鬼畜幼稚園R




第三話 『ランス君走る!』



シィル 「メガラスちゃん、ごめんね、ランス様のせいでこんなことになっちゃって」
メガラス「・・・」
ミリ  「あとで、一緒に園長先生の所へいこうぜ。『そのひよこ触らせて』ってさ、付き合うよ?」
メガラス「・・・」
ラン  「メガラスちゃんって、ほんとに無口ね」
メガラス「・・・」
マリア 「ランスちゃん大丈夫かなぁ・・・」
 物静かな少年メガラス(5)を囲んで慰めている少女が四人、ジャングルジムの中だ。
 周りにはエクス・バンケット(5)とバレス・プロヴァンス(6)が見張っている。
エクス 「バレスさん、ランス君は捕まるでしょうか?」
バレス 「むむ、さすがになんとも」
エクス 「・・・まさかメガラス君を使って脱走するなんて・・・さすがに思いつきませんでしたよ」
バレス 「まあ、リックたちが捕まえるじゃろうから、こっちは待つだけじゃ」
エクス 「そうですね・・・。リック、頼みますよ・・・」


ランス「うおおおぉぉ、どけどけどけー!」
 リーザス幼稚園誇る巨大砂場(500平方メートル)を駆け抜ける一陣の疾風! 
園児A「あっ、ぼくのお城・・・」
 どかーん
園児B「うわああん! せっかくトンネルできたのにぃぃぃ! えーん、えーん」
 ばこーん
ランス「へんっ、簡単につぶれるもんを作るほうが悪いんだ」
 ・・・いや、所詮砂なんだから、踏めば壊れると思うよ。
志津香「はあっ、はあっ、な、なんで、こんなに速いのよぅ・・・」
ハウレーン「ふうっ、ふうっ」
 速いのも当然だろう、志津香たちが園児を避けたり、回り道をするような場面でも、ランス君は前進あるのみ。
 邪魔するものは蹴飛ばし蹴飛ばし突っ走る。ただし、可愛い女の子だけはちゃあんとよける。ちょうどいまも、
ランス「よっと、エレナちゃんあぶないぜ?」
エレナ「あっ、ランスちゃん・・・いっちゃった」
 花壇にお水をあげてるエレナ・フラワー(4)を際どくさけて、花壇をジャンプだ。
 これでまだ砂場の向こうにいる志津香たちは見えなくなった。
ランス「ようし、後はこのまま逃げ切れば・・・ っと、そうもいかないか!」
 チラリと後ろをみて、追っ手のないことを確認だ。しかし、敵は志津香たちだけじゃないぞっ
リック「キング、覚悟!」
レイラ「ランスくん、いくわよ!」
 いつのまに回り込まれたのか、正面にリックとレイラが。すかさず右手を振りかぶったランス君、
ランス「くらえ! 必殺、ラーンスアタ―ック!」
リック「わッ?」
 いつの間に掴んだのか、ランス君の手から砂が飛ぶ! かろうじてかわすリック、まともに浴びてしまうレイラ。
レイラ「きゃっ」
リック「キング、ずるいよ!」
ランス「へっへーんだ、盗賊ってのはなんでもありなんだっ」
リック「このおっ、『バイ・ラ・ウェイ』!」
 一気に距離をつめて、息もつかせぬ連続パンチだ! そのうちの二発がランス君の背中を叩く。
 パンパァン
 すかさず距離をとるランス君、
ランス「うわっ、とっ、たっ、おい! なにするんだよっ」
リック「キング相手だと、本気を出さないとね」
ランス(リックのやつ、『泥警』なのに、喧嘩と間違えてないか? 本気になったら『バイ・ラ・ウェイ』・・・
     しかも、しっかり背中を狙ってくるし、今ので二発だよな。うわー、あぶねー)
リック「もういちど・・・バイ・ラ・ウェイ!」
ランス「ちっ、あっかんべーだ!」
ランス(そうだ、別に相手をする必要なんかないもんな。逃げればいいんだ、よし逃げろ!)
リック「あっ、しまったっ」
 タッタッター
 背中を見せて逃げ出すランス君。
ランス「あと二十分くらいかな、へへっ、逃げるだけなら楽勝だ」
リック「まてぇっ」
ランス「待てっていわれて誰が待つか!」
 逃げるランス、追うリックとレイラ。志津香やハウレーンは回りこもうとしているのだろうか?
 時に、いくらリーザス幼稚園が広いとはいえ、所詮は幼稚園。どこまでも逃げられるような広さじゃない。
 逃げるだけではいずれ捕まってしまう。
ランス「はあ、はあ。くっそー、なんてしつっこい奴等だ! ゆっくり便所にもいってられねー」
 遊具広場をぬけ、幼稚園校舎の影に隠れて一息つくランス。なぜか足元にゴミ箱が。
 スコーン
 思わず蹴っ飛ばしてしまった。
ハウレーン「いたっ、あっちだよ!」
ランス(ちっ・・・俺様なにやってるんだ? 体が勝手に・・・)
ランス「くそう、反撃だ! シィル!・・・はいない。ソウル、バウンド・・・は風邪で休みか。ちっくしょぉぉぉぉ!」
ランス(って、なにいってんだろ? まぁいいや、さっさと逃げなくちゃな)
志津香「ランスッ、逃がさないわよっ」
 ハウレーンの声を聞きつけたか、早速現れる志津香。
ランス「へっへーん、追いつけるもんなら追いついてみろっ」
志津香「待て待て待てーっ!」
ランス「ラーンスダーッシュ!」
 こうして追いかけっこはつづくのだった・・・

 ・・・十分後・・・
 
 高笑いしながら走るランス君。
 そんなランス君を捕まえようとリック達も頑張ったけれど、
 結局逃げられてしまって、どこに隠れたかも分らなくなっていた。
 ランス君を見失ってしまったのだ。仕方なくジャングルジムに戻ってくる探偵の面々。
リック「ごめんよ、逃げられちゃってさ。 ・・・やっぱりキングは凄いね」
レイラ「ホントだよ。あんなに走ってるのに疲れないのかなぁ?」
ハウレーン「エクス、どうしよう?」
エクス「う〜ん、そういわれても・・・ もうそんなに時間もありませんし」
 そうなのだ、もうじきチャイムがなってお昼ご飯の時間なのだ。
シィル「そっかぁ、もうそんな時間かぁ」
ラン 「ねぇねぇ、じゃあもうすぐあたし達の勝ちになるのかな?」
ミリ 「このままランスちゃんが逃げ切れたら、ね」
 確かにこのままいくと、泥棒チーム『ランス盗賊団』の勝ちになるのだ。
 ランス君達が遊びに勝って、楽しい気分で元気にお昼!
 勝ったチームは機嫌よくご飯を食べて、負けたチームは悔しくも楽しくご飯を食べる・・・
 というふうに単純な話ならいいんだけれど、
志津香「冗談じゃないわっ! せっかくランスに命令できるんだよっ?」
ミリ 「そうか、もしこのままだったら、ランスが志津香に命令するんだな?」
 と、いうわけだ! 『勝った方が負けた方に命令できる』!
 ランス君が勝ったら志津香たちがランス君に命令されてしまうのだ〜
志津香「・・・そ、そうよ、そうだったぁ! リックちゃん、エクスちゃん、何とかしようよっ!
     ランスに命令されるなんて・・・」
リック「う、うん。だけど、キングがどこにいるかもわかんないし」
レイラ「志津香ちゃん、なにかいい方法ある?」
 志津香はいい方法を考えるどころじゃない、頭の中にランス君の馬鹿笑いがこだましていた。
志津香(エッチランスのことだから、パンツ見せろとかキスさせろとか、いう事聞けとか・・・絶対エッチなことされるっ!
      やだっ、やだやだやだっ!)
志津香「やだっ!」
 急に声を上げた志津香に驚く周囲。
ハウレーン「ど、どしたの? 志津香ちゃん、何が嫌なの?」
エクス「そうですよ、急にどうしたんですか?」
志津香「あ、うん、なんでもない。それよりもっ、捕まえないとランスに命令されちゃうよ、なんとかしなくちゃ!」
 小さな手をキュッと握って、横にグルグル回しながら力説する。そんな様子に圧倒されるエクス達。
 そんな中、一人冷静なバレスが時計を指差して口を開いて、
バレス「しかし、何とかといってものぅ。それに、もうお昼ですぞ」
志津香「えっ? あ、ああぁぁ〜!」
 時計はもう十二時を少しだけさかのぼったところを指していた。チャイムが鳴るのも時間の問題だ。
リック「ふう、結局キングの勝ちか」
レイラ「そうみたいね」
志津香「なっ、なんでみんな落ち着いていられるのぉ? ランスよ、ランスに命令されるのよっ!
      ほら、まだチャイムなってないんだから、探しに行こうよっ」
 さっきよりもブンブン手を回して興奮している志津香。そんな志津香にジャングルジムの中から、
マリア「志津香〜、もう諦めたら?」
 ギンッ
マリア「ひっ」
 口にしたとたんに睨まれて、ミリの陰に隠れるマリアだった。
 諦めモードのエクス達と、とにかくあせっている志津香の結論のでない話し合い、
 その様子を物陰から見ている視線が一つ・・・


ランス(ふっふっふ、あいつら仲間割れか? とにかくだーれも俺様に気付いてないもんな、この隙に・・・っ!)
 ランス君はしっかり見ていた!
 どうしてかしらないけれど、
 『泥警』の泥棒は無性に敵地に近寄りたくなるもので、ランス君もご多分に漏れてはいなかった。
 物陰からしばらくジャングルジムを観察していたのが、じりじりとジャングルジムに近寄っていく。
ランス(逃げるだけなんてやっぱりダメだ、俺様は完全勝利を目指す。
     シィルもマリアもみーんなたすけて、俺様の凄さを思い知らせてやるんだ)
 コソコソコソ
 どこからともなく現れた不自然な着ぐるみ、ゴールデンハニー。
 コソコソコソ
ランス(へへっ、まさかこの中に俺様がいるなんて誰も思わないだろーなー。シィル達、ビックリするぞ、きっと。
     志津香なんかどんな顔するんだろ? くふふふふ)
 コソコソコソ
ランス(ふう、重いな。にしても、なんでだろ? なんかイイ匂いがするぞ。女っぽい匂いだぞ、くんくん)
 コソコソコソ
 じりじりと近づくランス君。そんなランス君に最初に気付いたのはシィルちゃんだった。
 エクス達の不毛な話を聞きながら、ぼんやりと遠くを見ていたシィルちゃんの目に入ってきた違和感のある物体。
シィル(ランス様だったら絶対捕まらないもの。シィルは信じてるよ、ランス様・・・あれ?
     あれって、シィルとマリアちゃんが隠れてたお人形さんだ・・・)
シィル「ねぇねぇマリアちゃん、あれってなにかな?」
マリア「えっ、なになに?」
シィル「ほら、あのハニーさんの人形」
マリア「あれって、あたし達が隠れてた人形・・・?」
シィル「動いてるよね」
マリア「うん、動いてる」
シィル「もしかして、ランス様が中に入ってるかも・・・」
マリア「えぇっ? ランスちゃんが? あはは、まさかぁ」
シィル「でもでもっ、もしかしたらっ」
シィル(もしかしたらシィルを助けに来てくれたのかも・・・)
 のそのそと、だけど確実にこちらに近づいてくるハニー人形、エクス達はまだ誰も気付いていない。
 もし、あの中にランス君が入っていたら、
シィル(捕まったシィルがランス様に助けてもらう・・・きゃっ、恥ずかしいっ!で、でも、もしそうなら嬉しいな、うん。
     それに、なんだかあの人形さんが懐かしい気がするし、そうだ、ランス様だよ、きっと!)
マリア「? シィルちゃん?」
シィル「うん、あれってランス様だよ! 見ててマリアちゃん、合図してみるからっ」
 ひらひら〜
 ジャングルジムから体を出して、一生懸命手を振ってみる。
マリア「えっえっ? あれってほんとにランスちゃんなの? だ、だったらあたしだって!」
 ぱたぱた〜
 二人して手を振り始めてしまった。
 口に出して『ランス』とは言わないものの、動作からしていかにもランス君が近づいてきたことがわかる素振りである。
 そんな反応を示されたランス君は、気ぐるみの中であせりまくっていた。
ランス(ばっ、馬鹿やろう! なんだってこっち向いて手を振ってるんだ!
     そんなことしたら俺様が中にいるってばれるじゃないかよっ。ああもう、シィルっ、そんなに嬉しそうな顔するな!
     マリアちゃんもなに手を振ってんだっ。あ、うわ、ミリちゃんにランちゃんまでこっち向いて・・・げげっ)
 ハニーに向かって手を振っているシィル達に気付いたミリ達、
 なにやら話をしたあと一緒になって手を振り始めてしまった。
 さすがにこうなってはどうしようもない、いくら鈍い人間だって、なんか変だと思うよね。
 ジャングルジムまであと十メートルまでランス君が迫ったころ、リックが最初にハニーに気付いてしまったのだった。

志津香「とにかくっ、みんなランスを探しにいくのっ」
 相変わらず志津香だけはやる気だ。探偵チームの視線が中央の志津香に集まっている・・・
 と、一人だけ違う方向を見ていた。
リック「・・・?」
志津香「リック君、泉の方を探してよねって、ちゃんと聞いてるのっ?」
リック「ねえ、さっきから気になってたんだけどさ、シィルちゃん達何してんだろ?」
 質問に答えもしないで、相変わらず全然別の方向を見ている。
 志津香以外、エクス、ハウレーンも、リックの視線を追っていく。
志津香「そんなことより、早く探しに行きなさいよっ」
エクス「うん? ま、待って志津香ちゃん! あそこを見てご覧よ」
志津香「何よ、どうしたのよ・・・」
 エクスに肩を叩かれ、志津香もむっとした顔でみんなと同じところに目をやった。
志津香「? あれって、マリア達が隠れてたやつじゃない。なんでこんなところに・・・?」
 一歩踏み出し、ハニーに近づこうとする。
 モサッ
志津香「あ、あれっ、動いた」
エクス「もしかしたら・・・」
リック「中に誰かはいっているんだ」
バレス「と、いうことは?」
ハウレーン「え、えぇっ」
志津香「ランスー! ランスでしょっ、もう逃がさないわよぉっ!」
 モサモサモサッ
 逃げ出すハニー、ばれちゃった感じだ。志津香を筆頭に探偵のみんなが走ってくる!
ランス(ちっ、せっかく俺様があんなに上手く近づいたのにっ、シィルの馬鹿が手なんか振るからっ。
     うわっ、志津香速いぞ、あっ、リックに回り込まれた!)
 たださえ気ぐるみをかぶっている上、ジャングルジムまであと少しだったのだ。
 探偵の面々に囲まれたのは、志津香が『ランス』と叫んだあと一瞬の出来事だった。
 気ぐるみから抜け出すことすら出来ない、気がつけば六人に囲まれてしまっている。
ランス(やっべー、どうしよう・・・)
 着ぐるみハニーの目を通して・・・志津香とランス君の視線が、
 ビッ
 ぴったり合う。慌ててハニーの奥に隠れるけれど、そんなことで誤魔化せるはずもない。
しゃがみこんだランス君の耳に聞こえてきたのは勝ち誇った声だった。
志津香「あーっはは、ランス! ランスでしょっ、もう逃げられないわねっ!」
ランス「・・・」
ランス(うわっ、さっき目があっちゃったぞ。ばれたかぁ、しまったな)
 さすがにバレバレだ。着ぐるみを通して回りの話し声が聞こえてくる。
リック「志津香ちゃん? ほんとにキングなの?」
レイラ「他の誰かが中に入ってたりしない?」
志津香「まっちがいないわ! さっきチラって目があったの。あの目はずぇぇったいにランスよ!」
ハウレーン「目だけでわかるの?」
志津香「分かるわよ、だってエッチぃ目をしてるもん」
エクス「とにかく、中にいる人を引っ張り出しましょう」
バレス「うむ、そうじゃ。早くせんと時間もないしのう」
リック「だね。背中を叩くまでは捕まえたことにならないもんね」
志津香「あっ、そうよね、背中を叩かないとっ」
 着ぐるみの外では中にいるのがランス君だと決め付けられたみたいである。
ランス(しかぁし! この中にいる限りは安全だっ、どうせもうすぐお昼だしな!
     このままこうしていれば、結局は俺様の勝ちになる。どうせなら全員助けて勝ちたかったけど・・・勝ちは勝ちだ。
     よし、それじゃあ中から押さえて・・・あれ?)
 そうだ、このまま外に出なければいい。そうランス君が結論を出した時、ランス君大事なことに気付く。
ランス(そ、そうだっ! この着ぐるみって、ファスナーが二箇所にあるんだった!
     ひとりで二箇所は抑えられないじゃないかって、言ってる側から両方かよ!)
 そう、ランス君がまごまごしている間に、外から二人がファスナーに手をかけていた。
 リックが片方を、エクスがもう片方をグググッとさげ下ろす!
ランス「ちょっ、コラッ、二人がかりなんてずるいぞ!」
レイラ「あ、いまランス君の声がしたよっ」
志津香「とーぜんよ! ランスっ、さっさと諦めなさいっ」
ランス「うるさい馬鹿志津香! あっ、こらリック手を延ばすなっ。おらぁっ!」
 ハニーのなかで暴れている。
リック「キ、キング、蹴らないでよ」
エクス「痛いっ!」
 突っ込んだ手を押さえて外へ転がるエクスと、着ぐるみから飛びのくリック。
 どうやらランスが中から蹴りまくってくるらしい。
志津香「どうしたのよ、ほらぁ早く捕まえちゃってよ」
エクス「そ、そうですね。じゃあもう一度・・・うわっ!」
 言ってる側からランスキックだっ。今度はリックが反対側から顔を突っ込んで、
リック「キング、つかまえたっ! え、あっ」
ランス「ランスパーンチ!」
リック「わっわっ、ひゃっ!」
 ランスの足でも掴んだとたん、いくつもパンチが飛んできたのだろう。
 着ぐるみの中でひとしきり暴れたあと、リックも退散だ。
リック「ふう、危なかった。キング、本気でパンチするなんて・・・往生際がわるいよ。
     あとちょっと顔にあざ作るとこだったぁ」
 二人揃って手をつけかねる様子だ。見かねた様子で、
志津香「んーーもうっ、二人ともなによっ! もういい、あたしが捕まえてやるわっ! ランス、覚悟しなさいっ!」
ハウレーン「ちょっと志津香ちゃん、危ないよ?」
レイラ「リック達に任せたほうがいいよ」
志津香「いいのっ、あたしが捕まえてやるんだからっ。ランス、いくわよっ!」
 引きとどめる二人をぐっと追いやって、着ぐるみの中に入ろうとしているぞ!
 中のランス君は大変だ、なんといっても男と違って女の子を思い切り蹴飛ばすわけには・・・あれ?
 ランス君の足がするすると伸びて、
 ゲシゲシッ
志津香「きゃっ・・・ あーッ、ランス、あたしの肩蹴ったぁ!」
ランス「ふんっ、俺様を捕まえようとするからだぞっ。諦めて向こうへいっちゃえよなっ!」
 肩口を蹴られたのだろう、着ぐるみの外に放り出された志津香。
ランス(チッ、もうちょっと気付くのが遅かったら顔面蹴ってたとこだったぞ。
     てっきりリックの馬鹿野郎だと思って足を出したら・・・ あぶなかったー)
志津香「もう怒ったわよっ。絶対に捕まえてやるっ!」
ランス「へ? わ、わああっ、離せコラッ」
 おおっと、志津香、ランス君の足を掴んで引きずり出そうとしているぞ! 
志津香「ええい!」
リック「志津香ちゃん、いいぞっ」
レイラ「リック、見てないで志津香ちゃんを手伝いなさいよ!」
リック「あっ、そうか」
ハウレーン「エクスもほらっ」
エクス「え、僕もですか? はいはい」
 志津香を起点に三人がそれぞれランス君の両足を掴んで引っ張り出す!
 体を回転させて自分の足を握っている手を離そうとしたり、しきりに足をバタバタさせるも離してもらえない。
 着ぐるみにしがみついても所詮三対一、
ランス「ああぁっ」
 つい手を離してしまって、
 スポーン
リック「や、やったぁっ」
 巻貝から身がほじりだされたよう。志津香ら三人に引っ張り出され、仰向けになったランス君がそこにいた。
ランス「へへ、へへへ・・・」
ランス(くそお、志津香の馬鹿が足なんか掴むから・・・ リックが掴んでたら思い切り蹴りつけてやれたのにぃっ。
     なんであんな馬鹿に遠慮するんだ、俺様の馬鹿っ!)
エクス「ふう、やっとお終いですか。ランス君、捕まえさせてもらいますよ?」
 ランス君を見下ろす六人の探偵。ランス君、まさに絶体絶命だっ。
ランス(だあああー、せっかくここまで頑張ったのに、結局捕まっちまうのか?
     嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、ずぇぇぇったいに俺様は勝つのだ!)
ランス「ふんっ、捕まえられるもんなら捕まえて見やがれっ」
志津香「いったわねっ。捕まえて、あたしの言うこと聞かせてやるんだからっ!」
 おおっと、仰向けのランスに圧し掛かる志津香、
 バタバタバタッ
ランス「オラオラあっ! 背中にタッチするまでは捕まってないんだい!」
志津香「本当にしつっっっこい! ランスっ、しつこい男なんて女の子に嫌われるんだからねっ」
ランス「けっ、お前みたいな馬鹿に嫌われたっていいもんねーだ」
 ジタバタジタバタ
 あからさまに暴れるランス君、彼がおとなしく捕まるわけがないのだ。
志津香「むっかぁぁぁ! リック、エクスッ、こいつの手と足押さえててっ」
リック&エクス「は、はいっ」
 キッ、と志津香に睨まれ、呼び捨てで命令口調とあってはたまらない。
 二人ともすぐにランス君の手足を押さえにかかって、
ランス「あっ、あっ、待て、待てって。うがあっ、放しやがれ!」
 暴れるランス君を押さえ込んだ。もうランス君は抵抗できない、つまり無抵抗だ。
 もちろん手足を押さえている二人を吹き飛ばそうとして入るのだけれど、
 なにしろリックとエクスだ、一度押さえ込んだらもう離さない。
ランス「うがあっ、がー・・・お?」」
志津香「よし、二人ともありがとっ! ・・・それじゃあランス?」
 見下ろす志津香、いつもよりいっそうランス君を見下したような、勝ち誇った視線。
 しかし、ランス君はそんな志津香の顔なんかは見ていない。
 それもそのはず、仰向けになったランス君の目に飛び込んできたのは・・・
志津香「ランス?」
ランス「志津香って・・・セーラームーミンが好きなの、か?」
志津香「えっ・・・ って、ちょっとランス! どこみてんのよっ!」
 ランス君の視線はちょうど目の前に広がったスカートの中心をじいぃぃっと見ていたわけで、
 そこには魔法ビジョンアニメのキャラクターがいたわけで。
 セーラームーミン、ムーミン谷高校の女子高生が、セーラー服を着て魔法で戦うアニメである。
 そんなランス君の視線に気付いた志津香、真っ赤になってスカートを押さえる。
志津香「もーーー、エッチ!」
ランス「へぇぇ、意外だねー」
志津香「馬鹿ッ、もういいっ! リック、エクスっ、さっさと捕まえるっ」
ランス(うわっ、こいつ恥ずかしがってる。へへっ、いーもんみちゃったー。
     うっわー、こいつってば、魔法アニメ好きなのかぁ。くっくっく、これで志津香のからかい方が分っちゃったぜ。
     そうだな、生意気な態度を取った瞬間、『魔法でおし置きッ』とかいってやったら・・・く、くすぐってぇ!)
 真っ赤になってうずくまる志津香、妙な笑みを口元に浮かべたランス、
 二人を交互に見ていたリックとエクスだったけれど、志津香の一言でわれに返ってランスの背中に手を伸ばした。
 左右から脇の下に手を入れられて、ランス君の思考がとぎれ、
ランス「ちょッ、わははは!、くすぐったいって、あはっ」
リック「キング、だったら素直に体を持ち上げてよ」
ランス「わはっ、わははは! 志津香、おい、あはははは!」
 ランス君に背を向け、真っ赤になってスカートを抑えていた志津香に届いた笑い声。
 本当はただくすぐったくて笑っただけ。なのに、志津香にはまるで自分が笑われたように聞こえてしまった。
志津香(なによ、なにようっ。あたし魔法アニメが好きなだけだもん・・・ でも、そんなこと誰にも知られたくないし、
      それでも好きだから、こっそりこのパンツをはいてたのに、それだけなのにぃ・・・)
 背中には相変わらずランス君の高笑い。
 ランス君に背を向けている志津香には、くすぐられて笑い転げているのが分らない。
志津香(あたしだって女の子だもん、可愛いパンツはいたっていいじゃない!
      そんなに笑わなくたって、いいじゃない・・・) 志津香「う、ううぅ・・・」
 ランス君とリック&エクスは志津香の背後でじゃれている。
 当人達は大真面目だけれど、どう見たってじゃれているようにしか見えない。
 ランス君はといえば、『三回連続で叩かれないと捕まったことにならない』というルールを逆手にとって、
 二人の間でクルクル転がっている。リックが二回背中を叩いたと思えばクルッと向きを変え、今度はエクスが二回叩く。
 するとまた体を入れ替えて、リックが二回叩く、といった具合だ。
 レイラやハウレーン、バレスの三人もランス君の側に駆け寄っているので、誰も志津香の変化に気付かない。
志津香(酷いよ、そんなに笑うことないよ、なんでそんなにおかしいのよぅ・・・
      あたしは・・・こんなパンツはいたりしたらいけないの?) 
志津香「うう、ひっ、ひっく」
志津香(悲しいの? ううん、悔しいんだ、きっと。ランスにからかわれて悔しいなんて、いつものことなのに・・・
      なんであたし泣いてんだろ? でも、でも涙がぁ・・・とまんないよう・・・)
志津香「ふええぇぇ・・・」
 次第に大きくなってゆく志津香の泣き声、初めに気がついたのはレイラだった。
レイラ「あれ、志津香ちゃん泣いてるの?」
リック「え?」
エクス「レイラさん、今なんていったの」
ハウレーン「あ、ホントだ」
バレス「むう?」
 みんなが志津香を振り返り、ランス君に向けられていた手の動きが止まる。
 志津香がなくなんて初めてのことだし、気の強いイメージしかなかった志津香がないているのだ。
 意外さのあまり、ランス君から注意をそらしてしまった面々がいた。
 くすぐりまくられていたランス君がこの隙を逃すはずがないっ!
リック「どしたのかな・・・あぁっ!」
エクス「? ・・・!」
バレス「ぬおう、しまったぁ!」
ランス「はっ、ふひっ、や、やったぁー」
 そこにはもうランス君はいない。
 自分を苛んできた手が離れた瞬間、元いた場所から飛び起きて、ランス君はジャングルジムへと駆け出していた。
ランス「ふひっ、ふへっ、へへへ、おういみんな、俺様にタッチだぁ!」
 やられたッ、失敗したッ、
 という感じでランスを見つめるエクス達の視線を背中に受けて、ジャングルジムへと手を伸ばす。
 すかさずミリが、
ミリ 「ナーイスッ」
 ポン、とたたいて脱走だ。続いてランとマリアが、
ラン&マリア「ランスちゃん、ありがとっ!」
 ペチペチッ、とランス君に触れて脱走完了。
 ランス君は手近にいたメガラスの肩をポンと叩いて、これでメガラスも解放したわけ。
 ただ、メガラス自身は無表情でその場を動こうともしなかったけれど・・・
 最後はシィルだ、ランス君は得意の絶頂である!
ランス(ふふんっ、あいつらまだまだ甘いぜ! せっかく俺様を追い詰めたのに、くっくっく。
     結局全員解放で俺様完全勝利だ!)
ランス「わははは、おいシィル! 何見てるんだ、さっさとタッチしろよ」
 本当なら真っ先にランス君に飛びついてくるはずのシィルが、あさっての方向を向いている。
 せっかくランス君が助けに来てやったのに、
ランス「こらぁ、なにみてるんだ! 助けに来たんだから早く触れって」
 ポカッ
シィル「え? あっ、あっ、ごめんなさい! ランス様、助けに来てくれてありがとうございますぅ」
 頭をポカリとやられてわれに返ったシィルがランス君に飛びついてきた。ただ、どこかいつもと違う。
 そして、シィルがランスに飛びついたとき、
 キーんコーンカーンコーン キーんコーンカーンコーン
 お昼のチャイムだ。この合図で園児達は自分の組に帰って、お弁当を食べる手はずになっていた。
 そして、このチャイムは『泥警』終了の合図でもある。つまり、
ミリ 「やったぁ、俺達勝ったんだなー」
ラン 「うふふ、嬉しいねランスちゃんっ」
マリア「やったやったー、これであっちから命令されなくて済むんだもんねー」
 ランスチーム勝利! ひゃっほう、万歳、俺様最強!・・・と喜ぶはずのランス君。
 ところが喜ぶミリ・ラン・マリアを無視したままに妙な顔をして、シィルと同じ方向を見ている。
 視線の先には・・・うずくまってしゃくりあげる志津香。
ランス「・・・なぁ、シィル。あそこでしゃがんでるのって、あれって志津香か?」
シィル「はい、ランス様・・・ 志津香ちゃん、うずくまったりして。泣いてるのかな・・・?」
ランス「もしかして、俺様に負けたから泣いてるのか?」
シィル「えっ、あの、そうじゃないと思うよ。少し前からあんな感じで」
ランス「チッ、俺様に負けたくらいで泣きやがって、なんなんだ。よし、きーめた」
 シィルの言葉がまるで聞こえていないようだ。
ランス(まったく俺様に負けたくらいでめそめそしやがって。
     ふっふっふ、さっきのネタで、思い切りからかってやーろおっと)
ランス「シィル、お前達はここで待ってろよ。俺様が元気を出させてやる」
シィル「あ、シィルもいきますぅ」
ランス「ここで待ってろ!」
 ポカッ
シィル「ひんっ、わかりましたぁ」
 そのまま志津香たちに向かって歩き出すランス君、顔には満面の笑みだ。
ランス「おうい、俺様たちの勝利だぜ、覚悟はいいんだろーなー・・・」


 チャイムがなって探偵チームの負けが決まり、ランス君達がジャングルジムの前からこちらを眺めている頃、
 着ぐるみハニーの側では、志津香を囲んだ五人が泣いている志津香を慰めていた。
レイラ「志津香ちゃん、どうしたのよ。
     さっきから急に泣いちゃったりして、ランス君に見られたのなんて、どうってことないよ?」
エクス「そうですよ、あなたがそんなことで泣いたりして、志津香さんらしくありませんよ」
ハウレーン「ちょっと、そんないいかたないでしょっ! 泣いてるんだから優しくしないとっ」
エクス「え、あ、はい・・・」
レイラ「ねぇねぇチャイムも鳴ったしさ、もう帰ろ、ね?」
志津香「ひっ、ひっく、ひっく」
志津香(なんであたし泣いてるのかな? ランスに笑われたから?
      ううん、そんなんじゃないもん。もう・・・しらない、しらないっ!) 志津香「ううぅー、ひっく」
 志津香にだって自分が泣いている理由が分らないのだから、回りの人間に涙の理由をわかれというのが無理である。
 泣き虫というイメージから最も遠い志津香だけに、エクス達も困惑して立ち尽くすだけだった。
 そして、そんな折にランス君はやってきたのだ。

ランス「わははは、どーだ俺様の勝ちだぜ! リックもレイラさんも馬鹿志津香も、み―んな負けたんだからなー・・・
     なんだよ、暗いぞみんな・・・チッ、志津香が泣いてるせいか?
     おい、エクス! なんだって志津香は泣いてるんだ」
エクス「さ、さぁ。よくわからないんですよ、それが」
ランス「じゃあレイラさんだ。なんでこいつこんななんだ?」
レイラ「えーと、うーんとぉ・・・」
ランス「レイラさんも分んないのかぁ。
     ふう、仕方ない。おい志津香っ! 何があったんだ、なんでそんなに泣いてるんだ?」
 泣いている理由を聞いてもみーんな分らないようなので、ランス君は志津香自身に尋ねた。
 泣いているといっても大分収まったようで、目は真っ赤にしてスンスンと鼻を鳴らしている。
志津香「・・・もういいの
ランス「んー? なんていったんだ?」
志津香「もういいっていったの!」
 キッ
 充血した目でランス君を見据える。
ランス(うおっ、なんか怒ってるし・・・ こりゃ、下手にからかったりしないほうがいいかな・・・? 
     けどなんだ? 俺様が何かしたか?)
ランス「もういいって、なんだよー? おい、志津香、なに怒ってんだ?」
志津香「怒ってなんかいないもん」
ランス「怒ってるーだ」
志津香「もう、うっさい! ランスなんかしらないっ!」
 プイッ
 顔を背けて立ち上がり、そのまま教室に向かおうとする志津香。そんな志津香の肩をグぐっと引き寄せるランス君。
志津香「ちょっとぉ、なにすんのっ!」
 ランス君はといえば、睨みつける志津香なんてどこ吹く風、涼しげな顔で怒りの視線を受け流す。
ランス「おいおい、それはずるいぞー。初めの約束はどーしたんだよ?
     なぁ、エクス、確かさ、負けたほうは勝ったほうのいうことを聞くんだよなぁ?」
エクス「ええ、確かにそうでした。一つだけいうことを聞くって約束でしたね」
ランス「ほっほー。それでぇ、一番ノリノリだったのは誰だっけ?」
エクス「えと、それは・・・」
 思わず口ごもるエクス。一番乗り気だったのは、いま不機嫌の真っ只中の志津香である。
 チラリと志津香に目をやると後が続かない。そんなエクスを一瞥すると、志津香がズイッと踏み出して、口を開いた。
志津香「あたしよ、あ・た・し。何よ、ちょっと勝ったからって調子に乗ってさっ! それがどうかしたのっ」
ランス「ふんっ。俺様は勝って、お前は負けたんだ。勝ちチームの代表だからな、俺様は。
     当然、志津香に一つ命令する権利があるッ!」 志津香「ちょ、ちょっとぉ、なんでよりによってあたしなのぉ!」
ランス「ホンット可愛くねーなー。そんなの決まってるだろ、普段俺様に逆らってばっかりだからだよっ!」
 食って掛かる志津香と目をあわさずに、背中をぽりぽり書きながら答えるランス君。
 ランス君は、もうこのときに何を命令しようか決めていた。そんなランスにそっぽを向いて、
志津香「どーせあたしは可愛くないわよっ、ふんっ。ああもう、どうでもいい! 何でもいいからさっさといいなさいっ!」
ランス「お、いったな?」
志津香「いったわよ! 約束はちゃんと守るの、あたしは。ランスが相手でも約束だから、言うこと聞けばいいんでしょっ」
ランス「ようし、じゃあいくぞっ!」
志津香(ランスなんてだいっ嫌い! スカート覗き込んで、あんな馬鹿笑いする男なんて、最低よっ。
      ランスのいうことがもしもエッチなことだったら、もう遊んでやらないんだからっ)
 冷めた目つきを気にすることもなくランス君は言葉を続けた。
ランス「明日もセーラームーミンのパンツを穿いて来い!」
志津香「え?」
 キョトンとする志津香。予想では『俺様の女になれ』だとか、そういう類の無茶な要求を想像していただけに、
志津香「セーラームーミンって・・・」
ランス「わははは、志津香がさっきはいてたヤツだ。あれってセーラームーミンなんだろ? 
     ククク、スカート押さえてうずくまった志津香、可愛かったぜ?・・・」
志津香「・・・」
ランス「どうせ志津香のスカートをめくるんだったら、アレを着けた志津香がいい。
     うん、志津香のイメージじゃないけど、似合ってて、グッドだ!」
志津香「・・・似合ってる?」
ランス「お、おお。グッドだったけど。それがどうかしたのか?」
志津香「だ、だったら、なんで笑ったりしたのよ!」
 先ほどまでの冷ややかな視線とは打って変わって、詰め寄る志津香。
ランス「え、え? 別に笑ったりしてないけど・・・」
志津香「嘘ッ、思いっきり笑ってたじゃないっ!」
 ランス君の詰め寄る横から、レイラがとりなすように声をかけた。
レイラ「ねえ、志津香ちゃん、ランスちゃんは笑ってたけどね、あれはリック達にくすぐられて笑ってたんだよ?」
志津香「えっ?」
エクス「くすぐっていたわけではないですが、結果的にはそうでしたね。
     ともかく、ランスさんの笑い声は、別に志津香さんを笑ったわけではありません」
志津香「えっえっ、えー?」
ランス「なーんだ、俺様に笑われたから泣いてたのか。わははは、志津香って結構間抜けだなー」
志津香「・・・」
ランス「とにかく、勝負は俺様の勝ち。チャイムもなったし、俺様は緑組にかえる! 
     今回は楽しかったぜ、また遊ぼうな。じゃーな、みんなっ、わはははは!」
リック「キング、今度は負けませんよ」
レイラ「また後でね〜」
 立ち尽くす志津香の背中をバンバンと叩き、後ろでに手を振りつつシィルのところに駆け出すランス。
 と、走り出したとたんに振り返って、
ランス「志津香っ! 約束忘れるなよっ、明日はセーラームーミンだぞぉっ、
     ちゃんとたしかめにいくからなっ、わはははは!」
 それだけいうとまたも背をむけ走り出した。
 シィルのほうもランス君に駆け寄ってきて、そのまま二人は緑組に歩き出す。
 マリア達に手を振って、二言三言喋った後、教室の中に帰っていった。
 後に残された赤組リック・レイラも、白組エクス・ハウレーンも、黒組バレスも互いに手を振りながら帰っていく。
 後にはカスタム組の四人だけが残っていた。ジムのほうから志津香に近寄ってくるマリア・ミリ・ランの三人。
マリア「ねぇ、志津香泣いてるみたいだったけど、どしたの?」
ラン 「目赤いし」
ミリ 「ははっ、どーせランスがなにかしたんだよ。な、志津香?」
志津香「え? あ、うんそう・・・」
ミリ 「? なあ、目も赤いけど、顔も赤いぞ?」
ラン 「ホントだ、志津香ちゃん、真っ赤だよー」
志津香「そ、そんなことないわよっ! そんなことよりっ、あたし達も早く帰ろっ。お腹すいちゃった」
ミリ 「あー、なんか誤魔化したー。ふん、まいいや。あたしもお腹ペコペコだよ」
ラン 「あたしもー。あ、そうだ、これも聞きたいな志津香ちゃん」
志津香「なによ?」
ラン 「『セーラームーミン』ってなんのこと?」
志津香「えっ」
マリア「あっ、それあたしも聞きたーい。ねぇねぇ、なんなのよぅ」
志津香「なっ、なんでもないわよっ!」
マリア「あやしーねー」
ラン 「ねーっ」
志津香「なんでもないったらなんでもないのっ! もう、あたし先行くからねっ!」
 テテテテッ
 三人を置いて、先に走っていってしまった。そんな背中を見送りながらの三人の会話、
ラン 「なんかさ、『セーラームーミン』っていったあとさ、志津香ちゃんまた赤くなってなかった?」
ミリ 「慌ててたね」
マリア「それに・・・なんか嬉しそうじゃなかった?」
ラン 「うーん、よく分らないけど・・・」
マリア「どっちにしても、元気になったんだからよかったんだよきっと。ね、ね、あたし達も早く教室に帰ろう?」
ミリ 「そーだね、じゃあ・・・走ろっか?」
ラン&マリア「うんっ」
 トテテテテッ
 志津香の後を追うように走り出す三人、みーんなが教室に帰った後の運動場・・・
 のはずがジャングルジムに腰を下ろした人影一つ。
メガラス「・・・」
 遠い目線で空を見上げていた・・・


   ・・・


 翌日、午前の朝早く。朝礼が終わってすぐ、ランスは志津香を引っ張っていた。
 いつも一緒のシィルは教室に置いてきている。もちろんソウルにバウンドも置いてけぼりだ。
 志津香にしてみればいきなりのことで、カスタム組の朝礼が終わるなり飛び込んできたランスに、
ランス「いまから滑り台にいくぞっ!」
 と自信たっぷりに宣言され、わけも分らず連れられている。
志津香「ちょっ、ちょっとお!」
ランス「ふんふんふーん」
 困惑気味の志津香とちがってご機嫌なランスくんだ。誰もいない運動場を滑り台に向かってまっしぐらだ。
ランス「うむ、ついた。よーし、俺様が先に滑るんだからな」
志津香「別にいいけど・・・」
 トントンと階段を上る二人。長いのぼりを上りきって、
ランス「いいか! 俺様が下に降りるまで滑り始めたらだめだからなっ! わかったなっ」
志津香「・・・うん」
ランス「わははは、ようし、いっくぜーっ! とおぉぉぉ」
 ランス君が颯爽と滑り落ちる。
 多少錆びが来ていて滑りにくいはずなのに、何故にああもスピードに乗れるのか、と志津香は不思議に思った。
 最初こそランス君が何を考えているのかさっぱり分らなかった志津香ではあるが、
 ことここにいたるとだいたいの見当はついている。
志津香(エッチランスらしいっていえばらしいわね。どうせ、あたしが滑る時にスカート覗こうって考えてるんだから。
      ふふっ、バレバレよ馬鹿)  志津香の目線のしたのほうではでは、ランス君が地面につきそうな勢いだ。そう、ランス君もまた全力で滑っていた。
 何しろ、早く滑り降りないと、上から志津香が滑り始めてしまう。
 それまでにベストショット・アングルに待機しなければ・・・!
ランス「うぅぅぅっとおぉっ! よしっ、ナイス着地だ! 志津香のほうは・・・?」
 今しがた滑り降りてきたばかりの滑り台を見上げる。
 滑り降りてくる人影はない、そして一番上でかがみこんで滑り出しそうな人影一つ。
 まだ運動場には数えるくらいしか人がいないうえに、第一滑り台に上っているのはランスと志津香だけだった。
 もちろん例の人影は・・・
ランス(やったぜ、まだ滑ってない! 志津香のやつ今日はやけに素直だな・・・ へへっ、べすとぽじしょん確保だ! 
     あとはアイツのセーラームーミンを・・・えへへへ〜)
 滑り台のてっぺんに向かって大きく手を振る。てっぺんからも小さく手を振り返してくる。
 ランス君の合図が伝わったのだろう、志津香らしい人影がどうやら滑り始めたみたいだ。
ランス(お、おおぉぉ〜、来た来た来たぁ〜! 手は、ちゃんと滑り台のサイドを握ってる・・・ようし! 
     このままきたらバッチリだ! バッチリ、チェックしてやるぜっ)
 いったい何をチェックするんだか。手に汗握るランス君をじらすように、次第に大きくなってくる志津香。
 スカートの中は丸明きだ、
ランス(よし、あとちょっとだ! よーおしっ・・・え、え、ええっ?)
 あっけにとられるランス君。その視線の先にはすまし顔の志津香が、両手でしっかりスカートを押さえて滑り降りてくる。
 ついさっきまではノーガードだったのに、まるで計ったかのようなタイミング・・・
ランス「だああああっ! おい志津香、手、手! 手を上げろって!」
志津香「らんらんらららんー」
 下から聞こえる声が余りにも予想どうりで思わず鼻歌を口ずさんでしまう。
 手はしっかりスカートを押さえ、服を汚さないようにゆっくりと滑りながら、
志津香「やーいやーい、馬鹿ランスー」
 顔だけはキシシと笑いながら声をかける。声をかけられたほう、つまりランス君はといえば・・・
ランス(うぐぐぐ・・・志津香め、わざとやりやがったな〜 男のロマンを踏みにじられたぞ、畜生! 
     う、でもまてよ、もしかしたら手の隙間からチラって見えるかも・・・?)
 大分近づいてきた志津香の股間に注目だ! 
ランス「むむむ!」
 見えそうで・・・見えない!
ランス(だああ、見えないじゃないかくそぅっ!)
 頭を抱えるランス君を尻目に、志津香はすぐ横を通り過ぎて言って、
 ピョン
 綺麗に着地だ。ランス君がイライラしているさまを横目で見て実に楽しそうである。
 そのままランス君に近づいていって、
志津香「お待たせランス。どう? あたしの滑り方上手でしょ? ちゃんとみてた?」
ランス「・・・(みてたけどみえなかったんだよ)」
志津香「ランスみたいに早くは滑れないけど・・・でも、滑り台って楽しいね?」
ランス(むらむらむら)
志津香「ねぇランス、黙ってないでなにかいってよ?」
 ニコニコしている志津香に、ランス君の魔の手が!
ランス「ええい、うるさいっ! てやぁっ!」
 ペロン
志津香「きゃあっ?・・・」
 思わずスカートを押さえたけれども間に合わない。ランス君は志津香のパンツをしっかりと確認していた。
 不意に当たりに沈黙が訪れる・・・
ランス「・・・セーラームーミンだな・・・」
 パァン!
 ランス君がぼそりと口走った時には志津香の平手が飛んでいた。
ランス「うわっ、いってぇ! な、なんだよ、なにするんだっ」
志津香「いきなり人のスカートめくっといて、何するも何もないわっ! このエッチ、馬鹿、エッチランス!」
ランス「なんだとっ! 昨日約束しただろ、それを守ったかどうか確かめただけじゃないかっ」
志津香「約束は守ったわよっ、ちゃんと見たんでしょッ」
ランス「おお、みたさ。それなのになんで打つんだよっ」
志津香「あたしは一言も『スカートめくりしていい』なんていってないもん。
      女の子のスカートめくるなんてエッチな証拠よ、最低よ!」
ランス「き、きったねー」
志津香「ふっふーん、どうだまいったか! これに懲りたらスカートめくりなんて馬鹿なことやめれば? 
      これからだってね、ランスがエッチなことしてたら絶対ぶってあげるんだからねっ」
ランス「うぐぐぐ・・・ もういい志津香、あっちへ行くぞっ。ついてこい!」
志津香「嫌よ、なんであたしがランスについていったりするの?」
ランス(くっ、絶対いじめてやる、いじめてやる、いじめてやるぞっ。
     泣かす・・・のはダメだけど、なく寸前までいじめてやる!)
 今日はレス兄妹も幼稚園に来ているし、志津香程度コテンパンに出来るはずだ!
ランス(そうだ、ナイスアイデアだ!)
ランス「ひらめいたっ」
志津香「ん? 何よ、その顔・・・ 絶対なんかたくらんでるな」
ランス「うるさいな、そんなことないぞ。と、とにかくだ、かくれんぼだ、かくれんぼしようぜ?」
 ニヤニヤ笑って、考えていることはいつもと一緒だ。志津香を鬼にして、隠れる振りして逃げちゃおうって魂胆だ。
ランス「俺様が隠れるから、志津香が鬼だ。十数えるまで目をつぶんなきゃダメだぞ」
志津香「かくれんぼぉ? ふう・・・はいはい、どーぞ。あたしが十数えればいいわけ?」
ランス「そーだっ! じゃあ早速目をつぶれ!」
志津香「はああ、つぶったわよ? 一、二、・・・」
ランス「こっそり覗いたりするなよー、そら逃げろっ、けけけけっ」
 一目散に緑組に向かって走り出すランス君。
 これから志津香はいもしないランス君を探して運動場を駆け回るのだろう。
 そう思うと胸がスカッとする。そして、ランス君が走り去って十秒くらい下運動場。
志津香「九、十・・・ふう、馬鹿みたい」
 ランス君が走り去ったほうを見つめてつぶやく志津香。もちろん、目をつぶる振りをしてこっそり覗いていたわけだ。
志津香「ランスのことだから、なにかするとはおもってたけどねー。
      あたしが一人でランスを探すと思ってるんだ、きっと。あーあ、馬鹿」
 足元の石ころを
 ポカーン
 軽く蹴って、志津香もカスタム組へ歩き出す。
志津香(ちょっとだけ・・・滑ってる途中で見せてあげてもよかったかな・・・? ダメ、ダメダメっ! 
      だって、ランスだよ? スーパーエッチランスなんかに見せるなんて・・・なに考えてんだろ、あたし)
 次第に運動場に人が出始めた。いつものにぎやかな声が溢れ出す。
志津香「まー、いっか。とにかく、昨日はランスを追っかけて楽しかった。うん!」
 グニィーッと背伸びをしてつぶやいてみる。これは本心だし、楽しかったのは事実だ。
 上に伸ばした手を左右に揺らしながら、
志津香(またみんなでお外で遊ぶのも・・・いいな)
 なんて考える志津香だった。そしてその頃緑組に帰ったランス君は、
シィル「ランス様ぁ、どこいってたの? 急にいなくなって、心配したんだよっ」
ランス「わッ、こら、離せって! あっちいけよっ!」
ランス(志津香のやつ、いまごろあちこち探してるんだろーなー、クククッ。
     ま、そこそこ探さしたところで、シィルやレス達とからかいに行ってやるか、うん! 
     ついでにセーラームーミンでからかってやれば、一石二鳥だぜ!)
 腰に飛びついてくるシィルの頭をくしゃくしゃしながら、
 これから志津香をからかうシーンをイメージし、ニヤニヤしているのだった。
 いったい何が一石二鳥かは・・・ランス君以外には分らないのだろう。
ランス「わはははは、楽しーみだっ!」
 今日も今日とてリーザス幼稚園に響く高笑い、ランス君はいつでも元気いっぱいだった。




   ・・・あとがき・・・
 SS 鬼畜幼稚園R どうでしたでしょうか? 志津香とランスの絡みを書きたくて、こんなストーリーになりました。
 台詞じゃない文章の書き方に一貫性がなかったり、いろいろ苦労して書いたんですが、
 とにもかくにも完成、ランス(5)の日常はこんなんだろうな、と。
 ここまで読んでくれたK岡くん、どう? グッドかなぁ?
 というわけで、ここまで読んでくれた皆様(?) どうもごっつぁんです!!
 また他のヤツも読んでやってくださいっ
(冬彦)




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