魔王ケイブリス 第三章 『逆襲のランス』






  二話 すれ違い、二つ





 カスタム、夜。
「チューリップ隊を分けて、あたしが二百人でここへ行く。志津香と残りのチューリップ隊がホルスから街を守る。
 ランにはいつもの丘から援護してもらって、ミリとハウレーンさん……ハウレーンさんはいないのか、
 ミリとミルが敵本隊を食い止める……ってミルも怪我しちゃったんじゃない」
 近代的な街・カスタムにあって人一倍金属気が多い家。マリア・カスタードが研究室兼工場兼住居である。
 たった一つだけ明かりがついた部屋で、マリアと地図が睨めっこしていた。
「ミリだけでモンスター本軍を止める……? あはは……できっこないわ」
 赤ペンで様々な記号が書き込まれた地図をそっと摘むと、マリアはランプの蝋燭にかざした。
 メラメラッ
「ふふ……綺麗」
 虚ろに燃えてゆく紙切れ。白色から褐色へ、褐色から黒へ、黒から煙へ移り行く紙切れ。
「熱っ」
 指先に炎が当たり、ハッとして手を離す。
「きゃっ、は、早く消さなきゃっ!」
 バシャッ 
 燃える地図に、コップの水をぶちまけた。マリアの机は紙切れ・書類が山積みだ。
 軍編成関係から設計書の類まで、一片の隙間もなく燃えやすい物体で覆われているのだ。
 幸い火が燃え移ることはなかったが、あやうく火事になるところである。
「はぁはぁ、ふぅぅ」
 火事にはならなかったけれど、机が水浸しになってしまった。
 インクの滲んだ図面の中には、『チューリップ百号』の文字もある。
 リーザスにいた頃のマリアなら、
 『チューリップ百号設計図』に水を掛けるなど、なにがあってもありえなかったのに。
 グチャグチャになった机を片付けようともせず、マリアはベッドへ倒れこんだ。
「……あたしってば何やってるんだろ?」
 解りきっている。カスタムに勝機など万に一つもない。そんなことは始めから解りきっていた。
 けれどもマリアは戦う道を選んだ。
 ランを筆頭にした皆は『カスタムを守るため』に戦っているんだろう。
 魔人に攻め潰されたマウネスやノースの惨状を聞いてしまえば、降伏する気をなくすのも解る。
 グラックのように魔人に取り入ることが出来れば惨状を軽減できるかもしれないが、
 カスタムにはグラックみたいな寝技の達人はいない。いるのは真っ直ぐな人間ばかりだ。
 こうなることは解っていた。
 魔人が攻めてこない内はまだしも防衛が可能だけれど、
 敵が本腰をいれた瞬間に防衛作戦が破綻することは見えていた。
「……ぐすん。ランスが早く帰ってこないと、本当に負けちゃうのよ?
 あたし達みんな殺されちゃうのよ?」
 思う。マリアが進んで窮地へと足を踏み入れたのは、『リーザス解放戦争』再来を期待していたからだ。
 リーザスのために戦っていれば、必ずランスが戻ってくる。
 地面から出てくるか夜這いをかけるかはわからないが、きっとマリアを助けてくれる。
 そうすればもう一度ランスと冒険できる。ランスと一緒に。
「お願いだから早く来てよ……」
 仰向けからうつ伏せへ変わり、枕に顔を埋めた時だった。
 トントン
「マリアいる? 入るわよ」
「えっ、えっ?」
 夜更けに一体誰? あわててベッドから飛び起きる。返事をするまも与えず入ってきたのは、
 パタン
「相変わらず凄い散らかりようね」
 尖がり帽子に黒いマント。散乱した文房具やベチョベチョに濡れた机を見ると、呆れたように首を振った。
「あ、あはは……きょ、今日は特別よ。いつもはもうちょっと綺麗……かな?」
 マリアは仕方なしに笑った。
「そお? いつもと大して変わらないんじゃない?」
「そんなことないもん。志津香のタイミングが悪いだけよ」
「ま、そういうことにしてあげるわ」
 サラサラの髪をかきあげると、志津香はマリアの隣に腰を下ろした。
「どうしたの急に? ランと一緒だとばっかり思ってたけど」
「……別に」
 戦争が始まってからこの方、志津香とランはいつも一緒だった。
 共に魔法部隊を指揮する関係もあるだろうが、二人とも魔法部隊と同じ宿舎で生活していた。
 以前はしょっちゅうマリアを訪れていたものだけれど、この二ヶ月でマリアを尋ねてきたのはこれが最初だった。
「マリアどうしてるかな〜って気になっただけよ。ランもそうだけど、マリアも結構抱え込んじゃう方だから」
「……心配してくれたんだ。ありがと」
「ランの弱音は聞き飽きたわ。悩み事があるんなら相談に乗る……っていっても、悩みごとが多すぎる?」
「……」
「あたしにまで強がらなくていいわよ。マリアがあの馬鹿を待ってることくらい解ってるから」
「え?」
「『こうやって持ちこたえていればアイツが助けに来てくれる、アイツは死んだりしない。だってランスなんだから』。
 違う? こんなところじゃない?」
「志津香……」
 図星。志津香がいった通りだった。
 マリアが戦闘中笑顔を絶やさなかったのも、『勝ち目』がないなか前向きに指揮できたのも、
 ひとえに『ランスを信じている』からだった。
「はぁぁ、ミリもランもあんたも……みーんなランス、ランス、ランス。
 あれだけ酷い目に逢わされたのにこれだけ頼りにされてたなんてね? アイツが聞いたら何ていうかしら」
 頭が痛そうに首を振る志津香。手を額に当てて、『理解不能』とでもいうように眉間に皺がよっている。
「志津香は違うの? ……志津香もランスが死んだって思ってるの?」
「あたし? う〜ん、どうなのかしら? アイツってばゴキブリみたいにしぶといから……解らないけど」
 一呼吸おいて、
「『アテに出来ない』って思ってる」
 静かに、けれどキッパリ言い切った。
「死んだとしても驚かないわ。
 今まで散々酷いことしてきたこと考えたら、今日まで生きてこれただけでも不思議なくらい。
 神様もよくあんな男を許していたわよ」
 マリアは黙って聞いていた。志津香の端々からランスを冒涜する響きを受け取りながら、黙っていた。
 普段ならこうもカチンとこないだろう。志津香がランスに好意をもっていないのは解っている。
 いや、好意を持っていないわけではない。
 敬意も好意も持っているが、志津香はマリアのようにランスから優しくされたことがない。
 ランスの内面の良さに気づいていないことを解っている。
「無茶でツッこんでばっかりで。いままでは運が良すぎたのよ。
 王様になったり英雄になったり。確かに強いのは認めるけれど、欠点だってありすぎる男だったじゃない?
 いつでも女の子のお尻を追っかけ回してるし、笑い声も下品だし」
「……」
「不思議な力があったのはわかるけど、
 それだってあたしの錯覚かもしれないし。だからアイツが助けてくれるなんて思ってない。
 自分でなんとかするつもりよ。ランスに出来ることなら、あたしにだってきっとできる」
 カチン。自分でなんとかする?
 マリアにとって思っても見ない一言を聞き、思わず顔をあげた。
 違う、ランスだからどうにかできたのだ。なんとかする?
 マリアにとって『なんとかできる』人間はランス以外に存在しない。
 確かに志津香は凄い。魔力・センスのどれをとっても当代超一流の魔法使いだ。
 けれど、それだけだ。決して魔法使い以上の存在――英雄ではない。
 ランスに出来ることなら自分にも出来る? ランスに出来ることは……ランスにしかできない。
 マリアはランスがいなくなってから痛切に思ってきた。
 自分の中でランスの存在感があれほど大きかったのは、自分がランスを好きだからだけでは決してない。
「なんとかって……何? 何か方法があるの?」
 ギリ。唇をかみ締めながら、押し出すようにマリアがいった。
 いい加減な返事は許さない、そんな気持ちだ。
 志津香がいっていることは良く解る。もっともだと思うし、間違ったことは何一ついっていない。
 確かに志津香のいった通り、ランスはエッチでスケベで変態だ。
 多分、世界で一番エッチに情熱を燃やす男だろう。ランスは馬鹿で乱暴者だ。
 無茶をするという点でランスを上回る男など思いもよらない。
 ランスの欠点を突くのは構わない。ランスを酷くいうのも構わない。
 だがしかし。
 ランスを否定することは許せない。
 いま、マリアは真剣に……かつて無いほど強烈に、激烈にランスを恋している。
 ランスの面影に縋っているのだ。それを例え口先ででも面影を傷つけられれば、耐えられない。
 マリアだってアップアップしているのだ。
 今にも溺れそうになりながらも小さな藁に縋って息継ぎしているのに、その藁すら志津香は汚そうとする。
「方法なんて、無いわ。でもアイツの幻に縋るなんて真っ平ごめん。あんな馬鹿に――」
「もう止めてッ!」
 抑えていた堰がどこかで切れた気がした。
 今まで誰にも喋っていなかった気持ちが驚くほど素直に出てきていた。
「ランスは特別なの! 私達じゃランスみたいに生きられないのっ!
 ランスの代わりなんて……ひっく……代わりなんて何処にもない!」
 ガバッ
 ベッドから立ち上がり、志津香に叫んだ。
「そ、そりゃあたしはランスの幻に縋ってるわよ! 志津香のいう通り、ランスをアテにしてるわよ!
 でもいけない? ランスを頼っちゃいけないの? だって……あたしにとってランスが全部なんだもん!
 ランスなしで生きていけるはずないじゃない!」
 ポロポロポロッ
 涙が零れた。
「ぐすっ。ランスのいない世界なんて考えられないんだもん! 考えたこと、ないんだもん!
 忘れるなんて、考えないなんて出来っこないもんっ……」
 顔を覆うと、マリアはそのまま床にへたり込んだ。
「ううっ、ぅぅぅぅ――」
 マリアが泣き崩れたところで、
「カスタムについたとき約束したじゃない!
 これからはランス無しで戦うんだって……だのに皆、結局ランス離れできてない!
 マリアだけじゃない、みんなそう」
 志津香の罵声が飛んだ。いや、罵声というには哀しい声だった。
「うっ、うっ、くぅぅ〜」
「リーザスから逃げ出して、カスタムに到着したときマリアにちゃんと聞いたわよね?
 『ランスがいなくなっても魔人と戦うの?』って。自分が何ていったか覚えてる?」
 三角帽子に隠れていたが、志津香も唇をかみ締めていた。
「忘れたなんていわせないわよ。『ランスは魔人と戦ったんだから、私も戦う。ランスに頼らず自分達で身を守る』。
 ……それが何? あのセリフは結局嘘だったの?」
「うっ、うっ、ひっく」
「マリアがいったことってね、突き詰めたら『自分で何とかする』ってことよ。もっと言おうか?
 『自分で魔人と戦う、魔人を倒す』ってこと。あたしは本気で魔人を倒そうと思ってるし、倒せるって思ってる。
 マリアと違って口先だけじゃなく、ね」
 足元ではマリアがしゃくりあげている。
「エターナルヒーローっていたでしょう?
 自分で魔人を何とかしようって……それだけで立ち上がった人間だっているわ。
 そうしなくちゃ、もうどうしようもない。他人に頼ってる時じゃない。
 私達に必要なのは過去の幻じゃなくて、新しいなにか……」
 マリアの泣き声が小さくなり、志津香の声も細くなっていった。
 志津香はランスを貶すつもりでこんなことを言ったんじゃなかった。
 現状を打破するには、魔人を倒す力がいる。ならば自分達で研究しよう、手に入れよう、そう思っただけだった。
 ところが魔人が話題に上るたびに出てくるのは『ランス・カオス』といった言葉だけ。
 ランにしてもミリにしても、
 皆が『ランスが生きていれば』『ランスが死んでなかったり』『ランスが』『ランスに』。
 そんなことばかり言う。誰も自分が『第二のランス』になろうとしない。
 親友のマリアですら『ランス』『ランス』だ。それでついカッとなり、マリアを罵倒してしまった。
 志津香はベッドから降りた。マリアの横を通り過ぎ、ドアの取ってに手をかける。
「……言い過ぎたわ。
 ランスのこと、あたしだって忘れたりしない。マリアが頑張ってるのも解ってる。でもね……」
 ギィィ
 ドアを開ける。
「……いつまでもランスに縛られないでよ……見てるコッチも辛いんだから……」
 パタン、カツカツカツ。
 寂しそうに囁くと、振り向きもせず歩きさった。
 しばらくの間部屋の中からマリアの嗚咽が続いていた。





 翌日、カスタム司令部。空は面白いように晴れ渡り、雲ひとつない快晴だ。
 清々しい外と対照的に、しかし中の空気は淀んでいた。
「志津香、お前本気でいってんのか!」
 バンッ
 ミリ・ヨークスが机を叩いた音。
「ええ。冗談でこんなことは言い出さないわ」
 けれども志津香に動じた様子はない。
「明日、あたしはカスタムを出る。皆とは今日でお別れよ」
「出て行くって、私達を置いていくの? カスタムの街を見捨てるの?」
 半ば悲鳴をあげるラン。
「見捨てるなんて……そんなつもりじゃないわ。ただ……」
「『ただ』? その次はなんだい。ことと次第によっちゃ、本気で怒るよ」
 ミリは椅子に戻った。ギラついた目が、真剣に怖い。
「魔人が攻めてきた以上、魔人を倒す手段が必要よ。いまのカスタムに何かあるの? 何にもないわ」
「それは今に始まったことじゃないだろ。
 始めっから解ってたことなんて、いまさら逃げ出す口実にはならないぜ?」
 志津香とミリが睨みあう。先に口を開いたのはミリだった。宥めるように優しく言う。
「自分が何をいってるか解ってるかい? ランの言う通りだよ。
 志津香の魔法がなくなったら、カスタムはもうもたないことくらい百も承知だろ?」
「じゃあ聞くけど、私がいればカスタムは保つの? 私の魔法でカスタムが守れる?」
「……なんだよ、俺の質問に答えないくせに自分は質問するのかい?」
 こめかみを震わせるミリ。冷然と構える志津香とは、何もかもが対照的だ。
「魔人が攻めてくるまでは私の存在意義はあったと思う。だけど魔人はやって来た。
 リーザスが魔人の前で負けたと同じで、カスタムも負けだわ。だから私がここにいる理由はない」
「ふん、どっかで聞いたようなセリフだと思ったら……エクスのまんま受け売りじゃないか。
 エクスが俺達を説得したときも、そんな事をいってたっけね。
 志津香、せめて自分の言葉を使ったらどうだい? それが俺達に対する礼儀ってもんだろ」
「受け売りするつもりなんてない。偶然同じ言葉になっただけよ」
「ふん、どうだか……。それで? だからなんなのさ」
 ミリは腕を組んだ。明らかに志津香の言葉を信用していないのが見て取れる。
「魔人を倒さない限り、守ってばかりじゃ駄目ってことよ。
 誰かが魔人と戦う力を見つけなくちゃ駄目だわ。私は力を探しにいく」
「力だって? 魔人と戦う? 偉く簡単にいってくれるじゃないか。
 それだけキッパリいうってことは、何か心当たりがあるんだろうな!」
 それまで顔をあげていた志津香だったが、ここに来て視線を落とす。少し黙り込んだ後、
「……ないわ」
 小さく呟いた。途端に机を叩く音。
 バンッ
「アテもないのに探しにいくだって? 自分勝手も程があるぜ!
 おいマリア、お前も黙ってないで何とかいってやれよっ」
「落ち着いて! 怒鳴りあったって何も解決しないわっ」
 ランが立ち上がってミリを抑える。
「これが落ち着いてられるかよっ。いいかっ俺は許さないぞ!
 どんな理由をこじつけたって、街を捨てるなんて許さない。だいたいお前は昔っから単独行動が多すぎるんだ。
 いまさら勝手に動かれちゃ堪らないんだ!」
「お願いだから冷静になってよっ。お願いだから!」
 ミリを遮るようにしてランも叫んだ。
「はぁ、はぁ……」
「落ち着いて、ね? もっと静かに話し合わなくちゃ……」
 ランに押さえつけられる形でミリは静かになった。
 こんな風に感情をむき出しにしたミリは久しぶりに見る。
 妹のミルが深手を負ったことで気が立っているせいもあるのだろう。
「志津香、あなたの言い分も解るわ。だけど今はそんなことをいう場合じゃないでしょう?
 私達が力を合わせないといけないって、志津香が一番解ってるじゃない」
 ミリの肩に手を当てながらランはいった。ミリが吐く息遣いが聞える。
「ミリじゃないけど、貴方がいなくなったら直ぐにカスタムは負けるの。
 ううん、貴方だけじゃない。マリアも、ミリも……これ以上一人でも欠けたら駄目。絶対に駄目」
「「……」」
 志津香、ミリともに何もいわない。ランが一人で喋る格好。
「ただでさえ戦力は限界を超えてるわ。ミルとハウレーンさんが抜けたのよ?
 これまでだってギリギリ持ちこたえていたのが、今日からはもっと辛くなる。
 現実を理解して。作戦をたてるマリアの身になって」
 誰も何も言わない。
「志津香が魔人から逃げたくていってるんじゃないってこと、解るつもりよ。
 でもいまはカスタムを離れる時期じゃない。カスタムを守るためには――」
 と、それまで俯いていたマリアが初めて口を開いた。かすかだが、それでいてよく透る言葉だった。
「ごめんなさい。カスタムを守る作戦、思いつけなかったの……」
「ちょっ……! ま、マリアいま何ていったの?」
 ハッとした顔で、志津香からマリアに視線を顔を向けるラン。
 カスタム戦争が始まってから初めて耳にしたセリフだった。マリアは冗談をいっている風ではない。
 真顔で俯いたまま悔しそうに、
「あれからズッと考えたの。でも……駄目。どうしたって防ぎきれないわ。
 相手が人間なら心理戦に持ち込めるけど、相手が魔物じゃどうしようもないの。
 ミルの幻獣なしだと陸上は……防げない。ホルス対策も出来ないし」
 いままではやれ『ここに落とし穴を掘るのよ!』『嘘っこの看板で騙すわ!』『待ち伏せよ、待ち伏せでいく!』
 といった前向きな作戦を提案し続けたマリアが、何もアイデアがないと言い切った。
「そ、そんなっ」
「思いつけなかったの。ごめんなさい……」
 うな垂れるマリア。パッチリ瞳を見開き、『信じられない』といった風情のラン。
「そ、それじゃ……」
「うん。魔人がここに来る前にカスタムを出るしかないと思う。
 荒野は危ないと思うけど、街道は絶対に通れないから。
 デンジャラス・ホールを通ってポルトガルまで着いて」
 力が抜けたようになって、ランは椅子に崩れ落ちた。構わずにマリアが続ける。
「JAPANに逃げるのが一番だと思う。
 橋で防衛できるからカスタムよりずっと守り易いと思うし、五十六さんも力になってくれると思うの」
「それって……カスタムを捨てる……ってこと? マリアが設計した街なのよ? 本当に見捨てちゃっていいの?」
「カスタムにしがみついててもやられるだけだもん。あたしだって悔しいけど……志津香のいう通りだと思う。
 カスタムに残る意味は無くなっちゃったかもしれない」
 志津香を含む全員が黙ってしまった。真っ青に輝く太陽が恨めしいな、と志津香は思った。
「じゃあ何かい? 俺達が戦ってきたのは結局無駄になっちまって……それでいいのかい?
 ラン、お前も逃げ出そうってのか?」
 ミリが喋った。うってかわって落ち着いた声だった。ランは返事をしない。
「俺はまだ戦える。俺の部下達だって諦めちゃいないよ? それでも勝負を捨てるかい?」
「……私達はよく戦ったわ」
 質問に直接答えようとはせず、自分に言い聞かせるようにしてランは言った。
「ここまで精一杯戦った。マリアも、ミリも志津香も皆……皆が凄く頑張ったわ」
「……誰もそんなこと聞いてないだろ? マリアが逃げようっていったら逃げるのかい?
 志津香が抜けるってだけで戦いを諦めるの――」
「そんな風に言わないでよっ! 私だって一生懸命考えて喋ってるんだからっ!
 守る作戦も無い、リーダーもやられて指揮はボロボロ、
 私達だってこんな空気でいがみあって……戦えるわけないじゃない……」
 ミリに終わりまでいわせなかった。大きく息を吸い込むと、ランはいった。
「カスタムから逃げましょう。魔物がここまで来ないうちに、早い方がいい」
キュッと唇を結んだランを見て、ミリが気だるそうに立ち上がる。
「ランがそういうんなら俺も依存はないさ。 ……総大将はランだからな、任せるよ。
 詳しいことが決まったらミルのところに知らせてくれ。俺もミルと一緒にいるからさ」
 疲れた顔を左右に振り、ミリが出口へ向かう。と、ドアの手前で立ち止まった。去り際に一言、
「志津香、元気でな」
「……ええ。ミルによろしく伝えておいて」
「ああ。もしも力を手に入れたらって期待してるよ。じゃあな」
 後ろ手で、ビッ。敬礼の真似事をするとそのまま病院へ歩いていった。





 ・・・あとがき・・・
 二話お終いです。
 ランスが生きているだけに少々滑稽ではありますが、
 志津香をカスタム組から外すためにこんな展開を書いて見ました。
 あくまでランスは隠密行動、歴史の表舞台に登場するのはまだ先です。(冬彦)
















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