魔王ケイブリス 第一章 『魔王大地に立つ』







  七話 ランス破壊命令



 戦いの朝、太陽が地平に顔を出してすぐの頃。場所はラング・バウ、健太郎の部屋。
 朝日に目を覚ました聖刀日光が主の姿を探した時、既に健太郎の姿はなかった。
「まさか・・・この期に及んで逃げ出した?」
 一瞬哀しい想像が頭をよぎり、
 キィィィン
日光は刀型から人型に変化する。
「いや、痩せても枯れても健太郎様。左様なことは・・・」
 ないと信じたい。けれど、ここ数日――特に、ランスに殴られてから――の健太郎は、以前にまして活力がなかった。
 ただ、回復の兆しがないことは決してない。
 
昨日の夜のことだった。作戦協議の内容を知らせに、リック・アディスンが健太郎の部屋を訪れていた。
「・・・以上が協議の概略です。作戦の格子は、敵魔人を倒すこと。そのためには、健太郎殿の力が必要です」
「我々がここで止めなければ、誰も魔人を止められないでしょう」
「健太郎殿には、魔人と戦う力があります。魔人と命のやり取りが出来ます。
 ・・・その気になれば、仇を自らとることも出来る」
「・・・明日朝八時に、ラング・バウの南で最終編成があります。私ももちろんですが、ランス王が貴方を待っています。
 ・・・もしかしたら、美樹殿もどこかで待っているかもしれません。では、明日」
 終始無言の健太郎に、リックは静かに語ってくれた。唇を噛み閉める健太郎。
 リックが部屋を後にしたとき、健太郎の拳は強く握られていた。目はギュッと瞑っていた。
 一日中ぼ〜っと辺りを眺めていた健太郎とは、どこか違ってはいた・・・

「一体どこに? ともかく外に出るか・・・?」
 ヒュウッ
 風が中に入り込んだ。と、カーテンが揺らめき、ベランダから影が部屋に踏み込む。健太郎だった。
「おはよう、日光さん」
「健太郎様・・・」
「長いこと・・・心配かけちゃったね。でも・・・もう大丈夫」
 昨日までの健太郎ではなかった。決して見せなかった笑顔で、
「いろいろ考えて・・・なんにもできなかったんだ・・・。
 自分が何をすればいいのかも、悔しいけれど、解らなかった」

 ゾクゥッ

 日光の背中を氷のように冷たい何かが貫く。
 それは、目の前の温和に笑う少年から放たれた何か。
 健太郎の笑いは、確かに優しげな表情ではあった。
 けれど、乾ききっていた。なんというか、水気の一切ない、雪原のような笑い。
「今だって・・・解ったりしちゃいないよ・・・ だけど、これだけはいえるんだよね」
 少し息を吸う。笑みが薄くなる。
「・・・魔人は・・・許さない・・・ 僕の手で・・・僕の手で殺されるべきなんだ・・・」
 凄惨な微笑みだった。それはまるで・・・1500年前に家族を皆殺しにされた少女の微笑みのようだった。
「僕はもう逃げない。 ・・・リーザスもヘルマンも関係ない。ただ、魔人だけは許さないっ!」
 吐き捨てるように叫んだ。そんな健太郎を、日光はジッと見つめていた。
「いこう・・・日光さん」
「はい、健太郎様。 ・・・もう何も言いません。よく心を決めてくれましたね」
 キィィィィン
 日光の身体がまばゆい光に包まれ、光が消えた後には、一振りの刀が落ちていた。
 そっと手を伸ばす健太郎。ふと、昔の感情を思い出す。
 
日光が怖い時があった。
 魔人から逃げ出したい時があった。
 魔人を斬る刀、何故そんなものを自分が握っているのか。
 誰かに押し付けられれば楽なのに。
 けれど、この刀があるから美樹ちゃんが守れる。
 美樹ちゃんは僕が守る! 
 だから、僕は日光を手にするんだ・・・

 健太郎の横に美樹はいない。以前の健太郎なら、もう日光を手にしなかったかもしれない。
 しかし、もはや悩みは存在しなかった。
 ガシッ
 力強く握り締め、腰に挿す。
「・・・いきましょう」
 キッと眼を開き、健太郎は部屋をでた。そして、戦いの場所へと向かっていった。





 ラング・バウでリーザス・ヘルマン連合軍が迎撃体勢を整えている頃、パルナスからスードリ17へと続く平原。
「リス様、川にゃん! 冷たそうだにゃん」
「ほんとな〜のねぇ〜。寒そ〜なのねぇ〜」
 のほほんとした声。戦闘の緊張感を台無しにする声だ。
「けっ、川がどうしたってんだ! それになぁ、『リス様』ってぇのはやめろっつたろ?
 これからは『魔王様』だ! ぐはぁはぁはぁ!」
 低い濁声。
「でもでも濡れるのは寒いにゃん。寒いのは嫌にゃん!」
「あったかいほうがいいのねぇ〜」
 のほほんとした声。にゃんにゃん使徒・ケイブニャンと、わんわん使途・ケイブワン。
「けっ、俺様の使徒のくせに、誰に似たんだかよぉ・・・ とにかく真っ直ぐ進むぞ! 人間どもを皆殺しだぁ」
 低い濁声。ケイブニャンとケイブワンの主人たる魔人・ケイブリス・・・だった存在。
 六本の腕と八本の生殖器をもつ醜悪な魔人・・・だった存在。
 確かに腕は六本あるし、生殖器も八本ある。けれど、容姿が決定的に違う。
 銀髪を風になびかせる物憂げな瞳、両肩から派生した人型の突起。
 下品な物言いを補って余りある気品が、上半身を覆っている。(下半身は下品そのもの)
 ・・・そう、もはや魔人を超越した生命体へと昇華しきったケイブリス。

 魔王は存在した。覚醒していない少女ではない。
  魔王。魔王。魔王。魔王。魔王。
  ケイブリスは魔王になった。それはあっけないほどに簡単なことだった。
  目の前に少女がいる。
  気を失っている。生きている。
  けれど、これから死ぬ。
  少女のこめかみが動く。ゆっくりと瞼が上がる。
  ・・・そして、ゆっくり閉じた。もう二度と開くことはない。
 魔王ケイブリス誕生の瞬間だった・・・



 ケイブリスから少し離れた場所。サテラとシーザーが歩いていた。時折聞こえるケイブリスの濁声が頭をかき回す。
「サテラサマ、ダイジョウブデスカ?」
「・・・うん。ありがとシーザー」
「カオイロワルイ。シーザーノカタニノッテクダサイ」
 シーザーはサテラの前に回りこむ。けれど、サテラは暗い顔で首を振った。
 いま、サテラは魔物に紛れ込むようにして歩いている。そのわけは、ケイブリスの視界に入りたくないため。
「いいの。このままでいい」
 シーザーの肩はサテラの特等席。サテラが一番落ち着ける場所。
 けれど、そんなことをすれば、ケイブリスの目に留まってしまう。それだけは避けたい。
 四日前からこのかた、ケイブリスに嬲られ続けたサテラだった。
 番裏の砦からケイブリスの元へゆき、絶対服従を誓ったサテラ。
 魔王となったケイブリスの前に跪き、忠誠を誓う。そして・・・要求される『服従の証』。
 それ以来、何かにつけてサテラはいじめられてきた。
 八本の生殖器を捻じ込まれる。
 自分の体内で散々暴れた八本の触手を、己の体液にまみれたそれを、舐めさせられる。
 耐えられない屈辱、けれどサテラは逆らえない。
 すぐにでも逃げ出したい気持ちだった。
 けれど、ケイブリスは言った。
 『お前もリーザス攻めに加われ。俺様と一緒に来るんだ! げぇあっはっはぁ!』
 ・・・魔王の命令には逆らえない。絶対に、だ。
 サテラの上空には、悠然と飛ぶメガラスの姿があった。
 サテラと違って、リーザスにいた頃とさほど変らない。無表情で、何も言わず、淡々と空を飛ぶ。
 新しく生まれた魔王に、どのような評価をくだしているのか、推し量ることも出来ない。

 

 ザッパーン
 ケイブリスの巨体が水しぶきをあげる。魔物の群れが、ケイブリスを取り巻くように入水する。
「待ってろぉ、人間のクズどもがぁ・・・ 俺様じきじきに・・・苦しみってやつを味あわせてやるぜぇ」
 バシャバシャバシャ
 魔物の群れが川を渡る。そんな一団の数十メートル後ろ、
 パチャパチャ
「ふみ〜。寒いにゃん、冷たいにゃん!」
「リス様速いのね〜。わたしたち置いてっちゃうのね〜」
「なんでわざわざ川に入るにゃん? あっちに橋が架かってるのに、リス様頭悪いにゃん!」
 魔物の渡河地点から二キロほど下ったところに、しっかりした橋が架かっている。
 ちょっと回り道をすれば、濡れずに済むのだ。けれど、ケイブリスは直進を止めようとしない。
 橋をとケイブリスを交互に見やりながら、
「リス様やる気出しすぎにゃん。ケチンボカミーラが殺されたからって、どって事ないにゃん〜」
 ぶつぶつ文句を言う。当然、ケイブリスに聞こえないことを計算に入れて。
「でも、リス様泣いてたの〜ね〜。ワンも、釣られて泣いちゃったのね〜」
「ニャンもちょっとだけ泣いたにゃん。でも、ケチンボだから殺されて当然にゃん!」
「なのね〜」
 ケイブリスが自分の使徒から『魔王様』と呼ばれるには、まだまだ時間がかかりそうだ・・・


 魔物軍、通称ケイブリス魔王軍。
 魔王ケイブリスと二人の魔人、二人の使徒。加えて2万5000からなる魔物の群れ。
 これが、ランスがこれから戦う相手の戦力。
 ケイブリスを先頭に進軍する軍団は、確実にランスとの距離を縮めてゆく。




 
 朝日が大分地平から離れ、北国に陽光が差し込む中、人類最大の軍勢があった。
 ラング・バウから平原を南進、目指すはスードリ平原、二つの河に挟まれた大平原だ。
 軍の先頭を行くのは、真っ赤に塗られた一団。リック率いるリーザス赤の軍。
 少し下がった位置には鋼鉄兵からなるヘルマン装甲兵、将軍はレリューコフだ。
 続いてリーザス緑の軍、言わずと知れたランス直属部隊だ。
 パットン、ハンティ達もいる。先日ラング・バウに集った面々が、引き締まった顔で揃い踏みだ。
 そしてもう一人。ただ前だけ見つめる健太郎がいた。
 軍編成場所に現れた健太郎を迎えた反応はまちまちだった。黙って肩を叩くもの、驚くもの、喜ぶもの・・・
 ただ、リックとランスだけは、何事もないような顔をしていた。健太郎には、それが嬉しかった。

 ラング・バウを出発して、一時間ほど経った。
「馬鹿が、やっと起きてきやがって」
 うし車の中から前衛を歩く健太郎隊を一瞥すると、ランスはそっと呟いた。
 別に健太郎が引き篭もろうが自滅しようが、どうでもいい。
 ただ、今度の戦いでは、健太郎のようなスカタンの力も必要なのだ。
「さぁーて、あとは魔物軍にぶつかって、と。
 俺様が魔人を見つけて・・・あれ、そういや魔人の特徴ってなんだっけ・・・?」
 昨日の協議において、ちゃぁんとフリークは解説していた。
 人型の上半身と、やたら突起物の多い下半身からなる魔人だ、と。ランスが聞いていなかっただけだ。
「まぁいい。もうじきかなみが帰ってくるからな・・・ かなみに聞けばいいだろ」
 昨夜、ランスはかなみを偵察に出していた。
 ヘルマンはヘルマンで独自の調査網を持っているようだが、かなみのほうが信頼できる。
 命令は『魔物軍の位置、魔人の配置を調べた上で明日の朝戻って来い』というもの。
ポツポツ・・・
「ん・・・? 雨か・・・?」
 ランスは冷たいものを顔に感じ、空を見上げた。
 朝は良い天気だったけれど、いつの間にか雲が出ている。空から落ちてくる細い糸。
 ポツポツ・・・
「ちっ、降りだしやがったか・・・」
 嫌な感じだ。雲が出てくれば、それだけ視界が悪くなる。魔人の位置を特定しにくくなる。
 まだまだ小雨の域を出ず、雲もそれほど出てはいない。けれど、これから悪化しそうな雰囲気だ。
「ふんっ」
 ランスが鼻息と共に地面を蹴飛ばした時、背後に人の気配がした。
「かなみか?」
「ええ。偵察に行ってきたわよ」
 跪く忍者、見当かなみがそこにいた。
「おう。さっさと報告しろ」
 振り向きもせず、ランスはかなみを促した。
「うん。魔物軍は、パルナス河の渡河にかかったわ。多分、もうじき渡りきるわね」
「ふん」
「それと、魔人の件だけど・・・」
 と、かなみが止まった。
「どうした、後を続けろ」
「・・・ええ。サテラさんとメガラスさんを魔物軍の中に確認したわ」
「・・・間違いないのか?」
「間違いない」
「そうか。で、もう一人魔人がいただろ?」
 俯いて悔しそうに話すかなみと対照的に、平然とランスは応えた。
「えっ・・・ ランス?」
「ん?」
「お、驚かないの? だって、サテラさんとメガラスさんだよ? いままで一緒に戦ってきたのに・・・」
 魔物の群れの中に魔人サテラを見つけ、空高くにメガラスの影を発見した時、かなみは少なからずショックだった。
 将軍達の口ぶりから、サテラ達が裏切ったらしいとは思っていた。
 けれど、いざ現実を突きつけられたとき、心が暗くなった。
「それなのにこれから戦うなんて・・・」
「そんなことより!」
 それまで背中を向けていたのが、クルリとかなみに向き直る。
「もう一人の魔人だ。ちゃんと調べてきたんだろーな」
「うっ、うん」
「俺様はそれが聞きたい。早く言え」
「わかったわよ・・・ 凄い迫力で余り近づけなかったんだけど、とても大きな魔人だったわ」
 ランスに気圧されたように、かなみは喋りだした。
 喋りだしながら思い出す。渡河に入る魔物達を背後から観察していた自分。
 そんな自分の目に飛び込んできた生物。魔物の群れの中、一際大きな身体の生物。
 圧倒的存在感と凄まじいプレッシャーの源。おそらく、コイツが例の魔人だろう、とかなみは確信した。
「・・・足がたくさんあって、色白な顔だった。凄い大きくて、魔物の十倍くらいあると思う。遠くからでもすぐ解るわ」
「そうか」
「それと・・・一つ気になることがあったの」
 かなみは思い出す。河を渡る二つの小さなモンスター。可愛らしい外見で、人語を喋る魔物のことを。
 魔物軍があらかた河に入ったとき、岸に最後まで残っていたのがその二匹だった。
「モンスターの一匹が、その魔人のことを、変な名前で呼んでいたわ。それは・・・」
「『魔王』・・・じゃねぇのか?」
「ええぇっ! ど、どうして解ったの・・・?」
 かなみが言うより早く、『魔王』という言葉を吐き出すランス。かなみは驚きに息を呑んだ。
「ふんっ・・・そんな気がしただけだ」
 こめかみをピクリと動かし、素っ気無い声で答えた。
 ランスにしては、最悪の予想が的中しただけ。こんなことは想定の範囲内の出来事だった。
 もしかしたら敵はただの魔人かもしれない・・・そう願わなかったといえば嘘になる。
 弱りきった元魔王ジルですら、凄まじく強かった。そりゃもう強かった。
 もしも弱っていない、しかも現役の魔王が相手・・・
 しかし、いまさら驚いたりはしない。サイは投げられたのだ。
 ランスに残された道は、己の手で魔王と呼ばれる存在を殺すだけ。現実をかみ締めるように黙り込む。
「ねぇ・・・もしかして、魔王が攻めてきたの・・・? あたしが見たのは、本物の魔王、なの?」
 かなみは、自分の中に芽生えた怯えを漏らしていた。
「凄い迫力だったわ・・・ あんな生き物見たことない。
 ジルも本当に怖かったけれど・・・アイツのほうが怖かった」
 誰に言うとも無く、自分の心情を漏らす。俯いていた顔をあげ、かなみは決定的質問をした。
 聞いちゃいけない、聞いちゃいけないと思っていたのに。
「ランス・・・アイツと本当に戦うの? ・・・勝てるの?」
 ポカッ
「いっ、いったぁい!」
 ランスの反応はかなみの予想通りだった。
 相当に力の籠もったパンチ、頭を抱え込むかなみ。痛いけれど、なんだかホッとしていた。
「なぁーに言ってやがる! かなみのクセに生意気だっ」
「そ、そうよね! ランスが負けるわけ無いもんねっ!」
 手をブンブン振りかざし、慌ててランスに調子を合わせる。
「当たり前だ、俺様は無敵だぞ? くだらないことをいうな!」
「う、うん」
「まったく、俺様を信用しろよ。長い付き合いだろぉ? 俺様が負けたことがあるか?」
 オタオタするかなみに、
「はっきりいって、ない! 俺様の辞書に敗北の二文字はない!」
 ランスはドドーンと胸をはった。それは、いつもと全く変らない姿。かなみの見慣れたランスの姿。
 リーザス城でランスに処女を散らされて以来、出来てしまった腐れ縁。
 リーザス解放戦争、闘神都市での冒険と、かなみの歴史に暗い影を落とす男、ランス。
 けれど、かなみが知っている人間で、ランスほど頼もしい存在は無かった。
 大嫌いな男だけれど、最後には皆を救ってくれる。必ず何とかしてくれる。(代償にエッチなことをするけど)
「うん・・・ 信じてるからね、ちゃんと魔人を倒しなさいよ!」
 少し元気が出て、思わず自分の願望を口にした瞬間、
 ポカッ
「俺様に指図するんじゃねぇ!」
「ううう、ごめんなさいぃ」
「まっ、俺様が何とかしてやる。お前らは黙ってついて来い」
 ニヤリと笑うランス。かなみには、ランスの笑顔が光って見えた。
 思う。そうだ、目の前にいる男はランスだった! ランスなら、大丈夫だ・・・、と。
 かなみの表情に明るさが戻った時、ランスの表情がスッと変化した。
 満面に浮かんでいた笑いが影を潜め、真剣な目つきになっていた。
「かなみ、さっそくだが次の命令だ」
「えっ、なに・・・?」
「もうじき戦闘が始まる。魔物共は予定通りに進んでるからな、スードリ平原でぶつかるだろう。
 お前・・・こっそりメナドを支援してるだろ?」
「あっ」
 メナドとかなみは親友だった。そのため、メナドの部隊が近くにいるときは、こっそり協力していた。
 具体的には敵将にクナイとぶつけたり、だ。これは、ランスには内緒だった。
 任務の途中に、任務以外のことをするのだから、ある意味命令違反である。
「俺様に一言の許しも貰わずに・・・」
「ご、ごめんなさい! でも、ちゃんと任務もこなしてるしっっ」
「ま、お仕置きはリーザスに帰ってからするとして、だ。今度はメナドに関わるな」
 かなみはアセアセと言い訳をしたが、皆まで聞かずに釘をさす。
「でっ、でも、メナドが危なくなったら・・・」
「いいか、お前は戦場に入るな!」
 一際強く、ランスがいった。たじろぐかなみ。
「うっ・・・」
「命令だ。これからの戦いを見届けてマリスに報告しろ。何があったか、お前の口から報告するんだ」
「・・・」
「失敗は許さん。怪我をしてリーザスに帰れなかった、なんて言い訳は許さん。いいか、わかったな?」
「わ、わかったわ」
「ふん、それでいい。解ったら、さっさと行ってこい」
 ランスは満足げに頷いた。そして、かなみに背を向けた。
「ま、俺様の凱旋パレードでも用意させるんだな」
 マントをぶわっと翻す。そんな背中を見ながら、
「ランス・・・信じてるからね・・・」
 ポツリと呟き、
 ヒュッ
 かなみの姿は消えていた。おそらくは、戦場の下見に走ったのだろう。かなみの去ったうし車の中には、
「信じてる、か。本当に信じてる奴は、しらふでそんなこといわねぇんだよ・・・ なぁシィル?」
 ランスの独り言が木魂した。



 

 ・・・あとがき・・・
 SS 魔王ケイブリス 七話お終いです。
 書きながら思ったんですが、ヘルマンを流れている川の名前とか、ちゃんとした設定があるんでしょうか?
 あと、リーザスとヘルマンの間にある山脈、
 あれの名前も解らない・・・聞いた事はあるんだけど・・・思い出せないです。
 うむむむ。
 
 
 











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