魔王ケイブリス 第一章 『魔王大地に立つ』







  十三話 死闘! ランスVS魔王




 リーザス軍最右翼、ランス隊より大回りに回り込み、敵の背後に回りこむ部隊。
 バウンド隊とソウル隊だった。彼らの役目は『敵背後に回りこみ、魔法部隊を惹きつけろ』。
 彼らはその快速でもって、与えられた任務を十二分にこなしていた。
「アニキっ、また撃ってきたよっ」
「慌てんな! この距離じゃ当りっこない」
 バウンド達に向けて放たれた魔法は、はるか手前で失速する。
 ドカーン
 ただ、地面に落ちるだけだ。
「ほんとだぁ・・・ アニキやるじゃん!」
「へっ、このくらい軽いもんさ」
 バウンド隊とソウル隊が緩急絡めて逃げ回り、目測を誤った魔法がポンポン放たれる。
 当たらない、これでもかというくらいに当たらない。バウンド達の作戦が成功しているからだ。
 作戦といっても、大したものではない。ただ、不必要に大声をあげたり、突撃するふりをしたりで敵を威嚇する。
 そうして注意を惹きつけたうえで、一気に後退する。
 加えて、行軍速度の調節だ。走ったり歩いたり、走る素振りをみせて歩く、歩くと見せかけて走る。
 こういった小手先のフェイントを多用し、魔物の距離感を狂わせる。
 基本的に、魔物は頭が悪い。バウンドの取った驚くほど単純な作戦は、驚くほどに効果をあげていた。
 リック達は気付いていただろうか?
 巨大な魔法球一発を覗き、敵からの魔法が全くといっていいほどなかったことを。
 敵の魔法攻撃全てを惹きつけたこの二部隊が、全軍中一番活躍した部隊かもしれない。
「あっ、あいつらまた光り始めたよ!」
 部隊の中で。一番目がいい人間がソウル。常に魔物に気を配り、動きがあればバウンドに伝える。
「ようし、そろそろくるな・・・ おい、野郎ども! いいか、全員駆け足だぁっ」
「へいお頭っ。合点ですぜ!」
 部下との呼吸もバッチリだった。と、バウンド達が速度をあげた時、計ったように放たれる魔法。
「や、ちょっと、おっきいよ? ほら、ほらほらぁっ」
「そうか・・・? うお、確かにでかいな・・・ けどなぁ、当たらないさ」
「でっでも、スピード全然落ちないじゃん!」
「だからぁ、俺達の頭を超えて・・・そうだな、あの辺に落ちると思う」
 バウンドが指差した場所は、自分達が走っている場所よりも、50メートル程度はなれた地点。
 バウンドの言葉が終わる前に、
 ヒュ―ン
 頭上を越えてゆく光線の群れ。
「あっ、ホントだっ・・・」
「なっ? 兄ちゃんの言ったとおりだろ?」
 レス兄弟は、魔法の行方を見守った。魔法はどんどん飛んでゆき、
 ドカーン
「わっわっ、すごいすごいっ」
「ほら、ぴったりだろ? 兄ちゃん、コツが解ってきたぞ」
 バウンドの勘がピタリ的中だ。指差したとおりの場所で爆発が起こる。
「ようし、お前ら駆け足やめだ! 大声をあげて、ゆっくり歩くぞっ」
 スピードダウンを指示し、ソウルに話す。
「ソウル、奴らが魔法を撃ちそうになったら、すぐに教えろよ」
「うん、わかってるよアニキ!」
 バウンド、ソウルに放たれる魔法は、5000もの魔法兵が放つ魔法。
 彼らが詠唱をあわせ、いっせいに照射する魔法。いわば、超特大魔法なのだ。
 部隊の真ん中に命中させられたなら、おそらく1〜1300人は消し飛ぶだろう。
 しかし、そんな魔法がポンポン飛んでくる戦場にありながら、バウンド達は明るかった。
 実際に魔法の直撃を受けたことは無い。なんだかんだで全てかわす二人だった。
「ねぇアニキ、ところであたし達さぁ、いつまで囮してればいいの?」
「いつまで・・・だろ? とりあえず、お頭が魔人を倒すまでじゃないか?」
 彼らが魔法兵の牽制を始めてから大分立つ。すでに、二十発近い巨大魔法をかわしていた。
 魔法一発の詠唱にどれだけかかるかしらないが、すくなくとも一時間以上は、こうして駆け回っている。
「そりゃ、ランス兄ぃがやっつけてくれるまでだよ。
 でも、どうやってランス兄ぃが魔人やっつけたこと、解るのよ。解りっこないじゃん」
「あ、ああ。いわれてみればそうだな・・・。特に合図も決めてないし・・・」
「でしょ? やっぱアニキは抜けてるなぁー」
 呆れた様にソウルが睨む。
「なにっ。ソウル、お前兄ちゃんを馬鹿にしたな」
「うっ、ううん、そんなことないよ?
 あたしだって今まで気付かなかったしさ・・・ でね、こんなのどうかな?」
 慌てて顔の前で手を振ると、悪戯っ子の目でポソポソ喋る。
「あたし達もうすぐさ、モンスター達の後ろを回りきっちゃうでしょ?」
「・・・まぁ、そうだな」
「アニキはその後どうするつもり?」
「えっ、俺か? うーん、考えてなかったけど、もっぺん引き返してみるかな」
 ソウルが『回りきっちゃう』と表現したのは、
 『もうじきバウンド、ソウル隊が敵背後の右翼から左翼にまで縦断してしまう』ということ。
 もしも味方が初期配置のまま粘っていれば、ソウル達はもうじきパットン隊と合流するだろう。
「ええ〜〜、そんなのつまらない。ね、今度はモンスターの内側に回りこまない?」
「内側ぁ? おい、なにいってんだ、みすみす囲まれるようなもんじゃないか」
 バウンドにはソウルが何を言っているのか、意味がわからない。
「魔法攻撃くらいながら、モンスターと肉弾戦か? さすがにそれは・・・」
「ちっちっちっ。アニキわかってないなぁ?
 普通のモンスターはさぁ、もっと前・・・リック将軍達と戦ってるじゃん。
 だから、魔法モンスターの内側には、たいした敵はいないと思うんだっ」
 とまどうバウンドをよそに、元気良く続けるソウル。
「それに上手くいけば、アイツらの魔法がモンスターに当たるかもしれないしさ。
 ほら、さっきみたいに距離を出しすぎて、味方に魔法が当たっちゃうんだよ! 同士討ちってやつ」
「同士討ち、ねぇ・・・」
「絶対上手くいくよ! それに、もしかしたらランス兄ぃが魔人と戦うトコ、見れるかもしれないじゃん」
「おいおいソウル、これは大事な戦争なんだぞ、遊びとは訳が違うんだぞ?」
「解ってるよぉ。でもでも、本気になったランス兄ぃが見たいんだよぉ。
 ねぇ、そうしようよ、もっと内側で走り回ろうよ?
 もしもモンスターがいっぱいだったら、そのときはアニキの言う通り・・・この辺を行ったり来たりするからさ」
「うーん・・・」
 ソウルははしゃぎすぎている・・・とバウンドは思う。どうも緊張感が乏しい。
「お前なぁ・・・」
 『お前、この戦いが大事ってわかってるか?』そう尋ねようとした時だった。
「アニキ、ランス兄ぃだけに・・・魔人と戦わせてもいいの?」
 一転し、真面目な顔でソウルが尋ねた。
「そりゃ、あたし達がいたって足手まといかも知れないけどさ・・・
 でも、それじゃランス兄ぃに悪いよ! みんなが、ちゃんとランス兄ぃの戦いっぷりを見届けなくちゃ」
「・・・」
「それに・・・もしかしたら、なにか手伝えるかもしれないし。
 ランス兄ぃの側にいた方が、絶対ランス兄ぃの役に立てるって!」
「まぁ、な。そりゃそうだろうな」
「だったら――」
 どうやらソウルは真剣らしい。真剣に、ランスを心配している・・・バウンドには伝わった。
 内側回りこみをしきりに訴えるソウル、その頭にそっと手を当てると、バウンドはニカッと微笑みかえす。
「ソウル・・・俺達もいくか?」
「えっ・・・い、いいの?」
「へっ、いまさら何をいってんだ。それに、俺達はお頭の子分筆頭だろ?
 だったら、俺達がお頭をサポートするのがスジってもんさ」
 ソウルの顔がパァァッと明るくなる。
「じゃあ?」
「おう、お前のいう通りだ! やい、てめぇらっ」
 バウンドは部下に大きな声で指示を出す。
「これから敵を回りこむように運動するぞっ。回り込んで、敵の向こう側に出るっ。
 最後は中央と俺たちで挟み撃ちだっ。いいな、ちゃんと俺について来いよ!」
「おおお〜〜〜、合点、お頭〜〜」
 部下の返事に大きく頷くと、バウンド達の速度があがった。
 目標は、ランスが対峙するだろう魔人。そしてランスVS魔人を見届けること。
 他の軍勢がどんな状況にあるかを知らないバウンド達は、意気揚々と行進して行く――





 時を遡ること数刻、健太郎がケイブリスと戦っている頃。
 ランスは・・・わずかな手勢を連れて、敵の中を猛突進していた。
 ランスの速度についてこれない者は、置いてゆく。後ろは見ない、振り向かない。
 ランスに、そして魔剣カオスにケイブリスの気配がビンビン伝わってくる。彼我の距離が無いこともわかる。
「雑魚がぁ、邪魔すんじゃねぇっ!」
 目の前に現れるモンスターを、
「ラーンスアターックッ!」
 ランスアタックで一掃する。
 ・・・いた、アイツだ! 奴が・・・俺様の敵っ。
 ・・・ん? あすこにいるのは何だ、人間か?
 うお、健太郎じゃないかっ。
 ヘルマン兵が死体となって埋め尽くした空間で、健太郎とケイブリスが睨み合っている。
 時折、ケイブリスの下品な笑いが轟く。
 この瞬間、ランスは完全にフリーだった。
 誰もランスに気付いていない、誰もランスをマークしていない。
「ひょ、ひょっとして・・・いきなりチャンスか? 健太郎に奴が気を取られてる隙にッ・・・よし!」
 なぜここに健太郎がいる、などと考える暇はない。
 隙があるなら隙を衝くッ。ランスは一気に剣気を高めた。
「っくぉぉぉぉぉっ」
 カオスに意識を集中する。己の気力が充填される
「よしっ、きたきたきたぁっ・・・っえ?」
 視界の端で、健太郎の気迫が猛烈に高まる! 
「な、なにぃっ?」
 日光が輝いている。その輝きは・・・ランス&カオスのそれを上回っているではないか?
「あっ!」
 ランスが不意打ちするより早く、健太郎が突進する。
「ちっ、遅れたか・・・っ」
 慌てて駆け出すランス。
 ランスの正面では、青白い魔法をケイブリスが放つ。健太郎がかわす、間髪いれずに跳躍する。
「おっ、あれは入るぞっ!」
 走りながらランスは呟いた。
 剣を振りかぶった健太郎は、完全にケイブリスを間合いに捕らえている。
 あの間合いに入られたら、ランスアタックはかわせない・・・!
 ドグォオオン
「決まったっ! や、やりやがったぁ・・・あっ」
 ランスの目の前で、最大級の『ランスアタック』が炸裂する。
 敵の顔面に、最高のタイミングで、だ。
 おそらくケイブリスの顔面は、跡形なく吹っ飛んだだろう――と、足元に何かが飛んでくる。
 物かなにかのように、ひょろひょろと何かが飛んでくる。
 トサッ。
「け、健太郎っ! 良くやった、花丸だぞっ・・・お、おい健太郎、健太郎?」
 落ちてきたのは健太郎だった。いや、健太郎の抜け殻・・・か?
 さっきまでの健太郎ではなく、もはや死をうけいれた肉体。
 ランスが駆け寄って抱き起こしたときには・・・もはや意識すらない健太郎だった。
「お・・・おい、健太郎・・・」
「美樹ちゃん・・・美樹ちゃん、ありが・・・と・・・う・・・」

 ・・・・・・・

「ラァァァンスアタァァァック!」
 伝家の宝刀『いきなりランスアタック』これが死闘の幕開けだった。
 いや、死闘に・・・なるのだろうか?
 青い剣圧が襲い掛かるが、ランスアタックの軌道上にケイブリスはいない。
 巨体に似合わぬ速度で間合いをとる。
 ケイブリスの腕が三本輝き始める。
「なんだぁ・・・また人間か? けっ、俺様に逆らうってのか」
 パァァァァ 
「うるさい、お前こそ俺様に逆らいやがってっ」
 再びカオスに輝きが。連続ランスアタックだ。
「くらえっ、ラーンスアター・・・」
「ほれ」
 ビシュッ バシュッ
 大振に剣を構えたランスに、青い光線が襲い掛かる。そのどれもが・・・速い、太い。
「ちいっ」
 辛くもランスアタックを解き、一発目は完璧にかわす。
 そして、もう一度ランスアタックの体勢を取ろうとした時、
「げっ?」
 迫り来る二本目の矢。まずい、完全に捉えられている――
「うぉぉぉっ」
 ランスは思い切り地面を蹴った。横っ飛びに跳んで避けようとするが、
「ぐあっ!」
 避けきれない、光線がランスの背中をなぞる。鎧がジュッと音を立て、消える。
 しかし・・・まだ大丈夫、ダメージは少ないはず。と、とにかくランスアタックをあてなければ――
「え?」
 何かが光って飛んで来る。ま、まさか・・・?
 ピシュゥゥゥ
 そのまさかだった。しかも、今度は三本である。
「くっ、ランスアタック!」
 避けることは不可能だ、とランスは判断した。ならばランスアタックで、少しでも威力を相殺するっ。
 ランスの剣圧とケイブリスの魔力が激突する! 
 ドガァァン
「くっ、ぐわぁぁぁっ」
 弾き飛ばされたのは・・・ランスだった。
 吹き飛ばされ、遠巻きに戦いを見ていたカイトクローンにぶつかる。
 距離にして三十メートルほども飛ばされたわけだ。
「げほっ、がはっ・・・う、うわっ」
 ランスの頭上にカイトクローンの拳が? や、やられるっ!
 と、拳を握り締めたカイトクローンが弾けとんだ。彼方から下品な叫び声が、
「おいお前達、手は出すなよ? まぁ黙ってみてるんだな、魔王様の力って奴をよぉ・・・げぇあははは!」
「くっ・・・な、なめやがって・・・」
 体が痛い。魔法の直撃ではなく、叩きつけられた衝撃による痛みだ。
 魔王の声でモンスターが引き下がる中、ランスはゆっくり起き上がった。
「へっ・・・やっぱり魔王だったんだな・・・」
 ランスにはしっかり聞こえた。確かに自分の事を『魔王』と呼んだ。
「しっかし、ちょっと見ない間に随分な状況じゃねぇか・・・?」
 辺りを見回す。正面にはうず高く積まれたヘルマン兵の死体、振り向けばモンスターの群れ。
 ランス、そして魔王をグルリと囲んでいるのは敵ばかり。
 ランスとここまで来たリーザス兵の姿はない。おそらく・・・殺されたんだろう。
 敵の中に一人。しかも、対峙しているのは魔王。
「じょ、上等だぜ。俺様が最強だってのを・・・見せ付けてやるっ」
 ランスが走り出す。怒り、屈辱が重なって、ランスのオーラが燃え上がる! 
「ちんけな虫けらのクセによ、健気だねぇ。 ・・・お? その剣・・・カオスかぁ?」
 ケイブリスの瞳に漆黒の剣が映る。噂に聞く、『魔人に傷をつける剣』に良く似た形。
「おいクソ虫、お前がもってる剣は――」
 ランスの耳にケイブリスの声は届かない。怒りに任せて跳躍する。
 健太郎の動きもはやかったけれど、ランスのスピードの方が上だ。
「話をきけってんだ、クソ虫っ」
「ラァァァンスアタァァァックッ!」
 ケイブリスの腕が振り下ろされる。そして、ランスの攻撃とぶつかった。
「ぐわぁっ。っく、この化け物がぁぁ!」
 弾かれるランスアタック。
 ケイブリスの腕に炸裂したランスアタックの反動で吹き飛ばされるランス。さっきの健太郎と同じ光景だ。
 ・・・ただし、ランスの瞳は死んでいない。
 益々熱く、燃え上がる瞳。倒れてもすぐに立ち上がり、何度でも剣を構える。
 ケイブリスの腕は・・・無傷ではなかった。
 丁度カオスが触れた場所に、一筋の傷がついている。
 ピシィッ
 ランスとケイブリスの視線がぶつかり、あたりの空気が一気に凍る。
 冷えるとか、寒気がするとか、そんな生易しいものではない。
 凍ったのだ。
「な、な、なんだ? 何だこの寒さはっ」
 ランスの体が動かない。まるで全身が凍らされたように、凍傷にかかったように。
 ケイブリスの体がゆらりと動く。動きに合わせ、更なる凍気が湧きあがる。
「傷・・・? ほほぉう、俺様に傷がねぇ。ってことは、そいつがカオスか」
「うっ、き、くそっ」
 ランスは動けない。ケイブリスが迫ってくるのに、体が言うことを聞いてくれない。
「カオスを持ってるんだよなぁ・・・? ってことはアレか、てめぇがランスとかいう馬鹿なのかぁ・・・?」
「な、なんで動けないんだっ。くそっ、こら動け、動いてくれっ」
 手が動かない、足が動かない。まるで蛇に睨まれた蛙のように、意識はあるのに体と心が別々になったように。
「こたえろぉ・・・てめぇが・・・カ、カ、カミ・・・カミーラさんを・・・」
 ケイブリスが来る。表情に変化はないけれど、さっきまでとはまるで殺気が違う。
「カミ・・・カミーラさんを・・・俺様のカミーラさんを・・・」
 ビュッ
「うごっ・・・ぐぁぁぁぁああ!」
 一閃、ケイブリスの尾が鳩尾にめり込む。砕ける鎧、爆発する内臓の音。
 ズザザザザ〜
 ランスの体はゴムマリのように飛んでいた。
 大地に叩きつけられ、もんどりうって転がる。カオスを握った手から力が抜け、
「し、しまっ・・・!」
 カオスがどこかへ飛んで行く。駄目だ、取り返しのつかないミス――。
「うあっ、くっ、げほっげほっ」
 吐血。ゴボゴボと血が溢れてくる。
「がはっ、がはぁっ・・・」
 あたりの土が真紅に染まる。
 吐血だけではない、腹にパックリと傷が開き、ダラダラと血が垂れている。
 痛いどころではない、体中が悲鳴をあげる。
「はぁっ、くぅぅ、うあぁぁ・・・」
 遠くから近づき、のたうちまわるランスを覆う影。
「こたえろぉ・・カミーラさんをやったのは・・・」
 腕を伸ばし、ランスを鷲掴みに持ち上げる。そして・・・頭から地面に叩きつける。
「うっぎゃぁぁぁぁっ!」
 アバラが折れた。肩甲骨も折れた。首にも激しい痛みがある。悲鳴を叫ぶしか出来ない。
「はぁっはぁっはぁっ・・・」
 全身を覆う冷気で動きを封じられ、体中の骨が折れ、体を守る鎧も、魔人を斬る剣もない。
 ただただ、無様に痛みに耐えるランス・・・けれど、目だけは死んでいない。
 ランスの目に宿る炎は、益々盛んに燃え上がる。
 けれど、いくら気力があっても、骨が折れた体は動かない。
 陸に打ち上げられた魚のように、ジタジタと体をくねらせるランスに伸ばされる腕。
 ギリッと爪をたて、再びランスをもちあげると、ケイブリスは顔の前にランスを持ってきた。
 爪が手足に食い込んで、更なる苦痛をランスにもたらす。寒すぎる声が聞こえる。
「カミーラさんをやったのは・・・」
「し、しつこいぜ・・・はぁはぁ・・・カ、カミーラカミーラってよ・・・」
 痛みを必死にこらえ、ランスは口を開いた。
 もはや、ランスの自由になる器官は目と口しかない。こうなったら自棄だ――。
「はぁっはぁっ・・・そうさ、俺様がぶっ殺したんだよっ・・・」
「・・っ!」
「へ、へへへ。いいか、殺しただけじゃないぜ・・・?
 殺す前に・・・はぁはぁ・・・一発決めてやったさ。
 へ、へへへ・・・。け、結構気持ち、良かったぞ」
「・・・」
「て、てめぇはアイツと・・・はぁはぁ・・・したこと無いだろ? 俺様は・・・しっかり中出し・・・ぐわぁっ!」
 ケイブリスの爪が深々と腹に突き刺さる。
「うわぁぁぁぁ!」
 叫ぶランス、耐えられない痛みだ。体の中に異物が進入する。
「虫けらが・・・」
 残り五本のうち四本の腕が伸びてきて、それぞれがランスの右手、左手、右足、左足をつまんだ。
 ポキッ
 右足が逆向きに曲がる。
「ぐぅぅぅぅ」
「さて・・・次はどこがいい? リクエストはあるかぁ?」
 コキッ
 左手の上腕骨が肉から飛び出す。
「っっっ――」
 ここまでされて、気を失わない人間がいるだろうか?
 けれど、ランスの精神力は激痛を受け止める。受け止めはするが――それでも痛みにぼぉ〜っとなる。
 メキッ
 右手が。
「てめぇは・・・楽には殺してやらねぇぞ」
 ぺキッ
 左足が嫌な音を。
「そうだなぁ・・・カミーラさんの百倍・・・いや、一億倍は苦しめてやるぞぉ・・・」
「ぐぁっ――」
 手足を尽く破壊すると、ケイブリスはランスの手足を解放した。首だけをつまみ挙げ、高々と持ち上げる。
 グイィィィ
「ぐっ」
 ランスの体についた爪の後が痛々しい。
 わき腹と胸に、一際大きな穴が開いていて、そこから血が溢れている。
 加えて腹の傷。傷の向こうに見えるのは小腸だろうか?
 目は閉じ、ただ粗い息遣いだけがする。けれど、その息遣いすらどんどん小さくなっている。
 手足がダラリと垂れ下がり、もはや動く気配すらない。
「・・・」
 軽蔑しきった瞳でランスを見上げると、ケイブリスは魔法を唱え始めた。
 なにやら黒々した気が、ケイブリスの頭上に凝縮される。
 暗黒の魔法球はしだいに大きくなってゆき、次第に球状からアメーバ状へと変化する。
 どんどんと大きさは増してゆき・・・今度は一転して小さくなる。
 広がった煙が凝縮するように、直径一メートルほどの球状になる。
「どうせじきに死ぬんだがな・・・死ぬまでたっぷり苦しませてやるぜぇ・・・」
 そう呟くと、ケイブリスは腕をゆっくり下ろした。
 腕に合わせて真っ黒な塊が下降を始め―――ランスの体を包み込んだ。





 ・・・あとがき・・・
 十三話です。
 暗いです。ランスも・・・やられたい放題です。
 まぁ、予想通りの展開とったところでしょうか。魔王は強いのです、ケイブリス最強!
 ボロボロかつカオスもないランスがどうやって魔王と戦うのか!(戦えるかっちゅ―ねん) 








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