魔王ケイブリス 第二章 『リーザス陥落』







 十二話 マリスの思惑




―――時を少し遡る―――
「ヴァンさん、まずはシィルからですかぁ?」
「おう。なんたってザラック兄さんご指名だからな」
「えへへへ、俺、魔法使いって初めて抱くんで・・・えへへ〜」
 城内回廊を抜け、『シィル誘拐部隊』は真っ直ぐハーレムへ歩いていた。事前の調査通り、警備兵は殆ど居ない。
 忍び込む時も、『メナド将軍の使い』というだけであっさり入れた。まったく我が国ながら落ちぶれたものだ、と思う。
「えへへ、やっぱし魔法でアッチも強化してるんすかね?」
 ボカ
「馬鹿野郎、色気づいてんじゃねぇ。抱くのはリーザスを離れてからだ」
「いてて。そういやそうでした。てっきりその場で抱けるもんだと・・・」
「けっ、これだから盛ってるガキは嫌なんだ」
 十数名が足音を忍ばせ、城三階のシィル部屋へ向かう。
 彼らのターゲットはシィルを筆頭にしてシャリエラ、シーラ、エレナの四名。出来るだけ大人しそうな女を選んでいた。
「いいか? 俺がドアを打ち破るから、そうだな・・・お前とお前だ。飛び込んで女を抑えつけろ。
 すこし傷物になってもかまわねぇ、騒ぐようなら気絶させろ。いいな、できるな?」
「「ウイッス」」
「くくく・・・ランス王一番の愛妾かぁ。考えるだけで涎モンだなぁ」
 袖で顔を拭う。汗と涎がネトついて臭い。
「あ〜、ヴァンさんだって興奮してるじゃないッスか〜」
「まぁな。ま、お前程じゃないけどよ」
「へへへ」
「くくくっ」
 男達が一歩、また一歩シィルの部屋へ近づいていく・・・。





 シィル・プラインは広間に居た。
 レイラから『魔物がノースの町まで来た』と聞いているので、明日にもリーザスが襲われるのだろう。
「ランス様・・・」
 結局・・・ランスは戻ってこなかった。
 メナドやリックといった将軍は戻って来たけれど、シィルが一番待ち焦がれた男は・・・
 納まりの悪い茶髪を掻き乱し、緑の鎧を輝かせ、漆黒の剣を軽々と担ぎ、
 『がはははは! シィル久しぶりに一発するか!』。
 ランスがいなくなって、まだ十日しかたっていない。だけど、シィルにとっては十年に匹敵する十日だった。
 夜毎みるランスの夢。あるときは高笑いとともに凱旋するランス。
 国民が総立ちで迎える中、真っ先にシィルへ駆けつけて強くシィルを抱きしめてくれるランス。
 涙でなにも見えなくなったシィルを、優しく受け止めてくれるランス・・・けれど所詮は夢なのだ。
 目を開けば、一人ぽっちのシィルの部屋。キョロキョロとランスを探しても、どこからも笑い声は聞えない。
 あるときは何も喋らないランス。真っ黒い渦に巻き込まれるように、シィルへと必死に手を伸ばす。
 そう、まるでジルに異次元へ飛ばされたときのように手を伸ばす。
 シィルが走る。どんどん小さくなる黒い穴へ、懸命に手を伸ばそうとする。
 後ちょっと、もうちょっとで届きますから――指が触れた瞬間、猛烈に吸い込まれてゆくランス。
 黒い穴も塞がって、たった一人呆然と立ち尽くすシィルが残されるのだ。
 泣いても叫んでも、誰もシィルを包んでくれない。悪夢で目が覚めたときも、シィルは部屋で一人ぽっち。
 まるでボルゴZに暮らした日々だ。
 ランスがいればどんな食事もおいしいけれど、ランスがいなければ・・・
 リーザスの料理と牢獄の食事に何の違いがあるだろう?
 肉と穀物に香辛料が振りかけられたリーザスの料理も、いもを蒸かしただけのヘルマンの食事も、
 共にお腹を満たすだけだ。いや、それどころかボルゴZに居た時の方が食事がおいしかったくらいだった。
「ランス様・・・」
 ボルゴZでは、食べようという気力があった。
 食べて、なんとしても生きながらえる。そうすれば必ず助けてくれる。
 ランスはシィルを助けに来る、そんな確信があったから、イモの欠片を良く噛んで食べることができた。
 それがどうだろう? この数日は食欲がまったく起こらない。
「少し・・・痩せたかな」
 誰もいない王座の足元に、チョコンと膝を抱え込む。
 以前ならお腹がもう少し膨らんでいたはずだけど、ペコンペコンだ。
 昨日今日と、水を少し飲んだだけで一切の食事を摂っていない。頬がこけ、目の下には小さな隈が出来ている。
 ランスがリーザスに戻った時、最高の笑顔で迎えたい。そのためにも食事はキッチリ摂らないといけないはずなのだ。
 だのに、どうしても食指が動かない。ピクとも動いてくれやしない。
「ランス様は・・・ちゃんとお食事取ってますか?」
 体育座りのまま、主を失った王座を見上げる。
 『シィル、俺様のパンツを洗え!』
 『肩を揉め、足を揉め、ハイパー兵器をぺろぺろだぁ〜』
 いくらまったところで、何の言葉も貰えない。
「何か言ってください・・・」
 膝の間に顔を埋める。スンスンと鼻を啜る音。
 人前では、シィルはいつでも笑顔だった。
 ハウレーンとサヨナラしたときも、エクスの出陣を見送る時も、広間で使者と対応するときも、いつでも気丈に笑っていた。
 シィルが意識しているかどうかは別として、リーザスでランスに一番愛されていると思われているのがシィル。
 そのシィルがランスの死にめげない様子が、どれだけ残された者を励ましてきたことか。
 シィルの笑顔を見るたびに、誰もが『自分もくじけてはいられない』、そう心に呟くのだ。
 けれど、シィルだって人間。一人ぽっちになったとき、自然と笑顔が崩れてゆく。
 夜、たった一人で冷たいベッドに横たわる時、たまらなく涙が溢れてくる。
 そんな夜はコッソリ部屋を抜け出して、ランスの面影漂う広間に足を運んでいた。
「ランス様ぁ・・・」
 信じている。シィルの知っているランスは、シィルの期待を裏切ったりしない。
 シィルを見捨て、一人でどこかにいったりしない。
 たまに・・・いや、しょっちゅう夜遊びに出かけるし、シィル以外の女性にちょっかいを出さない日はない。
 ただ、最後にはシィルの元へ駆けつけてくれる。今度だってそうだ。ランスは絶対に帰ってくる。
「ランス様、シィルは寒いです・・・」
 信じてはいるのだ。そう、決してランスを疑っているわけじゃない。
 『お前はリーザスで留守番だ』『ちゃっちゃと片付けて戻ってくる』。その言葉を信じている。
 信じているからこうして理性が保てているんだろう。もし・・・もしもランスが死んでしまったら・・・? 
「そのときは・・・?」
 考えられない。ランスの居ない世界なんて、まるで想像もできない。
 十六歳でランスに出会ってからのことなら、何もかも鮮明に覚えている。
 なのに、ランスと会う以前の思い出は何もないのだ。スッポリと暗い穴の中に、幼年期が放り込まれたよう。
「そのときは・・・シィルにお声をかけて下さいね? シィルはどこでも付いていきます」
 ソッと玉座のクッションに手を伸ばす。主の体温はとうに消え、ただただ冷え切ったクッション。
 体育座りを解き、そぉっとクッションにしがみ付く。顔をこすり付ける。
「付いていきます・・・」
 グシグシ。仄かに香るランスの匂い。
 気のせいだと分っているけれど、まるでランスの胸に頬擦りしているような錯覚に陥る。
 シィルが生み出した空想のランスが、優しく髪をなぜてくれる。

――――――
「シィルはちゃんとお留守番してるんですよ?」
 『そーかそーか、偉いぞシィル。流石は俺様の奴隷だな』
「だのにだのに・・・どうしてお帰りにならないんですか?」
 『ああ〜ん? 俺様はちょっと寄り道してるだけだぞ。なんだ、もう待てなくなったのか?』
「い、いいえっ! ランス様がお戻りになられるんでしたら、いつまでもここで待っています!」
 『なにぃっ! 『戻られるんでしたら』だと? 戻ってくるに決まってんだろ!』
「ひん、ごめんなさいっ」
 『うるさい! 帰ったら一番にパコパコしてやるからなっ、覚悟しとけ』
「は、はいぃ・・・」
――――――


 早く戻ってきて欲しい。でないと、でないと気が狂ってしまう。
「待つのは辛いです、ランス様?」
 こっそり弱音を零してみたり。
「でも・・・ランス様の方がずっとお辛いんですよね・・・」
 そうだ、自分はただ待っているだけでいいのだ。それに比べ、ランスのなんと大変なことだろう。
 『魔王』と戦い抜き、それなりの戦果を挙げてからじゃないと、リーザスに帰還できないのだ。
 『戻ってくる』という約束を果たすためには、果てしなく高い山を乗り越えなければならないのだ。
「・・・」
 俯く。今の自分より辛いなんて、いったいどれくらい辛いのだろう?
 しかも、ランスの肩にはいくつもの錘がぶら下がっている。
 リーザスの運命、リアやマリスやレイラや・・・数々の女の運命までが、一人の男を押しつぶそうとしているのに。
「すいません、もう何もいいませんから・・・」
 ゴソゴソ
 胸元の小袋を引っ張り出す。クッションに埋まりながら、袋を優しく握り締める。
「魔物が来ても、シィルは逃げたりしません。ずぅぅっとお待ちしてますから・・・」
 赤くなった瞳を閉じ、安らかな匂いに身を任せる。
 この王座が一番落ち着く。なんといっても、ランスが座っていた椅子なのだ。
 そう思うだけで、心のどこかが柔らかくなる。いまならいい夢が見られそう。
 このままここで眠っても・・・いいですか、ランス様?
 ランスの返事は聞えなかったけれど、シィルは眠りへと落ちていった。





「なんだよ? 本当にここがシィルの部屋かぁ?」
「あっれぇ〜? おかしいなぁ・・・」
「だぁれもいないですね」
 午前二時半、シィルの部屋。ドヤドヤと男が入り込み、部屋の中を物色する。
 シーツを跳ね上げベッドの下を覗き込む。箪笥から中身を放り出し、ありとあらゆる雑貨をぶちまける。
 王女リアの意向により、シィルの部屋は殆ど離れ小島だった。
 ランスから一番遠い部屋で、辺りには人が住んでいない。それゆえ少々騒いでも気づかれる心配はなかった。
 ベッドに腰を下ろしたヴァンが小首を傾げる。シィルの部屋に来るまでの間、余りに廊下が暗かった。
 以前偵察した際には、室内灯の光が廊下に漏れ、もうすこし明るかったのに。今日はあまりにも暗いかった。
「けっ、まったく調子が狂っちまった。あ〜あ」
 ポフッ
 シィルのベッドに倒れこむ。女性の匂いがして、気持ちいい。
 布団が冷え切っているという事は、シィルは大分前にどこかへ行ったんだろう。
 すくなくとも化粧のために外出した空気ではない。
「ヴァンさん、これからどうします? シィルがいないとなると、ザラック兄さんが怒りやしませんか?」
「あぁ? 知ったことかよ、いないんだからしょうがねぇ。代わりに・・・そうだな、エリザベートでも攫えばいいさ」
「う〜ん、仕方ないですもんね。じゃあ、俺とルクスンでエリザベートを攫って来ましょうか?」
「まぁまてよ、そんなに焦ってもいいことないぞ。もうじき他の連中が戻って来るだろうから、その後でも遅くないさ」
 両手を大の字に伸ばす。
「そろそろ連れてくる頃だろ? シーラあたりが――」
 タタタッ
「おっ、行ってる側からご到着か?」
 ヴァンがのそりと起き上がり、駆けつける気配に向き直った。
「ヴァンさん・・・はぁはぁ・・・」
「ん〜? おいキャスバル、てめぇシーラはどうしたんだ?」
 シィル部屋に飛び込んできたのは、シーラ誘拐に出向いた男達だった。
 全力で走ってきたのだろうか、肩で息をついている。
 手筈通りならばロープでグルグル巻き且つ猿轡を噛ませられたシーラを担いでくるはずなのに、
 どこにもシーラが見当たらない。
「い、いい、い・・・」
「い? 『い』ってのはなんだ」
「居ないんです、シーラがどこにもいないんですよ!」
「はぁ〜?」
「ですから、シーラが見当たらないんですっ。部屋の隅から隅まで探したんですが、全然見つからないんです」
 予想していない事態にぶつかり、とまどうヴァン。
 居ないのはシィルだけかと思っていたが、シーラまでいないだと?
 偶然・・・にしては出来すぎている。いや偶然に違いない。昨夜まではハーレム女性が全員自室に居たのだ。
 彼自身の目で確認している、今日になって急にいなくなるなんて、どうにも考えられない。
「馬鹿野郎、いない筈ないんだよっ。さっさともう一度探して来い!」
「けど本当に居ないんですって!」
「だぁから、よっく探し直せっ――」
 ちょっとした口論の中に、また別の男が飛び込んで来た。
「失礼します! 取り込み中で悪いんスけど、エレナは見つかりませんでしたっ」
「探しなおせっ・・・て、エレナまでか?」
 タタタ
 またしても誰かが近づいてくる。
「ヴァンさん、おかしいですよ!」
「シャリエラがいないってんじゃないだろうな!」
「え、ええっ? な、何で分ったんです?」
「ちっ、何がどうなってやがるんだ!」
 ガン
 ヴァンは傍らの棚を思い切り蹴っ飛ばしていた。
 シィルだけならまだしも、エレナ、シャリエラ、シーラの全員が部屋にいないだと?
 これだけ偶然が重なるなんてありえない。おそらくは、
「ばれちまったのかっ」
 ザラックの計画が事前にばれたとしか考えられない。きっと竹中もこもこにあおいだって、部屋にはいないことだろう。
「くそっ」
 シィル誘拐部隊の面々が見守る中、ヴァンはもう一度棚を蹴飛ばした。
 考える。彼らの行動が読まれているとすれば、こんなに危険なことはない。
 軍部は女性を匿うと並行して彼らと捕まえにくるだろう。
 いくらリーザス軍が弱体化したといっても、親衛隊800に白の軍700強が駐留しているのだ。
 彼らを囲んで捉えるなどと容易い仕草。ならば、どうするべきだ・・・? 
 女を攫うのは失敗したが、リック暗殺は成功しただろう。ザラック兄さんも脱出経路を確保してくれたに違いない。
 ならばリックの首を手土産にリーザスを脱出するしかない。
 このまま城内をウロウロしていれば、遠からず捕縛されて斬首だろう。
 ざ、斬首だと? そんな死に方は真っ平だ。
「おう野郎ども! どうやら計画は失敗だ。こうなったらちょっとでも早くザラック兄さんに合流するぞ!」
「え? でも、女はもういいんですか?」
「ばかっ、女に構ってる暇はないんだ! もうすぐここに親衛隊がやってくるんだよっ」
「ええっ? そ、それって俺たちが捕まるってことっスか?」
「当たり前なこと聞くんじゃねぇ。分ったか? とにかくさっさとズラかれ!」
「「う、ウィッス」」
 ヴァンの剣幕に押され、悪党共はシィルの部屋を後にした。
 待ち合わせ場所である『メナド執務室』へ急いでいった。





 遠くでランスが呼んでいる。
 『シィル、シィルはやくこーい』
 『まってくださいランス様ぁ〜』
 懸命に走っているのに、ちっとも追いつけない。
 『シィ―ル――、置いてくぞ――』
 『そっ、そんなぁ! お願いです、もうすこしで追いつくんです!』
 地平線の彼方へ吸い込まれてゆくランス。呆然と見送るシィルを尻目に、タタタッと走り去る緑の鎧。
 『ランス様? ランス様ぁっ!』
 トントン
 『えっ?』
 悲鳴をあげたシィルの肩を、誰かがポカリと叩いた。なんだか懐かしい感触。
 『シィル、俺様だ! 大陸を一周して戻ってきたぞ!』
 さっき見失ったはずの茶髪が、胸を張って大笑いだ。
 『ら、ランス様ぁ〜』
 『がはははは! 俺様がお前を置いていく筈ないだろう?』
 『もう、びっくりしたじゃないですかっ!』
 ギュッとランスにしがみ付く。もう離さない、どこへも行かせないっ。
 『おいおい、何を泣いてるんだ?』
 『置いていこうとするからですぅ〜、ぐすん』
 『がはははは!』
 グシグシ
 シィルの頭を力強くさする。
 『ランス様、置いていかないで下さいね・・・?』
――――――

「シィルさん? シィルさんでしょう?」
 ユサユサ
 玉座に縋りついたまま眠りに落ちていたシィルを、現実に引き戻す衝撃。誰かが肩を揺さぶっている。
「ふぁ? え、ランス様じゃ・・・?」
「・・・ランス王ではありません。私は侍女のマリスです」
 暗くて顔は分らない。ただ氷の様に冷たい口調が、シィルの眠気を吹き飛ばした。
「マリス・・・さん?」
 シィルは玉座から顔を離した。
「探しましたよ? ご自分の部屋にいらっしゃらないので」
「あ、すいません・・・。あのぅ、何か御用だったんですか?」
 もこもこヘアを書き上げながら、シィルはゆっくり立ち上がった。
 握り締めた匂い袋を胸に仕舞い、マリスと顔をあわせる。
「そうです。リア様がお呼びなので・・・失礼ですが、ご一緒願えますか?」
「は、はぁ・・・。それは構いませんけれど・・・」
 一瞬、冷たいものを感じる。なんだろう?
 背中をゾクリとしたものが駆け抜けたような。不思議な違和感を感じながら、シィルはマリスに頷いた。
「では、私についてきて下さい」
 ファサッ
 美しいストレートヘアをかきあげ、マリスはクルリと踵を返した。
「あのぅ、どこにいくんです? リア様の用事ってなんですか?」
 マリスの背中に話しかける。
「・・・リア様のお部屋に行きます。用事は・・・着けば分りますから」
「そ、そうですか・・・」
 なんだか物を尋ねにくい空気。威圧するようなマリスの口ぶりに、シィルは黙り込むしかなかった。
 振り向くこともなく、マリスが淡々と広間を抜ける。玉座後ろのドアを開け、手にしたランプをシィルに向けた。
 高みからシィルを見下ろす形。
「・・・ひ」
 ランプの灯りがマリスの顔を下から照らし、黒々とした影が背後に立ち昇る。
 それほど明るくないランプなのに、姿勢の良いマリスとその影を壁にくっきり映し出した。
 思わず息を呑むシィル。
「? どうかしましたか?」
「い、いいえっ」
 シィルはブンブンと首を振った。
 言える筈がない、『マリスがモンスターに見えた』などといえる筈がない。作り笑いを浮かべ、
「なんでもないです」
「そうですか。余りランプから離れると足元が暗いですよ?」
 小首をかしげ、再びシィルに背を向ける。確かに足元が危なっかしい。
 一段高くなった段差で足をつんのめらせてしまった。マリスにつられるようにして、ランプの脇を歩き出す。
 いったいなんの用だろう? 魔物軍がとうとうリーザス城に迫ったのだろうか?
 リア様を守れとの命令だろうか? 
 なんとなく胸にモヤモヤを抱えながら、シィルはマリスについていった。
 小さなランプは、マリスの足元だけを照らしていた。





 ・・・あとがき・・・
 十二話お終いです。
 なんとか展開がテンポアップできたでしょうか?
 暗い雰囲気ではありますが、これからはサクサク進みたいと思っています。(冬彦)















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