魔王ケイブリス 第一章 『魔王大地に立つ』







 十九話 リーザス城、血に染めて




―――スードリ戦争から二日後――― 
 リアの部屋。埃が舞い、カーテンが引きちぎられている。
 名画『夢そして天そば』が床に転がり、無残にも真っ二つだ。
 あらゆる家具が元の配置から倒れ、部屋中に白い埃が舞っている。
「マリスどいてよっ! リアはダーリンの所へいくんだからっ」
「リア様落ち着いて下さいっ・・・」
 ドアの前で揉み合う二人。部屋から駆け出そうとするリア、圧し戻すマリス。


――――――
 『ランス王の報告があります』と切り出したマリス、最初こそニコニコと耳を傾けていたリアだったが――。
 『馬鹿、嘘つき! マリスなんか嫌いっ!』
 リアの笑顔が泣き顔に変わるまで、左程時間はかからなかった。
 枕が飛ぶ、花瓶を床に叩きつける、ありとあらゆるものを投げつける。
 『ダ、ダーリンは無敵なのよっ? 負けるなんてありえないんだからっ・・・』
 小さな両足をクイと踏ん張り、両手をペンギンのように後ろへ反らす。
 両目に涙を湛え、キーキーと喚くリア。マリスはといえば、ギュッと手を握り締めつつ話を続ける。
 リーザス軍全滅の事実、ランス敗北の確定――そして、ランス死亡。
 マリスが、『ランス王が生きている可能性は極めて低いものです。死んだと考えるのが妥当でしょう』といった瞬間、
 それまでマリスを睨んでいた瞳が青くなった。
 『え・・・?』
 話し続ける。いつか話さなければならない事実、昨日は話せなかったけれど、隠してはいけない。
 『マリス・・・?』
 正直に話す。戦場の様子、魔物に囲まれ無傷で現れた魔人。
 緑軍はランスの側にいなく、一人で魔人に突っ込んだランス。
 そして、ランスは帰ってこなかったという事実。
 『・・・』
 さっきまで大暴れに暴れていたのが嘘の様。殺気の籠もった瞳が嘘の様。
 ポカンと小さく口を開いたまま、惚けている。
 『・・・』
 込み上げるものをグッと堪え、マリスは続けた。
 ランスがいない現在、もはや魔人と戦えない。戦えない以上、降伏しかないだろう。
 けれど、リアが王女として幸せに暮らせるよう事態を纏めるから安心して欲しい、と。
 『・・・ッ』
 マリスが全て言い尽くしたとき、リアは走り出していた。
 慌てて行くてを阻むが、突き飛ばすようにリアがドアに駆け寄った。そして今に至る。
――――――
 

「ダーリンに会いに行くの! だからそこをどいてよっ」
「ですからっ・・・ランス王の事情は先刻話した通りで――」
 パチンッ
 リアの小さな手がマリスの左頬にとんだ。
「な、なによ嘘ばっかりついてっ。ダーリンがいなくなるなんて、絶対おかしいんだからっ」
「リア様・・・」
「だ、ダーリンはリアのお婿さんよ? 二人で一緒にお爺ちゃんとお婆ちゃんになるの!」
「・・・」
 ギュッと唇をかみ締め、視線を落とす。
「マ、マリスは知らないのよ・・・。
 ど、どれだけダーリンが強くて凄いか知らないから、かなみの言うことなんか信じるの」
「・・・ぁ」
 ツ――
 リアの口元から血が。犬歯が厚い皮膚に喰いこみ、そこから一筋の流れが生まれる。
「リアは違うわ。リアは・・・リアはダーリンを知ってる。
 だって、ダーリンの・・・ダーリンのお嫁さんなのよ?」
 血が細い顎に、赤い線を彩る。
「せ、世界で一番ダーリンのこと知ってるの、だから解るの! ダーリンはリアを待ってるんだから!」
 キッと顔をあげ、叫ぶ。
「ダーリンはやられたりしないんだからっ! リアを置いて、どこかにいったりしないんだから――っ」
 その時だった。それまでリアを見下ろしていたマリスの顔が、スーッとリアに近づいてきて、
 ペロ
「――っ?」
 そっと舌が伸ばされ、流れた血を掬い取る。
 歯を食いしばっていた力が抜け、くるまっていた下唇が解かれる。
 チュプ・・・
 ツツと舌が這い上がり、リアの小さな唇へ。マリスの舌が差し込まれ、破れた唇を優しく包む。
 キュッとマリスが身体を合わせ、背中へそろりと手が回される。
「・・・」
 しばらくの間、リアは為すがままになっていた。
 マリスに抱きしめられ、マリスに舌を差し込まれ、口元を舐め取られる。
 ずっと強張らせていた体の力を抜き、リただ目だけは開いていた。
 マリスも目を閉じようとはしない。見詰め合う二人。
「・・・」
 温もりを感じながら、リアは目の前の瞳をジッと見つめていた。
 暖かい・・・と思う。何も体温が直に伝わってくるからではなく、空気が暖かい。マリスの瞳が温かい。
 普段は無表情で冷たい瞳しか見せないクセに、キスのときだけ優しい目になる。
 けれど、いまリアに移る瞳は、今までで一番優しいような・・・。
 いや、これと同じ光景がかつてあった。
 あれは・・・そう、リアがまだ十歳だから・・・もう十年以上前だ。
 大事な、リアのたった一人のお友達が死んだ時だ。
 王女として厳しく躾けられ、気の許せるにんげんが周囲に誰もいない中、
 いつでもリアを待っててくれた緑の友達。
 メイドや使用人のようにリアを特別扱いすることなく、素直にじゃれてくれた緑の友達。
 大切なイグアナが、メイドの不手際でリアを置いていったときだ。
 メイドを八つ裂きにし、血の海で泣きじゃくるリアを抱きしめてくれた一人のメイド。
 それがマリス。あの時のマリス、今と同じ目をしている――。
 リアの口の中に、唾液のほのかな香りと鉄の味が広がる。
 リアは思う。そういえば、十年前のキスも、血の味がしたっけ、と。
 そう思ったとき、リアの身体が動いていた。
 それまでは呆然と身をゆだねていたのが、身体ごとマリスにぶつかってゆく。
 ダラリと垂れた手をマリスの首に回し、自分から舌を絡め合う。
 リアが目を閉じた様を見届けると、マリスもそっと目を閉じた。
「うぅぅ〜〜!」
 互いが限界まで肉芽を伸ばし、口腔の奥を擦る。顔と顔が交差する。
 知らぬ間に、リアは激しくマリスの口を吸っていた。
 ツツと唾液が絡められるたび、甘露のように吸い込むリア。
 マリスの薫りが・・・世界で二番目に好きな香りが、いつでもリアの側に漂う香りが、十二分にリアを包む。
 マリスの薫り、それは心が安らぐ匂い。どんなときでも自分を受け止めてくれる存在の証。
「〜〜・・・?」
 口の中に、鉄に加えてほんのり辛い味が?
 リアの舌は、それまでと違う感覚を捉えていた。先端の味覚芽に、確かに違和感がある。鉄の違和感じゃない。
「・・・!」
 ソッと目を開けたリア。瞳が捉えたものは・・・濡れたマリスの顔だった。
 両目尻から流れ落ちる二筋の流れ。目から流れ出すものなど涙以外に存在しない。
 ということは・・・?
「・・・」
 マリスが、マリスが泣いている?
 先刻『ランスが負けた』と聞いた時に劣らない程大きな衝撃。見たことが無い光景だ。
 笑い顔すら一年に一度程度しか見せないマリスが、
 どんな事態でも表情を崩さないマリスが、マリスが泣いている――。
「・・・」
 リアの頭の中では、いろいろな感情が混沌と渦を巻いていた。
 どうしてマリスがなくのか?
 マリス?
 え?
 ダーリンに関係あるの?
 さっきの言葉に関係あるの・・・?
 もしかして・・・マリスも怖いの?
   解らない。けど、もしもマリスが怯えているのなら、それは要らない心配だ。
 だってランスは死んだりしない。絶対の存在なのだから。
 チュァ
 腕の力を緩め、リアはそっと口を離した。ツゥと唾液が糸を引くが、構わず顔を持ち上げる。
 ペロ
「・・・ぁ」
 マリスが小さく喘ぐ。リアがマリスの頬に舌を這わせ、濡れた跡に柔らかい感触が走ったからだ。
「リア様?」
「マリス、大丈夫。ダーリンは帰ってくるわ」
「あ」
 リアが身体を持たせかけると、あっけないくらい簡単に仰向けに倒れるマリス。
 そのまま覆うように体を被せる。
「マリス・・・」
「リア様・・・」
 リアはマリスを見下ろし、マリスはリアを見上げていた。
 いままでに何度となく繰り返させてきた光景。最初はリアの性奴隷として、次はリアの侍女として。
 そして・・・いつしか母親として。マリスはリアを受け止め続けた。
 マリスがリアを求めるのではなく、リアが求めるから自分の体を与える。
 与えるだけで何物も求めない無償の愛。それがマリスがリアへ向ける愛だった。
 けれど、初めて思う。
 マリスは・・・リアに抱かれたい。リアが許してくれるなら、リアを抱きしめていたい。
 もしかしたら、もう二度とリアを感じられないかもしれない。
 そうなる前に、自分の意思でリアを感じたい――。
「・・・」
 言いたい。『リアを抱きたい』と、自分からリアに訴えたい。
 けれど、そんなことが出来るわけが無いのだ。マリスはリアの侍女であり、リアと同格でないのだから。
 一瞬眉をひそめはしたが、マリスは普段の顔つきに戻った。
「マリス・・・安心させたげる」
「え・・・?」
 リアの顔が降りてくる。シュルリと衣擦れが。はだけるリアの胸元。柔らかな桃色がポロリと零れて、
「こうしたら・・・安心するんだから・・・」
 天使の微笑みを浮かべながら、リアの顔が降りてくる。体が触れ合い、マリスにきめ細かい肌が触れる。
「あっ・・・」
 夢じゃない。この感覚は、余りにもリアル。リアが、優しく笑いながら自分を抱いてくれる・・・? 
 時には鞭と蝋燭を片手にマリスを嬲り、時にはディルドォでマリスを貫いた。
 性器をこすり付ける為だけにマリスを利用したこともある。
 人肌恋しさゆえに、抱き枕のようにマリスを抱きしめた事もある。
 リアとマリスの情事は、いつでもリアの欲望を満たす手段だった。
 マリスに否やはなかったけれど、マリスのためにリアが体を重ねることなど・・・ありえなかった。
 それが、どうだろう?
 違う、この接吻はリアの欲するものじゃない。マリスが、マリスが心から欲しいもの。
 マリスのためにリアが与える慈愛のベーゼ。
 リアが先に目を閉じた。小さく真っ赤な唇が、薄く、そして淡く開かれる。
「リア様・・・」
 そして、マリスも目を閉じた。
 吐息が感じられる。柑橘の果てしなく甘い薫りがマリスに降り注ぐ。香りはどんどん甘くなる。
 ツ
 唇と唇が触れ合うだけの、まるで乙女がかわすかのような。
 純情を絵にかいて、純白のキャンバスに飾ったような。
「・・・」
 マリスの閉じた瞳から、一筋の雫が、流れた。





―――同日、夕刻―――
 リーザス城、エレノア・ランの部屋。
 出撃命令を受け、身支度しているランがいた。彼女に与えられた指令は、
 『ラン隊400、志津香隊400は、ミリ隊1000と共にスケール防衛に当たれ』
 というもの。同時に、
 『マリア隊450、ミル隊は、ハウレーン隊1500と共にマウネス防衛に当たれ』
 という命令もでている。
 使者がひとしきりさった王座の間で、マリスから有無を言わさず言い渡された指令だった。
「スケール防衛って・・・相手は魔物よ? どうしたって勝てないのに、防衛だなんて」
 けれど、どうしようもない。なんだかんだいっても自分はリーザス軍人なのだ。
 命令は絶対。しかし、それだけではない。
「誰かが魔物を止めないと・・・いけないんだよね。だったら、私だって頑張らないといけない」
 前向きな言葉。けれど、仕草と言葉が正反対だ。
 肩は震えているし、目には涙が滲んでいる。ランはそんな女性だった。
 素直に感情を人前に出せない。常に自分を押し殺し、何もかもを抱え込む。
「しょうがないよね。私は将軍なんだから、怖いのも逃げたいのも・・・我慢しなくちゃ」
 そろそろ兵士の集合時刻三十分前だ。
 将軍たるもの真っ先に予定地に立ち、部下の範足らねばならない。
「しかたないもの・・・。そう、しかたないの」
 俯いてソット溜息を漏らし、部屋を出ようとしたときだった。
 トントン
「ラン将軍はいらっしゃいますか?」
「えっ? あ、ど、どなたですか?」
 男の声に驚くラン。
 この部屋を尋ねてくるのは、ミリ、マリアといったカスタムの女性ばかり。
 唯一やってくる男がランスだった。ランス以外の男性がランの部屋を訪れたことは無い。
「失礼、エクスです。少しよろしいでしょうか?」
「エクス将軍・・・? ど、どうぞお入りください」
 確かに聞き覚えのある声だった。
 言われてみるとエクスの声、ランは扉に駆け寄るってカチャリと鍵を開いた。
「お忙しいところ、申し訳ありませんね」
 二コリ。明るい笑顔で、躊躇なく部屋に踏み込む。
「い、いえ・・・?」
 そんなエクスに、ランは少し戸惑っていた。
 昨日まで何度となく広間で見かけた顔では、ない。
 深刻な、それでいて疲労した顔つきではなく、どこか突き抜けた笑顔だった。
「あ、あの、どういった用件でしょうか?
 そろそろ軍の集合時間なので、出発しようと思っていたんですが」
「・・・その件ですが・・・目的地を変更して欲しいのです」
 笑顔が影を潜め、ランの見慣れたエクスがいた。
「・・・え?」
「先程貴方に下された命令では、『スケール防衛』とのことでしたね?」
「え、ええ」
「スケールではなく・・・『カスタム防衛』に出向いて頂けませんか」
「えっ?」
 ランは自分の耳を疑った。自分が正式に下された命令とまったく違った内容、しかも方角が正反対だ。
 『マウネス防衛』に出向けというなら話はわかる。それを・・・『カスタム防衛』とは?
「エクス将軍・・・どうも、何をおっしゃっているかわからないのですが・・・」
「いえ、言葉通りの意味ですよ」
「・・・どういうことか、説明願います」
 ランに映ったエクスは、真剣そのものの表情だった。決して冗談や出鱈目を吹いているのではない。
「そのつもりです」
 クイと眼鏡を直し、エクスはランが差し出した椅子に腰を下ろした。
「まず・・・最初にハッキリさせておきますが、もはやリーザスに戦う意味はありません」
「えっ? で、ですが現に先程、防衛の指令が・・・!」
 エクスはうろたえるランを目で押さえた。
「戦うとは、勝つ目算があってはじめて意味を持ちます。
 現在リーザスに魔人を倒す手段が無いことはお分かりでしょう?」
「それは・・・そうです」
 静かな口調だった。エクスの冷静な言葉に、ランもつい本心で答えてしまう。
 心の中では、ランだって勝てないと思っているのだ。戦う意味はないと気づいているのだ。
「なら、どうしてスケールへ行けなどと命令が出たのです?」
「・・・あくまで魔物を食い止めるならば、山脈という狭い区域で防衛するのが王道でしょう?
 たとえ無駄な足掻きであっても、それが最善の策なのです。
 今の我々が取りうる最善の策が『無駄な足掻き』というのは・・・ふふふ・・・自嘲に値しますね」
 乾いた笑い。
「もはやリーザスに拘ることに意味はありません。リーザスのために戦うことに、意味は無いのです」
 エクスの頭にリアとマリスが浮かぶ。
 思う。マリス、貴方があくまでリア様に忠誠を誓うなら、私は別の道を進ませていただきます。
 魔物に屈する道ではなく、自分達の尊厳を守る道をね・・・。
「本当に戦うべき時、それは勝つ可能性が見出せた時です」
 脳裏に浮かんだ女性を覆い隠し、目の前の女性に集中する。
「具体的な事は何もいえません。
 勝つ可能性など、金輪際現れないかもしれないのです。けれど、誰も未来のことは解らない」
 ここからが本題だ。
「私は、将来魔人に対抗できるようになる、そう信じています。
 その時に立ち上がれる軍隊を、どこかに託しておきたいのです」
 キッとランを見上げる。そんなエクスからは、嘘や誤魔化しの空気は払拭されていた。
 すくなくとも、ランに偽りは見て取れない。
「カスタムの皆さんはリーザス軍人ではありますが、それ以前にカスタム市民です。
 ・・・我々のようにリーザスと滅亡を共にする義理はないでしょう?
 まして、負けると決まった戦いで命を落とす必要などありません。皆さんはカスタムヘ――」
「それは将軍一人の考えではありませんか?」
 堪りかねた様にして、エレノア・ランが身を乗り出す。エクスに向けられる厳しい眼差し、詰問する口調。
「・・・その通りです。リア王女や、マリス殿の了解は得ていません」
「将軍ともあろう人間が、国への裏切りを薦めるんですか?」
「・・・ふふふ、裏切りですか? 確かに裏切りです、リーザス王女に対しては、ね」
 思わず苦笑するエクスだった。気の弱い女性と聞いていたけれど、なかなか厳しいことを言う。
 『裏切り』などというキツイ表現は予想していなかった。
「考えてみてください。リーザスはランス王のもと人類圏を統一しました。
 そんな我々に課せられた責任は、ただリーザスを守ることなのですか?」
「えっ?」
 この手の言い回しが、エクスは得意ではないし好きでもない。もちろん本音でもない。
「違います。我々の責任・・・即ち貴方の責任は、人類を魔物から守ることです。
 人々が怯えることなく暮らせる日々を、守ることです」
「・・・」
「残念ですが、魔物から守ることはできませんでした。
 ならば・・・せめて将来に芽を残すのが、貴方の責任なのではありませんか?
 リーザスが防衛に終始した挙句滅んだ場合、人類に再起の芽が残りますか?」 
「そ、それは・・・」
 ランは目を逸らした。
「大きな視野を持ってください。リーザス一国ではなく、人類に目を向けてください。責任は」
エクスは小さく息を吸った。
「私が持ちます。貴方達がカスタムに無事入れるように取り計らいます」
「・・・ミリや、マリアはなんと言ってるんですか?」
 視線を逸らしたまま、ランは尋ねた。
「既に了承を得ています。残るは貴方一人」
 ランの部屋を訪れる前に、エクスが訪れた部屋。
 マリアと志津香には、すでに了解を取り付けてある。
 ミリ、ミル、シィルはハウレーンが説得する手筈になっているが、おそらくミル達も了解しているだろう。
「・・・そうですか」
「ラン将軍・・・いえ、カスタム都市長エレノア・ランさん。
 人々が安らかに暮らす未来のため、カスタムへ行ってくれますね?」
「・・・」
「行ってくれますね?」
 椅子から立ち上がり、ポンと肩を叩く。と、ランの口が動いた。
「エクス将軍はどうなさるんですか?」
「私ですか? 私は――」
 ちょっとだけ考える。実は、まだ自分がどうするかは考えていない。
 ラン達と共にリーザスを去ることも考えては見たが、しっくりこない。
 ランスならエクスにどう命令するか?
 おそらく、マリスやリアも助けた上でカスタムへ逃げろという気がする。
「私はリーザスを最後まで見届けます。その上で、カスタムに逃げ込ませていただけますか?」
 ニッコリ
 ランの口ぶりからして、説得の手ごたえを感じていた。ランがエクスを見据える。
「わかりました。カスタムの防衛にゆきます」
 エクスが頷く。
「将軍も・・・お体に気をつけてください」
「・・・ええ。では、私はこれで失礼しますが、何か質問などありますか?」
 ヒョイと肩をすくめて見る。
「いえ、特には」
「解りました。それでは、またいずれお会いしましょう。失礼」



 ペコリと辞儀を残し、エクスはランの部屋を後にした。
 丁寧にドアを閉め、廊下に出たところで眼鏡をずり上げる。
 どんよりと顔が曇り、先刻の朗らかさに翳りが。
 エクスは自分がついさっきまでいた場所を振り返ると、
「まぁ奇麗事を言ったところで、裏切りに変わりはないんですが・・・」
 小さく首を振ったのだった。





 ・・・あとがき・・・
 十九話です。
 各キャラ、特にエクスの思考に苦労しています。
 あと、次第に当初のあらすじから離れてきているな・・・と感じます。
 実は、リックは戦闘で死ぬ予定だったり、ランが自分の判断でカスタムへ向かう予定だったりしてました。
 予定は所詮、未定なんですね。(冬彦)










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