魔王ケイブリス 第三章 『逆襲のランス』






  六話 解呪の泉にて




 カスタムを出立し、Mランドを通ってハンナに辿り着いたランス一行。
 通常ならホテルに泊まるのだけれど、魔物に支配されたハンナに入ることは危険だ。
 二人は郊外にキャンプを張り、そこで一夜を過ごした。例の発作があるせいでランスはかなみと寝ようとはしない。
 という訳でランスとかなみは別テント、それでもテントごしにランスの呻き声がかなみに伝わった。
 翌朝早朝。朝一でかなみにキャンプを畳ませ、ランス達は解呪の泉へと向かった。
 以前数回泉を利用しているのでハンナから泉までは勝手知ったる道筋だ。
 出てくるハニーを蹴散らしつつ、あっさり洞窟前まではついた。そこまでは何の問題も起きなかった。
「さーて、風呂に入ってさっぱりするかな――」
 なんて、鼻歌交じりなランスである。ランス的には『解呪の泉=楽勝なダンジョン=風呂』という図式が成立している。
 実際たいした苦労は要らない……筈だった。


―――洞窟の中―――
「ぼやぼやすんじゃねぇ! 後ろだ後ろっ」
「え、あっ!」
「ちっ……ラーンス回転斬りぃぃッ」
 かなみに牙が届く直前、カオスがモンスターを両断する。しかし息をつく暇もなく新手が襲い掛かってくる。
「はぁっ! 火丼の術!」
 巻き起こる炎などたかが知れている。
 ランスが予想していた数を遥かに凌駕するモンスター群が、次々と二人に襲い掛かっていた。倒しても倒してもきりがない。
「ええい、どいつもこいつも抵抗しやがって。大人しく俺様の経験値になれっ」
 普通なら真っ先に撤退を考えるくらい不利な状況。味方はかなみひとりっきりで、敵は悠に五十体を超えるだろう。
 いままでは軍隊として千人規模で探索していたから気にしていなかったことがある。
 ダンジョン探索は……凄く大変だった。忘れていた。
 いままでランスとシィルだけでダンジョンが探索できたのは、一重にシィルが神官技能を持っていたからだった。
 ランスが元気なうちは火爆破やらで援護し、ランスがピンチになるとヒーリングをかけてくれる。
 前線ランス、後衛シィルと役割分担できていたからこそ二人はどこまでも探索できたのだ。
 現在ランスと戦っているのは見当かなみ。すばやい動きで攻撃をかわし、相手の急所を巧みにつく能力は卓越している。
 しかし接近戦が主体になるのは避けられない。
 基本的に戦闘中は味方を省みないランスだが、こうもうろちょろされると視界に入ってしまう。
 視界に入るだけならまだしも、たまにピンチになってたりするのだ。
 かなみが得意とする戦法は『暗殺』もしくは『不意打ち』。どちらも一対一を基本として素早さを活用した戦法だ。
 迷宮で多人数を相手に戦うなどと、本来忍者がとるべき戦法ではない。
 したがって動きにアラがあり、あっさり背後を奪われたりする。
 そのたびに『馬鹿』とか『使えない』とか露骨な罵声を浴びせつつも、ランスはカバーに入っていた。
 その甲斐あってか、いまだかなみにさしたる怪我はない。
 一方のランスはといえば全身傷だらけだ。だいたい『他人をフォローする』なんておよそ初めての行為。
 ただでさえ体調が悪いのだし、他人を気にすればその分自分が疎かになる。
 自然いつもより叩かれる回数が増えてしまい、全く堪ったものではない。
 二人が現在いる場所は地下十三階。ランスの記憶が正しければ、これで半分くらいは到達できたことになる。
 もうちょっと、あとちょっとの辛抱だ。
 目の前で牙を剥く不細工なモンスター共を睨みつつ、ランスは流れる汗を拭った。
「はぁっ、はぁっ」
 突撃するランスを見送りつつ、かなみもグイと汗を拭いた。自分でも自覚できるくらい集中を欠いている。
 こんなに深いダンジョンだなんて聞いていなかった。
 ランスの口振りから百歩譲って『十階層くらいのダンジョン』と思っていたのに。
「ランスの……むぐぐ」
 途中で口をつぐむかなみ。『ランスの嘘つき』と言おうとしたのだが、止めた。
 『嘘つき』ではなく『大雑把で脳天気』なだけだ。ランスが大雑把な性格なのは今に始まったことではない。
 ランスが言ったことを真に受ける方に非があるのだろう。きっと。
「そうよね。ランスが『楽勝なダンジョン』っていえば、百歩退いて『凄くキツイダンジョン』のことよね。
 それにしても……」
 無限なスタミナを持っているのだろうか? 解呪の迷宮に足を踏み入れた時よりも、ランスの動きがいいように見えた。
 そしてかなみの見立ては正しい。戦いを経るごとにランスは強く素早く逞しくなっていた。
 原因はランスがレベルアップし続けることにある。
 ケイブリスとの死闘、休養により落ちていたレベルが戦いを通して上昇し、いまの俊敏な動きに至っているのだ。
 ランスがレベルアップする速度、これは常人が想像できる範疇にない。
 もっともかなみにそこまでは分らない。ただ『ランスって異常に元気だなぁ』みたく思っていた。
 かなみに分ることといえば、ランスが自分を気にしてくれているくらいだ。
 かなみに飛び掛ったモンスターは、二十匹に一匹ほどランスによって殺されていた。
 そのどれもがかなみを不意に襲ったモンスターであり、ランスがいなければ幾度か重傷を負っていただろう。
 よくまぁこれだけの敵を相手にして、かなみにまで気が回るものだと思う。
 ランスとの付き合いは決して短くないけれど、
「ちょっとすごすぎるんじゃないの……?」
 思わず溜息をついてしまう。ランスはといえば、
「とりゃああああ! 俺様に逆らおうってのが一億光年早いんだ! てい、とお、だぁっ」
 獅子奮迅の活躍ぶり。それなりに疲れてはいるが顔には出さないのだ。
 『疲れている自分を認めていない』ともいう。しかし、傷の痛みはしっかり知覚できる。モンスター殺しが一段落し、
「かなみ、世色癌」
 膝を突いているかなみに向かって手を伸ばすランス。
「え?」
「世色癌だっ。さっさと渡せ」
「う、うん……はいっ」
 世色癌が二粒宙を飛ぶ。ヒュヒュン、パシッ。ナイスキャッチだ。
「ったくグズグズしやがって……モグモグ」
 一粒だけ噛み砕く。口にするだけで傷が治る妙薬、世色癌。一口噛む都度傷が癒えてゆき、気持ちがいい。
 でも苦い。苦いけど気持ちいいという、アンヴィバレンツな感覚だ。
「苦い」
 余りにひねりがない感想。苦いものは苦いのだ。
 身体に力が戻ってきて、ランスは再び地面を蹴った。
「よぉぉし、レッツゴー俺様! ついて来いかなみっ」
 かなみが回復するのを待ってなんかいられない。すべからく自分のペースで行動する。
 後ちょっと、ほんのちょっとで泉に到着だ。帰り木があるから脱出を気にする必要はない。
 全力で邪魔する馬鹿をぶち殺すのみだ。


 こんな感じで二人は迷宮を進んでいた。
 当初の予定より随分遅れてはいたし、予想を遥かに超えて苦戦してはいたけれど、
 どうにかこうにか泉には到達できそうな雰囲気だった。
 登場するモンスター群。ぶたバンバラ、ヤンキー、プロレス男、うっぴー、こんにちはetc。
 数が多すぎて鬱陶しくはあるが、単体で手に負えない相手ではない。
 ガスガス進むランスとかなみは、いつしか二十三階へと続く階段まで来ていた。


「ふぅ、やっと階段かあー」
 こんなに長かったのか?そう考えつつランスは階段を降り、かなみも黙って後に続いた。
 二人ともかなり消耗していて集中力を欠いている。
 迷宮内はどこもかしこも薄暗い。その中でも階段が一番薄暗い。
 足元を照らす蝋燭は消えかけ、狭い壁が身体全体をサンドイッチにする。動きにくいし視界も悪い。
 狭い場所を嫌がる習性でもあるのだろうか、モンスターが階段にいることはまずなかった。
 そのせいもあって、階段を下りる二人は特に気を抜いていた。
「ねぇランス、あとどのくらいなの……?」
「ん――? 黙って俺様について来ればいいんだ」
 エヘン、ランスが胸を張る。ランスが正確に迷宮が何階層か覚えているわけがない。
 解らないときは胸を張って誤魔化すのだ。
「解らないんなら素直にそういいなさいよ……。はぁぁ、疲れた……」
 カクッ、かなみが肩を落としたその時だった。階段上部がパァァッと明るく光ったのだ。
「ん? 何だ――……げげっ!」
「ランス? どうかした?」
 違和感で振り向いたランスとかなみが目を合わせる。バッチリ開いたランスの瞳とぼんやり間延びしたかなみの瞳。
「あれ?」
 顔をあげてみれば辺りが明るい。階段らしからぬ明るさに漸くかなみが不審に思った時には、既にランスが動いていた。
 腕を掴んでかなみを引っ張る。
「わわっ、ど、どうしたのよっ」
「どうもこうもあるか! 早く走れっ」
「ええ? きゃあっ」
 駆け下りながら振り返ればまばゆく光る魔法の塊。誰かが上階から魔法を放ったのだ。
 二人とも魔法に疎いため何という魔法かは解らないけれど、いかにも直撃すればヤバな魔法。
 その正体は『マウス』が放った強化魔法・ティーゲルだ。スピードこそ遅いが威力はでかい。
「ちぃっ……こいつはまずいぞ」
 全力で階段を駆け下りる二人。もう少し階段に幅があればやり過ごせたものを、こう狭くてはそれもできない。
 かわすためには広いスペースが必要で、下の階へ出るしかないだろう。
「ギリギリか? よし、避け切れるッ」
 階段の出口までは後十段ほど。ランスとかなみなら十分飛び降りられる高さだ。
 ここから一息に飛び降りて魔法球の軌道からよければ何とかなる。
「飛び降りるぞかなみっ」
「う、うんっ!」
 ランスの一言でかなみも理解できたのだろう。二人がほぼ同時に階段を蹴り、下階に降り立って横っ飛びに跳ねた。
 ついさっきまでいた場所に炸裂するティーゲル、舞い上がる爆炎。
「……」
 無言で左に跳ぶかなみ。
「ぐおっ」
 右に跳ぶランス。
 かなみは完全に避けきった。着地した拍子に何か落とした気がしたけれど、それを確かめる暇はない。
 押し寄せたティーゲルが床に大穴を開けている。直撃していたら……? 冷や汗が背中をつたった。
「はぁはぁ、よ、よかったぁ〜……え?」
 ひとまずピンチを切り抜け、
 かなみがほっと溜息を吐いた傍から迫る影――サイクロナイトが大剣を振り下ろすところだったのだ。
 地面にへばりついたかなみが上を見上げた時には既に遅く、斬撃を避けられる間合いではなかった。
「きゃぁぁっ」
 懸命に身をよじり、脳天への直撃はなんとか避けた。どうにか致命傷にはならなかったが、
「痛ぅぅっ!」
 腕から肉が弾けとぶ。二の腕にサックリ傷が入っている。骨には達していないようだが焼けつくような痛み。
 出血は……大丈夫だ。動脈も無事で命に別状がない軽い傷だ。しかし敵が去ったわけではない。
 ズシンズシン、ゆっくりと近づくサイクロナイト。かなみには激痛に身を委ねる暇などない。
 ここは迷宮で、モンスター巣窟で、気を抜けば『死』が訪れる場所だということを忘れていた。
 けれどもかなみに『死』を実感させる時間も持たず、サイクロナイトとかなみの間に飛び出す影。
 煙で姿は見えなかったけれど、シルエットと掛け声が教えてくれた。
「でかぶつが! 死ね!」
「ら、ランスッ!」
 かなみの笑顔に釣られるようにシルエットが一際高く舞いあがると、
「はぁぁぁっ、ラーンスアタァァック!」
 ドッガァァン
 青白く光った剣圧が辺りの埃を吹き払う。
 すっかり視界が晴れた空間にかなみが見たものは
 上半身を粉微塵にされたサイクロナイトと……漆黒の魔剣・カオスを叩きつけたランスだった。
 魔法球・ティーゲルを避け損ねたのだろう、肩口から右手にかけて真っ赤に爛れた皮膚が見えていた。





「ふぅ、焦らしてくれたぜ。ったく」
 死体となったサイクロナイトを一瞥する。
 煙に隠れて先手が取れたからいいようなものの、出会い頭にコイツとぶつかっていたらやばかった。
 ランスが跳んだ方向にサイクロナイトがいなくて良かった。階段から降りて左へ跳んでいたら――そうだかなみだ。
 かなみは大丈夫なんだろうか。振り向いたランスに腕を押さえるかなみが映った。
「ちっ、かなみのヤツどじったのか?」
 駆け寄るランス。
「見せてみろ」
「う、うん……」
「あ〜、ちょっと深いけどまぁ大丈夫だ。世色癌で何とかなるな……くっ」
「え? ちょっ、ランスも怪我してるじゃない!」
 ランスも腕に火傷を負っていた。爆発を避け切れなかったのだ。
「ふん、これくらい余裕だ。それより、お前の薬箱はどうしたんだ? 腰に付けてたのがなくなってるぞ」
「へ? 嘘でしょ……あぁっ?」
 ランスが指摘したとおりだった。慌てて腰紐を見てみれば、そこにあったはずの薬箱がなくなっていたのだ。
 世色癌、龍角散といった必須アイテムを入れていた箱がである。
「そうだ、さっきの――」
 痛む傷口を押さえるかなみに蘇る感触。階段から着地した時確かに何かを落とした。
 今思えば薬箱に間違いない。薬箱を落とし、そこにティーゲルが炸裂したということは?
「しまった――」
 かなみの大ミス。回復魔法を使えないパーティにとって世色癌を亡くすなんて致命的過ぎだ。色を失うかなみ。
「? なんだ? さっさと世色癌飲んどけよ。まずいけど痛みは引くぞ?」
 怪訝そうなランス。
「あ、あのぅ……な、なくしちゃった」
「??? は?」
「ええっと、そのぅ。薬箱をなくした、かな?」
「……無くしただと?」
 ピクピク米神を引きつらせつつ、ランスは復唱した。己の失策+痛みでシュンとなるかなみ。
 せっかくここまで降りてきたが、回復道具を無くしたとあれば探索継続は無理である。
 自分がランスの足を引っ張ってしまった、やってしまった――。
「ちっ……相変わらず使えないな」
 俯いて涙目になったかなみに厚い手が差し出された。不機嫌なランスが差し出した世色癌が一粒。
「とりあえず食べとけ。それくらいの傷一粒でどうとでもなる」
「ひゃっ? え? むぐっ……苦ぁ……」
 俯いたかなみの顎を持ち上げると、ランスはそこに汚れた世色癌を放り込んだ。
「ら、ランス……? え?」
「さっき二粒もらったろ? たまたま一粒余ってたんだが……これでお終いだ。全く世色癌を無くすかぁ?
 かなみの馬鹿タレめ、お前のせいで怪我が出来なくなったじゃないか」
 ポカッ
 一際強い一撃。グーで一叩きされ、頭を抱え込むかなみ。
「うぅっ、ご、ごめんなさいっ」
「もうお前は前に出るな。後ろから忍術で援護しろ。ふん」
 呆れたように首を振ると、拳骨を残してランスは前に歩いていった。爛れた右手をさすりながらだ。
 残されたかなみも、ランスに負けず劣らず呆れていた。
 いや、呆れていたというよりかは『ポカンとしていた』という感じだ。
 さぞや怒られると思っていたのに、いつもより強く殴られただけだったのだ。
 しかも最後の世色癌一粒を、ランスは躊躇なくかなみにくれた。
 ランスに言わせれば、『俺様は本来怪我などしないからな』というだけの話。しかしかなみにしれみれば話は違う。
 たった一つ残された回復薬をとちったかなみの怪我に使った、使ってくれた。しかも自分だって火傷しているのに。
 ギュゥ
「……痛い」
 頬っぺたをつねってみた。しっかり痛いのでこれは夢ではないのだろう。ランスがかなみを労わったのか?
 いや、ただの気紛れかもしれない。気紛れであることの方が『かなみへの思いやり』であることよりも遥かに公算が高い。
 うん、きっと気紛れだろう。第一ランスの中にはあのコがいるし……。
「ランス……」
 ソッと立ち上がって服についた泥を払う。世色癌の苦味で顰め面だったのが緩んでくる。
 おそらく気紛れなのだろう、けれどもかなみには嬉しかった。
 か弱いお姫様に襲い掛かるラスボスを粉砕し、
 自らの傷を省みず女の子を労わる戦士……そんな戦士に助けてもらうとはこういう気分だろうか?
 かなみだって女の子なのだ。そんな王女様のような目に合って見たい、カッコいい王子様に助けてもらいたいと思っていた。
 もしかしたらこの思いは一般の女の子よりもずっと強いかもしれない。
 普通の女の子への憧れが人一倍強いかなみだけに、白馬に乗った王子様への憧憬があった。
 ついさっき自分が出会ったシチュエーションは、もしかしたらそれではないだろうか?
 ピンチになったかなみ、迫り来るサイクロナイト、粉砕したランス。
 自分の火傷よりかなみの切り傷に世色癌を使ったランス。考えてみるとランスは元リーザス国王だ。
 白馬の王子と比べれば甚だどす黒い王ではあるが、かなみは王様に助けてもらったといえる。
 口の中は苦い味でいっぱいだった。しかしかなみの心の中には、ほんの少し甘い味が広がっていた。
 まるで世色癌が甘いような錯覚に襲われ、
「世色癌って……苦いのよね?」
 こっそり呟くかなみ。と、ふと気づけばランスがいない。
「あぁっ、ちょっと待って、待ってよランスッ!」
 大分先を歩くランスを見つけてかなみが駆け出す。さっきまで痛んでいた腕の傷もいつしか綺麗に治っていた。





「はぁはぁっ……や、やっとついたかぁ」
「や、やったわねランス……」
 それから数時間後、最下層二十八階。二人は泉に辿り着いていた。
 既に世色癌を使い切り、ピンチになれば帰り木で脱出するしかない状況に追い込まれたことが功を奏したのだろうか?
 集中力とコンビネーションを増した二人はグイグイと地下へ進行した。
 かなみが飛びクナイ&火丼の術で支援、ランスが突撃というスタイルが確立したおかげである。
 さしたる怪我も受けずに泉まで到着した時刻は午後九時。
 洞窟に入った時刻が午前十時だから彼是十一時間ぶっ通しで戦ってきたわけだ。
 後方支援に徹したかなみももちろんだが、前線で暴れ捲ったランスの疲労は押して知るべしだ。
「なんとか持ってくれたぜ。一時はどうしようかと思ったが……」
 呟くランス。心配していたのは毎日九時〜十時半頃にやって来る呪い・発作だ。
 アレに襲われればもう戦闘どころじゃない。
 泉へ着くまでに呪いが襲ってきたらやばかったが、どうやらセーフだったらしい。
「ここまでくればノープロブレム! 泉が俺様を呼んでいる!」
 スパパパッ
 秘儀、秒速の脱衣。走りながら鎧、胴巻、カオス、服、靴、ズボンと宙に舞う。勢いをつけて、
「とうっ!」
 ジャンプ一番、ドッボーン
 ランスは尻から泉に飛び込んだ。
「わははは、これでアレともおさらばだぜっ」
 スイ〜スイ〜
 普通泉に入る人は足からそおっと踏み入れ、神妙に効果が現れる時を待つ。
 一方ランスはといえばそんなことはまるでお構いなし。
 水があれば泳ぐ。単純明快な発想に基づいて行動しているだけ。
 泉は冷たく澄んでいて、戦いで火照った身体を優しく冷やしてくれた。
 水の感触が気持ちよかったため、ランスは『これで呪いが解けたんだ』と思った。
 途端にドッと疲れがでる。毎晩襲ってくる嫌なイメージ、アレはランスに大変重く圧し掛かっていたのだ。
 その錘がとれたとなれば、今夜からグッスリ眠れる。心ゆくまで睡魔と戯れることができる。
 とても疲れてはいたが、グッスリ眠れるとなればやっておかねばならぬことがある。
 そう、もはや遠慮することはない! ランスが寝る前にすることといえば……、
「ぐ〜ふ〜ふ〜。かーなみ、ちょっと来い」
「なによもう。泉にいつまで入ってるつもり? いい加減で出てくれば」
「いいから来い! お前だって汗だくだろう? 水浴びは汗を流してくれるぞ」
 ニヤニヤしながら手招き。
「水が汗を流すなんて当たり前でしょ? ……はぁぁ」
 額を押さえつつ重い腰をあげるかなみ。嫌そうにしながらもランスが言うとおり泉に向かう。
「おいおい水浴びするんなら服も脱げって」
「……はいはい、脱げばいいんでしょ脱げば」
 いつもならブーブーいうくせに、文句を言わずシュルシュル着物を解くかなみ。
 そんなかなみをランスは不思議そうに眺めていた。
「? やけに素直だな?」
「ふん。どうせ『脱がないとリア様を助けないー』とか言うんでしょ? はぁぁ、あたしだってクタクタなのになぁ」
「むむっ。た、確かにその通りだが……見透かされてるみたいで腹がたつぞ……」
 桂衣を取り、下帯を解く。後は襦袢と晒だけになったかなみ。忍者だけあってはしこそうな身体である。
 今まで三十回位抱いた体だが、まだまだ飽きがこない。かもしかみたいでグッドな下半身と、割と大きな胸。
 しかし何といっても締まりのよさがポイント大だ。
 処女だったころからしっているけれど、全然緩くならないからビックリである。
「ちょっと、そんなにジロジロ見ないでよ……」
「ぐふふふ、いまさら恥ずかしがるな。見た目は八十点をあげよう、うん」
「何が八十点なの? ……馬鹿ランス」
 プイ、そっぽを向くかなみ。
 ランスの魂胆『泉の中でセックスだ! 濡れ濡れだから気持ちいいぞ』はバレバレだ。
「あれ? どうしたんだよ、急に止まっちゃって。さっさと脱いでこっちへ来い。気持ちいいぞ〜」
 泉の中から脳天気な声。チャプチャプと水を掻き分ける音。
「仕方ないか……これも任務のためだもんね……」
 そうだ、ランスに抱かれるのだって任務があるから。決してかなみが抱いて欲しくて抱かれるのではない。
 今まではずうっとそうだった。
 リーザス王になったランスにも、リーザス解放戦争時のランスにも抱かれたが、いつでも嫌々抱かれてきたかなみ。
 今だってそうだ。任務をまっとうするためにランスに抱かれようとしている……つもりだけど、どこか違う。
 少しだけ、ほんの少しだけランスに抱かれてもいいと思っている自分がいるような?
 どうしてだろう、ランスに抱かれるのがそれ程嫌じゃない。
 嫌なことは嫌だけど、ちょっとだけ楽しみ見たく思っていたり……?
「早くしろ〜、早く〜」
 足元から子供が御飯を待つような掛け声がかかる。ランスだ。
「解ってるからもうちょっと落ち着いてよっ」
 かなみは思考を停止した。
 自分がランスに抱かれたいと思っている訳はないが、嫌だろうと楽しみだろうとランスに抱かれることは任務なのだ。
 任務だから、どうせ抱かれるのだ。シュルルルッ。身につけた残りの衣服を取り払い、かなみは水に片足を入れた。
「くっくっく」
 向こうからランスが泳いでくる。表情がとっても嬉しそうだ。
「はぁぁ〜あたしってどうしてこうなんだろう?」
 なんだかんだいって、ランスと関わりが出来てしまう。関わりができるとかならず犯されてしまう。
 あまり悲壮感のない溜息を漏らすと、かなみは小さなお尻をランスに向けた。
 泉の冷たさが火照った身体を冷ましてくれた。





 ・・・あとがき・・・
 六話お終いです。
 自分はこのSSの中では『レベル神』を完全に無視してます。
 ドラクエみたいに、戦っていれば勝手にレベルが上がるイメージで書いています。
 強くなるたびに『いでよウィリスッ』とかやるのはちょっと……。(冬彦)

























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