LP5年 宇宙の旅




第四話




『チューリップ100号』で、リーザスから、ランスから離れていった・・・はずのマリア。
 もう二度とランスに会えないはず、だった。けれど、マリアの目の前にいる男は、
 ランス。
「ぺっぺっ、なんて不味いんだ。マリア、なんでこんなもんを持ってきたんだよ」
 口にしたとたんに『カンズメ』を放り投げる。
「あとでお仕置きだな」
 勝手なことを口にしながら、船内のあちこちを眺めている。いつも通りの、頼もしいランスがそこにいた。
 そんなランスとは対照的に、いまだ状況を掴みきれていないマリア。
 ついさっきまでランスと抱き合っていたのに、いま目の前にいるランスが信じられないのだ。
(でも、あたしはランスと一緒になった。 ・・・これって夢なのかなぁ?)
 ムニ〜
 頬をつねってみる。
「・・・痛い」
(夢じゃないよね。だって、こんなにはっきりした夢なんて無いよ・・・
 だったら、これってどういうことなんだろ・・・?)
 ものめずらしげにうろうろしているランス。ランスとマリア以外の人影はない。気配も無い。
(これが現実だとしたら・・・ ランスとあたしの二人っきりなんだ・・・)
 床に落としていた男用宇宙服を拾い上げるランス。
(二人っきり・・・)
 マリアの前では、宇宙服を拾い上げたランスがこねくり回している。
(あたしと、ランスだけ・・・)
 ポーンと宇宙服を投げ、扉の窓から外を見るランス。
「なぁマリア。さっきから気になってるんだが、ここはどこだ? なんだよこの景色。みたことが無いぜ」
(夢じゃない・・・)
「? ・・・おいっ、いつまで惚けてるんだ!」
「えっ」
「『えっ』じゃねぇよ。3発やったくらいでグロッキーか?」
「あ・・・」
「俺様が質問してるんだよ、『ここはどこだ』ってな。聞こえてるだろ?」
「ええっと、ここは、その・・・『宇宙』、かな?」
「『宇宙』? その『宇宙』ってなんだよ」
「大陸から空に向かって、たくさん進んだところよ・・・」
「ふ〜ん。だったら、この窓から見える景色も『宇宙』なのか?」
 外を見つめながら、ランスが尋ねた。
「うん」
「そうか。『宇宙』ってのはやたらに暗いんだな・・・ で、なんで俺様は『宇宙』にいるんだ?」
「えっ?」
「だから、『えっ』じゃねぇ。
 俺様は『宇宙』に行くつもりなんかなかったのに、いつの間にかこんなところにいる。どーゆーことだ?」
「それは・・・ ランスが『チューリップ100号』に乗ったからよ。
 あたし、ランスが乗ってたなんて知らなかったから、このコにスイッチいれちゃって、それで
 次第に声のトーンが下がってくる。
 ポーッとしていた頭が次第に冷め、現実がわかってくるにつれ、マリアには大きな事実が圧し掛かっていた。
(ランスがここにいる。ランスがあたしと一緒にいてくれる・・・嬉しいよ、本当に嬉しい。
 けど、あたしとんでもないことしてる。ランスを・・・ランスを宇宙につれてきちゃった)
 実際はランスが勝手にマリアについてきただけだが、『チューリップ100号』の発射スイッチを押したのはマリアだ。
(ど、ど、どうしよう? あたし、そんなつもりじゃなかったのに)
 いまさらどうしようもないことである。もう、二人ともリーザスには帰れない。
 マリアは覚悟の上だからいい。けれど、ランスはそうじゃない。

「声が小さいぞ。もっと大きな声でいえ」

「ご、ごめんなさい。あのね、ランスがいたなんて知らなかったの」
「はあぁ? なにいってんだ? 俺様はそんなことは聞いてないぞ」
 ランスは首をかしげた。
(あれ、あたしなに言ってんだろ?)
 マリアも内心で困惑していた。何を喋っていいのか分らない。
「お風呂でもいったけど、宇宙へ行くのがあたしの夢だったの。それで、宇宙に行くためにこのコを作ったの」
「?」
「どこまでも飛んでいきたいって・・・そう思ったの。だから、あははは・・・」
「・・・要するに、マリアが俺様を道連れにしたってことか」
 道連れ・・・まさしく道連れにされたのである。
「うん・・・ごめんなさい。本当にごめんなさい・・・」
「ま、隠れたりしたのは俺様だしな。特別に許してやる。で、もう夢は叶ったんだろ。
 宇宙にきたかったんなら、もう十分だろう?
 こんな辛気臭いところはチャッチャとおさらばして、リーザス城に帰るぞ。こんどはベッドで3発だな」
「ランス?」
「ここで続きをしてもいいんだが、床がちょっと硬すぎる。それに狭いのはダメだ」
「ええっとぉ・・・」
「というわけで、リターンだ。リーザスに向かえ」
「あは、あははは・・・」
「? どうしたんだ? まさか、帰れないなんていうんじゃないだろうな?」
「その・・・まさかなの」
 マリアは仕方なく笑った。こうなったら笑うしかない。
「このコ、方向転換も何にも出来ないの。一度飛び出したら、ずうっと真っ直ぐ飛ぶようにできてて」
 大きく息を吸う。そして、吐く。
「だから、もう戻れないの」
「・・・冗談だろ?」
「本当なの」
「・・・マジ?」
「マジ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「えー――っと、これからどうなる?」
「燃料もないし、このまま流されて・・・」
「流されて?」
「運がよければどこか違う大陸につくと思う。運が悪ければ・・・」
「悪ければ?」
「ずーっと、このまま」
「・・・」
「・・・」
 しばしの沈黙を経て、ランスが声を張り上げた。
「な、な、なんじゃそりゃー! じゃ、じゃあ二度とリーザスには戻れないのか!」
「戻れないわよ」
「いますぐこの機械をぶっ壊せば・・・」
「『宇宙』だと息が出来ないわ。
 それに、もう大分時間がたっちゃったから。計算だと、リーザスから一万キロくらい離れてると思う」
「一万キロォ? そっ、そんなに・・・」
「ごめんなさい、ランス」
「そっ、そうだ、食料は? 水とかはどうなってんだ?」
「『カンズメ』と水が二週間分。二人だと、一週間しかもたない」
「そ、そうか・・・」
「ランス・・・」
 そこまで聞くと、ランスは俯く。そんなランスをマリアが申し訳なさそうに見つめる。
「ごめんなさい、あたしのせいでこんなことに・・・」
 マリアに最後まで喋らせず、ランスは顔を上げた。そこには、普段と変わらない表情が。
「ああーっ、もーいい! 来ちまったもんはしかたない! おい、マリアっ」
「えっ、なに?」
 ランスはマリアに向き直ると、
 ニヤリ
 手をワキワキさせ、怪しげな笑いを浮かべた。
「さっきの続きだ! あと3発は絶対やるからな、いくぞっ!」
「ラっ、ランス? ちょっと、ねぇ、なに考えてんのよぅっ」
「がはははは! 個室に二人っきり、することなんて一つだぜ」
「ま、またするの?」
「とーぜんだ! いくぞっ!」
「あ、あんっ、ランスったらっ」
 

   ・・・


 結局さらに四発を加えて、合計七発した二人は、食料庫の床に寝そべっていた。
 ランスは、行為の後すぐ眠るのが常なのに、まだ眠りに就いていない。マリアも、静かに起きていた。
「なぁ、マリア。お前は自分で選んだんだろ?」
 ランスが静かな声で話しかけた。
「どういう意味?」
「ふん。お前は、リーザスに戻れないのを分ってて、コイツに乗り込んだのかって聞いてるんだ」
「・・・分かってた」
「なんでそんな馬鹿なことしたんだ、ったく。理由はなんなんだよ」
「それは・・・」
「いっちまえ。怒らないから」
「ホントに? 本当に怒らない?」
「おう。だから、さっさと喋れ」
「あたし・・・ランスに止めてほしかったんだ・・・」
 マリアは『チューリップ100号』を作った動機、ふくらんだ自分の期待、
 そして裏切られたことを、ポツポツとランスに話した。
 大分前からランスを好きになっていたこと、ランスに自分を見て欲しかったこと、
 自分がランスにとって、大事な存在だと思いたかったこと・・・。
 いままでずっと胸の中に仕舞っていたこと、以前なら絶対に口に出せなかったことが簡単に口からこぼれる。
 これから二人だけで宇宙を彷徨うと考えるた時、マリアは驚くほど素直になっていた。
 もう自分を抑える必要はないのだから。
 ランスは、聞いているのかいないのか、黙ったまま聞いていた。結局何も口を挟まないうちに、マリアの話は終わった。
「・・・そしたらね、無性に宇宙にいきたくなっちゃったの。
 だから、発射ボタンをおしちゃった。理由っていったら、こんなところかな」
 ペシッ
「きゃっ」
 と、ランスがマリアの頭をはたいた。
「ふんっ! どんな理由があるかと思ったのに、そんなことかよ? この大馬鹿野郎」
「あは、あははは・・・ ほーんと、あたしってバカだよね」
「ちっ・・・」
「あたし、バカだから・・・ ランスを独占したかった。でも、ランスはいっつも他の女の子を見てた。
 それでもいいって思ってたんだけど、それも苦しなっちゃって」
「ふん・・・」
「ふふふ、それでこのコを作っちゃったの」
「それで、俺様の許しも無しに、どこかへ逃げ出そうとしたって訳か?」
「う、うん」
「俺様に一言も言わずにか?」
「・・・ごめんなさい」
「ちっ、いまさら謝ってなんになる。これは・・・お仕置きだな」
 ランスは続ける。
「俺様が作ってやった研究所で、こんなもんを作った罪アーンド、俺様に黙って出て行こうとした罪の二つだ。
 それなりのことはしてもらわないとなぁ?」
「うっ・・・ ど、どうしたら許してくれる?」
 聞き返すマリア。
「いいか、よく聞け!」
 ガバッ 
 マリアの横で寝そべっていたランスが、急にマリアに覆いかぶさった。
「うっ、うん」
「これから毎晩『七発の刑』だ! いいか、俺様が七発出すまで終わってやらないぞ、覚悟しとけっ、ふんっ」
「ランス・・・」
「それからなぁ、お前はただの女じゃない。いいか、俺様の大事な女なんだよ!
 勝手にどっかに行くなんて絶対に許さん。いいな、わかったなっ」
「ランス、あたしのこと大事に思ってくれるの・・・?」
「ちっ、同じことは二度はいわん。分かったのなら、分かったといえっ」
「・・・分かった」
「よし! 俺様は疲れたから寝る!」
「ランス・・・」
「ふんっ」 
「ランス・・・ありがと」
 馬乗りの体制を解いて、ランスは床で横になった。
 床は、もちろんヒララ合金製。ひんやり、というよりはかなり冷たい。
 マリアはのそのそと宇宙服に身を包む。行為の余韻でしばらくは暖かかったけれど、時間がたてばやっぱり寒い。
 保温効果も高い服なので、宇宙服さえつければ床で寝ても、寒さはほとんど感じない。
 一方、『寝る』と宣言し、マリアに背を向けているランス。
「・・・おい、マリア」
「ん? なに、ランス?」
「なんか羽織るもんはないか? 寒くなってきた」
「だったら・・・これ着てくれないかな? あのね、あたしが作ったの」
「ふん、貸せっ」
 ランスはくるりと向きを変えると、マリアの手から男用宇宙服を奪い取った。
「まったく、お前ってホントにチューリップが好きだな」
 腹部にしっかりプリントされたチューリップマーク。
「しかたない、着てやるぜ。よっと」
 服のジッパーを下ろし、半身ずつ差し込む。
「案外着易いんだな。お、結構暖かいじゃないか」
「・・・気に入った?」
「ちっ、うるさい。いいか、今度こそ俺様は寝るからな!」
「お休み、ランス」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 会話がなくなる。ランスはマリアに背中を向けたまま、黙っている。
 最初はランスから離れていたマリアが、ほんのちょっとづつ近づいてゆく。そのうちに、
 ピトッ
 マリアは自分の胸を、ランスの背中に押し付けていた。
 上から見ると、まるで揃いの寝巻きを着ているカップルのようだった。



・・・あとがき・・・
 短いです。滅茶苦茶短いです。うむむむむ・・・
 ラブラブな雰囲気に一区切りつけたくて、こんな短いくせに一話扱いです。
 このまま続けようとしてみたんですが、ラブラブモードを引きずってしまうんで・・・
 それゆえに、即効で次回に続きです。
 目を通して下さった方々、ホント―――っにありがとうございます!
 時間があれば、次のヤツも読んでやったって下さいっ(冬彦)








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