魔王ケイブリス 第二章 『リーザス陥落』







  六話 星の屑作戦




―――深夜―――
 リーザス城の夜は早い。日が沈み月が上空に差し掛かる頃には、夜勤の兵士以外眠りに就く。
 就いている・・・はず。けれど、赤の軍副将の執務室につく灯りが。
 こんな時間に灯りがついているのは、チューリップ研究室、マリス執務室、そしてランス部屋くらいのものなのに。
「・・・でさぁ・・・なわけよ」
「・・・でもアニキ、さすがに副将が黙ってないだろう?」
「馬鹿だな、副将はアニキの・・・で、アニキに・・・なんだってしらねぇのか?」
「でもさ、それってあんまり・・・で。なぁ?」
「なぁもなにも・・・でさ。いまさら・・・ぶりっこかよ」
 低音の、それでいて品性のない言葉使い。部屋の中にいるのは、赤の兵が四人とその他の兵が五人ばかり。
 めいめいが勝手に喋るのを、執務机に腰を下ろした男が取り仕切る。
「とにかく、だ。もう俺達は駄目だね。リーザスはお終いだってこと、お前らもわかっただろ?」
 メットの内側に、厭らしい笑み。グアッと足を机に乗せ、思い切り背もたれに身体を預け、
「だったら、これからのことを考えねぇとなー。で、お前らはどうなんだ? 俺の提案にのるんだろ?」
 そこに、赤の兵が口ぞえする。
「大丈夫さ。ザラックのアニキはあのメナド副将をバックにしてるんだ。いざとなったら俺達くらい匿ってくれるぞ?」
「・・・ってわけだ。ま、どのみちこのままここにいるような馬鹿は、魔物に殺されちまうんだから。
 別に俺達に殺されようと、魔物に殺されようと違わないんじゃねぇの?」
「そうさ。それにばれたっていいじゃないか。ばれる頃には、とっくにリーザスを後にしてるんだから」
 調子よくまくし立てる赤の兵に、ズカッと白の兵一人が立ちはだかった。
 シャクツ・ルイ。エクスがリーザス城に残した白の兵700を束ねる参謀格だ。
「・・・一つ聞きたい。脱走兵が続出する中、お前達は城に留まり続けた。その理由が・・・これか?
 こんなことのために、今まで時期を待っていたというのか?」
「ん〜〜? 悪いかい? それに、こんなことっていわれてもなァ。裏切りってのはなかなか奥が深いんだぜ?
 タイミングとか、渡りの有無とかよ」
 机に足を投げ出した男――ザラックはつまらなそうに応じた。
 そう、彼が率先して話し合っていたのは、リーザスを裏切る相談。
 リーザスを、ひいては人間を裏切って魔物陣営に身を投じる相談だ。奇しくもマリスと同じ考え。
 異なる点といえばマリスが国ごと降伏しようと試みる一方、ザラックは自分が良ければそれで良いとしている。
「この期に及んで奇麗事か? くはは、白の人間はお目出度いねぇ〜」
 明らかに反骨の意を示すシャクツに投げられたのは、濁った瞳の嘲笑だった。
「いいか、そんなんだからエクス将軍は殺されるんだよ!
 今になって話し合い? けっ、おかしくって臍で茶が沸くぜ?
 町を潰しまくってるんだ、人間を皆殺しにするつもりにきまってるじゃねぇよ」
 のけぞるように背を逸らす。
「ぺっ。皆殺しにやって来た相手に降伏するなら、土産の一つも持っていかねぇとなー。
 それも上等なヤツじゃなきゃ駄目だ、なぁ?」
 ザラックはソッと目配せをした。シャクツはザラックの視線に対応出来ていない。
 人を喰った態度、人間として不遜極まる発言に震え、いまにも飛びかかりそうに。
 スルスルと一人が位置をずらす。
 緑のメットを被ったその男は、誰にも気づかれずに拳を握り締めた白兵の背後に立った。
 それを待っていたかのように、再びザラックが向き直る。シャクツと視線がぶつかり、冷笑するザラック。
「・・・てめぇだって心の中じゃ賛成してるんだろ?
 別にエクスを殺そうってんじゃねぇ。相手は怪我人、ロクに歩けもしないんだぜ?」
「だ、だからリック将軍を殺す・・・というのかっ。メナド将軍の代理というから話をしたが・・・この屑がっ!」
「ふん」
「くっ、どうも可笑しいと思っていたんだ。将軍の代理にしては卑しい顔立ち、下卑た笑い。
 よからぬことを考えている気配がしていた」
 震えるトーンが次第に収まってくる。白の兵から立ち昇る怒りが、スッと冷えた。
 王座の間でザラックとかいう男を見たときから、彼は違和感を感じていた。
 悲壮感漂う広間に屯する嘲笑の空気。中心にいた人物がザラックだった。
 エクス将軍の死、白の軍派遣部隊壊滅の報で凍りつく広間にあって、彼らだけは平然と立っていた。
「おおかた・・・メナド将軍を監禁し、代理に成り代わってきたのだろう?」
 『エクス死す』の報に引き続き、
 『ノース、陥落』『魔人軍、ノースで野営』と凶報が相次ぎ対策も立たないまま夜が訪れた。
 レイラが防備、夜警の指揮をするなかシャクツの執務室に使いが来る。
 赤の副将、メナド・シセイの印が入った召集令状。
 将軍クラスが軒並み朽ちたリーザスにあって、メナドの地位はリック、レイラについでナンバー3となる。
「でなければ、あの品行方正な方だ。貴様のような者に自らの代理を任す筈が無い」
 使いのものに連れられ、赤の副将執務室に足を踏み入れたのだった。
 部屋の中には十名と少し、各軍残存隊の生き残りが。こんな夜更けに一体何の話だろう・・・?
 疑問に思いながらも、とうとうと語るザラックに耳を貸したシャクツだった。


――――――
 ザラックが話した内容。一言で言うと、『将軍の首を手土産に、魔人軍へ投降する』
 敵はノースの町。おそらく、市庁で魔人は休んでいるだろう。
 そこにリーザス名将を連れてゆけば、それなりの褒美がもらえるに違いない。
 持参する名将の首は、リック・アディスンの金髪。
 大怪我を負って死に掛けていることは、メナドからしかと聞いている。
 今頃病院で意識不明で寝込んでいるだろう。なぁに、寝込みを襲えば完璧だ。
 ただ、リックの首だけではインパクトに欠ける。やはり、女も必要だ。
 本当はリアを差し出したいところだが、マリスが敷いた警備はとても破れそうに無い。
 リア自身も相当な魔法使いであるし。 ・・・けれど、女を添えた方が金髪の首が華やぐのも事実。
 そこで、だ。リーザス城にはランスの残したハーレムがあるではないか?
 武将兼ハーレムな人材はあらかたいなくなったけれど、まだまだ可憐な花がある。
 エレナ・フラワー、シーラ・ヘルマン、アナセル・カスポーラといったヘルマンの美少女。
 エリザベート・デス、シャリエラ・アリエス、まことといった辺境の美少女。
 そして・・・シィル・プライン。
 彼女達を軒並み捕らえ、魔人の首領に献上する。
 これだけの華を献上すれば、さすがにザラックに報いることだろう。
 時間はもうない。明日、明日の昼には魔物が来る。
 もう、目と鼻の先に迫っているのだ、今夜がラストチャンスなのだ。
――――――


「己の保身のため、将軍どころか女にまで手を出すとはな。恐れ入るよ」
 睨み付ける。けれど、まるで歯ごたえの無いザラック。
 生まれたときに良心を子宮に忘れてきたような顔だ、とシャクツは思った。
「そいつは褒め言葉と受け取っておくぜ」
「・・・ああ。そう取ってもらって結構だ」
 チラリと左右を見定める。ザラックの腹心と思しき赤の兵は、誰も剣を取っていない。
 正面のザラックも剣を放り出し、寛いだ姿勢で座っている。ふふ、余り私を舐めないでくれるかい?
 グッ
 腹のそこに気合を込め、ジリジリと柄に手を伸ばす。
「貴様は私達を抱きこめると考えているようだが」
 辺りを牽制するように、押し殺した言葉を紡ぐ。まだ誰も動かない。右手がリーザスソードに触れた。
 よしっ、今なら殺れる。外道、あの世でエクス様に詫びて来いっ。
「貴様のような屑ではないわっ! 死ね不忠者っ、叩っ斬る――」
 シャクツがリーザスソードを握った瞬間だった。
 グサ
「えっ――?」
 背中からつき立てられた緑の剣。背中から腹に抜け、シャクツの肺が破れた音が。
 呼吸が止まり、全身の血が吹き上がる。
 な・・・なんだと? なにが起こったんだ?
 釣られるように、左右からも剣が。
「な?」
 ザクッ ズシャア
 赤兵がシャクツの右腋に突きをいれ、青兵が胴を払う。もちろん抜き身の白刃で。
「・・・」
 パクパクと喘ぐ。言葉にならない悲鳴。
 正面から笑い声が聞こえる。膝を叩いて、胸を反らして。
 そうか、この場にいた全員が――全員が裏切り者だったのか――。
「だひゃひゃひゃひゃ! 人間ってのはなァ、てめぇが思うより薄汚ねぇんだよバァカ」
 笑い声が。
 畜生、貴様は腐っているぞ・・・っ。 クッ、せ、せめて一太刀、一太刀だけでも・・・。
 けれど手から力が抜けて行き、
 ポロリ
 シャクツの手から一振りの剣が滑り落ち、視界が暗闇に捉えられた。





―――数分後―――
「さてと。部屋も綺麗になったところで作戦会議といきますか?」
「だな。白軍が参加しなかったのは痛いが、まぁかまわねぇ。俺達だけでも何とでもなる」
 カーテンが締められ、魔法蛍光灯の灯りが消える。代わりのランプがチロチロと小さな炎を。
 そしてランプの灯りで相談する人影が。メナド執務室にゆらゆらと浮かんでいる。
「結局赤兵がアニキをいれて五名、緑兵が四名、白兵が七名。後は青兵が二名に魔法兵二名だな。
 そうそう、たしか看護婦も一人抱きこめたんだ」
「えっ、看護婦ですか? ど、どうやって引き込んだんです?」
「へへっ、後ろ暗い女ってのはちょろいんだよ」
「そいつは凄ぇ、さすがは兄さんだ。で、親衛隊の方はどうだったんですか」
「ゼロだよ、くそ面白くもねぇ」
「親衛隊からは参加者ゼロ、か。けっ、お堅いねぇ〜」
「女ってのは、これだから馬鹿なんですよね。融通が利かないっていうか、糞真面目で」
「城の門はアイツらが警備してるから、一人くらいは抱きこみたかったぜ。脱出が面倒くさそうだなぁ」
「どうします? リック将軍の首くらいなら隠して持って出られますけど、生きた女となるとそうはいきませんよ?
 うし車に積むとしても、声でも立てられたら一発でばれちゃう」
 周囲が黙り込み、皆の視線が中央の男――ザラック――に集まる。
「なぁに、いざとなったらメナドちゃんに働いてもらうさ。
 現リーザス軍ナンバー3の御命令と在れば親衛隊なんて関係ないぜ」
 フンと鼻を鳴らし、ザラックが口をへの字に曲げた。
「そうかぁ、その手がありましたね。いやぁ、さすがはアニキだな」
「頼りになるッス」
「けっ、このザラック様に抜かりはねぇよ。それじゃあ早速作戦会議だ。まずは、現状を把握しねぇとな」
 ランプの光が裏切り者の横顔を照らす。ニヤつくもの、脅えるもの、無表情を繕う者。
 誰もが良心の呵責を抑え、己のためだけに考えている。そんな中、ザラックが一人の赤兵に水を向けた。
「ホーテン、まずは病院の状況だ。合鍵はもう出来たのか?」
「え? ええ、バッチリっす。看護婦のヤミに作らせたのが・・・へへ、これです」
 ホーテンと呼ばれた赤兵が、懐から小さな鍵を。
「くくく、よぉし、よくやった。で、リックの部屋なんかもちゃんと把握してるんだろうな?」
「もっちろんです。南棟二階の端部屋で、部屋にはリック将軍しかいないそうっす。
 ヤミが部屋までは案内してくれるそうで、準備は万全っす」
 自信たっぷりに頷くホーテン。暗がりのなか、頷きあう男達。
「ヴァン、ハーレムの方はどうだ? 女共はどうしてる?」
 パラパラと暗がりで手帳を捲り、ヴァン・ココアは目を細めた。
「ああ。メイドの加藤すずめから聞き出したんだが、カチューシャとソルニアは大分前から居ないらしいぞ。
 あと、ツェール姉妹にメルシィとアナセル。こいつらも最近見ないそうだ」
「ちっ、早速逃げ出しやがったか。 ・・・じゃ、一体誰が居るんだ?」
 苦い舌打ち、再びヴァンを促すザラック。
「そうだな。城の三階に居るのが・・・ええと、あおい、竹中、シーラの三名か。
 二階にはシャリエラ、エリザベート、エレナに・・・シィルが居る」
「なんだ、結構残ってるじゃないか。そうか、三階に四人、二階に四人ね。う〜む」
「リック将軍に五名向かうとすりゃ、城へ向かえるのは十五人だろ。十五人で八名を拉致ってのはキツいぜ?」
「確かになぁ。二人で一人ってのはちょっとなぁ」
「なら、やっぱりシーラ辺りで手を打つか?」
 頷きあう。何も女を全員連れ去らなければならない理屈ではない。
 大人しい女を選び、なるたけ穏便に連れ攫う。無言の中で、男の意見が合致する。
「ま、誰を連れてくかの前に。ヴァン、城の警備はどうなってる?」
「あぁ? ええと、少し待ってくれ。どれどれ・・・と」
 パラパラ
 ユラリざわめく炎の下で、黒革の手帳が捲られる響き。
「ええと、現在警備は相当に手薄だぞ。親衛隊の半分が昼間、残りが夜の警備をしてるんだ。
 城内のあらゆる建物が手薄なので、病院から魔法研から、なにからなにまでコイツらだけで見張ってるからな、
 相当疲れも溜まってるだろ。リーザス城壁には常時100人程いてさ」
「んなことは聞いてねぇだろ? ハーレムの警備だよ、リーザス城二階、三階の」
 得意げに情報をひけらかすヴァンの腰を折る。
「う、そうかよ、わかったよ・・・」
 少し不服そうに俯いたものの、すぐに顔を上げ、
「ほとんど皆無だね。城の四階から上はそれなりに厳しくチェックされてるらしいけど。
 まぁ、リア女王の部屋以外なら簡単に忍び込める」
「そいつはイイ。 ・・・なら、あとはどうやって脱出するかだけか。よし、決めたっ」
 状況は全て好都合。リックを殺し、ハーレムを攫い、ノースの町まで駆けつけるだけ。
 あとは魔物に上手く取り入り、あわよくば魔物と人間の間で立ち回る。ザラックの瞳に映った炎が、揺れた。
「ホーテン、お前はリックの首をもってこい。お前と、そうだな、そこの四人だ。お前ら五人に任せたぞ?」
 部屋の隅に固まっていた緑兵を指差し、
「そこの四人だ、そうだお前らだよ! 相手は意識不明の怪我人だ、そんなビビッた顔するなっ」
 反論を与える間もなく、くるりと顔を横に向ける。
「ヴァン! 女はてめぇに任せる。そうだな・・・四人だ。誰でもいいから適当に四人見繕え」
「四人か。ま、そんなところかね」
「残りの野郎はヴァンについていきな。 ・・・解ってるだろうけど、城を出るまではお預けだぞ?
 勝手に犯したりすんじゃねえぞ?」
 下卑た笑いを浮かべる兵士に釘を刺す。
「夜はそんなに長くねぇんだ。女を抱くのは後にしろ」
「へ、へへへ。ザラックのアニキ、ってことは城から出れたらヤッちゃっていいのかい?」
 兵士の一人が身を乗り出す。淀んだ眼差し、卑しい口元。
 はぁはぁと押し殺した興奮が、濁った空気を伝わってくる。
 そんな男に、ザラックは大きく頷いた。
「当たり前だろ?
 どうせ魔人にくれてやるんだ、最後くらいランス以外のち○ちんをぶち込んでやらねぇと・・・な?」
「う、うほっ。マジですか? お、おおお俺も挿入できますか?」
 乗り出した兵士の鼻息が。ザラックの肩を掴んで顔を寄せ、荒い息を吹きかける。
「ちょっ、臭え息をかけるんじゃねぇよっ。
 大丈夫だ、四人いれば一晩で全員一発は抜けるだろ。こら、離れろ!」
「うほぉぉっ、そ、そそそいつはスゲェ!」
「うるせぇ、大声出すな馬鹿っ」
 ギラギラと脂ぎった男を引き剥がし、肩を突き飛ばした。
「ちっ、このスケベ野郎が・・・。と、とにかくだヴァン。こいつ等を使って四人。任せるぜ?」
 捕まれた肩をパンパンと払い、ザラックはヴァンの肩を叩いた。
「俺達も一発は出すんだからな? 俺の好み、解ってるだろ?」
「へっ。アニキがピンク色好きってのは知ってるさ。アイツを含めて、四人だろ」
 小声で、しかし聞き違えようの無い声で。ヴァンの返事を聞き、ザラックはニタリと口を曲げた。
「さすがはヴァンだ。ランスが居る時は流石に抱けなかったが・・・こんなチャンスは二度とねぇからな。
 お前にはなんにも言うことはないぜ。頼んだからな」
「任せとけ」
 ニタリ、ニヤリ。ランプの光に相応しい、淀んだ空気と濁った笑みだ。
 ポンと肩を叩いた後、ザラックは正面に顔を突き出した。
「俺はメナドを使って逃げ道とうし車を確保する。集合は・・・そうだな、月が真上に来る時分でどうだ?
 時間でいうと三時、三時にここに集合としゃれ込もうや」
 頷く。ザラックに反論するものは誰もいない。
「今が一時だから、二時間だな。二時間あればなんとかなるだろ? お前ら、気合入れていくぞっ!」
 語尾に気合が入り、ザラックは自分が紅潮してくるのを感じていた。
 ザラック一世一代の行動、成功すれば人間界に君臨できる。
 魔物と人間の仲介、すなわち人間を支配し魔物に奴隷を提供する役目。
 形はどうあれ人間の王たることに違いは無い。
「「おぉぉぉぉっ」」
 小声で、しかし力が籠もった返答。
 ザラックだけではない、ホーテンもヴァンも、この場に居る全員が明るい未来を夢見ているのだ。
「よし、それじゃぁ行動に移れ! ヴァン達は城へ、ホーテンは病院へゴーだっ。俺はメナドを連れてくるっ」
「「おおっ」」
 ガチャガチャと鎧の衣擦れが鳴り、男達は立ち上がった。
 彼らの瞳は一様に黒い。黒いけれど、熱い瞳。淀みきってはいる。確かに人として腐っている。
 それでもここに至れば迷いなど感じる隙間は無いのだ。ある種清々しい悪党の面だ。
「では、お先に失礼するッス。よし、お前らついて来いよっ」
 ホーテンが執務室を後にし、緑兵四名が後に続く。
「もこもこヘアーを楽しみにしとけ」
 ニヤリと口元を歪め、ヴァンも部屋を後にする。残りの兵がダダダと駆け出す。
 そして、たった一人が残された。赤の兵、ザラック。赤らんだ顔、捩じれた鼻筋。
 決して醜いわけではないが、笑顔がまるでゴミ虫のような。
「くくく。災い転じて福と為す、か。後はどうやってメナドを説得するかだなぁ・・・」
 深々と椅子に腰を沈め、グルグルと回して戯れる。
「・・・そうか、要は城を出られればいいんだからな。説得する必要はねぇのか」
 グルグル〜
「くっくくく」
 暗い笑いだ。真っ暗な中、チロチロと小さく輝くランプ。照らす横顔は黒々と聳えていた。
「ま、ちょっぴし可哀想だが・・・コレでいくかな・・・」
 ポケットから何かを取り出し、クルクルと回す。と、
 スタッ
 方針が決まったのだろうか、ザラックが椅子から飛び降りた。
 ランプにキラリと光るもの。キラリと銀に輝くナイフ。
 ストッと腰にナイフをしまうと、ザラックも部屋を後にした。
 月明りも射さない闇の世界で、いつまでもランプが光っていた。





 ・・・あとがき・・・
 六話、お終いです。
 オリキャラ三名追加です。
 シャクツ・ルイとヴァン、ホーテン。まぁどーでもいいキャラですが・・・。
 ところでザラック、書き易いです。
 ひたすら屑っぽく行動させようと思っています。(冬彦)














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