようにレベルの低い魔法使いならば・・・相当に詠唱をつづけ、魔力を練らなければ放てない。
「・・・」
 無言の詠唱が続く。リーザス魔法部隊の中、あちこちから光が溢れる。
 


 ドガッ ドン ガアッ!
 『チューハイ』は暴れ続けていた。
 己を呼び出した魔法使いの意思に従い、ひたすら魔物を潰していた。
 ブンブンブンッ
 腕を回して風を起こし、小さなモンスターを吹き飛ばし、
 ガアアッ
 暴れる、暴れる、痛快爽快極まりない暴れっぷり!
 ムキムキの巨人が手当たり次第に敵をねじ伏せる、叩き潰す、吹き飛ばす・・・
 そう、はたから見ているだけならば、爽快に思えるだろう。
「む、む、む〜、む〜・・・」
 スックとたって、万歳みたく手を上げるアスカ。
 身体は小刻みに震えている。
「む〜〜・・・ ふあ〜・・・」
《アスカ大丈夫か? もうちょっと、もうちょっとの辛抱じゃ!》
「ひ、ひじじ〜、苦しいお〜」
 チャカには伝わる。
 自分の中で、アスカの体温が上昇し続けていることが。
《がんばれ、がんばるんじゃ! こりゃメルフェイスっ、ファイヤーレーザーはまだ撃てないのかっ》
 チャカの頭上からメルフェイスが切れ切れに答える。
「も、もう少しです・・・! お願いですから話しかけないでっ・・・」
《むうう〜〜ッ》
 アスカが『チューハイ』を呼び出してから、すでに一分近くたっている。
「苦しいろ〜 で、でもアスカは負けないろ・・・」
 熱い。アスカの顔も真っ赤に染まり、全身から汗が吹き出ている。
「ふあ、ふあ〜・・・」
 ヨロッ 上半身が大きく傾き、地面に膝をつく。
 けれど、掲げた両手だけは下ろさない。
 再び立ち上がろうとするアスカ――けれど、
 ガクッ 立てない。
 しゃがんだ体勢から身体を持ち上げられない。
「う〜〜〜!」
 手だけは下ろさない。アスカは解っているのだ。
 手を下ろせば、『チューハイ』へ魔力を供給できなくなり、『チューハイ』は消える。
 そして、アスカに再び『チューハイ』を召還する力は無い。
 けれど、手を掲げている限り、魔力はどんどん吸い取られてゆく。
 『チューハイ』が動くたびに、アスカの生命力が抜けてゆく。
「う、うう〜・・・」
 アスカは限界だった。
 すでに魔力は尽きていた。
 手に力がはいらない、身体の感覚が薄くなり、視界がどんどん暗くなる・・・
 その時、アスカはチャカの声を聞いた気がした。
《・・・アスカ、もういい! これ以上魔力を使うな! アスカァッ・・・》
 大好きな曾お爺さんの声が聞こえた気がした。
《・・・アスカ、アスカ頼む、もう止めるんじゃ! 死んでしまうぞ・・・》
「チャカ・・・アスカはがんばるお・・・ りっぱな魔法使いになるろ・・・」
 アスカはチャカに笑ったつもりだった。
 自分を包み込んでいる温もりに、ニッコリわらったつもりだった。
 けれどもそれは嘘。
 現実のアスカは・・・チャカの言葉を聞きながら・・・手だけはしっかりあげたまま・・・旅立っていった。どこか遠くで、
《アスカ・・・すまん、ひじじが・・・ひじじが悪かったぁ・・・も、も一度目を開けてくれい、アスカァァァ!・・・》
 懐かしい声が響いていた。


 
「よしっ、いけるわっ」
 詠唱を終え、メルフェイスは呟いた。
 メルフェイスの掌に凝縮された魔力。
 省みれば、みんなの手も輝いている。
 すべては足元の幼女のおかげ、アスカが『チューハイ』で敵を足止めしてくれたから・・・あれ?
 『チューハイ』の色が薄くなっている。まるで風に溶け込むように、存在自体が揺らいでいる。
「・・・アスカ?」
 足元で笑っているはずの幼女が・・・倒れている。
 着ぐるみのなかでニコニコしていた幼女が・・・動かない。着ぐるみのチャカも、何もいわない。
「ア、アスカ・・・っ」
 動かない、ピクリとも。アスカの顔がサーッと白くなる。
 ピンク色の頬っぺたも、桃色の唇も、血の気がスーッと去ってゆく様が見て取れる。
「そんな・・・嘘・・・」
 呆然となったメルフェイスに、部下から声がかかった。
「将軍、号令を願います! 魔物が、魔物が攻めてきますっ。は、早く号令をっ!」
「くっ」
 メルフェイスは唇を噛み、顔を上げた。
 そうだ、ここは戦場・・・ 戦い生き抜くべき場所であって、死者を悼む場所ではない。
 心の中で『ありがとう、アスカ。 ・・・そしておやすみなさい』と呟く。
 ほんの一瞬の黙祷を経て、メルフェイスは皆に叫んだ。
「魔法照射、『ファイヤーレーザー』! 北側の敵にはなてぇっ」
「はいっ」
「いきますっ!」
 ゴオオオオッ
 魔法兵一人一人の頭上から、四筋の火線がほとばしる。
 火爆破とは比べ物にならない熱線が魔物を襲う。
「ギャアア――」
「ウギャッ、ウギャアア――」
 燃え盛るモンスター、その足元からは火柱が幾つも立ち上がり、敵包囲網に穴が開く。
「いまですっ。あそこを通り、リック将軍と合流しますっ!」
 高位魔法を放ったけだるさを吹き払い、メルフェイスは丘の麓を指し示した。
 ファイヤーレーザーがあけた隙間を通し、駆け上ってくるリーザス赤軍がはっきり見える。
「さあ、囲まれないうちに早くっ」
 メルフェイスの指示に従い、リーザス魔法部隊は丘から駆け下りて行く。
 メルフェイス隊も、アスカ隊も、よろめく足取りで駆けて行く。
 メルフェイスも同様に、前だけ向いて駆け下りてゆく。


 丘の頂上に残されたチャカ。チャカの中で眠るアスカ。
《アスカ・・・ひじじは・・・アスカを守れんじゃった・・・ひじじは・・・》
 冷たくなったひ孫を抱きしめようとするが、着ぐるみの身体に力は入らない。
《ううぅぅ・・・おおぉぉぉ・・・》
 人形の呻きも次第に小さくなってゆく。呪われたチャカの身体から、意識がサーッと抜けてゆく。
《アスカ・・・一人ではゆかせんぞ・・・ひじじもすぐに行くからの・・・》
 こうしてリーザスは、また一人、有望な人間を失った。






 魔物の群れに、たった一人で立ち向かう少年。
 目線は唯一点を凝視している。そこには、先日まで味方だった魔人の姿が。
「メガラスゥゥゥッ」
 白き魔人と目があったとき、健太郎は咆哮した。
「お前ら魔人は許さない! 僕のこの手で叩き斬るっ」
 スチャッ
 日光のこじりを持ち直し、剣気を切っ先に集中させる。
 メガラスも健太郎に気付いたのか、一人魔物の群れから飛び出してくる。
 速い。
「ちっ・・・速けりゃいいってもんじゃないっ」
 ガッ
 両足を踏ん張り迎え撃つ。
 昔剣道で習った構えはまるで無視し、ランス流の、野放図な構え。
「さっさと来い・・・ お前の攻撃より、僕のランスアタックのが強いっ」
 体が火照る。きっと、脳内物質の分泌はMAXだろう。
「来い来い来い来い・・・」
 地上スレスレを滑空するメガラス。その動きは直線でも、まして曲線でもない。
 落雷のように細かくぶれながら、ジグザグ進んで健太郎に迫る。
 凄まじい速度で、二人の間合いが詰まってゆく。
「きたっ!」
 ブオオオッ
 メガラスの速度が一際上がる。メガラスの必殺技、『ハイスピード』だ。瞬時の最大加速!
 飛行する軌跡に幾つもの残像を作り、秒速で健太郎の動体視力を凌駕する。
 飛行速度は、音速。前面に発生した衝撃波とともに、健太郎に襲い掛かかる!
 ただ、いきなり正面から突進したりはしない。健太郎の周囲を飛びまわり、無数の残像を作り上げる。
「ぐっ、ど、どこだっ」
 メガラスの作った残像に気を取られ、本体の位置がわからない。
 健太郎の誤算だった。メガラスの『ハイスピード』を舐めていた。
 ただ凄まじい速度で体当たりする技と思っていた。
 タイミングさえ合わせられれば、ランスアタックが決まると思っていたのだ。
「ちっ、これじゃ、どこから来るか解らない・・・」
 ビュビュビュビュッ
 メガラスの飛行音で、聴覚がクラリとイかれたようだ。頭の芯がキーンとなる。
 加えて視覚。飛び交う残像のせいで目が回ってくる。
 あたり一面から吹きすさぶ風が、触覚すらも奪ってゆく。
「こ、これが『ハイスピード』・・・! なんて凄い技なんだ・・・」
 感嘆している場合ではない。このままジッとしていれば、確実に命を奪われる。
「うおおおっ、ラーンスアターック!」
 健太郎は自分の足元へ、溜めた剣気を叩きつけた。
 『ハイスピード』に負けない爆圧が、土砂を伴い舞い上げる!
 舞い上がった砂塵が『ハイスピード』が作り出す嵐に巻き込まれ、
「・・・!」
 メガラスの身体に纏わりつく。
 ブワッ
 メガラスも視界を奪われた。このまま『ハイスピード』を続ければ、健太郎を見失ってしまう。
 いったん『ハイスピード』を解放し、上空高く舞い上がろうとしたその時・・・
「・・・?」
 メガラスの頭上に殺気がある!
「・・・!」
「だあぁぁぁっ」
 健太郎が! 
 ランスアタックは、ただ土埃を撒くためではなかった。
 剣圧と『ハイスピード』が起こした上昇気流を利用し、一気に上空へ飛び上がる手段でもあったのだ。
 落下速度に腕力を加え、手にした日光を振り下ろす。
 間合いは完全に健太郎のもの、このままでは――やられる。
「・・・」
 かわそうとするメガラス。けれど、『ハイスピード』を放った直後で動きが鈍い。
「もらったぁ!」
 ザクゥッ
 右肩から背中にかけて、振り下ろした日光が食い込む!
「・・・」
 メガラスの表情は変らない。けれど、相当な深手には間違いない。
 人間でいうところの肩甲骨から脾臓辺りまで、ザックリ裂けたメガラス。
「・・・」
 空中で身体を逆さにすると、メガラスは左手で日光を掴んだ。
 深々と切れ込んだ剣先を握りしめ、力を込める。刃が掌に食い込むに任せ、健太郎を振り払う。
「うわっ」 
 落下する!
 それほどの高さではないけれど、健太郎は完全に体勢を崩していた。頭を下にむけ、真っ逆さまに落ちてゆく・・・



 メガラスは、もはや健太郎に挑みはしなかった。
 あんな体勢で落下したのだ、おそらく健太郎も重傷を負っているだろう。
 けれど、自分の傷の方が遥かに深い。体の芯は外したけれど、右手は完全に感覚がない。
 体液がとめどなく溢れてくる。死にいたりはしないだろうが・・・浮かんでいるのがやっとだ。
「・・・」
 メガラスは『自分は十分戦った』とでも思ったのだろうか?
 ゆっくりと戦場から上昇すると、一人魔人領へと飛び去っていった・・・





 ・・・あとがき・・・
 SS 魔王ケイブリス 十話お終いです。
 いざ文章にしてみると、戦いのシーンというものは文量がかかります。とくに、死んでしまうシーン。
 もっと書き込んだほうがいい気もするし、これくらいでええんちゃう? と思いもします。
 人がたくさん死んでいます。
 以前、『SSでキャラを殺すのは反則だ』みたいな文章を読んだのですが、
 うーん、『らしい死に方』ならOKだと思うんですよね・・・(冬彦)





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