魔王ケイブリス 第二章 『リーザス陥落』






 十八話 偽りの愛、偽りの服従




 朝日が昇ろうとしている。窓の外が白み、大気が少しづつ暖かくなる。
 時は春、日毎に温かくなる季節なのだ。金色の明かりが地平を昇り、ボロボロに変わり果てた城を照らす。
 リーザス城は静かだ。燃え盛る炎も自ずから鎮火し、塀が崩れる音が時折響く。
 数時間前まで騒がしかった魔物達も、いつしか眠りについている。
 静かで平和で、先刻までの喧騒が嘘のようだった。
 そんな中。
 一体の巨大な魔物が荒れ果てた城を後にする。六本の腕に八本の生殖器を併せ持つ魔王、ケイブリスだった。
 高貴な口元が心なしか緩んでいる。リーザスに攻め込む以前とは、身体を覆うオーラも違う。
 怖ろしいまでに強大で圧倒的な迫力は健在だが、触れただけで割れるような危うさが霞んだように感じられる。
 ズンズンと進む。胸を張り、真っ青に晴れ渡った大空を見上げる。
 遮るもののない街道を、魔人領へと歩いてゆく。
 ケイブリスは自分でも不思議に思っていた。どうして自分はこうも穏やかなのだろう?
 湧き上がる破壊衝動はどこへいったのか。込み上げる殺意、途切れることない憎しみはどこへ行ったのか。
 人間全てを皆殺しにして、カミーラの仇をとる決意が雲散霧消したのは何故か?
 ズンズンズン
 カツカツカツ
 巨大な足音に混じる細い音。ケイブリスのすぐ脇を歩く緑色のストレートヘア。
 ケイブリスが心に持つ穴を埋めようとした女性、マリス・アマリリス。
 愛する少女のために己を差し出した行為は、ケイブリスの野性を柔らかく包み込んだのだ。
 マリスの行為は、決して『ケイブリスへの愛』ではなく『リアへの計り知れない愛』。
 ただその事実を見抜くには、余りに愛を知らないケイブリスだった。
 動機が何だろうと、『死ぬ思いでケイブリスのモノになろうとした』マリスの行為は事実。
 ケイブリスにとって、マリスは初めて自分を愛した存在だった。
 凛々しい目付き、漂う知性、溢れる大人の色気、そしてケイブリスに怖じることなく応対した気品。
 かつてカミーラに魅かれた点の全てを持った女性が、自分のモノになったのだ。身も心も全てを彼に捧げたのだ。
 これが、ケイブリスにとっての事実。
 足元を見下ろす。キリッと締まった目が遥か遠くを見つめている。
 見事としか形容できない脚線美。眺めているだけで官能の炎が呼び起こされるのだ。
「魔王様、どうかなさいましたか?」
 ケイブリスの視線に気づき、
「ご命令があれば、なんなりとお申し付け下さい」
 マリスは鄭重な物腰を返した。その仕草は人間だった頃となんら変わりがない。
 かつてリアに伺いをたてたのと全く同じモーションを、眼前の巨体へ返すだけだ。
 ただし外見は変化を遂げていた。
 侍女衣装を纏っていた身体はピッチリとラバーフィルムで覆われ、襟元が立ったマントを風に靡かせる。
 ラバーには黒と紫を基調にした縁取りが施され、胸元に翠の宝玉が輝く。
 真っ青に濡れた爪が伸び、露出した掌を艶やかに彩る。
「マリス、その格好だがよぉ……中々いいぜぇ?」
「ありがとうございます。魔王様のお褒めの言葉、これに勝る光栄はありません」
 その場で拝跪して深々と頭を下げたマリス。俯いたまま言葉を紡ぐ。
「魔王様、改めて御礼申し上げます。
 私を人間という卑小で脆弱な器から解放し、魔人として魔王様にお仕えすることをお許しいただけたこと、
 これに勝る幸せはありません」
 一呼吸おいて、
「私の主は生涯魔王様お一人。
 この身体、一片たりと余さず魔王様のモノでございます。どうぞ、末永く嬲ってくださいませ」
「ふははは! いいぞ、よぉくいった。魔王城へ帰ったら……くくく、ホーネットと二人で俺様を喜ばせるんだぞ?」
「いつでも私の準備は出来ております。私を嬲って頂ける瞬間、心待ちにしております」
「ふぅえへへ、そう焦るんじゃねぇよ? 玉座に着くまで我慢しな」
 マリスの返答は、ケイブリスの意を得たものだった。実にいい返事だ。
 いますぐち○ちんをぶち込みたいのはケイブリスとて山々なのだが、彼にも小さな希望があった。
 それは、『魔王になってカミーラを玉座で貫く』という希望。
 カミーラが死んだ今となっては永遠に果たせなくなった野望。
「王座でたぁぁっぷり抱いてやるぜぇ。そりゃもう、百発は出してやる」
「……ありがたきお言葉。卑賤の身ながらのご寵愛、身に余る幸せでございます」
「ふぅははは! 楽しみにしてるんだな!」
 高笑い。下卑た野性の咆哮が朝焼けの空に木魂した。そんなケイブリスを哀しげに見つめるマリス。
 リアでもレイラでも、ランスでもいい。もしこの場でマリスの口調を耳にすれば、誰もが違和感を覚えただろう。
 マリスがケイブリスへ応対する時、仕草の端々が違和感で散りばめられているからだ。
 人間だったマリスなら、いかなる時でも相手から目を逸らさない。俯いて礼をいうなど考えられない。
 リーザスにいた頃のマリスなら、こんなに丁寧な言葉は使わない。
 『準備は出来ております』ではなく、『準備はできています』。『嬲ってくださいませ』ではなく『嬲ってください』。
 必要以上の修辞に飾られた言葉達。そこに託されたのは、一人の女が行える『精一杯の抵抗』なのかもしれない。
 絶対に逆らえない存在に見も心も縛られた女ができることは、口調を変える程度なのかもしれない。
「……楽しみにさせて頂きます」
 冷やかな瞳、淡々としたトーン。『楽しみにしています』といわないところに、一抹の悲哀が漂っていた。





 壁が崩れ落ちた部屋で朝日が何かに反射した。
 小さく砕けたピンク色の貝殻、ランスがシィルに預けたキルキル貝がそこに。
 口が開いた匂い袋から零れたのだろう、小さくホッソリ光っている。
 貝殻を預かっているはずの女はどこにもいない。たった一つ取り残され、哀しそうに光っていた。


――――――
 シィル達が隠れていた部屋を破り、現われたのはケイブリスだった。
 気品ある瞳をキラリ輝かせ、シィルら女性陣を眼光で抑えた。
 恐怖にふるえる女性達に冷たい声が届いた。
 嘲笑が入り混じった声は、彼女達がランスの女か確かめる言葉を紡いだ。
 ケイブリスが口を開くたび凍てつく冷気が部屋に籠もった。
 エリザベートが震えながら立ち上がり、『自分はランスの寵愛を受けた』と宣言した。
 曰く、『法王様より仰せられた言葉通り、自分はランスにお仕えした』、と。
 ケイブリスは鼻で笑うと、エリザベートに光線を放った。
 青い閃光が数本走り、エリザベートは床に崩れ落ちていった。
 部屋の誰もが言葉を失った。
 かなみですら光線を見ることが出来なかった。
 ケイブリスの手がピカリ光った様子は確認できたが、それだけである。
 目にも留まらぬ速度でエリザベートは貫かれた。
 悲鳴をあげる時間すらなかった。
 上機嫌に笑うケイブリス。
 ランスの女は俺様の前から消す、ただしそうでないなら話は別だ……と謳いあげる。
 眼下で自失した女達に命令する。
 ランスを汚せ、否定しろ。
 俺様は機嫌がいいんだ、特別に命は助けてやると。
――――――


 シィルとランスを結ぶ絆。何よりも固く結ばれていた筈の絆を象徴するキルキル貝。
 その貝が何故ここにあるのか?
 どうしてシィルの首から離れてしまったのか?
 どうして、どうして割れているのだろう?


――――――
 ケイブリスの高笑いが響いた。事態はケイブリスの思い通りに進んでいた。
 目の前で同僚を殺された女性達の口からは、ケイブリスの望んだとおりの言葉が紡ぎ出された。
 曰く、『ランスは屑』『ランスを愛した人間などいない』『ランスが死んでも悲しくない』。
 女達は次々とケイブリスの言葉を復唱した。両目に涙を湛え、唇をかみ締めながらエレナが呟いた。
 淡々とシーラが話した。恐怖に震えながらもこもこがケイブリスに迎合した。
 楽しそうなケイブリス。
 マリスを得た彼にとって、ランスの女を殺すより、死んだランスを貶める方が愉快なのだ。
 暗い喜びに身を委ねる中、思ったことを口に出す。ランスという男はたいした男じゃない。
 自分の女にここまで貶されるのが何よりの証拠だ、と。そこまでいったときだった。
 押し黙っていた女の中から、一人がクッと立ち上がったのだ。
 『ランス様は素晴らしい方です』
 ケイブリスは自分の耳を疑った。はっきりと良く透る声が、彼の思考に突き刺さった。
 シィルだった。スックと立ち上がり、キッとケイブリスを睨みつけていた。
 戸惑うケイブリスに、次々と言葉が投げつけられた。
 『ランス様ほど優しい方はいません』
 『ランス様を愛さない人はいません』
 『ランス様が死んで泣かない人はいません。それに……ランス様は死んでいません』
 言葉を失うケイブリス。
 シィルはただランスへの想いを静かに語った。瞳に怒りを湛えつつ、口調だけは静かだった。
 『貴方なんか足元にも及びません。世界で一番温かい人なんです』
 『私はランス様を貶めたりはしません』
 『私がどうなろうと構いません。けれど……ランス様の悪口だけは許しません!』
 シィルの腕に光が宿った。全身の魔力が一点に集中し、赤い光の玉が出来た。
 『貴方が無理に言わせた言葉を訂正して下さい! ランス様は、ランス様は貴方の言うような人じゃないっ』
 戸惑いの次にケイブリスが持った感情は、怒りではなく嘲笑だった。
 訂正だと? 笑わせてくれる。面白いじゃないか、人間が魔王に訂正を申し入れるなどと。
 魔人化したマリスといい、眼前のピンク色の少女といい、人間の女にも面白い存在はいるものだ。
 ケイブリスは言った。ランスは屑だ、チンケなゴミ虫だ、と。
 そのとたん、シィルが作った光が弾けて、四本の火線がケイブリスに直撃した。
 もちろん痛くも痒くもない。何度も何度も球を作り、シィルは火線を打ち続けた。
 『ファイヤーレーザー』の掛け声と共に、自分が持つ最大魔法を連発した。
 無駄だと理解しながらも、もてる全てを魔王にぶつけた。
 すべての魔力を使い果たした時、シィルが見たのは傷一つつかないケイブリスの巨体だった。
 悔しさでいっぱいになった。ピッチリ噛みあった歯の根には、薄っすらと血が滲んでいた。
 冷笑を浮かべてケイブリスは言った。
 どうした? 訂正させるんじゃないのか? ランスの女ってのは、どいつもこいつも口だけなんだな……。 
 もはやシィルに為す術はなかった。出来ることといえば、ケイブリスから目を逸らさないことだけだった。
 眼前に迫る死から逃げず、シィルは魔王を睨み続けた。
 無表情な顔が、少し笑ったように見えた。一本の腕を突き出し、青い光を指先に集めた。
 そしてシィルに言った。
 いまからお前の心臓を貫く。お前が避けたらさっきの言葉は訂正しよう。当たったら、死ね。
 死を突きつけられてもシィルは震えなかった。
 どうせ避けられる代物ではない、ならば避ける努力をするだけ浅ましい。
 首から提げた匂い袋を取り出すと、シィルはグッと握り締めた。目を瞑り、怯える心を押し殺した。
 キルキル貝を通して、ランスの温もりを感じていた。
 『ランス様……シィルは約束を守れませんでした。
  キルキル貝、お返しできませんでした……。ランス様……ごめんなさい……』
 心の中で小さく呟いた。表情はあくまで笑顔のまま。
 ランスを貶すような存在に、泣き顔なんてみせるものか。涙なんてみせるものか。
 『ごめんなさい……』
 何度となくランスに叱られた。
 アイスの町で、カスタムの町で、リーザス解放戦争で。イラーピュで、ヘルマンで、ゼスで、JAPANで。
 あの拳骨が懐かしい。ランスがシィルにしてくれたなにもかもが懐かしかった。
 と、その時。目を瞑ったシィルの前に現われた人影。
 顔ははっきり見えないけれど、このシルエットは……ランス?
 猛烈な速さで駆け寄るシルエットに、夢の中で激しく殴られたシィル。
 そして目を瞑ったまま床へと崩れ落ちた。
 ピカリ、閃光があたりを包んだのと、シィルが倒れたのは同時だった。
 プッ 
 匂い袋の下げ緒を焼き切って、青い閃光は床に刺さった。地面に落ちた拍子で、
 パキッ
 キルキル貝は砕け散った。
――――――


 キルキル貝の表面はピンク色。
 けれど、割れ目はピンク色でなかった。
 薄っすらと緑がかった茶色い割れ目。
 ピンクと茶色のコントラストが、地平の朝日に映えていた。






「・・・」
 誰も居ないリーザス平原が朝焼けに染まる中、女が一人蹲っていた。
 細長い月が照らす光の下で、両手を地面につけている。
「・・・」
 ゆっくり顔を上げ、いましがた駆けて来た所を振り返る。
 ほんのり赤く染まった城が闇に映え、女はグイと目頭を拭った。
 焦げた忍び装束に身を包んだ見当かなみだ。
「酷い・・・酷いよ・・・」
 小さく呟く。誰に語るでもなく、燃えるリーザス城へ語りかける。
「どうして? なんでこうなっちゃうの・・・?」
 燃えるリーザス城を一人で眺めるのはこれが初めてではない。
 眺めるのは初めてではないけれど、こうやって当てなくしゃがみ込むのは初めてだ。
 三年前の『リーザス解放戦争』が勃発した夜、やはりこうして燃え盛る城を見た。
 リーザス聖盾を小脇に抱え、横目を炎で照らされつつかなみは懸命に走った。
 『キースギルド』に属する戦士に全てを託すため、ひたすら荒野を駆け抜けた。
 当時のリーザス城が燃えるイメージと、現実の光景が重なって見えた。
「いっつもあたしだけ逃げちゃうんだ・・・」
 三年前もそうだった。
 リア直々に『ランスを呼んでこい』と命令されたとはいえ、たった一人燃え盛る城から抜け出したかなみ。
 今度だって同じことだ。紆余曲折を経たとはいえ、リーザス平原に佇む人影は一つしかない。
「うっ・・・ぐすっ・・・」
 ジワリ、目尻が濡れる。三年前はこれからどうするか、かなみ以外に考えてくれる人がいた。
 リアが『ランスに会え』と決めた。ランスに盾を渡してからは、全てランスが決めてくれた。
 かなみは命令をこなすうちに、事態は好転していった。
 それがどうだろう?
 今のかなみは一人ぽっち。
 与えられた命令は『だれそれに助けを求めろ』『どこそこを調べろ』といった具体的なものでなく、
 『リアを救え』という、極めて抽象的なもの。かなみを導いてくれるのは、もう誰もいない。
「うっ、うぅぅっ」
 風が冷たい。心に隙間が出来たようで、冷気が颯爽と駆け抜ける。
「あたしだけ逃げて・・・みんなを置いて逃げて来て・・・ごめん、ごめんなさい・・・でも、でも!」
 どうしようもない怒り、後悔。赤々と燃える城には、彼女の親友が、シィルが、エレナが残されている。
「・・・もう解んないっ・・・!」
 頭を抱えて地面に突っ伏す。駄目だ、今は何も考えたくない。
 今何か考えると、ただただ死にたくなってしまう。何もかもが違う。全てを捨てて逃げ出したくなる。
 生きる事すら苦痛に感じてしまう。
 考えまいとして頭を空っぽに出来るほど、人間は巧くできていない。
 考えまいとすればするほど考えてしまうのが人間。かなみだって例外ではなかった。
 自分が見た光景、自分が聞いた言葉、自分が選んだ行為がリフレインしていた。
 ケイブリスがシィルに向き合っているとき、かなみは隙を見出した。
 部屋から廊下にでるにはケイブリスの脇をすり抜けなければならない。
 けれど、窓から逃げることは出来そうだ。ここは四階だが、一人なら多分脱出できる。
 一人なら一人なら一人なら……。
 自分の決断は間違ってはいないだろう。
 忍者として『一人で脱出する』を選んだことは、決して間違いではない。
 それでも、皆を見殺しにしたことに代わりはないのだ。
 やり場のない悔しさだけが押し寄せてくる。
 かなみは大地に突っ伏したまましばらく動こうとはしなかった。





「ふみ〜リス様速いにゃん、ついていくのも一苦労にゃん!」
「お、重いのね〜。重いものを担ぐなんて久しぶりなのねぇ〜」
 ケイブリスとマリスの遥か後方、もぞもぞと歩く二匹の生物。二匹して一人の人間を抱えている。
「何で人間を連れて行くにゃん? 皆殺すっていってたにゃん!
 ニャンが嘘ついたら怒るくせに、リス様は嘘ついたりしてダメダメにゃん」
「これは人間じゃないのねぇ〜。リス様が『使徒』だっていってたのねぇ〜」
「ふみ? じゃあじゃあニャン達の新しい仲間にゃん?」
「リス様の使徒じゃないのねぇ〜。新しい魔人の使徒らしいのねぇ〜」
 身を乗り出したニャンに、のほほんと返事をするワン。それを聞くと、ニャンは露骨に嫌そうな顔になった。
「……あの寒寒女の使徒にゃん? なんでニャン達が負ぶわないといけないにゃん?」
「リス様の命令なのね〜」
「リス様最近ニャン達を働かせすぎるにゃん! だいたい寒寒女は嫌いにゃん!」
「ワンは寒いの平気な〜のね〜」
「ニャンは寒いの大嫌いにゃん! あいつに近寄るだけでぶるぶるにゃん」
 しかめっ面になるケイブニャン。プクッと頬っぺたを膨らまし、腕をブンブン振り回す。
「ニャン、しっかり持つのねぇ〜」
「む〜〜、腕が疲れたにゃん。お腹も減ったにゃん、モンプチ食べたいにゃん……」
 大人しく人間の足を持つ。
「ほねっこ……あう〜」
 ニャンに釣られてワンまで溜息を。結局今度の戦争では、何にもご褒美を貰えなかった。
 憧れのほねっこは、ここ四ヶ月ほど食べていない。それだけに思い入れが深くなる。
「ほねっこ〜ほねっこ〜……チュル」
 パブロフの犬状態なケイブワン。
 トロンとした目のケイブワンに、ニャンがそっと話しかけた。
「ワン、モノは相談だにゃん。今から町にいって、モンプチとほねっことりに行くのはどうにゃん?」
「……駄目なのねぇ〜。リス様に怒られるのね〜」
 一瞬考え込んだ後、ふるふると首を振るワン。
「大丈夫にゃん! リス様馬鹿だから気づかないにゃん?」
「リス様にばれなくても、魔人のほうにばれるのね〜。新しい魔人、とっても賢そうなのねぇ〜」
 クシクシ涎を拭きつつ、ニャンを嗜めるワン。
 ニャンはといえば、しばらくモゴモゴとワンの説得にかかる。
 けれどいつまでもワンが乗ってこないので、とうとう、
「もういいにゃん!
 ワンなんかじゃダメダメにゃん。今度モンプチ貰っても、絶対分けてあげないニャン!」
「モンプチいらないのねぇ〜。柔らかすぎて美味しくないのねぇ〜」
 パチクリ、瞳孔を開くニャンが、口をへの字にしてくってかかる。
「あっあっ、今モンプチ馬鹿にしたにゃん!」
「してないのねぇ〜」
「嘘にゃん、美味しくないって聞えたにゃん!」
「気のせいなのねぇ〜」
「気のせいじゃないにゃん、絶対言ったにゃん」
「重いのねぇ〜。重いと疲れるのねぇ〜」
「ふみ〜、話題を変えても無駄無駄にゃん。ワン、ちゃんとモンプチに謝るにゃん!」
「なのねぇ〜」
 そんなこんなで、結局大人しく人間を運ぶ二匹だった。
 ケイブニャンとケイブワンの狭間では、ピンク色のもこもこヘアーが風に靡いていた。





 ・・・あとがき・・・
 十八話お終いです。
 これにて二章もお終いになります。
 明るいムードの兆しを掴みたくて、ワンとニャンに登場して貰いました。





















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