魔王ケイブリス 第二章 『リーザス陥落』






  一話 降伏




 カチャリ
「失礼します。カスタム諸軍勢及びハウレーン隊、国境防衛に出立しました」
「そうですか。わかりました、下がってよろしい」
「はっ」
 リーザス城四階、マリス・アマリリスの執務室。片膝をついた伝令に、マリスは鷹揚に対応した。
「ではっ」
 伝令が遠ざかったのを確認し、マリスはソファに腰掛けた銀髪の丈夫に向き直った。
「・・・で、お話とは?」
「はい。降伏の段取りについて、もう一度窺っておこうと思いましてね」
 相手はエクス・バンケット。数分前に、珍しくマリスを訪れたのだ。
「段取りですか?」
「ええ。一口に降伏するといっても、いろいろあります。
 こちらから出向くのか、リーザス城が落ちてから話し合うのか――」
 マリス、エクスともに冷めた口調。
「もっともリーザス城が落ちては、降伏も何も無いでしょうけれど」
「・・・リア様は、リーザス城を離れる御つもりではありません。
 ですから、魔人軍がリーザス城に迫った時点で、リーザス城王座の間にて会見。
 これではいけませんか?」
「それならそれで、事前に降伏の意思を伝えておかねばなりませんから。
 リーザス城下に迫り次第、有無を言わさず攻撃に出てきかねません」
 まるで他人事のような。
「魔人がある程度町に侵攻した時点で、降伏の意図を伝えるべきではありませんか?」
「確かにそうですね」
 事務書類から顔をあげる。
「エクス将軍は、どのようなお考えですか?」
「私はノースが侵攻された時点で渡りをつけるべき、かと。
 なんでしたら、私自ら接触をもってもよいですが」
 エクスは何気ないように語っているが、冷静に考えると危険極まりない役目。
 人類領に侵攻して息の揚っている魔人に接触するなどと、生還の保障がない。
「将軍自ら、ですか。かなみを遣ろうと思っていましたが・・・将軍の方が適任ですね。
 けれど、どうやって魔人と接触するつもりです?」
「報告ではサテラが魔人側についているとの事。サテラを介し、魔人代表に会わせてもらうつもりです」
 小首をかしげると、エクスの首がポキポキと鳴った。
「・・・なにか思惑がおありですか?」
 右手を耳に当て、髪をかきあげるマリス。緑のストレートヘアは、新緑の春を思わせる。
「いいえ、リア様への忠誠以外にこれといって持ち合わせていません、ふふふ」
 エクスなりの皮肉だ。ただ、マリスに伝わったかどうかは疑わしかった。
「臣下として当然のこと。では、エクス将軍に降伏の手筈はお任せしますが、よろしいですか?」
 左耳から手を逸らし、涼しげな目つきだ。
「任せてください」
 キッパリ。
 エクスだとて、初めから自分が引き受けるつもりで提案している。
 モモの辺りに置いていた両手を、心持前にずらし、体を傾ける。
「それと、ここからが本題なのですが――」
 上目遣い。
「――魔人側が降伏を蹴った場合、どのように対処するべきか。ここだけは詰めておきましょう。
 魔人が例の『リーザス間接統治』を蹴った場合、もしくは『無条件降伏』を要求した場合、さらには――」
 チラリ。意味深な瞳、大きく息を整え、
「『降伏』すら蹴る可能性だってあるのです。
 最初からリーザス、人間を滅ぼすつもりで攻め込んできたのかもしれません」
「将軍は、どの可能性が最も高いと?」
 事務机に座ったまま、背もたれに体を預ける。互いの視野が狭くなり、直に繋がる。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 続く沈黙。破ったのはマリスだった。
「それほど言いにくいことですか?」
「率直にいって――皆殺しにするつもりで侵攻してきたと考えています。
 もしもそうでないならば、これまでにメッセージの一つや二つ届くはずです。
 サテラ、メガラスといったリーザスを熟知した魔人がいて、何も言ってこない。
 展望をもった軍勢なら、こんなことはありえませんよ」
 クイ。
 落ちそうになったグラスを人差し指で押し戻し、
「もしくはよほど抜けた魔人が指揮しているか、です」
「・・・」
 何も答えない。流れとして、エクスが一方的に喋る展開が。
「結局のところどうなんですか?
 あくまでリア様に立つ瀬がなければ、無条件降伏などは飲めませんか?
 命さえ保障してくれれば、それで構わないのでは?」
 喋るといっても、単に質問を繰り返すだけ。
「いまから方針を変えるとしても、まだ遅くはありませんよ。
 例えば、リーザス城を捨てて市井に身を隠すと――」
「念を押しますが、リーザスを放棄する考えはありません。いいですか?
 仮に市井に身を隠したとして、それでリア様が守れるとでも?」
 エクスがアンチ降伏な言葉を紡ぎ出したとたん、マリスは椅子から立ち上がった。
「リーザスにいるよりかは、可能性があるのでは?」
「逆です。仮にリア様がカスタムに逃れたとして・・・それでどうなるのですか?
 魔人の目的が単に人間を滅ぼすことならば、いずれリア様も亡くなります」
「・・・」
 今度はエクスが黙る番だ。
「加えて、魔人がリア様を無事に済ますとは思えません。
 ・・・ランス王の妻なのですよ?
 魔人に戦争を仕掛け、レイ、ジーク、カミーラといった魔人を手にかけてきた男の妻ですよ?
 報復の対象にならない筈が無い」
「・・・」
「どこかでリア様の安全を保障しなければ、誰もリア様を守れません。
 降伏し、魔人から命の保障を受けなければ・・・ならないのです」
「・・・では、魔人がリア様の安全を保障する・・・これが最低のラインですね?」
 マリスが喋り終え、エクスは静かに返答した。
 今聞こえた言葉は、マリスの本心。エクスにもよく理解できる。
「このラインが守られる限り、リーザスは降伏を受け入れる・・・と。そして」
 エクスを待たずしてマリスが。
「守られなければ、私がリア様をお守りします。方法など、エクス将軍が気にする必要はありません。
 どんな事態に・・・たとえリーザスが火に包まれても、リア様は私が守ります。
 将軍は、ただ降伏の段取りにお心を砕いてください」
 ピシッ。
 空気に皹が。
「・・・ええ、わかりました。魔人との渡りの件、責任を持って取り持ちますよ」
 サッ
 ソファから身を起こす。互いに椅子から立ち上がった形。
 エクスの身長とマリスのそれは、エクスが一センチだけ上回っている。
 けれど、ヒールのせいでマリスが見下ろす形が。
「では、これで失礼します・・・」
 上目遣いに会釈を残し、エクスが執務室を出て行こうと。
「お願いします」
 背中に優しい声・・・? 
「?」
 振り向くと、ペコリと頭を下げる緑の髪が。
「・・・わかりましたよ」
 マリスの後頭部を見下ろしながら、エクスはそっと敬礼した。
 そして、今度こそ本当に部屋を後にしたのだった。





「ぐっ・・・」
「もう少し我慢してくださいね〜」
 手際よく包帯を取り替えるアーヤ。隣では心配そうに見つめるレイラが。
「っ・・・」
「はい〜綺麗に取れましたよ〜」
 どす黒い膿がべっとりついた包帯を見て、嬉しそうに笑っている。ツンと饐えた匂いが鼻をつく。
「あ、ありがとうございます」
 痛みに顔を顰めながら、リック・アディスンは礼をいった。
「とんでもないです〜。では、清潔な包帯に取り替えましょうね〜」
 ニコニコ。
 アーヤはいかなる時でも笑顔を振りまく。

 リックがいる病室の外。ドアをノックしようかしまいかとエクスは悩んでいた。
 いざ見舞いに来ては見たものの、何を言えばいいのだろう? 
「リーザスが降伏する・・・とでも話せばいいんでしょうか?」
 自問。
 エクスだって降伏が受け入れられるなら、それもいいと思う。
 魔物の奴隷になることで当面の命が保障されるなら、構わない。
 もっとも彼自身は来る反抗の日に備え、一つの考えを持っていたが。
 エクスはこれからリーザスを離れる。魔人に降伏の旨を伝えるために。
 ひょっとしたらもう生きてリックとは会えないかもしれない、
 そう思って親友に会いに来ては見たものの、今ひとつ踏ん切りがつかないのだった。
 何故だろう、どうしてリックに会い辛いのか?
「リックはリーザスに殉じるでしょうが・・・僕はそうしない・・・から?」
 来る魔人との会談が成功しようと失敗しようと、エクスはリーザスに戻りはしないだろう。
 もっとも彼自身のビジョンでは、会談の成功などと万に一つもないのだが。
 魔人の手先になるリーザス城に未練はないし、魔人に滅ぼされるリーザスにはもっと興味が無い。
 この会談がリーザス白の将エクスが尽くす最後の忠節になるだろう。
 けれどもリックはどうか?
 リックはあくまでリーザスと命運を共にする。
 エクスには解る、リックとはそういう男だ。
 そんな風にあくまで騎士然とした生き方は、素直に羨ましいと思う。
 彼に比べると、自分のなんと中途半端なことか。
「リック・・・君が正しいんですよ」
 
――――――
 ランス。
 ランスという青年がリーザス国王に就いたのが二年前。
 エクスはランスに面識がなかったため、その人となりに大きな期待を抱いていた。
 そして迎えた王就任演説。
 『俺様のために働け!』
 『俺様のために死ね!』
 『かわいこちゃんは俺様のものだ!』
 『がはははは!』
 聞き間違えるには、余りに大きくて耳に残るセリフの連続。
 唖然某然、続いて湧き上がる疑念、怒り、絶望。
 期待で高潮した己の体温が、一気に冷めて行った様子を覚えている。
 エクスは反乱を起こした。
 ランスというならず者をリーザスから排除するため、黒の副軍、白正副軍という大軍を擁し立ち上がった。
 もちろん親友のリックを始め、メナド、コルドバといった勇将も参加すると踏んで決起した。
 リックに出した使いは手ぶらで戻った。ただ、
 『ランス王は信頼に足る人物、反乱は止めろ』
 という伝言を携えて。
 けれど、すでに反乱計画は動いている。
 いまさら後戻りは出来なかった。
 そして戦端は開き、僅か一月でエクスは虜囚の身になった。
 『罪の重さは百トンだ』
 『笑わなかったから、百五トン』
 『ちっ・・・もういい。特別に許してやる』
 王座から飛んでくる言葉には、なんの興奮も含まれていなかった。
 ランスの目の前にいる罪人は、死罪に相当する罪を犯したエクスだというのに。
 当たり前のように反乱を鎮圧し、当たり前のように許す声だった。
 その後紆余曲折を経て白の軍に復帰したエクスは、ランスの逐一に驚嘆する毎日だった。
 ランスの行動は王らしくないとはいえ、理想的な結果を招いていったからである。
 ヘルマンを滅ぼし、ゼス、JPAPNを征服し、大陸にリーザスの覇権を確立。
 見事としか形容できない。
 そんな活躍を見せ付けられるにつけ、エクスには己の未熟さが痛感されるのだった。
 ランスの本質を見極めようともせず、ただの演説だけで『悪人・ならず者』と決め付けたこと。
 薄っぺらい表層を信じ、エクスを慕うたくさんの兵士を死なせたこと。
 加えて、彼らの死がリーザスの発展になんら寄与しなかった事実。
 リックは違った。
 常にリーザス軍先頭を走り、リーザス軍最前線でヘルマン・ゼスと戦い続けた。
 エクスのように己に溺れることなく、淡々と自分の任務をこなし続けた。
 ランスの言動に惑わされることなく、常に命令のまま行動した。
 エクスと違い過去にランスと行動を共にしたとはいえ、二人の違いは明白だった。
――――――

「今回も・・・君の方が正しいんですよ」
 自嘲気味な囁き。
 決して自分が正しいと確信できない・・・それがエクスの美点でもあり、大きな欠点でもある。
 ふぅ〜
 目を瞑って深呼吸し、エクスはノブに手をかけた。
「失礼――っと」
「きゃ。え、エクス将軍?」
 部屋から出ようとしていたレイラ、鉢合わせする格好になる。
「ああ、レイラ将軍でしたか。ええと・・・リックの具合はどうですか?」
「ええ、もう大分いいようです。で、では私はこれで・・・」
「あ、はい」
 脇へ体をどけると、すり抜けるようにレイラが出て行った。顔が真っ赤である。
「?」
 不思議そうに小首を傾げると、エクスはドアに向き直る。
 トントン
「どうぞ〜」
 のほほんとした返事。アーヤ先生が来ているのか、診察中なんだろうか?
 まぁいいさ、とエクスはドアを開いた。
「エクスです、リックの具合は――」
 目の前で下半身を剥き出しにしたリックが。おおっと、という感じで少し退く。
「すぐに済みますからね〜」
 シュルシュルと、アーヤの手から包帯が繰り出される。
 股間をむき出しにされたリックに、両手を這わせるアーヤ先生。
 確かに手際は良いのだが、羞恥心は無いのだろうか?
 リックに目を遣ると、真っ赤になって壁を見ている。心なし震えているようにも。
「はい、おしまいです〜。お疲れ様でした〜」
 リックが怯える様子に気を取られているうちに、どうやら包帯の取替えが終ったようで、
「では、私は失礼します〜。どこかまた痛くなったら呼んで下さいね〜?」
「・・・ありがとうございました」
「いえいえ〜」
 パタン
「・・・ふぅ〜〜」
 アーヤが部屋を出るなり、リックが大きく溜息をついた。
「ふふふ、緊張していましたね?」
 リックはまだ赤い顔をしている。エクスは久しぶりにリックの素顔をみた気がした。
 執務中はもちろん、寝るとき、入浴時以外、リックは必ずメットをつけている。
 例の、『額に忠』がついたメットだ。
 入浴も一人こっそり行うため、リックの素顔を知る人物が何人いるのか疑問である。
「そりゃ緊張もするさ。レイラさんが横にいるのに・・・いきなり脱がせるんだからなぁ」
「あぁ、それで逃げ出したんですか? レイラさん、真っ赤でしたねぇ」
「僕だって逃げ出したかったよ・・・」
「ははは、リックらしい」
 ベッド脇に設けられた椅子に腰を下ろしながら、エクスは楽しそうに笑った。
 眉をひそめ、子供が拗ねたように愚痴るリックがあまりに珍しかったのだ。
「他人事だと思って・・・」
 リックはそんなエクスに苦笑いである。
「いや、失礼。でもよかったじゃないですか、もう笑ったりできるんですね?
 リーザスに担ぎこまれたときは、死んでいるのかと思いましたよ・・・」
 ポケットからナイフを取り出し、果物籠に一つだけ光るリンゴに手を伸ばす。
「おかげさまでね、二日寝たら大分元気になったよ。
 そろそろ歩こうかな、と思ってるんだけど、アーヤ先生が駄目だってさ」
「え、もう歩けるんですか? あれだけの深手、早々直らないでしょう?」
「まだ傷は痛むけど・・・歩こうと思えば歩けるかな」
 ハァ〜
 首を振りながら、
「・・・リックの回復力には言葉もないですね。つい三日前には意識すらなかったのに・・・」
「いや、意識はあったんだ。ただ、全く体が動かなくてね」
「どっちにしても大差無い気がしますが・・・どうです、食べますか?」
 一度も切れることなくリンゴの皮をむき終えたところで、そっとリンゴを持ち上げる。と、リックが苦笑しながら、
「食欲はあるんだけれど・・・もうリンゴはいらないよ」
「・・・なるほど」
 エクスが長く伸びたリンゴの皮をゴミ箱に捨てようとすると、既にリンゴで埋まった屑入れがあった。
 お世辞にも上手とはいえない切り口で、肉厚に向かれた皮が散乱している。
「レイラさん、ですね?」
「・・・ああ」
「リック、また顔が赤いですよ?」
「えっ、いや、そ、そうか?」
「嘘です」
「つっ、な、止めてくれよエクス。僕は病人なんだぞ、全く」
 顔を倒し、エクスと反対側を向いてしまった。
「では、これは私が頂きましょう。構いませんか?」
「・・・ああ」
 クスッ。耳まで赤くなったリックを眺めつつ、エクスはリンゴに歯を当てた。
 シャクッ
 甘い果汁、リンゴの香りが心地よい。
「エクス、まさかリンゴを食べに来たんじゃないんだろう?」
 シャクシャクと口を動かしていると、向こうを向いたまま尋ねる。
「いえ、リックがリンゴに辟易してるんじゃないかと思って」
「・・・そんなに食欲があるのかい?」
「リックの顔を見ると、俄然湧いてきましたね」
「部屋に来た時は、それほど元気に見えなかったものなぁ」
「ははは。下手をすれば、リックの方が元気だったかも知れませんよ」
 リンゴを齧り終え、芯をポイと放り投げる。スポ。ゴミ箱にナイスシュートだ。
「よせよ、まだ歩けもしないんだぞ? それどころか、完治するかも怪しいってさ」
「でも、歩こうとは思えるんでしょう? 私なんて歩くのも億劫でしたからね」
「・・・なんだ、病人に弱音かい?」
 少し考える風を装うエクス。
「弱音ですかー。それもいいかも知れませんねー」
「弱音なら手短に頼みたいな。そろそろ眠くなってきたからね」
 スサ
 僅かにシーツを揺らし、リックは小さく寝返りを打った。顔を横に倒す。
「今日は・・・お別れに来たんですよ」
 ナイフを手で弄び、エクスは俯いた。
「もう聞いていますね? ランス王のことは――」
「さっきレイラさんが、ね」
「・・・すでにリーザスは魔人に降伏すると決めました。
 それで、私が使者として魔人に会談を申し込みに行きます」
「・・・」
「もはや魔人と戦えませんから、しかたありませんが・・・。
 会談の成否だけはなにがあってもリーザス城に届けます。
 けれど、私はリーザスには戻りません・・・いや、戻れないといった方が正確でしょうか?」
 リックもエクスを見ないし、エクスも顔をあげない。
「魔人と話し、まだ生きていられればカスタムへ行こうと思っています。
 残念ですが、リーザス城に未来はない。私は未来のない国に尽くすなどと、無意味なことはできない」
「・・・」
「すでにリーザス城に軍勢はいません。白の軍1000とレイラさんに800程待機するだけです。
 私が出発すれば・・・レイラさんだけですか」
「僕もいる」
 ポソリ。リックの呟きが聞えない風を装うエクス。
「・・・城内にも大きな動揺が広がっています。おそらくリーザスに魔人が侵入した時点で皆逃げ出すでしょう」
「・・・僕にも逃げろ、と?」
「いえ、そんな野暮はいいませんよ」
 エクスが顔を上げ、リックと視線が合う。
「ただ、リックにも言っておきたかったんです。なにもリーザスに残るだけが選択肢じゃない、とね」
「・・・」
「数日・・・いえ、おそらく三日以内にリーザスは魔物に囲まれます。
 そうなってから脱出するのは至難の業でしょう。それまでに城を後にしなければ――」
「・・・」
「リック――」
 言いかけて、エクスは声を呑んだ。
 『僕は間違っているかい?』そう聞こうとしたのだけれど、それだけは聞けない。
 自分の行動に自信を持たなくてどうする?
 彼の言葉通りに、ハウレーンやランはカスタムに向かっているのだ。いまさら騎士道に憧れるのか?
 一度は捨てた道だろう? 
「――それでは、私はこれで失礼しますよ。レイラさんによろしく伝えてください」
 伏目がちにエクスは席を立った。そこに、
「ねぇエクス」
 思い出したようにリックが声をかけた。
「え?」
「君は、本当にキングが死んだと思っているのかい?」
「え・・・」
 シーツのなかで、リックの腕が微かに動いた。不慮の質問に戸惑うエクス。
「僕は良く知らないけれど・・・キングが死んだとは思えないんだ」
「リック?」
「いや・・・なんでもない。聞かなかったことにして欲しいな・・・」
 そういうと、リックはニッコリ笑った。
「エクス、死ぬなよ? ハウレーンが悲しむぞ?」
「リック――」
「僕もリーザスが落ちたら、マリスさんやレイラさんとカスタムに行くかもしれないな。
 その時はカスタムで再会しよう」
 エクスにとって、予想していない反応だった。
「なに、エクスの考えた結果さ。それはそれで正しいと思う。
 またしばらく離れるけれど・・・今度も前と同じように、すぐもとの鞘だろ?」
「・・・」
「・・・僕は疲れたよ。そろそろ眠りたいから・・・ここでお別れだ。じゃあね」
 静かに目を閉じる。
「・・・ええ。お互い無事でいれば、カスタムで再会しましょう」
 エクスもまた静かに答えた。そっとベッドに背を向け、病室を出ようとしたときだった。
 最後に何か言い残した気がして、エクスはリックを振り返った。
 リックが静かに眠っている。金色の髪がとても綺麗で、落ち着いた寝顔だ。
 もう眠っているのだろうか?
 呼吸の音が、静かだ。いまさら声を斯けるべきではないな――。
「じゃあね、親友――」
 そっと呟くと、エクスは廊下に消えていった。





 ・・・あとがき・・・
 二章、始まりです。
 題名からして見も蓋もないパクリですが、やっぱしこれかなぁ。
 リックとエクスの会話はこんな感じでしょうか?
 リックの怪我は相当に深くて、やばい怪我という設定です。
 リックが元気そうに見えますが、無理してるってことで。(冬彦)











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