ソードバスター 第二章




第一話

「兄貴、サンダ砦の連中が逃げ出していくっすよ、そろそろこっちも潮時じゃないんすかぁ?」
 坊主頭の青年だ。赤い胸当てがよく似合っている。
 肩にはひときわ大きな赤い戦斧を担ぎ、足音も高く走ってきて、彼の上官らしき人物にに声をかける。
「ゾイドさん、聞こえてますかあ? 砦の連中が逃げたんですって!
 ジム司令も後退しちまって、このままだとあっちを攻めてた奴らまでここに向かってきますよ」
 ところは戦場、山間部の林の中。木々の間から間隙なく飛んでくる弓矢。
「なんですって、もうやられてしまったのですか? シン君、それは本当?」
 ゾイドと呼ばれた青年の傍らで、弓矢に二の矢をつがえていた戦士が答える。
「まったく、味方ながら情け無いっすよ。砦の方で火の手が上がったんでもしかしたらってね、見に行ったらあのザマっす。
 仁さん、砦にはもう五葉印の旗がなびいてました」
 五葉印の緑黄旗。いわずと知れたバルタン帝国軍旗の意匠。
 五つの精神・・・忍耐、没我、粉砕、奉仕、隷属・・・が一纏まりになり、バルタン平原に集うさまをイメージした紋様。
「旗がたっていた・・・それなら間違いないですね。
 それにしても、さすがに脆過ぎます、まだ戦いが始まって一時間も経っていない。
 ジム司令だって、それなりに経験のある方だし、何か不慮の事態でもあったんでしょうか」
 広瀬という若者の、落ち着いた口調。先程つがえた矢を放つ、ひゅうっ 飛び去った方向から響く一筋の断末魔。
 確かな手ごたえを感じつつ、三の矢を手にする。 「とにかく、このままだと前と後ろの挟みうちっす。
 この戦いで幾ら貰ってるのかしらないすけど、ホント、早く逃げたほうがいいです。ゾイドさんだって、そうおもうっしょ?」
 シンはせわしなく続ける。そこまで言うと、今度は体を前方に向けた。
 木々の間を縫うようにして幾つもの人影がぶつかり、其の都度鋭い剣戟の音が響く。
 其の中でもひときわ大きな音。剣と剣がぶつかる音じゃない、まるで巨大な岩が大地を穿つ音。
 だいぶ離れた林の中から土煙が立ち上る。 「いいっすか、ちゃんと知らせたっすからね。後は状況判断、お願いしますよ! それじゃあ、いっちょぶっ飛ばしてきます!」
 両手に斧を握り締めると、息を整えもせずに轟音のしたほうに駆けてゆく。
 まるで戦争ごっこのような気楽さで敵陣に突っ込んで行くシン。
 広瀬の視界から見えなくなる前に、真っ赤な戦斧は二つの胴を真っ二つに裂いていた。
「ちっ、相変わらず軽い野郎だ。あんな無防備に突っ込んで、早死にするだけ阿呆だよ・・・」
 男の名前はゾイド・ゴジュラス三十四歳、バルタンに敵対するこのグループの参謀格である。
 二年前までは傭兵団『ゾイド』を率いる、それなりに名のとおった剣士だった。
 傍らにいる男、広瀬仁、二十九歳も、
 一時は二百人からなる大隊を指揮していた名弓術士で、狙撃団『クロウ』の筆頭スナイパーだった男。
 傭兵という狭い業界では、どちらも名の知れた存在である。
 二人が盾にしている栃の木にバルタン兵が一人、襲い掛かる。どうやら仁を狙っているようだ。
 けれども、後数歩で広瀬が間合いに入ると思った瞬間、
 さくっ
 地面を這うように低い姿勢で飛び出したゾイドが男を両断していた。
 返す刃でバルタン兵士の首をすっ飛ばした後、すうっともといた位置に戻る。
「シン君は、阿呆ではありませんよ?
 偵察も連絡係もきっちりこなしますし、何より自分の生かし方を知ってますから、ね」
 ヒョウッ 引き絞り、張りつめた弦から直線が飛び、味方の背後に迫ったバルタン兵の右腕を切って落とす。
「自分の生かし方? それって、あいつの側で戦うことか?」
「ええ、そうです。ソードさんのサポート役。一度見てみたらどうですか? 実に見事ですよ」
「ったく、すぐにソードさんの側に行きたがって、仕方ないヤツだよ。俺だったら怖くて近づけないがねぇ」
 苦笑するゾイド。ツツツ、と半身を幹からせり出し、隙のある敵を探す。
「ゾイドさん、シン君を気にするのもいいですが、これからどうするかの方が大事です。
 私はシン君に賛成します。背後の守りが失われた以上、戦いの継続は危険すぎます。
 ソノダの町まで撤退してはどうですか? いまなら、比較的楽に撤退できそうですよ?」
「・・・そうだな、契約だと一昼夜粘るってことだったが、そんなことは言っていられんようだ。しかたない、仁、合図を頼む」
「はい、わかりました」
 矢筒から一本の奇妙な鏃を持った矢を取り出す。
 先端が矛のように二つに分かれ、互いに外側を剥いて揃っている鏃。
 矢の太さもこころもち太く、尾羽は十字型に交差した形。自慢の長弓につがえると、仁は空に向かって解き放った。
 ぴぃぃぃー
 高音域の振動が辺りに響く。これが撤退の合図だった。
 鏑矢という、古代の連絡方法で、きちんと音を出すように射るには高度な技術が必要である。
 ちなみに合図の内容は、『各自ソノダまで退却』放った矢先、
 赤いいでたちに身を包んだ味方がいっせいに同じ方向に流れ始めた。
 そして、ゾイドと仁の二人も味方と同じ方向に駆け出す。もちろん退却の援護は忘れない。
 合図の鏑矢がなってから十秒の間に、二人とも二名ずつ追いかけてくるバルタン人を仕留めていた。


「邪魔だ、どけぇっ」
 幾重にも敵に囲まれた中、たった一人で暴れる青年。
 剛毅な瞳、実直さのかけらすら宿らない顔つき、豪快な鼓動。
 近づくもの全てを吹き飛ばしているのは、ソード・バスター、自称二十歳だ。
「雑魚に用はないぜ、死ね」
 振り下ろす剣戟、なぎ払う旋風、巻き上がる血飛沫。
 もはや真っ向から向かってくる兵士は一人もいない、皆遠巻きにして何とか背後に回り込もうとする。
 バルタン側からすれば、一対一では勝ち目はない。ならば数で勝負するまでしかない。
「わああっ」
 ソードが地面に剣を叩きつけたところを見計らって、後ろから槍を繰り出す兵士。
 しかし、もうすでにそこには誰もいない。
「わはは、俺様とやりあおうなどと百年早いぞ!」
 背中越しに聞こえてくる声。振り向いたとたん、どがっ。剣のこじりでもってしこたま打ちのめされ、吹き飛ぶ。
「だめだっ、ヤツには近づくなっ」
「射殺せ、弓はどうした?」
「そうだ、弓兵あいつを狙え! ええい、とにかくヤツを殺すんだっ」
「囲んでしまえ」
「こらっ、退くなあ」
 四方八方から聞こえてくる声。
(弓でも何でも撃ってくればいい。まぁ、俺様に当たるかどうかは別だぞ?)
 まるでソードの思考に合わせるかのように、幾つもの弓がソードに照準を合わせる。一呼吸置いた後、
「撃てっ」
 ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒュウッ
 数十本の矢が襲い掛かる。しかし、ソードは動かない。身じろぎもせずにギリギリまで矢をひきつけて、
 どかーん
 剣を地面に叩きつける。高速で巻き起こる衝撃が迫る矢をことごとく跳ね返す。
 そして、立ち上る煙が落ち着いたとき、そこには不敵な笑みを浮かべた青年が、全くの無傷で立っているのだった。


「ソードさん、遅いですねえ」
 戦いがあった翌日の正午。サンドラ国国境を越え、中立地帯へと差し掛かる橋の上。
 この橋を渡れば、ソノダの町は目と鼻の先にある。
 そして、橋のたもとが彼らの所属する傭兵団『槍(スピア)』の落ち合うところだった。
 すでにメンバーのほぼ全員が到着済みで、200人程が思い思いの姿勢で体を休めている。
「シンだって、まだ着いてないみたいだ。あの二人だったら心配はいらんだろうが」
 サンドラ国、サンダ砦のほうを眺めている仁の肩を叩くゾイド。
「やられたやつは五人もいないみたいだ。怪我人はそれなりにいるけどな。これだけ短い戦闘だと、こんなもんだろう」
「五人、ですか。ちなみに、名前は?」
「みんな新参者だ。お前もまだ名前まで覚えてないんじゃないか?
 確か、リクドムとかいうやつが連れてきた五人組だが、分かるかい」
「ああ、彼らですか。
 名前までは覚えていませんでしたが、いつでも五人かたまっている連中でしょう。顔くらいは覚えていますよ」
「そう、そいつらがまだ到着していない。
 死んだか逃げたかは知らないが、まあ、どっちでも同じことだ。後は団長さんの帰還待ちだよ」
「そうですね。ああ、怪我人の方達はどうしていますか?」
「一足先に町に帰しておいた。俺達もそろそろ出発しようと思うのだが」
「分かりました、では、私がここで団長の帰りを待つことにしますよ。お疲れ様、また後で会いましょう」
「ウム、頼むぞ」
 踝を返すと、ゾイドは辺りにたむろしている男達に号令をかける。
 簡潔な言葉で戦闘終了を告げ、町へ向かい休息をとる旨をつたえた。
 それを契機に男達は立ち上がり、ゾイドを先頭に橋を渡ってゆく。その様子を眺めている仁。
 傍らには広瀬仁を個人的に慕ってきた弓士達が数人佇んでいる。と、一人が口を開いた。
「仁さん、こうしてみると、誰が団長か分からないですねぇ」
「? なんのことです?」
「いや、『槍』の団長がゾイドさんじゃないと言われても、ピンとこないですよ。
 ソードさんがきちんと俺たちを指揮してるところなんて見たことがないですし。
 第一団長なのに、いつでも先陣きって走っていくし。
 噂ですが、報酬の交渉なんかもほとんどゾイドさんがやってるって聞きますよ」
 全くもって其の通りだ、と仁は思う。
 正確に言えば、団の金庫から渉外交渉にわたるまで、全てがソードの感知しないところだ。
 時々思い出したように、金庫の残高を聞くことはあっても、使い道を尋ねたりすることはまずない。
 ただ、『これから遊びに行くから金をよこせ』という類の台詞とともに、手を突き出すだけだ。
 入団試験でも中心になるのは古参の連中で、ソード自身が新入りを試すことは皆無である。
 本人曰く、『面倒くさい』。
 それでも、団員全員の共通認識として、自分達のリーダーはソードなのだった。
「ゾイドさんが団長だったほうがいいですか?」
「え、いえ、そんなことはないです! ただ、団長は不思議な人だな、と思っただけで・・・
 アレ、もしかして、あれってソードさんじゃないですか?」
 噂をすれば、なんとやら。確かに二人、こちらに歩いてくる人影が見える。
「どうやらそのようです。よかった、今日中に帰ってきてくれるか心配だったんですよ」
 目を細めて、確かにソードとシンの二人連れだと確認してから、仁はゆっくりと手を振った。
 次第に近づいてくる影のうち、大柄な方がこれまたぶんぶんと手を振り返す。
「おおーい、仁さーん、ヤッホッホー」
 シン・山寺、十九歳の御気楽な声、本当に無邪気な男だ、と仁は思った。


 ゾイドたちが先に出発してからかれこれ四時間ほど過ぎ、太陽が沈もうとしている頃。
「お二人とも心配しましたよ? 朝になっても到着しないなんて、まったくなにをやっているんだか」
「へへへ、一寸遅れただけじゃないっすか、ちゃんと無事に戻ったんだから、文句はいいっこなしですって。
 それに、それなりの成果はだしたんですって」
 仁の肩を叩きながら、嬉しそうに右手の兜をぶらぶらさせるシン。
 橋の袂にて合流したソードたちは、一緒に中立地帯へと足を進めながら、何があったかを話していた。
 ソードもシンも、目の下にクマができていて、かなり眠そうである。
「・・・さっきから気になっていたのですが、シン君の持っている兜はなんですか?
 装飾からして、かなりのものとみましたが」
 まとわり着くシンは放っておいて、不愉快そうな顔のソードに尋ねる。
「ふん、そいつは、シンの馬鹿が殺した男がかぶってたヤツだ。ええい、いい加減に捨てろっ」
「ああっ」
 シンの悲鳴。得意げに見せびらかしていたシンの隙を着いて、ソードが例の兜を奪う。
 ポシャン
 すぐさま遠投、水の音。
「ワハハハ、あんまり自慢するからだ。勘違いするなよ、別に悔しがってなんかいないからな」
「ああ、沈んじまう・・・ 俺の宝物にしようって思ってたんすよっ、酷いっす!
 それに、ソードさん、めちゃめちゃ悔しがってたじゃないっすか!
 あれからずっと膨れっ面だし、いつもよりたくさん殴られるし、今日だって朝からしょっちゅうこづくし、」
「うるさい、うるさーい。人の獲物を横取りなんかするからだ! ・・・まあ馬鹿はほっといて、と。ときに、仁君?」
 欄干から身を乗り出して兜の行方を眺めているシンを横目に、仁へと向き直る。
 ニヤニヤした顔で右手を突き出されたときには、どういった内容かだいたい見当がついてしまう仁だった。
「俺様は二日もコイツと一緒で、非常にストレスがたまっている。
 其の上、ここ二週間ほどは芸術品もご無沙汰だ。と、いうわけだから、2000Gくらい渡せ」
 後ろで聞いていた一人の弓使いが同僚につぶやく。
「2000G、も? おいおい、ソノダの娼婦って、そんなに高かったっけ?」
「そんなわけないだろ。俺もよくはしらんが、相場だと一人一晩100Gってとこか?」
「なんにしたってたいした金額だなぁ」
 仁としては毎度のことだ。ソードという人間の一番の特徴は、女好き。
 それも、たくさんの女を一度に相手をするのが好きらしい。非常に金のかかる特徴である。
「なんすか、ストレスが溜まるってー。
 俺はソードさんと一緒にいれて最高だったっす。ソードさんだって楽しかったでしょ?」
「アホかお前は。だいたいお前はうるさすぎるんだ、頭がキンキンするんだよっ」
 バコッ
「い、いってえ。そんな怒らなくたっていいじゃないっすかぁ。 だいたい、2000Gもなんに使うんです?」
「そんなくだらないことを聞くから、お前といるのがストレスなんだぞ。夜だよ、夜の生活に金はかかせんだろーが!」
「別に、飯食って寝るだけっしょ? 5Gもあれば十分じゃないっすか?」
「お・ん・なだよ。女を抱かないと俺様はぐっすり眠れないのだ!」
「なんだ、人肌が恋しいんですか? それだったらいってくださいよ、ソードさん水臭いっす。
 呼んでくれればいつでも俺が添い寝するのに・・・がはっ」
 ソードの拳がシンのみぞおちに完璧にはいった。至近距離から、ほぼ本気で殴られてしまうシン。
 たださえリラックスしていたところにこれである。膝から崩れ落ち、そのままぱったりと倒れこむ。
 キュウ。
 遠のく意識、しかし、後一歩のところで踏みとどまる。
「な、なんで、ですかぁ? なに、か、ヘンなことでもぉ?」
 息も絶え絶えにつぶやいた言葉をまるで無視して、ソードは続ける。
「真正の馬鹿はほっといて、2000Gだ。楽勝だろ、そのくらいの金は」
「はい、大丈夫ですよ。ただ、私もそんな額は持ち合わせていないので、ゾイドさんから受け取ってください」
 にっこり笑って答える仁。実は、2000Gというのは傭兵団『槍』としては決して楽勝でもない。
 ソードの豪遊は『槍』が抱える財政問題でもある。しかし、今日はそれなりに収入が期待できる日だ。
 なんといってもサンドラ国の依頼をこなしたのだから、悪くても一〇万Gくらいは入るだろう。
「それもそうだな。ゾイドたちはいつもの宿なんだろ? よし、善は急げだ」
「お、俺もいくっす、待ってくださいよぉー」
 足元から耳障りな声。意図的に無視しながらソードは続けた。
「よーし、ひさしぶりに楽しい夜だぜ! じゃあ、仁、俺様は先に行くからな。
 あ、そうそう、そこの馬鹿が一緒に来たいとか言っても来させるなよ。いいな、わかったな」
 無言でうなずく仁。ソードは踵を巡らせるとぐんぐん遠ざかっていった。
 しばらく見送った後、仁は足元に倒れているシンに手を延ばす。
「シン君、大丈夫ですか? 起きれますか?」
「へへっ、大丈夫っす。でも、効いたなー」
 ふらふらしながら立ち上がる。
「あれは愛の鞭なんです、きっと。でも、何であんなに起こったんだろ?」
 パンパン、と服についた泥を落としながら納得がいかない表情。
 男の添い寝、それがソードにとって、
 いや、一般の男にとって気色悪いものであることにさっぱり気付いていないのだった。
「もう過ぎたことですよ。それより、どうしてこんなに帰還が遅れたんです? さっきも尋ねましたが、答えはまだですよね」
 ソードがいなくなったせいか、あたりの空気が少し重くなったようだ。
 どうもソードが一緒だと、会話がソードのペースにはまってしまうようで、真面目な雰囲気がうまく出せない。
 こころもちシンも落ち着いたようである。
「イヤー、いろいろありまして、なにから話したものか」
「さっきの兜と関係あるんですか?」
「そ、そうだ、あの兜後で取りにいかなくっちゃあ・・・
 え、兜? 関係あるっすよ。そもそもあれがきっかけみたいなもんで・・・」
 川面を見つめながらシンが話し出す。それはだいたいこんな内容だった。

 戦場で仁とゾイドに注進した後、シンはソードがいるだろう最前線に走った。
 地面をよく叩くソードの周りには、たいてい土煙が待っている。
 それに、いつでも最前線で剣を振るうのがソードの特徴だ。
 そういうわけで、だいたいあっちにいるな、と見当をつけられるのだ。
 そして、二人ほどバルタンをなぎ払って駆け寄ると、案の定そこには彼がいた。
 遠目ではっきりとは分からないが、どうやら誰かを追いかけているようだ。
 誰を追いかけているんだろう、とシンが視線をまわすと、一人の真っ赤な戦士がいる。
 明らかに誰かから逃げている風情で、背中の延長にはソードがいた。
(あれか? よし、俺がやってやろっと) 
 先回りするシン。そして、後ろばかり気にしている赤い戦士は自分の退路を塞ぐ敵に気付かなかった。
 気付いたときにはもう遅い、
 スポーン
 多分、自分がやられたことにも気付かなかっただろう、閃光とともに首が宙を舞っていた。
 頭部はそのまま空へ舞い、赤い兜はシンの手の中に落ちてくる。
(よし、いっちょあがりだ)
 兜を手にしたまま、こちらにかけてくるソードに手を振る。
 シンに気付いたソード、そしてシンの足元に倒れている男を見ると、嗚呼っと叫んでシンを睨んだ。
 ポカンとするシンにくってかかる。
 シンも最初はよく分からなかったのだが、どうやら先程倒した男は、ソードを馬鹿にしたようだ。
 曰く、キチ○イだの、けだものだのと。
 それだけの理由で先程からずっとソードが追いかけていたそうだ。ただ、やたらに足が速くて中々追いつけない。
 それをようやく追い詰めかけたとき、シンがばっさりやってしまったそうな。
 戦闘中にもかかわらず、シンの中にふとある考えが浮かんだ。
(もしかして、俺ってソードさんの先を越したってことか? つまり、ソードさんに勝った?)
 思うだけならいいのに、つい口にしてしまう。喜びに満ちた顔、得意げな顔で戦利品の兜をみつめながら、
「俺がソードさんより先にこいつを倒したんすよねっ」
 ボカ
 ぶつぶついいながらシンに背を向けかけたソードがくるりと向き直る。いらないことをいうとこうなるのだ。
 グーで顔面をたたかれ、ソードはシンから兜を奪った。即座に遠くへ放り投げる・・・

「まったく、戦闘中になにをやってるんだか・・・
 だいたい、私は君から報告を受けた後すぐに撤退を合図しましたよ。ちゃんと聞こえたんでしょう?」
 少しあきれながら、しかし、十分ありえる話だと思いながら尋ねる。へへへ、と照れくさそうなシン。
「いや、実は聞こえなかったんです。なんでかなぁ?
 いやぁ、ソードさんの戦いって結構うるさいっすから、そのせいかもしれないっすね」
「君だってかなり騒がしい方だよ。切り込むとき、いっつも何か叫ぶだろう?
 わー、とか、だーとか。けれど、聞こえなかったのなら仕方ないね。で、それからどうしたの?」
「それからっすか? そうそう、ソードさんがあの兜を投げ捨てちゃって・・・」

 シンからすると、もうあの兜は宝物だ。
 自分の尊敬するソード・ブレードさんにはじめて一泡吹かせた?記念品である。
 いままでまったく及ばなかった人を、ちょっとでも慌てさせた記念碑的存在。
 ここで失うわけにはいかない、飛んでいった方向へ駆け出した。即ち、バルタン軍に向かって駆け出した。
 目の前に迫り来る敵兵をかわしながら、落ちているだろう兜をさがす。
 ちなみに、ソードもシンの側で暴れまわっている。
 そして、やっと木の根元に収まっている赤い兜を見つけて手を延ばした。
 と、そのとき。
 スコーン
 見慣れた足が兜を蹴っ飛ばす。仰ぎ見れば、わざとらしく鼻歌を歌うソード。
 襲い掛かる弓矢を斧で叩き落すと、シン・山寺は再び兜を見つけに走り出すのだった。
 その傍らには呆れ顔のソード。
 ソードとしては、兜など心底どうでもいいのだけれど、ここまで執着されると無性に邪魔をしたくなる。
 シンとしては、ここまで邪魔されると意地でも手に入れなければ気がすまない。二人とも負けず嫌いなのだ。
 スコーン、スコーン、スコーン
 ただでさえ薄暗くて探し物には不適当な森の中。兜を見つけるのは一苦労だ。しかも戦場のことである。
 二人で互いの死角を補いつつ兜という鉄の塊を追いかけ、いつでも後一歩というところでソードの足が先を越す。
 そんなことが何回くらい繰り返されただろうか?
 気がつけば二人の周りに敵の姿は無くなっていて、当然だが、味方の姿もなくなっていた。
 即ち、二人は迷子になってしまったのだ。

「ふうぅ」
 仁は溜息をつく。それはそうだろう、あまりに次元の低い話だ。傭兵だから、戦闘になれているのは分かる。
 それでも、ここまで緊張感のないのはどうだろうか? 敵兵の真っ只中でサッカーに興じるなどと、呆れた話である。
「それで、そこからどうやって帰ってきたんですか?」
「えっと、そのあとも兜の取り合いがつづいたんすけど、結局ソードさんが飽きちゃって。
 で、気がついたら、なんだか見たことのある景色だったんで、よくみたらソノダ街道についてたっす」
 思いがけず話が綺麗にまとまる。え? 気がついたら街道にでていた?
「あ、あの、迷子になってからも取り合いをしてたんですか?」
「そうっす。満月で雲も無かったんで、一晩中」
 思わず顔を見合わせる仁と下っ端三人衆。道理で二人とも目の下にクマをこさえているわけだ。
 ソードは何かにつけシンのことを、『馬鹿、アホ、ガキ』と呼ぶが、その理由がよく分かるエピソードである。
 もっとも、ソード自身も相当に『ガキ』であることに変わりはないが。
「てっきり忍者にでも襲われたのかと思ってましたよ。そんな理由で遅れたんですね、よくわかりました。
 ・・・それじゃ、そろそろ私達も帰りましょうか、シン君も歩けますね?」
 気を取り直したように仁がいった。
 はじめのうちは喋るのもつらそうだったシンだが、もうすっかりいつもの口調に戻っている。
 そして、しきりに体を動かし始めた。なにやら体操をしている様子で口を開く。
「あ、いや、先いってて下さい。俺、例のモノを探してから行きますんで」
「例のモノってなんですか?」
 横から下っ端Aが口を出す。まるで分かりきったことのように呆れ顔のシン、鎧や服を脱ぎながら
「やだな、あの兜に決まってるでしょ。
 あのあたりは流れが速いんで、流されてなきゃいいっすけどねー。それじゃあ、いきますか!」
 ばしゃーん
 仁が止めるまもなく欄干から飛び込んでしまった。見ると、流れに逆らって上流へと進んでゆく。
 わざわざ下流から泳ぎ始めなくても、川沿いに遡ってから流れに任せて下れば楽なのに。
 ばしゃ、ばしゃ、ばしゃ
 ちっとも進んでいない。ソノダ川はそれ程急な流れでもないが、かといってゆっくりした流れでもないのだ。
 太陽はほとんど沈みかかっているし、季節は秋。水も冷たい。
「仁さん、ど、どうしましょうか?」
 橋の上から川面を眺め、当惑した声を出す下っ端B。仁はといえば、首を何度か振った後で溜息をつき、
「先に帰った方がいいですね。お手伝いするのもなんですし」
 四人は顔を見合わせると、そのまま足をソノダに向けた。後にはただばしゃばしゃ響く水音がこだました。


 所変わってソノダの町。ここは、バルタンを含めた各国が定めた中立地帯の一都市である。
 中立地帯には人口が十万を超える都市が一〇ほど、そして人口五千を超える町が三〇程存在する。
 ソノダは、そんな町のひとつだった。
 ただ、定住している人口こそ五千を少し上回る程度だが、規模はそこらの町より段違いに大きい。
 それは、この町の大きな特徴のためだった。
 傭兵都市ソノダ
 そう、ここは傭兵達に仕事を斡旋する人間が集中する町なのだ。
 もともとは各国で行われる土木工事の日雇い人夫といった、職業斡旋が中心だった。
 それがこのたびのバルタン暴走で悪化した治安のために、
 次第に傭兵斡旋や用心棒斡旋の占める割合が大きくなった。
 戦乱勃発から丸二年、いまでは傭兵斡旋が斡旋業者の85%を占めるまでに成長しており、町は戦士で溢れている。
 ちなみに、数ある業者の中で、『槍』が贔屓にしている団体がギルド『後醍醐』。
 傭兵一筋三十年のつわものギルドで、
 マスターは六代目ジーク・後醍醐・ロリショウガクセという長ったらしい名前の中年親父。
 剥げ頭とちょび髭がトレードマークのダンディマン(自称)だ。
 『槍』が受けた今回の依頼も、出所はここである。これは余談。
 『槍』はここを拠点にして活動していた。ソノダのよいところは三つある。
 まず第一に仕事の依頼が多いことだ。
 中立地帯ということもあり、また傭兵がたくさんいることもあってか、急場の兵士補充を求める国々はまずここを訪れる。
 傭兵同士の仕事の奪い合いも激しいけれど、それを補って余りある依頼の数は大きな魅力だ。
 二つ目、斡旋機構がしっかりしているため、金のとりっぱぐれが少ない。
 詳しいことはソードたちも知らされないが、
 どうやらギルドに仕事を持ち込むときは手付けとして相当な額(だいたい報酬全体の二割)が先払いされるらしい。
 そして、斡旋された傭兵が期待にこたえると追加でギルドに金が入り、
 そこから傭兵に報酬(全体の八割)が渡る仕組みが整備されている。
 もしも傭兵が失敗して、そこに考慮するべき事情があれば、
 ギルドマスターが手付けの二割からいくばくかを傭兵に支払うことにもなっていた。
 考慮するべき事情とは要するに、ギルドマスターが事前に十分な情報を傭兵に渡していたかどうか、である。
 三つ目、これはソードの個人的理由大だが、歓楽街が非常に大きい。
 カジノ、バー、ダンスホール。そして数多のエッチなお店達。
 傭兵という性質上荒くれ人間がたくさん町にいる。
 そして、彼らの収入は定期的に一定額が加算されるのでなくして、一時にドカーンと収入があるのだ。
 金遣いの荒い人間の率が高いのは当然といえば当然だろう。
 しかも、用心棒お膝元の土地柄か、さほど治安も悪くないのだ。
 ただし、傭兵同士の果たし合いはしょっちゅうある。
 もっとも街中で決闘・喧嘩をすれば即座に両成敗にあうため、主に郊外にて執り行われる。
 まあ、ソノダはそんな町だった。
 
 そしてここは民宿『六甲おろし』。
 弱きものを支えることに喜びを見出す人種=正義感溢れる用心棒で報われない依頼にも嫌な顔をしない人達=ナイス
 ガイが集まる宿屋・・・のはずだった。
 それが、『槍』が常連になってからというもの、どんどん雰囲気が変わってきている。
「おい、亭主。俺様が来たとゾイドに伝えろ。もう到着してるんだろう」
 足でドアを開き、入店そうそうに大声を出すソード。ロビーのソファーにどかっと腰を下ろすと、
「さっさと呼べよ。困っている俺様が頼んでるんだぜ?
 サンバンは弱いものの味方なんだから、頼まれたらいやっていえないんだよな〜」
 本当はやたら強いくせに、好き勝手なことを言うソード。
 この宿では、『頼まれると断れない』『弱いものは大事にする』といった暗黙の了解があった。
 亭主は本来マイナーなギルド『タイガース』の主人で、
 『財力に乏しい人間が頑張って集めた少ないお金による依頼』をあつめている。
 そして、その手の依頼を好む変わり者?に仕事を斡旋するという毎日を送っていた。
 もっとも、傭兵斡旋というよりかは、やや何でも屋の色が強い。
 ただし、そんな依頼からギルドに入る斡旋手数料微々たるものだから、副業で宿屋を経営している。
「わ、わたしがですか?
 ええと、ゾイドさんなら三階の三〇九号室にお泊りですから、どうぞそちらにいらっしゃってください」
 おどおどと口を開く亭主。ソードがこの宿に泊まる様になってから凡そ一年が経つ。以来、まるでソードの召使扱いだ。
「ああーん? 聞こえないな。もう一度いうぞ、さっさとゾイドを呼んで来い」
「ううぅぅ」
 何も言い返せない亭主=サンバン・バース。
 彼はもともとギルドを取り仕切れるほどの器ではないのだ。気弱でひ弱な俗に言う『いい人』。
 これまでだって、ギルド加盟者(大部分が任侠者)の暖かさゆえにやってこれたのであって、彼の実力の結果ではない。
 そんな暖かい加盟者たちも、一人の男の出現により、ほとんど全員別のギルドに移ってしまった。
 弱いものを平気で食い物にし、人情という言葉からかけ離れた青年。
 たしかに暖かい加盟者達にとっては、ソードはまさに異端児として映っただろう。
 手付金だけとって依頼を他のメンバーに丸投げしたり、
 気に食わない依頼者をボコボコにして金だけふんだくったりするのは日常茶飯事。
 そのうちに『ソード・バスターという男をソノダから追い出してくれ』という依頼が、
 それも一回や二回ではない、ギルド『タイガース』に舞い込むていたらく。
 実際、『タイガース』のメンバーからは何度も『ソードをメンバーから外せ』とか、
 『あいつをこの宿に泊めるな』だとか言った要請があった。
 亭主サンバン自身も、ソードを出入り禁止にしようと思ったことはある。
 しかし、結局この一年半の間、実行に移すことは無かった。
 それは、第一にソードが恐ろしいからではあるが、
 サンバンにとってソードには他の加盟者にはない魅力が幾つもあった。
 ただし、魅力の数の十倍ほども欠点はあるが。例えばソードの依頼達成率。
 8%という超低成功率は、特筆に価するだろう。
 ただし、やる気を出したとき、即ち依頼主がグラマーだったり、セクシーだったり、
 年上のお姉さんだったりしたときの成功率は、100%。絶対に失敗することがない。
 これはギルドマスターとしては心強い限りで、
 特定の依頼者(セクシーだったりグラマーだったり)のニーズは絶対に叶えられるのだ。
 ただし、依頼主が男であった場合の依頼成功率は・・・0%。
 ソードの人となりがよく分からない頃に斡旋したその手の依頼は、全て手付金取り丸投げ方式で捌かれてしまった。
 次に、理由はよく分からないのだが、ソードを慕う人間がたくさんやってくるのだ。
 それは博打好きだったり、水商売の女だったりで、どちらかというと汚れた人間だったが、それでも宿は繁盛する。
 ただ、こういった類の人間は、正義的ギルド加盟者=潔癖症の理想論者からは疎まれるため、
 よりいっそうのギルド空白化を招くことになるのだ。
 とにもかくにも追い出す時期を見失っているうちに、ソードのもとに沢山の男が集まってきた。
 集まってきた男達は当然のように『六甲おろし』に部屋を借り、結果として今の姿に落ち着いた。
 即ち『槍』御用達の宿という形である。そこには古きよき時代の任侠はこれっぽっちも存在しなかった。
 あるのは猥雑で下品な人間の声だけだ。サンバンはふうっと溜息を漏らした。
(最初着たときは、ぼろぼろのずたずたで、とても見ちゃいられない少年だったのになぁ。
 あの時同情して助けなければよかったのか? いや、しかし、それは『タイガース』の看板が許さない。
 少なくとも、わたしの店の前で行き倒れなど出してはならない。私の判断は間違っちゃいないはず・・・だ・・・)
 無理に自分を納得させようと理屈をこねているところに、全ての元凶が一言。
「さっさと連れて来い、ぶっ殺すぞ!」
「は、はいい〜!」
 急に思考を引き戻され、サンバンは大急ぎで三階に走っていった。これでもうカウンターには誰もいなくなる。
(まったく、なにを悠長に考え事なんかしてやがる。
 俺様ははやく遊びに行きたくてうずうずしてるんだから、ちんたらやるんじゃないぜ。お?
 おお、キャッシャーに鍵がつけっぱなしだ)
 ソファから立ち上がり、こそこそとキャッシャーに近づいて覗き込む。
 紛れも無く鍵がつけっぱなしのキャッシャーが。笑いがこみ上げるのを抑えられない。
「あいつ、こんなことで商売できるのか? まったく無用心にも程があるぞ。よし、ここは社会勉強だな。
 1000G位でいいかな・・・100G札を一枚二枚、一〇枚っと、ぴったしだ。ま、こんなもんだろう」
 慣れた手つきで札束を数えるとそ知らぬ顔で懐に入れる。
 変わりに一〇G紙幣を一〇枚、100G札のケースに差し込んで、都合900Gの儲けだ。
 元の通りにキャッシャーを閉め、ソファに再び腰を下ろす。足を組む。
 どたどたどた
『六甲おろし』は建設から大分経っているせいで階段の軋みが激しい。
 ひとしきり大きな音を立てた後、サンバンとゾイドが階段から顔を出した。
(くっくっく、丁度いいタイミングだ。サンバン君、900Gは授業料として貰ったぜ?)
「おお、ゾイド待ってたぜ」 
 機嫌のよい顔で声をかける。シンと二人で過ごしたストレスが少し解消したようだ。
「団長、今回はやたらに遅かったなあ。疲れただろう」
「ああ、疲れた。何しろシンの馬鹿といっしょだったからな。疲れも十倍だ」
 会話が始まったようなので、サンバンは黙ってカウンターに戻った。
 一番奥に引っ込んで、なるたけソード留めをあわさない位置に腰を下ろす。
(ワハハハ、あいつ、やっぱり気付かないな。鍵をかけっぱなしにしてることくらい気付いてもいいと思うけどなぁ。
 そわそわしたり、あごを触ったり、俺様の前だとよっぽど緊張するんだろう)
 サンバンの動きを観察しつつ、内心ほくそえむソード。
「・・・で、・・・なんだが、団長? おい、聞いているのか」
「ん? ああ、聞いてなかった。どうせどうでもいいことだろう?
 そんなことより金だ、分かってると思うが金を出せ。2000くらいでいいぞ」
「いや、それが困ったことになってるんだ。どうやら俺たちはただ働きしたみたいだぜ」
「はぁ? お、おい、ただ働きってのはどういう意味だ」
 話の風向きが急に変わった。のんびりカウンターを見ていた体が九十度回転、今度はゾイドに向き直る。
「いや、それがその、こんな手紙が届いててな・・・」
 渋い顔を作って話しはじめるゾイド。こめかみをぴくぴくさせながら耳を傾けるソード。
(まーた、あの禿オヤジがごねてやがるのか。ちっ、ちょっと顧客が多いからっていい気になるなよ)
 サンバンはそんな二人をみながらずっとビクビクしていた。
 ゾイドはともかくとして、ソードは遠慮なく八つ当たりをする人間だ。とばっちりを喰っては堪らない。
 キャッシャーに刺さったままの鍵には気もつかず、不安そうに怯えていた。
・・・
「で、結局のところ契約不履行だといわれちまってな。
 向こうの言い分ももっともなんでひとまずひきさがったが、どうする? もちろん黙っちゃいないんだろ?」
 ゾイドは一息ついてからソードに話を振った。要約すると、『ソード達の撤退が早すぎるから契約違反』ということ。
「ああ、早速ハゲのところにねじ込むぞ。グダグダいったらぶん殴ってやる」
「おいおい、それは駄目だ。
 俺たちはあいつのギルドのメンバーなんだから、そんなことしたら、他のメンバーから痛い目にあう」
「ふん、甘い。そんなことをいってるからお前は三流なんだ。俺様のスーパーな交渉術でも参考にするんだな。ワハハハ」
 自信たっぷりの高笑い。いったいどこからこの自信が出てくるのだろう、とゾイドは首をひねった。
 だいたいソードがまともに交渉している姿を見たことがない。
 たいていは仁や自分にまかせっきりで、たまに会合に出席してもぐうぐう鼾をかくだけだ。
 ただし、何か問題が起こったときはぷらぷらと交渉にでかけて、それなりにまとめて来るのも事実である。
「じゃあ、一流がどんなものか見せてもらおうかな」
「構わないが、ついて来るのか? まあ、まかせとけ。本当ならこんな面倒なことはしないんだが、今はとにかく金がいる。
 ちなみに、金庫にはどのくらい残ってるんだ?」
「ああ、それか。そうだな、後4000Gくらいだ。今回の依頼でかなりつかっちまったから、ほとんど残ってない」
 それを聞いてちょっと意外そうなソード。
「そんなに残ってるのか? 4000Gから2000Gとると・・・のこり2000か。さすがに厳しいけどなんとかなるかな?」
 急に足を止め考え込む。
(これならハゲに会わなくても十分遊べるじゃないか。しかし、残りがたった2000。
 ちょっと心もとないな。仕方ない、ちゃっちゃと取り立てよう)
 一瞬面倒くさがり癖が頭をもたげる。けれど、すぐに気持ちを切り替えた。
「そんなに、って、全然少ないぜ。食費や宿泊費だけでも一日で500Gはかかるんだからよ」
「わかってる、わかってるぞ。なんでもない。いくぜ?」

 二人は『六甲おろし』を出た。町は夜の帳に包まれ、幾つもの酒場が、どれもこれも大いに賑わっている。
 町を歩く人の雰囲気も変わり、すっかり遊びの街だ。
 胸をはだけた美女
 豪快に金貨袋を振り回す戦士
 両脇に女をはべらしながら得意げにタバコをふかす商人
 いつ見ても気持ちのよい光景だ。ただし、男がいなければもっといい。
(おお、あそこのお姉さん、いいなあ、グッドだな。いや、あっちのバニーさんも柔らかそうで捨てがたい)
 ニヤニヤしながらいやらしい目つきで眺め渡す。背後にはゾイドが神妙な顔つきで付き従う。
(へへへ、色っぽいのはいいことだ。二十五歳くらいが一番だな、やっぱり。胸も大きいほうがいいぞ。
 もっとも、あそこの具合が一番大事だが・・・残念ながら見ただけじゃ分からないからな)
 道の反対側から声がかかる。
「ソード君じゃない! ソードくーん、いつ帰ったのー? 寂しかったよぉー?」
「おお、カプールちゃんか。ワハハ、俺様がいない間浮気なんかしなかっただろうな!」
「えっ・・・ もう、バカッ 待ってるから、早く遊びに来てよねっ」
 声をかけた少女は真っ赤になると、店に引っ込んでゆく。この声を境に周りの視線が急にソードに集まった。
「おい、あれか? あれがソード・バスターって奴か?」
「どっちだ? 後ろにいる背の高い奴か」
「いや、返事をしたのはあの若い方だ。アイツだろう?」
 最近になってやたら有名になっている自分。
(なんだジロジロ見やがって。俺様の美形に憧れるのはわかるが・・・ 男のクセにこっちを見るな。
 確かに俺様は美形で天才で無敵で・・・)
 ソードが自分に酔いかけているとき、周囲では以下のような会話が交わされている。
「やたら金遣いが荒くて、無鉄砲で、バルタンに喧嘩を売りまくってんだろ?」
「そうだぜ。そのせいでバルタンから懸賞金を賭けられてる。よく生きてられるよな」
「そうそう、それも確か2万Gも、だ。コイツは中々の額だぜ」
「どうする、やるか?」
「いや、この町では決闘禁止だ。やるならアイツが町から出たときだ・・・」
「おい、やるなら俺も混ぜてくれよ。どうせ囲んで袋にするんだろ? 人数は多いほうがいいぜ」
「馬鹿っ、お前らはあいつの強さを知らんのだ。やめとけ、早死にするだけだ」
「そ、そんなに強いのか?」
「まぁな」
「でも、幾らなんでも十人もいれば大丈夫だろう?」
「それが浅はかっていうんだよ」
「・・・」

 極めて物騒な会話である。そう、ソード・バスターには、バルタン貴族数人から懸賞金がつけられていた。
 バルタン国が国を挙げてソード一人を殺すことに全力を挙げているわけでは、もちろん無い。
 何故に懸賞金が賭けられているのかというと、ソードはここ数年バルタン内ではそこそこの実力者、
 つまりCクラス戦士程度のバルタン人を殺しまくっていたからだった。
 バルタンから逃げてきた女の『自分達を辱めたバルタン人を殺してくれ』という依頼ばかり引き受けてきた結果である。
 報酬金額がそれ程でなくても、あまり嫌な顔はしない。
 なんと言ってもバルタン人は虫が好かないし、可愛い女の子はソードの大好物である。
 まずは一発ヤらせて貰って、成功報酬にお金を貰う。これがソードのパターンだった。
 ちなみに、ヤらせてくれない娘の依頼は黙殺である。それはそれとして、ソードの活躍はバルタン人の怒りを買う。
 結果、徐々にソードの首の値段は上がり、とうとう2万Gにまでのし上がってしまった。
 はじめのうちは誰もがこの事実を信じなかった。バルタンが一人の人間に懸賞をかけるなんて聞いたこともない。
 けれども、どうやらこれが本当らしいとわかると、ソード受難の日々が始まった。
 もっとも、ソード自身にとってはなんら問題は無かったけれど。
 いつでも誰かの視線を感じる日々、毒味なしでは満足に食事すらできない日々。
 町の中で襲われることはほとんど無かったけれど、一歩町から足を出すと、酷いときには十人も荒くれ男が襲ってくる。
 もちろん、全員返り討ちにあうのだが。
 たまにはわざと郊外で昼寝をしたりして賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)を挑発し、
 襲わせておいて逆に叩き殺すこともあった。
 そうしてある程度の時が過ぎ、ソードの強さが本物だと町中に知れると、
 襲われる回数はガクッと減り、いまではソードに剣を向ける人間はほとんどいない。
 ただし、物を知らない新入りというのはどこにでもいるもので、たまーに血を見ることもある。
 余談になるが、広瀬仁やゾイド・ゴジュラス、シン山寺といった『槍』の主だったメンバーも、
 もとはといえばソードの命を狙った男達だった。
 そして、コテンパンにやられた結果、転向して彼についてゆくことに決めたのである。
 シン山寺は真昼間に一騎打ちを挑んで破れ、降伏した。
 ゾイド・ゴジュラスは深夜、背後から襲いかかったところを避けられ、そのままボコボコにされて降伏した。
 広瀬仁は郊外で昼寝をしているところに矢を射掛けたのだが、見事に剣で叩き落されるのを見て降伏した。
 それにしても、ソードは何故自分の命を狙った彼らを助けたのか?
 答えは、おそらく『気まぐれ』だったりするのだろう・・・ 

(ふん、どいつもこいつも賞金目当てか? 人気者はつらいぜ)
 足を踏み出すと、周囲でザワザワとさざめく人並みが自然に割れる。出来た隙間を通って進む二人。
「あっ、ソードさん」
「おい、ソードじゃないか! しばらくだな!」
「はわわわ、その節はどうも〜」
 酒場の前を通るたびに誰かしら知り合いから声がかかる。
 一時は賞金首ということで誰からも避けられていたソードだったが、まったく殺される気配がない。
 そのうえ、もともと強い人間を敬う風土があったせいか、いつのまにか街の人々の態度も以前のそれに戻っていた。
 いちいち返事を返すのも面倒くさいため、女の子には笑顔を、男にはかるーく手を振って歩く。
 目指すはギルド『後醍醐』、酒場に繰り出すのは軍資金を補充してからだ。
「相変わらずすごい人気だな」
 本通りから裏道に入り、人影もほとんど無くなってから、ゾイドが口を開いた。
「ふん、男に見られても気持ち悪いだけだ」
「女だっていろいろ言ってたぞ? この街一番の・・・」
「なんだ? 一番の美男子、とかか? いまさらそんな分かりきったことをいうな」
 面白くもなさそうに口を尖らすソード。
 宿をでてから三十分も歩いただろうか、いかにも胡散臭そうな建物が見えてきた。
(いや、この街一番の『獣』だから注意しろっていってたんだよ。相変わらずだなぁ)
 笑いを抑えながらソードの後ろを歩く。
「よし、はいるか」
「おう」
 建物には『後醍醐』と楷書で書かれた看板。
 ギルドの老舗だけに、中々貫禄のある看板だ。二人は門をくぐって中にはいった。

・・・

「おお、よく来たな。すまんがもうちょっと待ってくれ」
 ここは『後醍醐』の最上階、ジークの事務所。
 正面のソファに腰掛けているハゲが、ここのマスター、ジーク・後醍醐・ロリショウガクセだ。
 ゾイドとソードが部屋にはいった時、そこにはジークと知らない少女、いや幼女がいた。
 部屋の中は木馬や人形といったお子様向け玩具が所狭しと並んでいる。
「さ、おじいちゃんはこれからお仕事だから、しばらくあっちにいってろ、いいこだからな」
「ええー、プル、もっと遊ぶー」
「うんうん、あとでな。お仕事が終わったらたっぷり遊んでやるから、な? ホラ、下に下りてなさい」
「むー、むー、むー!」
「いいこだ、プルは。すぐに終わるからね、下で待ってなさい」
「・・・はーい」
 どうもうまく言葉が出てこないゾイド。ソードはといえばあさっての方向を向いている。
 そのうち納得したのだろう、『プル』と呼ばれた幼女はソードたちの脇をすり抜けて、
 てけてけてけ
 階段を下りていった。
「で、もういいのか」
 ずんずんと進み、ハゲオヤジの正面の椅子に腰を下ろすソード。
 ゾイドも、玩具を踏まないようにゆっくり部屋にはいった。
 ジークは、といえば、先ほどのたるみきった顔からシャキッとした顔に変わってソファに深く体を沈めている。
「さっきのガキはなんだ? また、どっかからさらってきたのかよ」
「なにを失礼な、だいたい『また』ってなんだ、『また』ってのは・・・ 孫だよ、ま・ご」
 苦笑しながら答える。
「孫ねぇ・・・ 俺様はガキには興味はないが、大人になったら美人になりそうじゃないか」
「はっはっは、そうかお前にもわかるか! あいつは絶対飛び切りの美人になる!」
 親馬鹿全開のジーク。上機嫌で笑っていたのが急に真顔に戻る。
「ソード、間違っても手は出すなよ。手を出したら、ただじゃ済まさんからな」
「へっ、安心しろ。貴様の娘なんか、頼まれたって手は出さないぞ。そんなことより、だ。
 どういうことだ、俺様にあんなヘボい依頼を持ってくるなんて」
 あくまで高飛車なソード。
「なに? ヘボい依頼とは言い草だな。 ・・・卑しくもサンドラ国直々の依頼だぞ。
 それを中途半端に投げ出して、こっちだっていい迷惑なんだ」
(ハゲの迷惑なんか知ったことかよ)
「関係ない。この依頼はダメダメだぜ。
 サンダ砦の野郎は俺様たちを前線に出して、自分達は篭城した挙句、一瞬で崩壊。
 これじゃあ俺様が幾ら頼りになるといってもなぁ。そう思うだろ?」
「確かにな。砦が一瞬で落ちたって事は聞いてたが、そうか、お前らは前線にいたのか」
「ウム、城が燃えていたから撤退した。
 このまま残っても挟み撃ちにされるだけだから、当然の処置だろ。これでも契約違反というのか?」
 来る途中でゾイドから聞きかじった戦況を話す。
 ソード自身は単独で暴れていただけだから、さも自分が指揮したかのような語り口はせこい。
 しかし、そんな細かいことはどうでもいいのだ。要は、今夜遊ぶ金が入ればいい。
「しかしなぁ、契約の内容は、サンドラ国の援軍が来るまで砦を守るってことだ。
 戦闘が始まって二時間は最低耐える、と大見得を切ったのは自分だろう?」
「う、ぐ・・・」
 そうなのだ。たまたま、この依頼はソード自身が交渉して手に入れたのである。
 その時さまざまな大言壮語(本人はそう思っていない)を並べた中に、
 『二時間は耐える』という一言を入れてしまっている。
「結局約束を守れなかったわけだろ。まあ、今回はあきらめたほうがいい」
 不愉快な言い回しだ。不詳ソード・バスター、可愛い子との約束は絶対に破らない。いや、たまには破るか?
 とにかく、条件反射で言い返してしまう。
「なんだと、俺様がいつ約束を破った!」
「お前が約束を守る方が珍しいぞ・・・ とにかく、サンダ砦は落ちちまったんだ。
 まったく、これでサンドラの奴はウチに仕事を持ってこなくなっただろうな。この損害はでかいぜ?
 なんなら、賠償金でももらおうか?」
「・・・」
「そうだ、確かお前こんなことをいってたよなぁ?
 『俺様だったら敵の将軍クラスをけちょんけちょんにして、バルタン本国に押し返す』とか、
 『嘘ついたらハリセンボン飲んでやるぜ』とか、いってなかったか?」
「そ、そんなことをいったのか?」
 だんだんと展開が怪しくなってきた。後ろのゾイドに助けを求める。
「そんなこといってないだろ?」
「いや、いってたぜ。酒飲んで酔っ払ってさ、ここの一階で宴会して、いろいろ叫んでただろう」
「いや、それは聞き間違いのはずだ。なんといっても俺様自身記憶にない」
「ソードが忘れてるだけだろ」
「ええい、俺様が言ってないと言ったら、言ってないんだ!」
 地団太踏むソードにジークが一言。
「なんなら蓄音機を聞くか? なんでか知らんが、お前の声だけやたらはっきり聞こえるぜ?」
 黙って部屋の隅を指差す。そこにはジーク自慢の蓄音機、釣瓶くらいの大きさの最新型である。
「ちっ、もういい、このクソジジイ。だが、せめて契約金ぐらいはこっちに渡すんだろうな!」
 ソードが契約金といっているのは斡旋料のことだ。
 つまり、サンドラからジークに渡っているだろう額、報酬の二割即ち2万Gをさしている。
「残念だがな、今回はいつもと違って前金を貰っていない。何しろ弱っちいとはいえ、国だ。
 これからビッグな取引先になると思ってサービスしたんだよ。料金は後払いでいいってな・・・
 ちゃんと事前に言っといただろ、人の話は聞くもんだぜ」
「な、なにぃ〜〜、それじゃ、本当にびた一文はいらないのか!」
「まあ、さすがにお前らが可哀想だからな。
 サンドラが脆過ぎたって情報も入ってるし、まったく出さないわけにはいかんだろう・・・
 しかたない、ここに4000Gある。これで納得して引き取ってくれ。
 いっとくが、これは俺からのサービスなんだからな? 感謝してくれよ」
 棚から封筒を取り出す。そして、4000Gをもって近づいてきて、
(た、たった4000だと? それじゃあ、俺様が2000取ったら残るのは、2000?
 最低でも一万、いや二万は入るはずだったのに〜
 ちっ、まあいい、とにかく今夜は遊ぶんだ。金庫がやばくなっても関係ないぜ)
 それでも相変わらずな思考をしているソードに、ではなく、
ポン
 ゾイドに渡した。意外そうなゾイドと、ぽかんとしたソード。
「お前さんたちの台所が苦しいのは知ってるよ。出来るだけ早くいい仕事を回すから、其れまでこいつで食ってくれ」
「は、はあ」
 ソードを無視して話が進む。とりあえず懐に4000Gをしまおうとするゾイド。其れを黙ってみていられるはずがない。
「おいおい、なんでこいつに渡すんだ。団長は俺様だぜ?」
 封筒に手を延ばしたソードをジークがさえぎった。
「お前がもっていると減るのが早すぎるんだ。残念だが、お前には渡せないな」
「な、なにっ こらハゲ、邪魔するな」
「・・・ソード、お前って奴はまったく進歩しないんだなぁ。人の上に立ってちっとは進歩したと期待したんだが」
 呆れ顔のジーク。どこか哀れむような視線ですらある。む、むかつく・・・
「ええい、このハゲ、俺様が女の子とラブラブするためにピンはねするとでも思ったか?
 俺様が一晩で2000Gくらい使い込む人間か?」
 急に真面目な顔を作ってソードは口を開いた。
「心外だ。俺様はただ、中身を確かめてから、感謝の意味を込めて、この手でゾイドに渡したかっただけだ。
 何しろ、こいつはいたらない俺様をよく支えてくれるからな」
「・・・お前大丈夫か?」
「ソード、何言ってるんだ?」
 せっかく本心を偽ってまで真面目なことを言ってみた挙句、二人にこんな反応をされ、
 ソードの繊細な心は深く深く傷ついた・・・わけがない。それでも不愉快なのはどうしようもない。
「もういい、俺様の高潔な気持ちは貴様らには分からないのだ。おい、ゾイド!
 俺様は先に帰るからな、中身を確かめて、しっかり金庫に入れとけよ! じゃあな、ロリハゲ」
(ああ、腹立つ。まったくどいつもこいつも・・・ こうなったらカプールちゃんでもいじめてやるか!)
 バーン
 高々と音を立ててドアが閉まる。残された二人はソードの足音が遠ざかるのを聞きながら苦笑していた。
「なんだ、あいつ2000Gも一晩で使うつもりだったのか?」
「ああ、そうだ。一晩かどうかは知らないが、多分そうだろうな。
 しっかし、ソードにしてはやけにあっさり諦めたな。諦めるにしてももっとごねてから諦めそうなもんだが」
 懐の封筒を押さえてみる。
 もしかして不意をついて奪われているのか?と思ったからだが、何のことはない、ちゃんとそこにある。
「まあ、なんだかんだいって、あいつも進歩してるってことさ。それよりも『槍』には悪いことをした。済まない」
「お、おいおい、なんだあらたまって。イイさ、とりあえず、次の依頼を早く廻してくれよ」
「ま、そこはまかせとけ。
 ・・・じゃあ、俺はそろそろプルのところに行くとするか。この部屋には鍵をかけるから、もう帰りな」
 ソードがいる時とは打って変わって知的なやり取り。
 けれども、はじめから二人が話し合っていたら、こんな雰囲気になっていないということは、両方ともよく分かっていた。
 ゾイドはかなり感情的になっていたし、ジークも大口の取引が失敗に終わったことに腹を立てていたのだ。
 そんな二人だけで話し合いになったとしたら、ここまで上手くまとまっていただろうか? 
 ドアから出ようとするゾイドにむかって、
「あいつがリーダーだなんて、お前さんも苦労するね。せいぜい早死にするなよ?」
 葉巻に火をつけながらジークが声をかける。
「あんただって十分苦労してるぜ? その頭を見りゃよく分かるさ」
 振り向きざまにやりと笑って、バタン。ドアが閉まる。広い部屋に一人きり、しばらくの間ジークの笑い声が響いていた。

 ・・・

 一方こちらはふてくされているソード、と思いきや全然へこんでいない。
 それもそのはずである、今の彼はそれなりに金持ちなのだ。
 ぷりぷりしながら『後醍醐』を出た後、ふと思い出したことがある。上着の懐に手を入れると、
 じゃじゃじゃじゃーん
 思わず効果音まで口にしていた。そう、『六甲おろし』からいただいた900Gではないか!
 思わず辺りを見回し、誰にも見られていないことを確認してからソードは夜の街に駆け出した。
(さすがは俺様だぜ! ロリハゲオヤジめざまーみろ! 正義は勝つのだ、がはははは!)
 まだまだまだまだ夜は長い。
(一応俺様は金を持っていないことになっているが、構うもんか。
 こいつは拾ったことにして、遊んで遊んで遊びまくってやるぜ!
 これっぽっちだと、酒場貸切プレイは無理だけど・・・)
 説明しよう、酒場貸切プレイとは?
 酒場を一つ貸しきって、あたりの女の子を手当たり次第集めて、
 皆で生まれたままの姿になって遊びまくるプレイのことだ。
「ハーレムプレイならオッケーだ! がはははは!」
 ハーレムプレイとは?
 ソード君一人に対し、複数の女の子が気持ちいいことをするプレイのことだ。
 ただし、場所はベッドの上限定なのが玉に傷である。

夜のソノダに豪快な声がこだまする。
「おおお〜、いいぞ、百点だ!」
「グッドだ、ベリーグッドだぜ!」
「必殺百烈突きぃ〜!、おらおらおらおらぁっ」
今日も今日とてソード君は元気いっぱいなのであった・・・ 


[あとがき]
 初めてあとがきとか書いてみます。
 まず、wordの文章をhtml形式に直してくれるぽっきーさん、誤字脱字をなおしてくれるJ・Kさん、
 ありがとうごさいます、いやマジで。
 とにかく、夜中に文章を書くのがこんなに楽しいとは思いませんでした。
 しかも、誰かに読んでもらえると思うと・・・ホント嬉しいです。 たとえ、それがたったひとりであっても・・・嬉いっすね〜 
 とりあえずこれでソード君はしばらくお休みです。リッカちゃんのほうにうつろうかな、と。
 リッカはあれからエルマ人としてバルタンに捕らえられてしまいました。
 当然、陵辱されるわけで、そんな感じになると思います。懲りもせずに(笑)読んでやってくださいね。
 
 もしも、もしももしももしも感想とか送ってもらえたら号泣です。マジ泣きします。
 しかし、ひょっとしたら優しい方がメールをくれるかもしれない・・・
 ken-kinoko@rf7.so-net.ne.jp
  ここにメール送ってやってください、絶対返信しますんで! とりあえずK、おぬしもなんか送ってくれい!
 以上、冬彦でしたっ





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